シリーズ ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー㉚ 第2幕第3場 ~ その1 ~ ライトモティーフのお話
今回はライトモティーフの話。
2幕3場、およびその周辺にまつわる
ライトモティーフ(動機)を味わってみます。
「こんな仕掛けがあるのか〜〜!!」
とびっくりすること請け合い!
譜例を参照しながらお読みください。
3場に入る前の場面で
ヴァルターの落第を聞いて
不安になっているところに
レーネからザックスの名を聞いて
安心したエーファ。
この時に初めて現れる動機が「エーファの動機」

変形テトラコルド(減4度)の
上行順次進行の
3つめの音を抜いた形です。
ザックスに対する想いが
表現されたような音型です。
2幕4場、ザックスとの対話のシーンにも
登場します。
2幕3場はザックスの「ニワトコのモノローグ」が中心、
この曲中で何度も聞かれるのが
「春の促しの動機」です。
その開始部分の3音は、
エーファの動機の3音を
入れ替えた形になっていますね。
そしてこの動機は1幕前奏曲や
1幕3場でも登場した
「(愛の)衝動の動機」
がその元になっています。
(1幕3場「衝動の動機」過去記事)
(前奏曲の示導動機記事)
「春の促しの動機」
「エーファの動機」は
「衝動の動機」から派生しているので
互いに親戚のような関係です。
こうすることにより人物の連関を音楽的に示し
しかも作品に統一感が与えられる、
これがワーグナーの
「ライトモティーフ」技法の凄技です。
さて「衝動の動機」からの派生動機には
もう一つ重要なものが。
「懸念の動機」の開始3音は
「エーファの動機」と同じです。
この動機の初出は1幕3場のザックス
「お待ちください、皆さん、そう慌てずに」
の箇所ですので、
2幕での動機展開を見据えて
ワーグナーはこの音型を考えたのでしょう。
「エーファの動機」「懸念の動機」の近親性は
2幕4場後半のエーファとマッダレーネ対話シーン
3幕1場ザックスとダーフィトの対話シーン
で、優れた音楽的展開をみせることになります。
以下の譜例は2幕4場より。
エーファ「結構よ あの方なら別だけど、まだかしら。」
マッダレーネ「ダーフィトを見かけませんでした?」
エーファ「知るもんですか。」(あたりをうかがう)
マッダレーネ「きつく当たりすぎたわ。あの人、きっと怒っているのよ。」
上声部に「懸念の動機」低声部に「エーファの動機」 両者が似ていることによる動機の巧妙な処理が施されています。

以下の譜例は3幕1場ザックスとダーフィトの対話シーンです。
ザックス「ありがとよ、それは徒弟のお前がとっておけ。
今日は会場の原っぱまで供をしてもらわればならぬ。
その花とリボンで身を飾り立て
先触れの大役を立派に努めてもらいたい。」
ザックスの言葉を先導するのは「懸念の動機」ですが、
「エーファの動機」とも取れるのです。
具体的にエーファのことを考えている場面ではないですが、
昨夜のことに対する懸念もよぎりつつ、
弟子の持ってきた花やリボンに、一瞬華やいだ明るい気分になっている
「あいまいな」心理状態を
どちらとも取れる動機を使って表現しているのです。

後々のこのような展開まで念頭において、
台本と音楽的展開を考えているワーグナー、
もう凄すぎますよ!!!
