【#創作大賞2026 エンタメ原作部門】『おれとわたしのはんぶんこ』第04話「衝突」
《第04話 本文》
「……なあ会長さんよ、こないだみたいなことマジでやめてくんねーか」
週明け、再び学校で会ったりりから呼び止められたぼたんは、いきなり予想外の言葉を投げられて面食らった。
「藪から棒になんだ?」
「ウチの店に来た時のことだよ」
「何かマズかったか? 客足や売り上げに貢献したつもりだったんだが……」
「客として来るのはともかく、お前あの日店長とか周りの連中におれのことずっと褒めてまわってただろ!?」
りりが不機嫌な理由が分からなくて、ぼたんは戸惑ってしまう。仕事先や学校関係者に評判が良くなって、困ることなんてないと思うのだが……。
「すまない、恥ずかしかったか?」
「そうじゃねーよ、お前マジで何目線で喋ってんだって訊いてんだよ! こないだお前ら帰った後、店長におれらのこと誤魔化すの大変だったんだからな!? あと生徒会の連中目ぇ丸くしてたぞ、自分で気付かねえの?」
「うっ……それは、流石にすまない……」
「大体お前あの日、昼間にもラーメン食ってたろ。お代わりまでしやがって。女子高生が一日で二度も三度もラーメン食ってんじゃねーよ、ぶくぶく太るぞ!」
「そっちこそ、りりには関係ないだろう!?」
「んだよ、実はこっそり気にしてんのか? 会長さまも意外と繊細なこって」
「いくらりりでも、それはデリカシーが無さすぎるぞ!」
「んなこと知るかボケェ!」
周囲にあまり人がいなかったのもあって、ふたりは珍しく大っぴらに口論してしまう。万一近くを通りかかった者がいたとしたら、この組み合わせで、それも心底しょうもない話題でケンカをしているのに目を白黒させたことだろう。
ふたりはしばらく肩を怒らせて睨み合っていたが、やがてりりの方が諦めたみたく深く深くため息をついて言った。
「……お前さ、マジで重いんだよ。つーかうざい」
「…………わたしには責任があるんだ」
「あァ? 何の責任だよ。生徒会長ってのは不良の面倒まで見んのか。ご立派なこって」
「それだけじゃない。分かってるだろ」
「分かりたくねえな」
りりは冷たく吐き捨てた。
「お前の自己満足の家族ごっこによ、いい加減おれを付き合わせんなよ」
その一言に、ぼたんは想像以上にショックを受けていた。
確かに血の繋がりは半分である。ほんの一、二年前までは互いの存在は辛うじて知っていた程度で、育った環境もかけ離れている。性格だって殆んど真逆と言っていい。
だがしかし、ぼたんはりりを他人と思うことが、どうしても出来なかった。そして心のどこかで、りりの側もぼたんを同様に大きく想ってくれている。そう信じていた。
いや、ぼたんがきっと、そう信じたかったのだ……。
「んだよ、図星だったか?」
「……何と言われようが、わたしは構わない」
ぼたんは顔色が悪くなるのを、必死に誤魔化しながらりりを見つめた。自分でも、声が少し震えているのが分かる。それでも、引き下がる訳にはいかなかった。
「それでも、わたしはりりに幸せになってほしいんだ」
「だったらもう放っといてくれ、頼むから。金輪際おれに構うな」
りりの要求は極めて直接的で、容赦なかった。
ぼたんは咄嗟に何か言おうとして、結局言葉の出てこない自分が情けなくなった。
「…………そうかもな…………すまない」
「謝ってんじゃねえよ」
ぼたんがようやく絞り出したひと言にさえも悪態を返し、りりは背中を向けると舌打ち混じりにその場を去っていった。けどぼたんは、この時りりが何故そんな風に言ったのか想像することさえ出来なかった。ぼたんはそれからかなりの間、真っ白になった頭の中を整理しようとずっと同じ場所に立ち尽くしていた。
その後何をどうして一日を過ごしたのか、ぼたんは正直覚えていない。ただ、気付いた時にはその日の授業も何もかも全部終わっていて、半分暗くなった学校から駅への道を、ぼたんはたった独りでとぼとぼ歩いていた。
生徒会活動は早めに切り上げたのかも分からない。あまりにも元気がないので、周囲に気遣われてひと足先に帰らせてもらったような気もする。どちらにせよ、殆んど身が入らなかったことだけは覚えていた。重ねて自分が情けない。
重い。自己満足の家族ごっこ。放っておいてくれ。
りりから浴びせられた言葉の数々は、何時間経ってもぼたんの頭の中でぐるぐると渦を巻いて、消える気配がないどころか一層膨れ上がっていく感さえあった。
自分は何を間違えたのか。答えを探し思考の迷宮を彷徨い続けていると、不意に電柱の陰から人影が飛び出してきて、目の前に立ちはだかった。
ぼたんは反射的に身構えて、それから少し遅れて呆気にとられた。
「久しぶりだね、ぼたん」
ぼたんの父、八王子豊明との数年越しの再会だった。
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