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【利益相反管理実務(13)】事例で学ぶレピュテーションリスク─問題そのものより、組織の判断と対応が信頼に影響する

本シリーズ(第12回〜第19回)では、組織ガバナンスの本質について
 ・レピュテーションリスクと説明可能性(121314
 ・情報の統合とリスクの可視化・抽出(1516
 ・不作為を打破し、必要な場面でブレーキをかけられる組織の設計と運用(171819
という三段階で整理します。

前回は、レピュテーションリスクを「社会からどう見えるか」という印象論ではなく、不正・不適切行為、ガバナンスや内部統制の問題、透明性や説明責任の不足によって生じる、組織運営上のリスクとして整理しました。

今回は、実際の企業の事件を手がかりに、どのような判断や対応が信頼低下を招いたのか、また逆にどのような対応が信頼維持に資するのかを見ていきます。
あわせて、レピュテーションリスクに対するメディア報道の影響にも軽く触れます。

1.なぜ事例を見るのか

レピュテーションリスクは、言葉で説明すると抽象的になりがちです。
しかし、具体的な事例を見ると、信頼低下がどこで始まり、どの段階で拡大し、何がそれを止められなかったのか、あるいは逆に何が信頼維持につながったのかが見えやすくなります。

企業ガバナンスやレピュテーション・リスクの管理に関する文献では、評判は単なるイメージではなく、ステークホルダーの認識を通じて組織の利益や活動機会に影響し得るものとして扱われています。
また、レピュテーションリスクは、単独の出来事だけで完結するのではなく、背景にあるガバナンスや情報共有、説明責任のあり方と結びついて理解されます。(資料1,2)

2.レピュテーションリスクは何によって拡大するのか

信頼低下の出発点としてよくあるのは、不正や事故です。

しかし、社会的評価に大きく影響するのは、不正や事故だけではありません。
問題を抑止できなかった組織のガバナンス、現場の違和感が上に上がらない情報共有の不備、発生後の説明の遅れや不十分さが重なると、問題は「単発の失敗」ではなく「組織の問題」と受け止められやすくなります。

OECDは金融危機の検討の中で、取締役会の監督機能、リスク管理、インセンティブ、情報の流れといった要素が適切に機能しなかったことを重要な論点として整理しています。

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資料2, 関連記事:【第12回】レピュテーションリスクとは何か

この点で、メディア報道は特別な役割を持ちます。
論文(資料1)では、メディアは他のリスク要因と同列で扱われるのではなく、すでに存在している問題の影響を大きくする要素と位置づけられています。
つまり、報道は何もないところから問題を生み出すのではなく、組織の中に元々あった問題を社会に見える形にし、その影響を拡大します。(資料1)

また、この論文は、レピュテーションリスクを漠然とした評判の問題として放置するのではなく、より小さなリスク現象に分けて把握し、継続的に監視し、必要に応じて透明性のある説明や適時のコミュニケーションによって対応する、という考え方も示しています。(資料1)

メディアは、組織の判断や対応を社会に伝え、その受け止められ方(=社会からの見え方)に影響する経路の一つです。
したがって、メディア対応は広報のスキルだけでなく、説明責任やガバナンスの問題としても考える必要があります。

3.事例1:東芝会計不正事件

東芝の2015年の会計不正事件では、2015年7月に第三者委員会調査報告書の受領と過年度決算修正への対応を同社が公表しました。
第三者委員会委嘱事項に関する税引前損益の要修正額が累計1,518億円に及ぶとのことです。
また、7月21日付公表文では、2008年度から2014年度までの長期にわたり多額の不適切な会計処理が行われていたことが判明した、とあります。(資料3)

この事件で重要なのは、不正の額の大きさだけではありません。
第三者委員会報告書では、
 ・各事業部門に対して過大な利益目標が強く求められていたこと、いわゆる「チャレンジ」がプレッシャーとして機能していたこと
 ・上司の意向に逆らいにくい企業風土の下で不適切な会計処理が継続したこと
などが指摘されています。

つまり、この問題は単なる会計処理の誤りではなく、目標設定、組織文化、監督機能の弱さが重なって生じた、ガバナンス上の問題です。(資料3)

この事例から見えるのは、レピュテーションリスクが「不正をしたから生じた」のではなく、「不正が長期間止まらず、しかもその背景に目標設定、企業風土、監督不全があった」と受け止められることで深刻化するということです。
メディア報道は、そのような構造を社会に可視化する経路となり得ますが、問題の核心は、内部で抑止できなかったガバナンスにありました。

大学に引きつけて考えると、外部資金獲得、論文数、産学連携件数などの目標が現場に過度な圧力として作用していないか、また、現場の違和感が関係部署や執行部に上がる仕組みがあるかが問われます。

東芝の事件に見られる「責任の拡散」や「実効的なブレーキの不在」は、多くの組織が陥りやすいガバナンスの罠です。

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なぜこれほど多層的な監督機能がありながら機能しなかったのか、その本質については17を、また、その教訓を活かして「実際に止められる組織」を実務としてどう設計すべきかについては18をあわせてご覧ください。

4.事例2:雪印乳業食中毒事件

2000年の雪印乳業食中毒事件について、厚生労働省の最終報告概要は、有症者数が14,780名に達し、近年例をみない大規模食中毒事件としています。
また、経緯を示す資料で、6月末から7月にかけての発生と調査・回収対応の流れが示されています。(資料4,5)

この事件で特に重要なのは、事故の原因とあわせて、事故発生後の対応です。
厚生労働省の経緯資料やFailure Knowledge Databaseの整理をみると、
 ・問題の把握、公表、回収、説明の各局面で対応の遅れや不備
があり、
 ・それが被害拡大と信頼低下を深刻化させたこと
が読み取れます。
すなわち、信頼低下を大きくしたのは「事故が起きたこと」だけではなく、「問題をどう把握し、どう伝え、どう対応したか」でした。(資料4, 5, 6)

