シリーズ ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー③ 前奏曲~その3~
ワーグナーはトリスタン伝説をもとにした
「トリスタンとイゾルデ」において
半音階法の可能性をあまねく汲みつくしました。
潜在意識をライトモティーフに織り込む
という超絶技巧についてはまたいつか語りたいと思います。
次の作品、マイスタージンガーの素材は
伝説ではなく「歴史物」
まったくトリスタンと世界観を異にします。
そうなると音楽の書法も変えねばなりません。
そこでワーグナーが採用したのが
「全音階法」
だ、とよく説明されます。
もちろん最初の2回で解説した
「マイスタージンガーの動機」
「ダヴィデ王の動機」
を見ると、まさに、と思われるでしょう。
しかし「全音階法」とは
なかなか漠然とした言い方です。
全音階進行が多いのは確かですが
もっとテーマを細分化してみると
4度が多用されているのを
発見することができます。
前奏曲に出てくる主要テーマ、
これをワーグナーではライトモティーフ
(日本語で示導動機)と言います。
今日はこれを一覧にまとめてみました。

4度進行
4度の順次進行
4度のまとまり
になっているところに
カギのマークをつけてあります。
古代ギリシャの音楽理論を基にした
「テトラコルド」
を皆さんご存じですか?
『両端が完全4度で固定され
中間音が変化する
4つの音からなる音列』
と説明できます。
ん?
難しいですか?
要は
「ドレミファ」とか
「ソラシド」
「レドシラ」
のように4度の間に4つの音があるかたまり
のことです。
楽譜を見ると、この
「テトラコルド」の発想に
多くが基づいていることがわかるでしょう。
1.マイスタージンガーの動機
3.ダヴィデ王の動機
は説明したので繰り返しませんが、
1には多くのテトラコルドがあることに注目しておいてください。
2.求愛の動機
4度下降が連なり
1との関連性を感じられるでしょう。
2小節目の3拍目、F#からHに至る4度は
半音+半音+短3度
の構成になっており
古代ギリシャで「クローマティコン」と
呼ばれる並びになっています。
これは後に重要な要素になるのです。
4.芸術の動機
雄大なメロディーもさることながら
これに付けられた対旋律が素晴らしい!
こういうのを見事な対位法と言うのです。
まさに「芸術」的な動機!
テトラコルドの連鎖です。
1と似ていませんか?
前奏曲の後半、変ホ長調に転調して
諧謔的に1の動機が木管楽器で奏されますが、
これはいつのまにか4に変わるのです。
しかしテトラコルドの連鎖という共通項ゆえか
あまり認識されることがありません。
これワーグナーの天才的なところです!
5.愛の情熱の動機
シンコペーションとオーケストラに現れる旋回音型が印象的。
1幕1場の最後で恋人たちのしばしの別れの場面で
すぐに再現されます。
6.愛の動機
調性もホ長調になり全く新しい世界かと思いきや
最初の音の動きは2の動機の音程を少し広げたもの、
そして最初の下降5度は1の動機の転回音程、
ということですべて互いに関連があるのです。
7.愛の衝動の動機
最初の4度は完全4度ではなく
減4度と言います。完全音程より半音狭いのです。
テトラコルドの概念をワーグナー流に発展させたのです。
この動機は第2幕でザックスによって歌われる
「ニワトコのモノローグ」に出てくる
「春の促しの動機」に変容します。
8.哄笑の動機
諧謔的な4の動機の対旋律として登場、
先ほどは「芸術」的だった動機が扱われ方によって
この対旋律とともに滑稽な表現へと見事に変化しました。
最初の4音も順番が入れ替わっていますが
テトラコルドのまとまりと考えることができます。
さて、ここまでよく読んでくださった方、
本当にありがとうございました。 。
一度私の文章を忘れて
この前奏曲を聞いてみてください。
今までと違う感動が体の中に湧いてくるのを
感じられるはずです。
