システィーナ礼拝堂のミケランジェロ『最後の審判』に恍惚!その秘密は古代ローマ彫刻に?
バチカン美術館からシスティーナ礼拝堂へ!ミケランジェロの天井画や壁画が素晴らしすぎる!
前回の記事「バチカン美術館の見どころと有名作品をご紹介!ラファエロの名画はやはり格別!」ではバチカン美術館についてお話ししましたが、今回の記事ではこの美術館から直結で訪れることができるシスティーナ礼拝堂についてお話ししていきます。



システィーナ礼拝堂といえばミケランジェロの壁画『最後の審判』や天井画『天地創造』で有名ですよね。最近では映画『教皇選挙』でも話題になりました。
システィーナ礼拝堂は当時の教皇シクストゥス4世の要請で作られ、1477年に着工し1481年に完成した建物です。
システィーナ礼拝堂という名も、教皇シクストゥス4世の名にちなんでつけられたものになります。
当時のバチカンでは芸術振興を通して信仰の力を示そうという流れが存在していました。
この時代はルネッサンス芸術が花開いていた時代。
芸術の都フィレンツェであのレオナルド・ダ・ヴィンチやボッティチェッリが活躍していた時代に当たります。
そのような時代にあってこのシクストゥス4世は、「バチカンにも最高峰の芸術を」という熱意に燃えてこの礼拝堂を建築したのでありました。
完成後、多くの著名画家がこの礼拝堂の壁画や天井画を完成させていきますが、実はこの時はまだミケランジェロの出番はありませんでした。
ミケランジェロが登場するのは、礼拝堂完成のおよそ30年も後のことです。
ミケランジェロに白羽の矢が立ったのは1508年。
当時の教皇ユリウス2世による依頼でした。
と言いますのも、最初に描かれた天井画が早くも傷みだし、これを機に当時から名声が轟いていたミケランジェロによって新たに天井画を書き直すというプランが教皇の脳裏に閃いたからでありました。
しかしミケランジェロはその依頼に困惑します。「私は彫刻家であって画家ではない。不慣れな天井画は私には書けない」と彼は直訴したのでありましたが、教皇に押し切られ結局依頼を受けることになったのでした。
このエピソードを知るまで、私のイメージではミケランジェロは画家でした。
しかしミケランジェロ自身は彫刻家こそが自分の天分だと考えていましたし、実際に生涯にわたってその通りでありました。


ではなぜミケランジェロは彫刻家にも関わらずこれだけの傑作画を描けてしまったのでしょう。
その秘密こそ、ミケランジェロが持つ並外れたデッサンの才能によるものだとされています。
彫刻家になるためには、デッサンの能力が不可欠です。
デッサンの能力とは世界の認識能力とその表現能力に他なりません。
ミケランジェロは若かりし頃からその能力がずば抜けて高かったと伝記にも記されています。
そしてミケランジェロの天井画や壁画に大きな影響を与えたのが、実は古代ローマの彫刻群だったと言われているのです。

これは紀元前1世紀に製作されたベルヴェデーレのトルソという彫刻です。
ミケランジェロはこの像を見て絶賛したそうです。
彫刻家は身体の構造に精通していなければなりません。
ミケランジェロはまさにこの像の筋肉の盛り上がり方、肉感の表現に強いインスピレーションを受けたのでありました。
そして私はこの像を見た後、天井画のある部分を見て度肝を抜かれました。


これは天井画の最も目立つ位置に描かれている預言者ヨナの絵です。『最後の審判』のまさに真上に描かれた絵になります。

いかがでしょうか、太ももの筋肉の描き方が驚くほどトルソにそっくりです。
上半身の筋肉の描き方も私には共通点を感じます。
ミケランジェロは明らかに古代ローマ彫刻からインスピレーションを受けています。
その具体例としてもう一枚天井画からその描写を見ていきましょう。

こちらは先程のヨナの絵のすぐ右側にある「リビアの巫女」の絵です。
お土産のポストカードを写真に収めたものなので見にくいかもしれませんが、いかがでしょうか。
こちらの絵も肩周りの筋肉の描き方もミケランジェロ特有の描き方と言われています。
そして爪先の描写にも注目したいです。
なんと絶妙な力加減でしょう。全身の力を支える爪先の絶妙なバランス。脚の筋肉の描き方からも力の流れを感じられるかのようです。
ミケランジェロの絵には動きがあります。
この絵も巫女が今にも本を閉じ、立ち上がろうかという動きが感じられます。
絵というものはもちろん、静止画です。
ですがミケランジェロはその一瞬の静止点を通して、動きを表現することに成功しました。
ここにミケランジェロの偉大な点があります。
そしてその技術を駆使した最高傑作こそ、ここシスティーナ礼拝堂の壁画『最後の審判』と言えましょう。

