HSPが太りやすい本当の理由。106kgから77kgになった作業療法士が、「無」で食べていた時期を振り返って気づいたこと
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106kgだった頃の私は、食事を「味わって」食べていなかった。
美味しいとも、楽しいとも、満腹だとも感じなかった。ただ、時間が来たから食べる。お腹が空いたから食べる。それだけだった。
社会人1年目、毎晩23時まで罵倒され続けていた時期。私の食事の感覚は、一言で言えば「無」だった。
作業療法士として16年働いてきた。HSPとして自分自身の身体と心を観察し続けてきた。そして106kgから77kgへ、29kgの減量を経験した。その経験を全部つなげて見えてきたものがある。
HSPは、太りやすい。
でもそれは「意志が弱いから」じゃない。HSPの神経系・脳・睡眠・感情のすべてが、太る方向に引っ張られる構造になっている時期があるからだ。
今日はその話を、専門的な知識と自分自身の体験を重ねながら書いていきたい。
ストレスが「甘いもの」と「丼もの」を呼んだ理由
社会人1年目、私はとにかくよく食べた。
実家暮らしだったので、母が作り置きしてくれていた丼ものをかき込むことが多かった。甘いものは大好きで、毎日のように食べていた。とんかつのような脂っこいものも好きだった。野菜はほとんど食べていなかった。
ストレスで過食になる傾向が、明らかにあった。
これは意志の弱さではない。コルチゾールというストレスホルモンの仕業だ。
人間が慢性的なストレスにさらされると、副腎からコルチゾールが分泌され続ける。このホルモンには「即効性のあるエネルギーを補給しろ」という指令を出す働きがある。即効性のあるエネルギーとは、糖と脂質のことだ。
つまり毎晩23時まで罵倒され続けていた私の脳は、「とにかく今すぐ楽になりたい」と叫んでいた。その結果、甘いものと丼ものを欲した。これは生存本能の暴走であって、本人の意志ではどうにもできない領域の話だ。
しかも丼もの(炭水化物+タンパク質+脂質)は、血糖値を急激に上げて一時的に脳を麻痺させる。罵倒で疲弊した脳が、自分を守るために食でドーピングしていた、と言ってもいい。
ストレス過食は、性格の問題じゃない。生理学の問題だ。
HSPは「外」に敏感で、「内」に鈍い
ここからが、HSP特有の話になる。
当時の私は、完全に早食いだった。だから満腹感をほとんど感じなかった。食後すぐにまた食べたい、ということはなかったが、「もう一杯いける」状態がずっと続いていた。味わって食べることは、ほぼなかった。
HSPの感覚処理について、面白い研究がある。
HSPは「外受容感覚」つまり外からの刺激に対して非常に敏感だ。誰かの表情、声のトーン、場の空気、他人の不機嫌。これらを誰よりも深く受け取る。
ところが「内受容感覚」つまり自分の身体内部のサインに対しては、むしろ鈍くなりやすいという指摘がある。空腹感、満腹感、疲労感、痛み。こうした自分の内側の声を、後回しにしてしまう傾向がある。
これは矛盾ではない。
外に向けたアンテナが強すぎて、内側のセンサーまで手が回らない、という構造だ。職場で他人の機嫌ばかり気にしていた私は、自分が満腹かどうかには気づけなかった。それは当然のことだったのかもしれない。
満腹中枢は、食事開始から約20分かかって作動する。早食いはそれより前に食べ終わるので、生理学的に過食になりやすい。HSPの早食いは、内受容感覚の鈍さと相まって、二重に太りやすい構造を作る。
他人の小さな変化には気づけるのに、自分の身体の声は聞こえない。
これがHSPが太りやすい、最も大きな理由のひとつだ。
感情が麻痺すると、食は「無」になる
当時の私にとって、食事は何だったか。
ストレス発散でも、楽しみでもなかった。ただ「無」だった。お腹が空いたから食べる。時間が来たから食べる。それだけ。
精神医学にアレキシサイミアという概念がある。日本語で「失感情症」と訳される。慢性的なストレスやトラウマ的体験が続くと、感情を感じる回路が麻痺する状態だ。
これは異常ではない。心を守るための防衛反応だ。
毎晩罵倒され続けた脳は、感情を感じ続けることに耐えられなくなる。だから感じることをやめる。怒りも、悲しみも、楽しさも、美味しさも、全部フラットにする。それが当時の私の脳が選んだ生存戦略だった。
