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デジタルアーカイブを考える ――EPADシンポジウム2025から

前回、演劇アーカイブ――演劇映像を見ることができる施設やサイトについて記した。

すると折よく1月23日に「舞台映像の現在地点―EPADシンポジウム2025―」が行われた。YouTubeでライブ配信され、現在はアーカイブ映像が公開されている。

興味深い話が多くあり前回の記事に追記しようと思ったのだが、追記にしては長くなりそうだったので、改めて演劇のアーカイブとデジタルアーカイブ全般について考えてみようと思う。


EPADとは

EPADは、一般社団法人EPADが文化庁と連携して行っている舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(Eternal Performing Arts Archives and Digital Theatre)のこと。コロナ禍において急速に進展した演劇アーカイブの取り組みだ。映像の収集・配信を前提とした事業で、過去の映像の権利処理や、新たな収録の支援、収集した映像の利活用を行っている。

EPAD事業は、2020年のコロナ禍で劇場に集うことが困難になった断絶の時代に開始されました。
消えゆく舞台映像などを収集し、対価を主催団体・権利者に還元することで苦境にあえぐ現場の支援を展開すると共に、(一部の意欲的な事例を除いて)遅れていた日本の舞台芸術のデジタルアーカイブ化や映像配信を推し進めています。
同時代の人々しか享受できない舞台作品を、保存・継承することにより、ひらかれたデジタル財産に。また、デジタルアーカイブを活用し舞台芸術をすべての人へ届けることによって未来の表現者を育成し、未来の観客を涵養する土壌となることを目指します。

EPADとは(2026/1/16閲覧)

演劇映像アーカイブの可能性

EPADと早稲田演劇博物館

前回の記事ではアーカイブサイトや映像を探せるサイトとして、EPAD作品データベースを取り上げた。このサイトで映像の配信を行っているわけではないが、EPADで権利処理した作品のメタデータが公開され、「視聴方法」の欄にその作品の映像を視聴できる施設や配信サイトの名前・リンクと、有料・無償の別が明示されている。無償では「早稲田大学演劇博物館」や「STAGE BEYOND BORDERS(国際交流基金)」、劇団などの主催団体が自前のYouTubeチャンネルで期間限定公開しているような場合も載っている。有償では「観劇三昧」や「U-NEXT」などの有料配信サイトが掲載されている。

早稲田大学演劇博物館(エンパク)とEPADは当初から連携しており、EPADが権利処理作品のうち早稲田大学演劇博物館で見られるものは、JDTA(Japan Digital Theatre Archives)で公開されている。ここも映像そのものが見られるサイトではないが、3分ほどの冒頭映像やダイジェスト映像は見ることができる。全編見るためにはエンパクを訪れAVブースを利用する。

今回のシンポジウムでは、森下亮の「君の知らない名作僕が教えるから 僕の知らない名作君が教えて」とのコラボ企画(20分28秒あたりから)で、EPAD作品データベースを使いながら昔の名作が数々紹介された。紹介された作品が「なんと早稲田大学演劇博物館で見られるんです!」「これも早稲田で見られるの!?」などと登壇者のリアルな驚きとともに何度も何度も叫ばれていた。この様子をみると、演劇関係者の中でもまだまだ十分に知られていないのかなと懸念するが、EPAD作品データベースの活用事例としても面白い企画だったので、これを機に利用が広がっていくことを願う。

たとえば、再演に出演するにあたり初演の映像をエンパクで見るという使い方をしている役者もいる。役者自らが活用していることを発信してくれると観客側にも広まっていくのではないだろうか。

演劇界の名作『ポルノ』を観たことのなかった不勉強者の私は、こちらのお話をいただいてすぐ、演劇博物館のデジタルアーカイブ鑑賞室に駆け込みました。 パソコンの前で資料映像を観ながら、あまりの面白さに「こうやって観られる機会があったのになんでもっと早く観なかった!?」と自分をぶっ飛ばしたくなりました。 この作品にかかわることができて、本当に光栄です。 先輩方に食らいつきながら勉強させていただきます!

