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【利益相反管理実務(18)】不作為の持続を断ち切るガバナンスの実務

本シリーズ(第12回〜第19回)では、組織ガバナンスの本質について
 ・レピュテーションリスクと説明可能性(121314
 ・情報の統合とリスクの可視化・抽出(1516
 ・不作為を打破し、必要な場面でブレーキをかけられる組織の設計と運用(171819
という三段階で整理します。

前回の17では、必要な情報やアラートがあるのに、なぜ組織は動けないのかを、複数の失敗事例から検討しました。

そこで見えてきたのは、問題が見えていないから動けないのではなく、見えていても、それを判断と行動に変換する仕組みが弱いと、組織は止まれないということです。
本稿で扱うのは、こうした事件を未然に防ぐために、組織をどのように設計すべきかという問題です。
「止められる組織」をどう作るかに注目します。(資料1, 2)

1.前回の振り返り─課題はどこにあったのか

17で見た失敗事例に共通していたのは、次の三点でした。
 ①誰が最終的に止めるのかが曖昧であること
 ②苦情、相談、指標、契約、研究費、人事といった情報が分断され、全体像が見えないこと
 ③慎重な判断よりも、事業や研究を進める圧力の方が強くなりやすいことです。
第17回では、これら3つの構造があることで、組織が「動かない方が合理的」に見えてしまう不全状態に陥ることを確認しました。

Jesse Gelsinger 事件は、アラートや安全性に関する懸念があっても、研究の継続や成果への期待が強いと、組織として中止の判断ができなくなることを示しました。
東芝不正会計事件は、管理部門や会議体が存在していても、組織として是正を断行する主体が実質的になく、不適切な状態が続き得ることを示しました。
Mid Staffordshire 事件は、苦情や現場の声、外部評価などのシグナルが存在しても、個別のシグナルがサイロの中で処理され経営判断に結びつく形で統合されなければ、重大な問題として扱われないことを示しました。
(資料3, 4, 5)

したがって、第18回で考えるべきなのは、問題を組織として判断と対応につなげるために、判断の主体、情報の統合、独立したレビュー、見直しの仕組みをどう設計するか、という実務的な課題です。(資料1, 2)

2.“止められる組織”をつくるためのポイント

 (1)最終的な判断の所在を明確にする
 (2)組織内の情報を横断的に把握できるようにする
 (3)独立した立場から検討する仕組みを組み込む
 (4)問題提起や相談をしやすい環境を整える
 (5)定期的な見直しを制度として組み込む

(1)最終的な判断の所在を明確にする

誰が最終判断をし、誰が「止める」権限を持ち、どこにエスカレーションするのかを明確にすることが重要です。

東芝不正会計事件では、複数の部門や監督機能が存在していたにもかかわらず、実効的なブレーキが働きませんでした。
ここから分かるのは、関係者が多いことと、責任ある判断があることは別だという点です。(資料3)

大学・研究機関で、利益相反の管理、契約の審査、研究倫理の審査、寄附の受入、兼業の審査などが別々に存在していたとしても、「高リスク案件について誰が最終的に判断するのか」が曖昧であれば、制度は形骸化します。
実務上は、
 ・通常案件の判断フローとエスカレーションの基準
 ・高リスク案件を付議するためのフロー
 ・停止、条件付承認、差戻しの権限者
を、動くフローに落とし込んでおく必要があります。

(2)組織内の情報を横断的に把握できるようにする

情報を集めることではなく、横断的に見ることが重要です。

Francis Report は、Mid Staffordshire における深刻な問題について、理事会が患者や職員の声に十分耳を傾けず、指摘された不備の是正につなげられなかったと述べています。
これは、情報が存在しなかったのではなく、苦情、現場の声、外部評価、死亡率等のシグナルが、経営判断に結びつくよう統合されていなかったことを意味します。(資料4)

大学・研究機関でも同じです。
人事の情報は人事担当、共同研究契約は契約担当、寄附は基金担当で処理して終わりではなく、一定の基準を満たす案件について横断的にレビューする仕組みが必要です。

