過去の演劇公演情報を求めて ――上演記録を調べるツールまとめ
過去の公演情報を調べることは何かと多い。「好きな劇団のこれまでの上演記録を知りたい」「気になる役者さんが過去にどんな公演に出ていたのか知りたい」「今度再演するあの作品、以前はどんなキャストだったのか知りたい」などなど――。
そんなときにどうやって調べるか。検索エンジンで検索をしてみてもよいが、過去の上演記録を調べられるように整備してくれているツールがいろいろあるので、これを使うのも手だ。ただ、たくさんあるツールは、それぞれに調べられること、調べられないことがある。そこで、上演記録を調べるツールについて整理した。
※この記事は、時々更新していく予定。この他に良いツールをご存じの方があれば、ぜひ情報提供をお願いします。(2025.11.30最終更新)
上演記録とは
上演記録についてまず定義しておこう。ここでは、ある公演が上演されたときの、その公演に関わる情報――としておく。これから上演される公演の情報ではなく(重なるところは大いにあるが)、過去にどんな公演があったのかを記録し、残すための情報を想定している。
では、上演記録にはどんな情報が含まれるのか。例えば、公演名(タイトル)、作・演出、主な出演者、日時・期間、劇場、主催者、原作ものなら原作者、海外戯曲なら翻訳者、ミュージカルや音楽劇なら作詞・作曲家――。こういった基本情報はマストで公開される情報。実際チラシや公式サイトにも載っている。
さらに細かく見ていくと、アンサンブルやミュージシャンを含めたすべての出演者の名前や配役、そしてスタッフとしてプロデューサー、舞台監督、美術、照明、音響、衣装、小道具、殺陣、音楽、歌唱指導、振付、宣伝、制作ーー。あげればきりがないが、パンフレットや映像化したときのエンドロールなどでは多くの人の名前が出る。これが公式に公開された公演情報としての完全体と言えるだろう。
このような上演記録を調べるにはどんなツールが使えるのか、それぞれのツールではどんな情報が得られるかについてまとめた。ちなみに、対象として想定しているのは近年の現代演劇の上演記録であり、それらを調べるのに使えそうなツールをピックアップした。
基本のデータベース系ツール
収録データ数が多く、多様な演劇を広範囲に調べられるデータベース系のツールは、手始めに調べるのにちょうどよい基本のデータベースだ。
演劇上演記録データベース
演劇上演記録データベースは、早稲田大学演劇博物館が所蔵する上演資料(台本やプログラム、チラシなど)をもとにデータ化した上演記録を検索できるデータベース。基礎的な情報だけで極シンプルだが、収録件数は多く、最も充実した上演記録データベースと言える。
収録情報は、公演名、上演主体、団体名、初日と終日、会場(同時期の講演でも会場が違うと別個のデータになっている)、作・演出ほか主なスタッフなど。ただし、出演者の情報が含まれていないので、出演者の名前で検索しようとするときは注意が必要だ。
2025年11月7日現在、確認できたものとしては、古いものは明治・大正から最新は2023年までの上演記録が収録されている。
enpaku デジタル・アーカイブ・コレクション
enpaku デジタル・アーカイブ・コレクションは、早稲田大学演劇博物館の様々なデータベースを横断検索できる総合データベース。先述の演劇上演記録データベースも含まれている。
私は、演劇上演記録データベース単体で検索するよりも、こちらで横断検索することのほうが多い。理由は、他のデータベースからも有益な情報が得られるからだ。特に出演者を検索するときは、上演記録データベースではヒットしないので、横断検索をしてみる。すると、AV資料データベースで出演した作品のDVDが見つかるなどする場合がある。その作品名で再度検索すれば、上演記録データベースで詳細な上演記録を見つけることができる。
JDTA(Japan Digital Theatre Archives)
JDTAは、後述するEPADの事業の一環として、早稲田大学演劇博物館が開設した舞台公演映像の情報検索サイトだ。