舞台『ポルノ』公式サイト 藤谷理子のコメント(2026/2/13閲覧)

配信のための権利処理の問題

エンパクで見られることは確かにすごいが、そうは言っても東京の早稲田大学まで気軽に行けるかと言えば、東京近郊に住んでいる人でなければなかなか難しい。しかし、全作品オンライン配信してほしいと願ったとて、それもかなり難しい話だ。

作品を配信する、あるいは上映するためには多くの権利者の了解を取る、いわゆる権利処理が必要になりますから、そう簡単なことではありません。

福井健策(骨董通り法律事務所代表、EPAD代表理事)
ライブ配信「舞台映像の現在地点―EPADシンポジウム2025」挨拶より(11分あたり)

早稲田エンパク(演劇博物館)すごいなって話が出ていて、確かにエンパクすごいんですけれど、なんでエンパクでの上映が比較的多く出ているかと言うと、非営理・無償の上映といって著作権法の例外規定で権利処理が非常に簡易化できるんです。ですから、ああいうブースでの上映(早稲田大学演劇博物館内のAVブースでの視聴を可能にすること)は比較的やりやすい。でも、U-NEXTとかで配信するのは、全部の権利者探し出して全員の同意を取ってから行ってるんですね。だからすごくハードルが上がります。

福井健策(骨董通り法律事務所代表、EPAD代表理事)
ライブ配信「舞台映像の現在地点―EPADシンポジウム2025」事業報告より(1時間46分あたり)

前回の記事で触れたように、配信に乗せるためには大変な権利処理が必要なのだ。その困難の中でもEPADは収録作品数を増やし、公開・配信できる作品数を増やしている。

NHKに眠る舞台映像

前回の記事の導入でNHKが持つ舞台映像について触れたが、今回のEPADの事業報告の中でさらりと、NHKやWOWOWとの協議も進んでいると言及されていた(2時間22秒あたり)。シンポジウムにも登壇した岡室美奈子が論文に示していたことが実現に向けて動き出しているのだろうか。NHKに眠る数々の舞台映像が見られる日を楽しみにしている。

場所を問わずアクセスできることの重要性

シンポジウム「動き出した全国バーチャル舞台上映構想」(2時間5分あたり)では、今各地で行われている「Reライブシアター」について紹介された。これは、8Kの高画質映像を劇場の大スクリーンに映し出し、あたかも目の前で上演されているかのような体験ができると話題のイベントだ。演劇を見る機会の乏しい地方において、上演を疑似体験できるというのは面白い。

 この地方に向けた取り組み――場所を問わずアクセスできるようにすることも、アーカイブの意義の1つだろう。最初の「君の知らない名作僕が教えるから 僕の知らない名作君が教えて」の中でも、ゲストの尾﨑優人が演劇をDVDで見てきたという話をしていたが、演劇は東京中心。地方公演もそう多くあるものではないし、早稲田大学のエンパクで公開されても、見に行けない人はやはり見られないのだ。そこにアーカイブ映像のオンライン配信が望まれる理由がある。
 これは演劇に限らず言えることだ。たとえば、国立国会図書館のデジタルコレクションは、個人送信サービスによって図書館へ行かずとも利用できる資料が格段に増えたが、それでも館内限定のものはあって、それを見るためには東京の本館か京都の関西館に出向く必要がある。結局のところ、情報は都会に集まるようになっていて、地方との情報格差が広がってしまう。その差を埋めていく助けとなることを、デジタルアーカイブは期待されている。

アクセシビリティの向上

 情報格差は地域だけではない。様々な困難によりアクセスできない場合もある。これまで演劇を見ることができなかった人、見ることをあきらめていた人に対して、STAGE BEYOND BORDERSとの連携では多言語字幕、THEATER for ALLとの連携ではバリアフリー字幕や音声ガイドを付けるなど、映像だからこそのアクセシビリティ向上が進められている。

 これも演劇に限らず(例えば読書バリアフリーと電子書籍など)あらゆるデジタルアーカイブに共通する。デジタルだからそこ取り組めることがあるはずだ。

おわりに

 アーカイブは様々なメリットがある。演劇ファンとしては昔の作品や見逃した作品が見られる。今まで演劇を見られなかった人が見られるようになる。演劇を作る側の人たちには記録資料になるし、うまくいけば二次収入が得られる。デメリットは、実現への道のりが険しくコストがかかるということだろうか。そこをEPADは乗り越えようとしている。

国の大規模な支援を受けられるのは、もうそろそろ終了かなと思っています。そうすると、ここから先続けていくのは、本当に皆さんの理解とそれから、お金を出せとは言いません、声援は送っていただきたい。声援は無理でも関心を持っていただきたいんですよ。そうしたら我々は続けられます。もし皆さんが十分な関心を向けてくださらなかったら、作品はこれからも消え続けるでしょう。それを100年後の世代、あるいは世界の人々、あるいは劇場に来れない人々に届け、あるいは今日みたいな本当に楽しい思い出話をするためにも、ぜひEPADの事業に関心を持ち続けていただければと思います。

福井健策(骨董通り法律事務所代表、EPAD代表理事)
ライブ配信「舞台映像の現在地点―EPADシンポジウム2025」事業報告より(2時間22秒あたり)

 イチ演劇ファンとして、EPADの取り組みをこれからも応援していきたい。

参考文献

  • 時実象一『デジタルアーカイブの新展開』勉誠社, 2023, pp.125-127.

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