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15(リスク情報の統合と組織的把握)で、情報の統合について、単なるデータの集約ではなく、組織としての判断力を担保するためのインフラ整備として説明しています。

(3)独立したレビューを入れる

利害関係の強い当事者だけで判断しないことも重要です。

Jesse Gelsinger 事件を契機に、研究者個人の利益相反だけでなく、組織レベルの利益相反や参加者保護の仕組みの重要性が広く意識されるようになりました。
Shalala 論文も、ヒトを対象とした研究の参加者を保護するためには、IRB やその他の機関内の部門に対して、その任務を遂行するために必要な地位、権限、リソースを提供することが不可欠なアクションであると述べています。(資料1, 5)

ここで重要なのは、誰が情報を確認し、誰が独立に評価し、必要な管理措置を決めるのか、という仕組みの問題です。

この点で、Michigan大学の組織の利益相反管理の制度が参考になります。
同大学は、学内外の委員で構成される組織の利益相反管理委員会によるレビューの枠組みを置き、機関の財務的利益が研究のデザイン、実施、報告、審査、監督(oversight)に影響し得る場合を対象として、特定の利害の識別、専門部署への報告、審査を行っています。
利益相反ポリシーでは、研究継続の条件の設定だけでなく、大学が保有する株式や財務的利益の処分や、リスクが管理不可能と判断された場合の研究実施の禁止といった管理措置まで、委員会が決定できる措置に含まれます。(資料6)

組織に組み込むべきポイントは、下記のように整理できます。(資料1, 5, 6)
① 独立した審査組織の設置(ICOI委員会)
組織(大学)自体の利害を客観的に評価するため、学内の教職員だけでなく独立した学外委員を含む専門の審査委員会(ICOI委員会)を設置し、審査機能を持たせることが不可欠です
② 「外部の視点」による客観性の担保
身内だけの判断に陥らないよう、他機関の有識者やコミュニティメンバーを委員に加え、組織内の利害から切り離された「外部の目」でリスクを検証する仕組みを導入します。
③ 最終意思決定権と責任の所在の明確化
委員会の勧告を受け、組織のトップ(学長等)が最終的な判断を下す権限と責任を持つことを明確にします。
これにより、東芝の事例で見られたような「止める責任の拡散」を防ぎます。
④ 管理計画の策定と「文書」による継続管理
審査の結果、承認された案件については、具体的な制約条件を定めた管理計画を文書化し、状況の変化に応じた修正や遵守状況を継続的に記録・管理する体制を整えます。

(4)問題提起しても損をしない仕組みを作る

早期の相談や懸念の表明が不利益につながらない運用を作ることも重要です。

組織が動けないとき、たいてい現場には違和感があります。
しかし、
「問題を上げると面倒」
「通報すると人間関係が悪くなる」
「黙っていた方が得」
という環境では、アラートは表に出てきません。

Francis Report では、理事会が患者や職員の声を十分に聞かなかったことが問題とされました。(資料4)

東芝事件でも、外部の独立調査委員会が通報窓口を設けて情報収集する必要がありました。
社内に内部通報制度自体は存在し、年間数十件の通報はありましたが、不正会計に関係する通報は一件もありませんでした。
平時の組織運営の中で、懸念が十分に吸い上げられていなかったことを示しています。(資料3)

2つの事件の反省をいかし、組織にくみこむべきポイントは、下記のように整理できます。(資料3, 4)
① 管理職を経由しないエスカレーション先の重要性
「上司の意向に逆らうことができないという企業風土」(東芝事件)や「現場が懸念を報告しても、管理職がそれを受け流し、是正につなげない状況」(Mid Staffordshire事件)などの教訓から、通常の組織ライン(管理職)が機能不全に陥った際の独立した経路が必要です。
② 「相談後のフォロー」と「フィードバック」の権利(entitled to receive feedback)
「通報して終わり」ではなく、その後の対応を本人に伝えることが、組織への信頼構築に直結することが示されています。
③ 「問題提起は損ではない」という経験の構築
通報者が通報による不利益を恐れる必要のない「心理的安全性」の確保も最優先課題です。
④「制度の有無」より「実効性(使えるか)」
両事件とも、形式上の制度はありながら、それが「運用上ほんとうに使える」状態になかったことが致命的でした。
東芝事件でも、内部通報の制度があっても、「経営トップの関与による内部統制の無効化(オーバーライド)」が起きて情報の流動性を確保できなかったことが致命的でした。

