シリーズ ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー㉜ 第2幕第4場 ~ その1 ~ ザックスとエーファの対話
「ニワトコのモノローグ」が終わると
ザックスのもとへエーファがやってきます。
エーファはなぜザックスの元にやってきたのでしょうか?
この時のエーファの状況を整理してみましょう。
彼女はヴァルターを愛していますが、
歌合戦で勝てるか分かっていません。
もし勝てなければ、父ポーグナーとの約束によって
花婿を自由に選べなくなる可能性があるのです。
ザックスなら事情を理解して助けてくれるのではないか、
その思いでここに来たという訳です。
話を通じてザックスは彼女の心がヴァルターにあることを確信し、
わざとヴァルターを悪く言って反応を試します。
「あの若者はニュルンベルクには向かない」
「どこか別の場所へ行けばいい」といった調子で。
するとエーファは激怒し、ここでザックスは悟ります。
「ああ、この娘はヴァルターを愛している」
つまり、ザックスの「ヴァルター批判」は本心ではなく、
エーファの気持ちを確かめるための試験だったわけです。
そうしてエーファは怒ってその場を去ります。
ザックス自身もエーファを愛していましたが、
むしろこのやり取りによって
自分がエーファをヴァルターに譲るべきだ
と確信することになります。
さて、この場面の中心は二人の会話で構成されるのですが、
音楽はいくつかのライトモティーフを使用しつつ
澱みなく展開していくのです。
このシーンに使われているライトモティーフを紹介します。
「優美の動機」
クラリネットで初めて提示されます。
完全4度の下降跳躍が連鎖するのが特徴です。
テトラコルドを思い出してください。
前奏曲で出てきた「求愛の動機」との関連性も感じられることと思います。
(テトラコルドや前奏曲のライトモティーフについては過去記事参照)

ザックス「でもなんで遅くに来たか、訳はわかっているよ、新しい靴のせいだろう」
エーファ「それは全くの見当外れ!あの靴はまだ試してないわ。」
「エーファの動機」
2幕2場で登場した動機です。ここではザックスとの会話の中に織り込まれ、
ザックスにピッタリと寄り添って問いかける彼女を描写しています。


エーファ「そのお婿さんて誰?」
ザックス「私が知っているとでも?」
エーファ「私が花嫁になるのはなぜご存知?」
ザックス「何てこと!町中が知ってるよ。」
「懸念の動機」
第1幕、ヴァルターの歌に対して酷評する親方たちに対して、
ザックスが「満を持して」口を開いた際に聞かれた動機です。
その開始の3つの音が「エーファの動機」と同じであることは
前の記事で紹介した通り。
似たような動機を使うことにより音楽的な流れが停滞しないのです。
(エーファの動機、懸念の動機の話題は過去記事参照)

ザックス「そうだよ、試験のために苦労したよ。」
「罵りの動機」
これも1幕ですでに聞かれた動機でして、
ベックメッサーがヴァルターの歌をこき下ろす時に出てきたものです。
長7度音を含んだ主和音と半音関係にある属7和音が交互に鳴らされ、
緊張感のある和音の連鎖となります。

以上が主なライトモティーフ、
これに「シュトルツィングの動機」や
「ライトセクション」の回で説明した音楽が出てきたりと
澱みなく音楽が紡ぎ出されていきます。
