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演劇のアーカイブを考える ――過去の演劇の映像を見るには

演劇映像のアーカイブについて考えている。過去の演劇の映像資料はどこにあるのか。見ることはできないのか。

例えば紙資料(本や雑誌)は、出版されれば図書館が保存してくれる。特に国立国会図書館は納本制度によってほぼすべての本を収集しているので、どんなに古くても見られる可能性が高い。では映像はどうか。コロナ禍を経て演劇映像のオンライン配信も増えた。収録された映像も増えていることだろう。そんな映像たちはどこに保存されるのか。図書館の本のように、自由に見ることはできないだろうか。

今回は、演劇映像を見ることができる施設・サイトをまとめてみた。


映像資料のアーカイブが難しい

きっかけは、たまたま見かけたポストだった。

NHKは「古典芸能への招待」などで歌舞伎や他の様々な古典芸能の映像を放送している。現代演劇についても、例えば「プレミアムステージ」というシリーズがあって以前は定期的に放送があった(不定期放送になって久しいが)。もっと遡れば様々な歌舞伎や演劇の映像が放送されているのだが、過去の番組を有料配信するNHKオンデマンドにおいても公開されておらず、近年は放送自体も少なくなってきている。そうした中で、これらの映像資料が死蔵されているのではないかという指摘だ。

実際のところ、本当に古いもの(1953年~1970年代)は残っていないらしい。当時のテープは高価だったため上書きして使用していたからだ。

実はNHKには、過去に放送した番組が全てVTRテープで残っているわけではありません。全てが生放送だったテレビ放送初期の頃はもちろん、その後もほとんどの番組は、放送されたらお役御免。保存される番組は限られていました。まだ、アーカイブスという考え方がなかった時代でした。
NHKが、番組の保存に体系的に取り組み始めたのは1981年(昭和56年)からです。つまり、テレビ放送が始まった1953年(昭和28年)から1970年代までは多くの番組が残されていないのです。

NHK番組発掘プロジェクト> 発掘って何?|NHKアーカイブズ(2026/1/16閲覧)

とはいえ、90年代小劇場ブームの頃の映像は残っていそうだ。どこかで見られないものか。

NHKは埼玉にアーカイブス施設があり、過去の番組を公開している。視聴ブースがあるので行けば見られる場所である。そこで見られるのではないかとも思ったが、ホームページの「公開番組全リスト」を見る限り、歌舞伎や演劇の映像は公開されていない様子。全番組が公開されているのかと思っていたが、そうではなかったようだ。

やはり死蔵されているということになろうか。でも、それらをNHKオンデマンドなどのネット配信に載せるのは、おそらく、かなり大変なのだろうと想像する。映像は権利問題が難しい。図書館でもDVDを貸出していることがあるが、貸与権や上映権など様々な権利料を含めて購入したDVDを貸出している(だから市販のDVDよりかなり高い)。市販のDVDをただ収集するだけでは、利用者に提供できないのだ。そもそもネット配信を前提としない状態で撮った映像をネット上に載せるのは、たとえ有料だったとしても厄介な道のりなのだろう。

NHKの映像はNHKに本気を出して頑張って公開してもらうしかないが、このほかに、演劇映像を持っていて、きちんと権利処理を進めたうえで公開している施設やサイトがある。

インターネットで見られる演劇映像

コロナ禍を経て以降、インターネット上で公開される演劇映像も増えている。ここでは、単発の期間限定配信ではなく、ある程度の期間・ある程度の数の作品が探せる代表的なサイトをあげた。

EPAD作品データベース

演劇のアーカイブといえば、EPAD(舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業)だ。コロナ禍において急速に進展した演劇アーカイブの取り組み。映像の収集・配信を前提とした事業で、過去の映像の権利処理や、新たな収録の支援、収集した映像の利活用を行っている。

EPAD事業は、2020年のコロナ禍で劇場に集うことが困難になった断絶の時代に開始されました。
消えゆく舞台映像などを収集し、対価を主催団体・権利者に還元することで苦境にあえぐ現場の支援を展開すると共に、(一部の意欲的な事例を除いて)遅れていた日本の舞台芸術のデジタルアーカイブ化や映像配信を推し進めています。
同時代の人々しか享受できない舞台作品を、保存・継承することにより、ひらかれたデジタル財産に。また、デジタルアーカイブを活用し舞台芸術をすべての人へ届けることによって未来の表現者を育成し、未来の観客を涵養する土壌となることを目指します。

EPADとは(2026/1/16閲覧)