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「言える組織」を支えているのは、「聞ける人」の存在です。
19では、情報の「最初の受け止め方」を扱います。

(5)定期的な見直しを制度化する

見直しを例外対応にせず、定期的な見直しを行うことが必要です。

GAO の Green Bookによれば、組織に組み込むべきポイントは、次のとおりです。(資料2)
① 内部統制の定義とライフサイクル
内部統制を、組織が目的を達成するために設計し、実施し、運用するものとして位置づけ、設計・実装・運用の有効性を継続的に評価することを示しています。
② 継続的な監視と是正(正確)
内部統制は、日常業務に組み込まれた「進行中のモニタリング(Ongoing Monitoring)」と、定期的に行われる「個別の評価(Separate Evaluations)」の両方を通じて、その質を継続的に評価する必要があります。
また、特定された内部統制上の不備を適時に評価・報告し、具体的な是正措置を完了させることが求められています。
③ 変化への対応と制度の再評価
管理者は、組織の内部環境(人員、技術、プログラムの変更など)や外部環境の変化を適時に特定し、それが内部統制システムに及ぼす影響を分析します。
また、重要な変化やモニタリングで判明した不備を踏まえ、リスク評価を適宜見直し、既存の統制活動が引き続き適切かを確認する必要があります。
更に、内部統制は固定的な仕組みではなく、組織内外の変化に応じて継続的にリスク評価を更新し、改善し続ける動的なプロセスです。

3.まとめ

17で見たのは、問題が見えていないから組織が動けないのではなく、見えている問題を判断と行動につなげる仕組みが弱いと、組織は止まれないということでした。
共通する課題は、誰が最終的に判断するのかが曖昧であること、情報が分断されて全体像が見えないこと、そして慎重な判断よりも進める圧力が強くなりやすいことです。

第18回で重要なのは、こうした状態を防ぐために、組織をどう設計するかです。
具体的には、最終的な判断の所在を明確にすること、情報を横断的に把握すること、独立したレビューを組み込むこと、問題提起や相談をしやすい環境を整えること、そして定期的な見直しを制度として組み込むことが必要です。

参考資料(本文中の資料番号に対応)

  1. Shalala D. Protecting Research Subjects—What Must Be Done. New England Journal of Medicine. 2000.【第17回資料1】
    https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJM200009143431112

  2. U.S. Government Accountability Office. Standards for Internal Control in the Federal Government. GAO. 2025.
    https://www.gao.gov/assets/gao-25-107721.pdf

  3. 第三者委員会. 調査報告書. 株式会社東芝. 2015.【第17回資料3】 https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/irAssets/about/ir/jp/news/20150721_1.pdf

  4. Francis R. Report of the Mid Staffordshire NHS Foundation Trust Public Inquiry. The Stationery Office. 2013.【第17回資料4】 https://www.gov.uk/government/publications/report-of-the-mid-staffordshire-nhs-foundation-trust-public-inquiry

  5. Institute of Medicine (US) Committee on Assessing the System for Protecting Human Research Subjects. Preserving Public Trust: Accreditation and Human Research Participant Protection Programs. National Academies Press. 2001.【第17回資料2】 https://nap.nationalacademies.org/catalog/10085/preserving-public-trust-accreditation-and-human-research-participant-protection-programs

  6. University of Michigan. Policy for Institutional Conflicts of Interest in Research. University of Michigan. 2025. https://research-compliance.umich.edu/sites/default/files/resource-download/icoi_policy.pdf

2026年03月26日投稿

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