収録情報は、公演名、会場、初日と千秋楽、主催、カンパニー(興行主体)、出演者(一部配役もあり)、作・演出ほか主なスタッフなど。さらに、チラシ画像データ、舞台写真、舞台映像の一部も公開されている。
舞台映像の検索サイトなのでビジュアル中心。上演記録データベースほどの収録数はないが、写真や映像が豊富なのでどんな公演なのか直感的に把握でき、チラシ画像データからはデータ入力されていない他の情報も確認することができる。出演者名から検索できるのも利点だ。
EPAD作品データベース
EPAD(舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業)は、映像の収集・配信を前提とした事業。この作品データベースでは、EPADで権利処理した作品のメタデータが公開されている。
収録情報は、公演名、上演団体、主催、上演期間と会場、出演者(一部配役もあり)、作・演出ほか主なスタッフなど。そのほか、チラシ画像やDVDのパッケージ・ブックレットの画像が掲載されているものもある。
JDTAのデータもEPADで収集したデータがもとになっているので、データとしては重なるところが多い(掲載数はEPAD作品データベースのほうが多い)が、細かなところで掲載情報に差がある場合も見られたので、両方検索してみるのがおすすめ。サイトの違いとしては、EPADは収集した映像の扱いについて載せており、配信しているサイトがあればそのリンクが載っている。一方JDTAでは、配信可能な作品では、3分ほどの冒頭映像やダイジェスト映像を見ることができる。
CoRich舞台芸術!
CoRich舞台芸術!は、こりっち株式会社が運営する公演情報ポータルサイト。古いものは80年代の公演から、最新の小劇場や学生演劇の公演まで、幅広いデータがあり、検索機能もある。
収録情報は、公演名、上演団体、会場、期間、出演、作・演出ほかスタッフ、チケット料金など。どこまで入力されているかは公演ごとにまちまちだが、上演団体自らがデータ登録できるという特性からか、スタッフなど割と細かな情報まで載っている印象がある。
ACL現代演劇批評アーカイブ
ACL現代演劇批評アーカイブは、青山学院大学総合文化政策学部附置青山コミュニティラボ(ACL)が運営する劇評アーカイブ。
あくまで劇評データベースだが、劇評に載った公演の情報は調べることができる。検索項目としては、演目名、団体名、作、演出、出演、劇場、上演年の情報があり、「上演データ(作、翻訳、演出、出演、劇場、上演年月)は、該当する記事内で言及されているものに限り掲載しています」とのこと。
時系列で網羅的に調べられるツール
1年間の上演記録をまとめたものや、定期的に上演情報を掲載している雑誌などのツールは、その都度データが蓄積されているので、網羅的な情報が期待できる。主に冊子体になるのでデータベースのような検索は難しいが、時系列にはなっているので、年代が分かれば調べることができる。
『演劇年鑑』
『演劇年鑑』は、公益社団法人日本演劇協会が毎年発行している演劇の年鑑。公演情報としては、前年1年間に全国の主要劇場で上演された歌舞伎、商業演劇、現代演劇、ミュージカル・地方演劇に関して、劇場ごとに掲載されている。
収録情報は、公演名、日時、作・演出ほか主なスタッフ、出演者、チケット料金など。
『演劇年鑑』は各地の図書館で見ることができるほか、『演劇年鑑2024』と『演劇年鑑2025』は日本演劇協会のサイトにおいてPDFで公開されている。
『えんぶ』 ※旧『演劇ぶっく』
『演劇ぶっく』および後続誌『えんぶ』は、株式会社えんぶが発行している演劇雑誌。公演についての特集記事はもちろんだが、古いものはそのときの公演情報一覧が載っているので、小劇場を中心とした演劇の上演記録としても貴重な資料だ。
現在、1986年の『演劇ぶっく』創刊号から全182冊、および『えんぶ』創刊号から50号(2024年12月号)までが、公式ショップで無料公開されている。
▽詳しくは以前の記事を参考にされたい
特定のジャンルや劇場等に特化したツール
特定の演劇ジャンルや劇場などに特化して上演記録がまとめられているものもある。
新国立劇場 公演記録データベース
