消えたウェブサイトが見たい ――閉館した劇場の公式サイトを追う《Wayback Machine》
関東荒野に悠然と構える劇場があった。劇場の名は、IHIステージアラウンド東京。客席が回転するという突飛な機構を備えたこの劇場は2017年、劇団☆新感線の「髑髏城の七人」に始まり、「刀剣乱舞」「ミュージカル るろうに剣心」「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」など、実に多様なラインナップを上演してきた。しかし、2024年4月。あらゆるジャンルの演劇ファンをあまた乗せて回り続けてきた劇場は閉館した。公式サイトは、無機質な白い画面に劇場のロゴとこの文章。
IHIステージアラウンド東京は閉館いたしました。
たくさんのご来場、誠にありがとうございました。
以前はこのサイトに歴代の上演作品の特設ページが残されており、上演終了後もサイトを訪れたファンは多いはず。それが今やこのありさまだ。浮世の義理をすべて流して三途の川に捨之介――というわけか。
この消えてしまったページの内容をもう一度見ることができないだろうか。ファンの悪あがきのようなテーマだが、アーカイブという観点からもとても大事なことだ。今回は汎用性の高いWayback Machineというツールを使って探ってみようと思う。
ウェブアーカイブの必要性
ウェブページの命は儚い。もう一度見返したいと思ってブックマークしていたサイトが、開いてみたらリンク切れだった。そんなことも日常茶飯事。しかし、たかがウェブページでも、そこには貴重な情報がたくさん詰まっている。どうにかして、あのサイトをもう一度見られないものか――と考えるのがファン心理というもの。
そんな無茶ともいえる願いを叶えてくれる方法がある。――ウェブアーカイブだ。
ウェブ上で日々現れては消えてゆく数々の情報たち。これらの情報は貴重な知的資源だから、アーカイブ(保存)して後世に残していこうという取り組みだ。図書館が本を保存しているのと同じように、ウェブ上の情報も保存するという、とても大事な発想がここにある。
ウェブアーカイブは世界中で行われており、国などの公的機関が保存・公開に取り組んでいる。日本では、国立国会図書館が行っているWARP(インターネット資料収集保存事業)がそれにあたる。数年前、市川海老蔵と小林麻央のアメブロがその保存対象となり話題になった。
ウェブアーカイブにおいては、消えたり更新されたりした過去のページが保存されている。だから、これを使えば、消えてしまった公式サイトも、更新されて見られなくなったページも見ることができるということになる。
汎用性の高いWayback Machine
ウェブアーカイブにも様々あるが、最も有名で汎用的なのが、アメリカの非営利団体インターネットアーカイブが運営するWayback Machineである。
Wayback Machineでは、保存されたウェブページを無料で閲覧することができる。保存されている対象も期間も幅広いので、お目当てのものが見つかりやすい。推し活にも有効だ。
Wayback Machineは実際に様々な場面で活用されている。
Wikipediaは注や外部リンクなどに、Wayback Machineで保存・提供されているページをリンク付けしている場合が多々ある。例えば、大河ドラマは放送が終了すると公式サイトが閉鎖される。そこで、2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のWikipediaの外部リンクでは、Wayback Machineに保存された公式サイトのぺージに飛ぶようになっている。
外部リンク
● NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」 公式HP(ウェブアーカイブ 2023年2月現在、元サイト公開終了)
Wikipediaは参考文献を載せてナンボなので、参考元のページがリンク切れでは使い勝手が悪い。Wayback Machineとの相性は抜群だったわけだ。Wikipediaを使って調べ物をしていると、知らぬ間にその恩恵に預かっているかもしれない。
また、京都の劇団・ヨーロッパ企画が、生配信の企画の中でWayback Machineを活用しているのも見かけた。かつて自分たちのホームページで展開していたコンテンツを、Wayback Machineで発掘して懐かしんでいる。その様子を配信することでさらにコンテンツ化するという高度な活用事例――。
自前のホームページであっても、リニューアルなどを重ねるうちに、以前のホームページの姿は手元に残っていないということは多いようで、ビジネス分野でも活用されている。
Wayback Machineを使ってみる
では、冒頭に述べたステアラの公式サイトをWayback Machineで探してみることにする。ただし、毎日毎秒すべてのページが保存されるわけではないので、保存されていなければ、もちろん見ることはできない。したがって、あまり期待しすぎず、保存されていればラッキー!くらいの気持ちで使ってみる。
トップページにある検索窓にリンク切れになったURLを貼り付け、検索する(図1参照)。キーワード検索機能もあるが、英語のサイトだからか、あまり使い勝手は良くない。見たいページのURLをダイレクトに入力する方法が最も確実だ。

