シリーズ ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー㉒ 第1幕第3場 ~ その10 ~ ベックメッサーの酷評
ヴァルターの歌に対して
ベックメッサーは「間違い」を指摘し始めます。
いちいち挙げつらうのも愚かなこと、と言いつつ、
いろんな旋律名を挙げつらいます。。
本当はこうした間違いは歌い手本人だけに
知らせることになっていますが、
そんなの御構い無しにわめきちらします。
その「旋律名」がなかなか面白いので紹介しましょう。
「猪突猛進」(Abenteuer)
「酔いどれ騎士の拍車」(blau Ritterspornweis)
「ひょろ長樅の木」(hoch Tannen)
「生意気な若造」(stolz Jüngling)



2場でダフィトが
「マイスターの調子や旋律の
名前だけでも数えきれぬほど」
と歌っていましたが、
このような旋律名が山のようにあるんですね。
全部実在した旋律名だそうです!
ポーグナーから
「あなたは興奮しすぎですぞ!」
とたしなめられても
他のマイスターたちをけしかけるように
酷評を続けるベックメッサー。
その煽りに乗っかって
口々にマイスター達が文句を言う様は
まさに「烏合の衆」といった趣き。
その背景に流れているのが
前奏曲にも聞かれた
「衝動の動機」
これはヴァルターの歌の背景に流れていたものです。

国語辞典をひくと「衝動」とは
1 外から強い力や刺激を受けて心を動かすこと。
2 動作または行為を行おうとする抑えにくい内部的な欲求。
と書かれています。
ヴァルターが歌で表現したい「衝動」と
親方が口々に文句を言いたくなる「衝動」とを
同じ動機で処理しているわけです。
こういうちょっとした箇所にも
ワーグナーは天才だ!と
私は感じ入ってしまいます。

皆さんご存知の前奏曲の中間部。
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ところでベックメッサーに
このように酷評をさせる背景には
ワーグナー自身が受けてきた批判の経験が
あるのでは、と考えます。
「楽劇には旋律の片鱗さえない」
と自身の作品をけなされた彼は
「旋律とは、果てしなく続く一本の流れのように
作品の隅々まで浸透するよう無限旋律」
と反論しています。
「トリスタンとイゾルデ」
を見ればそれははっきりと具現化されています。
ワーグナーはイタリアオペラのことを
「コロラトゥーラのような
何の意味もない音型を歌わせる」
と批判したことがありますが、
そんなコロラトゥーラを揶揄の対象として
この作品に取り入れているのも面白い。
マイスタージンガー組合の伝統に挑み
激しい拒絶にあうヴァルターには、
当時の音楽界の常識に立ち向かった
ワーグナー自身の姿を見ることができます。
