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【#創作大賞2026 エンタメ原作部門】『おれとわたしのはんぶんこ』第03話「生徒会にて」

《第03話 本文》

 生徒会ではその日、定例の報告会と翌月に向けての打ち合わせが行われた。学校周辺で不審者が目撃されているから生徒会名義で改めて注意喚起をする、ということで話がまとまり、ひとまずその日は閉会になった。

「会長って、本当にカッコいいですよね」
 帰り支度をまとめていると、後輩のひとりが出し抜けにそう言ってきた。他のメンバーも同調するみたく頷いているので、ぼたんは何のことか分からずにキョトンとする。

「何の話だ、いきなり」
「だってほら、スケバンリリー先輩のこと全然怖がってないじゃないですか。ウチらとか近くに行くだけで震えちゃうのに」
「ね。殺されそうな目つきで睨んでくるのに普通に話してて、その上一緒にご飯食べてる会長凄いなって」
「てか、スケバンっていうのが今時、古すぎるんですよね」
 後輩のひとりがせせら笑うように言ったので、ぼたんは思わずムッとする。

「いつの時代の人なんですか。そもそもアレでよくウチの学校入れたなって思いますよ」
「それは、君らが勝手に言い出したことだろう?」

 ぼたんがいつにもなく冷たい口調で返したので、生徒会の後輩たちは一瞬びっくりした様子だった。言ってしまってから、ぼたんは我に返ってワザとらしく咳払いをする。昼間聞いた父親の件で気が立っていたのだろうか……どの道、りりが悪く言われるのは面白くない。

「……いや、とにかくそういう、人の悪評で盛り上がろうとするのは良くないぞ」
 生真面目で通っているぼたんを不快にさせたと思ったのだろうか、後輩は素直にしょげ返っていた。だがその本当の理由など知る由もあるまい。

 ぼたんとりりの血縁関係は、互いになるべく周囲には知られないようにしていた。万が一事情を深く突っ込んでこられると、特にりりがイヤな想いをするだろうと考え、自然とそうしておくことに決まったのだ。

「それに、君らはりりを誤解してるよ。駅前のバス停の近くに、小さなラーメン屋があるだろう? 彼女は今学校の許可を取ってあそこでバイトしてるんだが、それは親御さんを支えるためらしいんだ」
 ぼたんはこの機会に、りりの良いところを積極的に知って貰おうと思った。

「りりは色々とあった所為で生活が大変でな、中学からずっと部活も入らないで頑張っているんだが、あまり他人と付き合わない上にあの目つきだろう、そのお陰でやってもない悪いウワサが広まってしまったみたいなんだ。立派なやつだよ、りりは……わたしなんかよりもずっと」

 へぇ、と生徒会の面々は初めて聞く情報に感心していた。生徒会長という立場は、こういう場合有効だなとぼたんは思う。他人についてする話に、自然と尤もらしさを付与することが出来るからだ。

「良かったらみんな、りりのバイト先にこれから行ってみないか。多分、今の時間帯ならりりの働く姿が見られるし、君らきっと驚くぞ。今日は全員ヒマだろう?」
 ぼたんの誘いに、会長がそんなに言うならとメンバーは少しずつ同行を承諾していった。半分怖いもの見たさもあったろうが、生徒会一同をりりのバイト先に連れていくのに成功して、ぼたんは心の奥でガッツポーズをとる。これでまた少しでも、りりの役に立つことが出来ると思ったのだ。

 父の不貞行為が発覚したのは、母がぼたんを生んで、殆んどすぐのことだったそうだ。当時、りりの母の臨月が間近に迫ってもなお、籍を入れようとしない態度を不審に思った鬼龍院家の人間が、父の実家に電話をしたのがキッカケだった。

 りりの母は元々が予期せぬ妊娠だった上に入籍を延々引き延ばされ、それどころか父が既婚者という事実さえも知らされていなかったという。
 りりがやがて世に生を受けた頃、ぼたんの母はショックに耐え切れず、まだ赤ん坊のぼたんを半ば育児放棄するようになってしまっていた。ぼたんと母は、共に祖父母の元へと引き取られた。

 双方の家族を仲介に立てた離婚調停の場で、父は恥も外聞もなく土下座をひたすら繰り返したという。にもかかわらず、約束したハズの養育費の支払いは三年と経たず途絶え、挙句の果てには音信不通となった。
 ぼたんの祖父母は怒り心頭だったが、それでも実際はマシな方だった。りりの母やその家族に対しては、まだ結婚してなかったとか、断らなかった相手にも落ち度がなどと言い逃れを並べ、話し合いにすらそもそも応じなかったと、のちに判明したからだ。

「会長、会長!」

 正門を出たところで後輩たちに声をかけられ、ぼたんは振り返った。大分距離の離れたところに、辛うじて心配そうな生徒会メンバーの顔色がうかがえる。坂道の下側に立った彼らの頭上には、うっすら灰色がかった空模様が広がっていた。秋も終わりかけたこの頃、天気は殆んどずっと曇り続きだった。

「会長どっち行ってるんですか、駅は向こう」
「あ、ああすまない。ちょっと考えごとでな」
「大丈夫ですか? 仕事し過ぎで疲れてるんじゃないですか?」
「気にするな、わたしは平気だよ」
 お前には疲れている資格なんて無いんだ、とぼたんは心の中で自分自身に強くそう言い聞かせる。

 祖父母の助けもあって、ぼたんは小学校を卒業し、中学校を卒業し、やがて今の高校に進んだ。常に優秀で、尚且つ誰かの役に立てる人間であろうと、努力を続けてきたつもりだったが、この学校で出逢ったりりが自分の妹だと分かった時、結局そんなものは努力ですらなかったのだとぼたんは気付いた。

 ぼたんとりりが初めて出逢った頃、既にりりの母は慢性的に体調が良くなかった。シングルマザーとして、余りに長年頑張り過ぎた反動だった。貧しさというものが何なのか、教科書程度では分からないということを、ぼたんは痛切に思い知らされた。

 それ以来、ぼたんは生徒会長として、また同時にりりの姉として、常に彼女の力になることを願い続けている……。

《各話リンク》

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