この作品データベースでは、EPADで権利処理した作品のメタデータが公開されている。このサイトで映像の配信を行っているわけではないのだが、「視聴方法」の欄にその作品の映像を視聴できる施設や配信サイトの名前・リンクと、有料・無償の別が明示されているので、どこで見られるかを探すのにちょうどいい。無償では「早稲田大学演劇博物館」や「国際交流基金STAGE BEYOND BORDERS」などを掲載。劇団などの主催団体が自前のYouTubeチャンネルで期間限定公開しているような場合も載っている。有償では「観劇三昧」や「U-NEXT」などの有料配信サイトが掲載されている。


STAGE BEYOND BORDERS(国際交流基金)

STAGE BEYOND BORDERSは、国際交流基金によるプロジェクト。日本の優れた舞台公演を海外向けにオンライン配信するプロジェクトとして、多言語字幕付きの映像がYouTubeで配信されている。舞台公演には演劇だけでなく舞踊や音楽なども含まれているが、多くの演劇作品が公開されている。


観劇三昧(有料)

近年の配信事業の隆盛により、様々な映像配信プラットフォームで演劇の映像配信も増えたが、観劇三昧は演劇専門の配信サイトとして長く続いている老舗だ。定額制の演劇映像配信サブスクだが、無料で見られる作品も多くある。小劇場を中心にたくさんの劇団が作品を配信している。

その他の配信プラットフォーム

観劇三昧以外にも、一般の映像配信プラットフォームで演劇映像を扱っている場合も多い。中でもU-NEXTは舞台映像が豊富で、ヨーロッパ企画やこまつ座などの映像を配信している。DMMHuluは2.5次元ミュージカルが充実している。

歌舞伎は、松竹が独自に歌舞伎オンデマンドで配信しているが、比較的最近上演した演目を配信していて公開期間も短いので、アーカイブ付きライブ配信と近い性格のものだ。昔の公演を探すのには向いていない。


演劇映像アーカイブ施設

映像の収集・保管をしているアーカイブ施設は、映像の公開も行っていることがある。立地はどうしても首都圏や都市部になるが、行けば見られる場合が多い。

早稲田大学演劇博物館

早稲田大学演劇博物館は映像資料が豊富だ。AVブースで視聴することができる。見ることができる映像は、AV資料データベースおよびJDTA(Japan Digital Theatre Archives)で検索することができる。検索自体はインターネット上で可能であり、JDTAでは3分ほどの冒頭映像やダイジェスト映像も見ることができる。


新国立劇場 情報センター

新国立劇場も主催公演を中心に記録映像を豊富に持っている。新国立劇場5階の情報センターで閲覧が可能だ。公演記録データベースで検索すると映像のあるなしが分かる。


彩の国さいたま芸術劇場 舞台芸術資料室

彩の国さいたま芸術劇場にある舞台芸術資料室では、収集した舞台映像のDVDや、一部の主催公演の映像を見ることができる。見られる資料は、資料検索システムから調べることができる。


愛知芸術文化センター アートライブラリー

愛知芸術文化センターにあるアートライブラリーでは、主催公演の映像やそのほかの演劇DVDの閲覧ができる。見られる資料は、資料検索から調べることができる。


その他の図書館

一般の図書館で演劇DVDやビデオを所蔵していることがたまにある。私もいつだったか、オンシアター自由劇場の『上海バンスキング』(1981年上演)と『もっと泣いてよフラッパー』(1982年上演)を借りて見たことがあった(かつてNHKかどこかで放送した映像らしくインタビュー映像も付いていた)。DVD収集に力を入れているような図書館が狙い目だ。種類は多くないが、歌舞伎などの伝統芸能や劇団四季なんかはよく所蔵されている。館内で見られたり、借りられたりする場合がある。

国立国会図書館の音楽・映像資料室にも、いくらか演劇のDVDがありそうだ。


おわりに

演劇はそもそもライブであって、映像に撮って保存されることが前提にはなっていない。そうした中でも、DVD販売やテレビ放映などによって、演劇の映像が世に出てはいたのだが、コロナ禍を経てその勢いは一気に加速した。ファンとしては商業ベースの配信であっても、あればなんだってありがたいものではあるが、EPADのようにアーカイブ意識を持って収集してくれるところがあるのは良いことだと思う。そして収集したら死蔵してしまってはいけない。見たい・調べたいと思った人がアクセスできる環境が大切。そういった場がますます増えていってくれることを願う。

参考文献

  • 時実象一『デジタルアーカイブの新展開』勉誠社, 2023, pp.125-127.

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