この壁画は天井画の完成から24年後の1536年、今度は教皇パウルス3世の強い依頼で作業に着手したものになります。
このときミケランジェロはすでに60歳を迎えようとしていmした。
当時ではかなりの老齢です。
それでもなお5年の歳月をかけこの大作は完成されました。
この絵を見る際のポイントは中央上部に位置するイエスの姿勢です。
右手を上に掲げ、体に若干のひねりが見られます。
この右手と体のひねりによって、絵全体が時計回りに回転するかのような動きが生まれます。
絵の左側は、墓地から天国に引き上げられる人々。
そして右側は地獄へと引きずり込まれる悪人たち。
イエスの右手と体のひねりによって絵全体が動き出すという劇的な効果をミケランジェロは描き出したのでありました。
この効果もミケランジェロは古代ローマの彫像からインスピレーションを受けているとされています。
それがバチカン美術館所蔵のラオコーン像です。

これが発見された1500年初頭では、ヨーロッパ世界の絵画や彫像では体にひねりを入れたり動きを表現することはほとんどなかったそうです。
そんな時代にこんなに躍動感のある像が発見されたというのはそれはそれは大きな衝撃であったことでしょう。
歴史とは不思議なものです。
ミケランジェロがローマに来たころ、ちょうどこれらの彫像が発掘され、バチカンで保存され展示されるようになりました。
これがバチカン美術館の始まりと言われています。
ミケランジェロという偉大な天才がたまたまこの時代に生まれ、そしてたまたま同時代に古代ローマ時代の作品が発掘され、展示されるようになった・・・。
偶然とはわかっていても偶然を超えた何かを感じずにはいられません。
古いものを単に古臭いものとあしらうのではなく、そこからインスピレーションを得て現在に生かすという偉業をミケランジェロは成し遂げました。
過去を現在に蘇らせ、さらにかつてより生き生きとした生命力を与えるというのは並大抵の人間にできることではありません。
だからこそミケランジェロは世界史上最高峰の天才と呼ばれるのではないでしょうか。
システィーナ礼拝堂はもはや奇跡です。私もこの空間に完全に魅了され、滞在中何度も何度もここを訪れました。毎日来ても全く飽きません。
ただ、気を付けなければならないことがあります。
「バチカン美術館は早朝優先入場予約が絶対おすすめ!静寂のバチカンを堪能するチャンス!」の記事でもお話ししましたが、ここシスティーナ礼拝堂はあまりに混雑していてゆっくり落ち着いて見るのが難しいということです。
私も初めて訪れた時は昼間の時間帯だったのですが、あまりの人の多さとがやがやした雰囲気でまともに見ることはできませんでした。
だからこそ、早朝優先入場は極めて重要です。
静かなシスティーナ礼拝堂でじっくりと絵画を堪能するにはこれが一番です。詳しくは以下のリンク先でお話ししていますのでここでは割愛しますが、システィーナ礼拝堂に関しては早朝優先入場を強く強くおすすめします。
最後になりますが、システィーナ礼拝堂はもちろんミケランジェロだけではありません。ボッティチェッリやペルジーノなど、当時を代表する最高レベルの画家による壁画が施されています。


ミケランジェロの有名作品だけでなく、他にも魅力満載の壁画がずらりと描かれているこの礼拝堂はとにかく圧巻です。
ですがそうは言ってもやはり惹きつけられてしまうのがミケランジェロというのが正直なところです。いやあ、本当に言葉にできません。この礼拝堂の魅力をどう伝えたらよいのか、初めてここを訪れてからもう7年ですが未だにわかりません。
ただ、行けばわかります。早朝、静寂の中でこの空間を味わったならばきっと私の言わんとしていることが伝わるのではないかと思います。
では、次の記事ではいよいよバチカンのメインたるサン・ピエトロ大聖堂についてお話ししていきます。2019年の旅で私が最も衝撃を受けた教会は間違いなくここでした。そして2022年の再訪でもやはりここは別格の印象を残しています。
続く
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