具体的には、Failure Knowledge Databaseは、
 ・食中毒発生後に、消費者への周知、公表、製品の自主回収が遅れたこと
を、被害拡大の要因として挙げています。(資料6)
厚生労働省の経緯資料を見ても、発生後ただちに十分な回収・説明に至ったわけではなく、原因究明と対応が段階的に進んでおり、初動の遅れが信頼低下を大きくしたことがうかがえます。(資料5)

また、この事例におけるメディア対応は、広報技術の問題としてではなく、説明責任の問題として理解する必要があります。
事故後の会見や説明のあり方は、報道を通じて広く社会に共有され、組織の姿勢そのものとして評価されました。(資料6)

ここで問われたのは、被害者や消費者への対応を優先し、分かっていることと分かっていないことを誠実に説明できたかどうかです。

大学でも、研究不正の疑義、個人情報の漏えい、ハラスメント、利益相反の開示漏れなどが生じた場合、最初の説明と初動対応がその後の信頼に大きく影響します。

5.事例3:タイレノール事件

1982年のタイレノール事件では、店頭に並んでいたカプセル製品が第三者によって開封され、製品にシアン化物が混入されたことにより、死者が出ました。
これは、製造段階で不良品が出た事案ではなく、流通後の製品に外部から毒物が混入されたことによって起きた危機でした。
この事件を受けて、米国では、包装の不正な開封や改ざんを防止する包装を求める規制が導入されました。
こうした制度面の見直しも含めて、危機対応を製品安全の仕組みの改善につなげたことが、その後の信頼回復を支える要素になったと考えられます。

FDAは、この事件を受けて、1982年、Tamper-Resistant Packaging Regulations(不正な開封や改ざんを防止する包装を求める規制)を導入しました。(資料7)
また、Johnson & Johnson の社史ページでは、当時のCEO James E. Burke がこの事件に有効かつ慎重に対応し、迅速な信頼回復に寄与したと位置づけています。(資料8)

この事件は、深刻な危機が生じたとしても必ずしも信頼が失われるわけではないことを示す事例として、よく取り上げられます。

もちろん、事件そのものは極めて重大でした。
しかし、その後の対応が、被害者保護と安全確保を優先するものであり、かつ社会に対して分かりやすく示されたことが、信頼維持につながったと理解されています。

具体的には、Johnson & Johnson は、
 ・消費者に服用中止を呼びかける
とともに、
 ・約3,100万本のTylenolを全米で回収
 ・既購入者にはカプセルを錠剤に交換
する対応も行いました。(資料9)

こうした対応は、原因が自社製造工程外の毒物混入であっても、まず消費者保護を優先したものとして受け止められ、その後の包装規制の導入とあわせて、危機後の信頼回復を支えたといえます。

報道はここでも重要でした。
しかし、報道が問題を拡大したのではなく、組織の対応を社会に伝える経路として機能しました。

この事例からの学びは、危機対応として「何を隠さないか」だけでなく、「何を優先するか」が重要という点です。
被害者保護、事実確認、情報共有、暫定的な説明、再発防止策の提示といった基本事項の優先順位が平時から整理されていなければ、組織は危機時に迷いやすくなります。
レピュテーションリスクは、危機の有無だけではなく、危機にどう反応したかによっても大きく変わります。

6.大学実務に引きつけて考える

大学でも、研究不正、外部資金の受入れをめぐる疑義、利益相反の開示漏れ、個人情報漏えい、ハラスメントなど、信頼に影響し得る事案はさまざまです。
重要なのは、問題をゼロにすることではなく、現場の違和感や懸念を早く把握し、関係部署や執行部につなぎ、適切に判断し、説明できる体制があるかどうかです。

また、メディア対応も広報部門だけの仕事ではありません。
報道は、組織の中にあった問題やその後の対応を社会に見える形にします。
その意味で、利益相反管理を含む大学のリスク管理は、研究者個人の申告義務の問題にとどまらず、情報の連携、判断過程の透明性、エスカレーションの仕組みをどう整えるかという、組織ガバナンスの問題として捉える必要があります。

7.まとめ

レピュテーションリスクは、個別の問題が起きたことだけで生じるのではなく、問題を防げなかった組織のあり方や、発生後の判断、説明、対応の仕方によって大きくなります。
事例から学ぶべきなのは、「問題を起こさないこと」だけではなく、問題が見えにくくなる組織的な条件を減らし、問題発生時に信頼をさらに損なわない対応を準備しておくことです。
大学の利益相反管理も、そのような組織的ガバナンスの一部として考える必要があります。

参考資料(本文中の資料番号に対応)

1) Ciaponi, G. et al. Reputational Risk for Financial Institutions: A Proposal of Quantitative Approach. Risk Management Magazine, Vol.16, Issue 2, May–August 2021.

2) Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD). Corporate Governance and the Financial Crisis. OECD, 2010.

3) 株式会社東芝不正会計事件 第三者委員会報告書 2015年7月20日

4) 厚生労働省「雪印乳業食中毒事件の原因究明調査結果について(最終報告)」2000年12月

5) 厚生労働省「『雪印低脂肪乳』等による黄色ブドウ球菌食中毒の経緯」2000年

6) Failure Knowledge Database “Mass Food Poisoning Caused by Snow Brand Dairy Products.”

7) U.S. FDA. Milestones in U.S. Food and Drug Law Content current as of:01/30/2023

8) Johnson & Johnson. Timeline / Our Heritage

9) PBS News. How the Tylenol murders of 1982 changed the way we consume medication. PBS, 2022.

2026年03月15日投稿

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