新国立劇場の公演記録データベースでは、新国立劇場で上演された過去の公演を検索できる。詳細な情報が得られるので、劇場が新国立劇場だった場合は大いに活躍するデータベース。
収録情報は、公演名、日時、作・演出ほか主なスタッフ、出演者など。さらに当時の公式サイトの公演詳細ページも見ることができ、ここにはあらすじやチケット料金なども載っている。
2.5次元ミュージカル アーカイブ
2.5次元ミュージカル アーカイブは、日本2.5次元ミュージカル協会のサイト内で、過去の公演情報をアーカイブしているページ。検索機能は見当たらないが、協会立ち上げの2014年から時系列順でデータが並んでいる。
収録情報は公演によってまちまちだが、作品名、日時、会場、チケット料金、主催者と公式サイトのリンクはどの公演にもだいたいある。昔の公演のほうが作・演出や出演者の情報も載っている印象を受けた。
歌舞伎公演データベース
歌舞伎公演データベースは、日本俳優協会と一般社団法人伝統歌舞伎保存会のによる歌舞伎公演の上演記録データベース。その名の通り歌舞伎公演を扱うデータベースであるが、現代演劇の演出家が手掛けた新作歌舞伎や、歌舞伎俳優が出演した現代演劇の公演も収録されている。
収録情報は、劇場、時期、公演名(興行としてのタイトル)、演目名・場名、出演した役者の名前と配役などが基本情報。そのほか、備考としてスタッフ(作・演出、振付など)の名前があったりなかったりする。
▽詳しくは以前の記事を参考にされたい
各公演や上演団体、劇場の公式サイト
劇団などの上演団体や劇場が自前のサイトで過去の公演情報をまとめてくれている場合も多い。また公演の特設サイトが残っているなら、それを見るに越したことはない。CoRich舞台芸術!のように、公式サイトのリンクを載せてくれているものもあるので、データベースで検索した後に個別の公式サイトでさらに詳しい情報が見つかる場合もある。
一方で、解散した劇団、閉館した劇場はサイトが閉鎖している場合も多い。また、公式サイトがリニューアルしたら以前の公演データが全部見られなくなったという事態も起きている。そのときは、インターネットアーカイブ Wayback Machineを使って当時のサイトを見てみることもできる。
▽詳しくは以前の記事を参考にされたい
その他のツール(個人サイト等)
このほか個人サイトやファンサイトにも有用なものがある。まじめな調査の場合は、情報の正確性をよく確認する必要があるが、調べはじめの取っ掛かりを得たり、行き詰った時の突破口になったりするので、役立つツールだ。
演劇◎定点カメラ
まねきねこ氏による個人ページ。観劇レビューとともに上演記録が掲載されている。掲載情報は、公演名、上演期間、劇場、チケット料金、作・演出ほかスタッフ、出演者、配役など(公演によっては掲載のない項目もある)。ほかにも客層や物販などの周辺情報も記録されている。1986年から蓄積されたデータは、情報の少ない昔の公演を調べるときに重宝する。
しのぶの演劇レビュー
高野しのぶ氏の観劇感想文(レビュー)を掲載するサイト。掲載される上演記録は、公演名、上演期間、劇場、チケット料金、作・演出ほかスタッフ、出演者、あらすじなど(公演によっては掲載のない項目もある)。公式サイトが載っている場合があり、今は閉鎖されて調べられないサイトのURLを手に入れることができる。
※2015年8月までの旧サイト https://shinobu-review.jp/
ワンダーランド
北嶋孝氏により運営され、複数人の執筆者による劇評が掲載されていたサイト。劇評(レビュー)とともに、公演名、作・演出ほかスタッフ、出演者、劇場、上演期間などが掲載されている(公演によっては掲載のない項目もある)。2015年4月から休止しているようだが、2004年から10年ほどの蓄積がある。
おわりに
このツールひとつですべて解決といくものはなかなかないので、まだまだ調べるのに手こずる場面はあるが、便利なツールが多くあることを改めて実感した。特にEPAD周辺はコロナ禍を機に一気に整備された。こうしたデータベース類が少しでも充実していってくれることを願っている。
