【#創作大賞2026 エンタメ原作部門】『おれとわたしのはんぶんこ』第01話「校舎裏の秘密」
《あらすじ》
神楽月学園高校の生徒会長・姫川ぼたんには誰にも言えない秘密があった。それはスケバンリリーと称される学園一有名な不良少女・鬼龍院りりと半分だけ血のつながった、腹違いの姉妹同士であるということだ。片や学園中から慕われ、片や学園中から恐れられる、何もかもが正反対のふたり。
互いを気に掛けつつも、つかず離れずの距離感を保って日々をおくっていた彼らの前に、行方をくらませていた父が突如として姿を現し、状況は一変する。ぼたんは予てより抱えていた責任感と罪悪感から過剰なまでにりりを気に掛けるが、突き放されてしまう。更に父が学校付近でトラブルを起こしたことで、ぼたんは窮地に立たされてしまい…。
《コンセプト》
異母姉妹の姉妹百合。共通の十字架を背負う少女たちの歪な絆の物語。
《第01話 本文》
「――――おう、生徒会長さまじゃねーか」
十一月のある寒い日のことだ。
都心から少し離れたところにある神楽月学園高校。生徒会長の姫川ぼたんは昼休みの校内巡回中、ふと気になって校舎裏の暗がりをのぞきに行った。案の定、そこには紺のブレザーを乱雑に着崩した鬼龍院りりが気だるげに座り込んでいて、こっちを見てニヤニヤ面白そうに笑っているのだった。
指先につまんでいるのは白くて短いタバコ状の何かで、口からプカプカ白い息を吐いて遊んだりしている。ぼたんは思わずため息をつかされた。
「またそんな下らない遊びをしてるのか?」
「今日は一体どんなご用件だ? 密輸ルートの相談でもしに来たか」
「……悪いことは言わないから、さっさとその悪趣味なのをやめろ」
ぼたんはヒクつくこめかみを押さえながら言った。夏服が冬服に代わっても、ぼたんを茶化すようなりりの言動は留まるところを知らない。大体この季節に、あんな格好でよく寒くないものだと、悪い意味でぼたんは感心させられる。
「駄菓子つまんで、寒い中で白い息吐いてるだけじゃねえか? 大体こういうシガレットってのはごっこ遊びするためにあるんじゃねえのか?」
「絵面が良くないと言ってるんだ……人目につくぞ」
りりは明らかに確信犯でものを言っていて、こちらが困るのを分かって面白がっている。見つけたのが自分でなければ大騒ぎになっているところだ。
「厳密にいえば、そういう菓子を校内に持ち込んで食べるのもルール違反だからな?」
「へいへい、会長さまはお堅いこって」
りりは文句を言いながらシガレット菓子を口の奥へと押し込むと、ボリボリ嚙み砕いて飲み込んでしまった。それから何を思ったか、小さな箱型のパッケージをぼたんに向かって差し出してくる。
「お前もいる?」
「いや、いい。ルール違反と言ったろ」
「つまんね」
「…………なあ、りり」
ぼたんは真面目な顔でりりに語りかけた。
「わたしは心配してるんだよ。りりのことで、良からぬウワサをする連中もいるし……」
「言わせときゃいいじゃねえか」
「良くない!」
ぼたんがやや強めに言ったのでりりは一瞬ビックリして菓子の箱を取り落し、それから如何にも面倒そうな顔で拾った箱を胸のポケットの中にしまった。
「りりは、お母さんのためにいつだって頑張ってるだろう。勉強の合間を縫ってバイトして、昔の参考書を使いながら成績まで上位を保ってる」
「おい、よせよせよせ」
「なのに職員室に行くりりを見て、河原で他校とケンカして呼び出されたとか言う連中がいるんだぞ……何がスケバンリリーだ。一体いつの時代の話だ」
「別に、カッコいいじゃねえか」
「説明すべきだろう、バイトの許可を貰いに行ってるだけだって!」
「説明したから何だってんだよ!?」
りりは若干イラついているように見えた。
「んな説明したところで言うやつは言うし、時間と体力ムダにするだけなんだよ。お偉い会長さまは知らないかもしんねえけどな」
「だからといって、自分からわざわざ誤解を招くような振舞いすることないだろう!?」
ぼたんも思わずムキになって反論する。
「りりが悪く言われるのが、わたしは我慢ならないんだよ」
「お前さあ、それ何目線で言ってんだよ?」
「…………すまない。わたしはただ」
「いや待った、言わなくていい」
自分から訊ねておいて、りりはぼたんがそれ以上言おうとするのを遮った。
「今のは、おれもちょっと意地が悪かったわ……。悪い、謝る」
「そんなこと言わないでくれ」
「おれはもう行くよ」
りりは話を打ち切ると、肩までのポニーテールを揺らしながらすっとその場に立ち上がる。居心地の悪さを誤魔化したいのかポケットに手を突っ込み、心なしか目を伏せながら他には誰もいない校舎裏を彼女は後にした。
「りり」
「ま、精々頑張んなよ……お姉さま」
背中越しに手を振り去っていくりりを、ぼたんは何も出来ずに見送った。
足元のカサリという音にぼたんが目を落とすと、りりの食べたシガレット菓子の包みの一部が切れて草むらに引っかかっていた。ぼたんは静かに嘆息すると、そっとゴミの切れ端をつまみ上げて先程の言葉を反芻しようとした。
「お姉さま……か……」
一見して正反対な姫川ぼたんと鬼龍院りりの、学園の誰も知らないふたりだけの秘密。それは、ふたりが異母きょうだい――いわゆる腹違いの姉妹ということだった。
《各話リンク+巻末補足》
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