すると、図2のようなカレンダーが表示される。上部にある年代のバーは、そのページが保存された年を示している。表示がなければ、その年のぺージは保存されていない(か、そもそもそのページが存在しない年代である)。年を選ぶと、下に月ごとにカレンダー表示される。丸で囲まれた日付があれば、その日のページが保存されているということになる。さらに日付にカーソルを合わせると時刻が表示される。適当なものを選択すると、その日時に保存されたページが表示されるというしくみだ。

読み込みが遅い場合もあるが、もう二度と見ることはかなわないと思っていたページを見ることができるのだから、動作が多少重くてもそのくらいは我慢できる。最近の公式サイトは洒落ていて機能もたくさんあって情報量が多いから仕方がない。これが2000年代に作成されたページとなると実に簡素で素早いのだが。
例えば、閉鎖前の2024年1月15日に保存されたページを見ると、直前に公演されたミュージカル「刀剣乱舞」が前面に表示される。そこからページ上部のバーで年月日を変更することができる(図3参照)。

例えば、2017年12月28日を表示してみる。劇団☆新感線「髑髏城の七人」のロングラン公演のうち、Season月の真っただ中。後にはSeason極「修羅天魔」が控えているという時期で、トップページには、《月》と《極》の公演情報ページがリンクされている。
試みに《月》の公演情報を開いてみると、ポスタービジュアルがどーんと登場。ギャラリーやキャスト紹介のページでも当時のまま、キャストのビジュアルを見ることができる。さらにブログでは、キャストのビジュアル撮影レポートがあり、オフショットとともに上演にあたってのインタビューが掲載されている。ページ下部には、過去の髑髏城の七人《花》《鳥》《風》の特設ページリンクもある。これほどに情報量豊富なコンテンツが闇に葬られようとしていたとは……。
ちなみに、ページ内のリンクは表示される場合とされない場合がある。表示されないのは、リンク先のページが保存されていないからだ。残念だが、あきらめるしかない。
表示される場合も、保存された日付が異なっている場合がある。例えば、①2017年12月28日保存のトップページから、②《月》の公演情報を開くと、2017年12月10日保存のページになっている。さらに、③ブログを開くと2017年11月29日保存のページが出てくる。ここで②に戻って④スケジュール・チケットを開くと2017年12月15日保存のページが表示される。こんな具合だ。
リンク先ページは、リンク元のページから最も近い日付のページが表示されるので、リンクをたどっていくルートが異なれば、表示されるページの保存日も変わってしまう。時系列にシビアな調べものの場合は注意が必要だ。
今回は比較的最近のページを例に挙げたが、Wayback Machineは1996年から保存を始めているので、結構古いものも見つかる。2000年代のホームページなどはとても貴重だ。最初期のAKB48のホームページもなかなか興味深い。いろいろ試してみると面白いだろう。
おわりに
推し活の基本は「調べること」だと思っている。Wayback Machineが面白いのは、ただ普通に検索エンジンで検索しただけでは知りえなかった《レア情報》が手に入るからだ。リニューアル前の公式サイト、期間限定サイト、いつの間にか消えていたインタビュー記事――。どれも貴重な情報が詰まっている。
同じ情報でも本や雑誌や新聞に書かれたのなら図書館に保存される可能性があるが、ネットにしか公開されないままそのページが消えたら、その情報はこの世に存在しないのと同じことになる。そこで日々膨大に流れては消えていく情報をなんとか保存しようとしているのがウェブアーカイブだ。一方で、勝手にアーカイブされたくないという意思も尊重して、削除申請もできる仕組みになっている。
取るに足らない情報と思っても、数年後、数十年後、数百年後に新たな価値が生まれるかもしれない。そこにアーカイブの意義があると思う。
参考文献
時実象一『デジタルアーカイブの新展開』勉誠社, 2023.3, pp.137-152.