「無」で食べる、という感覚は、ここから来ている。
そして恐ろしいのは、味も楽しさも感じないから、満足感が来ないことだ。満足感がない食事は、量で補うしかない。だから自然と量が増える。
罵倒されすぎて感情が麻痺し、食でも快を感じられない。それでも空腹は来るから、機械的に食べる。満足できないから量が増える。
これが106kgへの道だった。
眠れない夜が、太りやすさを加速させた
社会人1年目の私の夜の過ごし方は、今思えば太る条件のフルコンボだった。
23時まで罵倒される。家に帰る。食べる。シャワーを浴びる。すぐ寝る。
食後1時間も経たないうちに横になっていた。夜中に目が覚めることもしばしばあった。それでもなんとか眠っていた。
この生活が身体に何をしていたか、専門的に解説する。
まず食後すぐに横になると、インスリンの働きが乱れて余剰糖が脂肪として蓄積されやすくなる。さらに寝る前3時間以内の食事は、深睡眠中の成長ホルモン分泌を阻害する。成長ホルモンは脂肪を分解する重要な役割を持っているので、これが阻害されると脂肪燃焼が止まる。
そしてもう一つ重要なのが、コルチゾールの日内変動だ。
通常、コルチゾールは朝に高く、夜にかけて下がっていく。これが正常なリズムだ。でもストレス過多な状態では、夜になってもコルチゾールが下がりきらない「夜間高コルチゾール血症」のような状態が続く。すると内臓脂肪が朝までずっと蓄積され続ける。
加えて睡眠不足は、満腹ホルモンであるレプチンを減らし、空腹ホルモンであるグレリンを増やす。眠れない人は、生理学的に太りやすい。
つまり当時の私の身体の中では、こんなことが起きていた。
昼は罵倒でコルチゾール上昇。夕方は過食でインスリン上昇。夜は食後すぐ就寝で消化負担、コルチゾール下がらず。深夜は中途覚醒で睡眠の質低下、レプチン減・グレリン増。翌朝は空腹と疲労で再び過食。
24時間、太り続けるサイクルができていた。
これは意志でどうにかできるレベルじゃない。HSPで罵倒され続けて眠れない人間が太るのは、生理学的に必然だった。
痩せられたきっかけは、運動じゃなかった
ここからが、この記事で一番伝えたい話だ。
私がジムに通い始めたのは、社会人5年目のことだ。罵倒されていた職場はとっくに辞めていた。大阪のリハビリ病院で4年働いた後、地元のデイケアに移った頃だった。
ジムに通い始めた直接のきっかけは、「彼女が欲しかった」というシンプルな動機だった。テニスの大会でスタミナ切れで負けたことも大きかった。
でも本当の転換点は、その少し前に**アドラーの『嫌われる勇気』**を読んだことだった。
「自分の人生は自分が決める」「変われない理由を過去に求めない」「目的論で考える」。アドラーが教えてくれたこの考え方が腹落ちしてから、私は初めて「自分を変える」という主体的な動機を持てるようになった。
つまり順番はこうだった。
アドラーで思考の枠組みが変わった。 ↓ 「自分の人生を生きていい」と腑に落ちた。 ↓ ジムに通い始めた。 ↓ 痩せた。
運動が先じゃない。思考が先だった。
これはHSPの減量について、ものすごく重要なポイントだと思っている。
HSPは外からの「痩せた方がいいよ」という言葉に従って動いても続かない。それは他者の課題を引き受けているだけだから。自分の中で「自分のために変わる」と決まった瞬間、初めて身体が動き出す。
「ジムに行けない日はそわそわした」と今思い出す。これは運動依存ではない。OTの視点で言えば、ジムが新しい「意味のある作業」になっていた証拠だ。
社会人1年目の頃、私にとっての作業は罵倒される苦痛の仕事だけだった。「意味のある作業」がゼロの状態で、食だけが「無」の作業として残っていた。
でもアドラーを読み、ジムに通い始めた頃の私は違った。仕事が安定し、自分で選んだ運動という新しい意味のある作業を持てた。HSPにとって、自分で選んだ作業が増えることが、回復そのものだ。
水中ウォークが、HSPの私に合っていた理由
私がジムで最初に始めたのは、ランニングではなかった。
水中ウォークだった。106kgの身体ではランニングは膝が痛くて5分も走れなかったから、というのが直接の理由だ。でも今振り返ると、水中ウォークはHSPの私にとって、これ以上ないくらい合っていた運動だった。
水中という環境で起きていることを、感覚処理の観点から整理する。
視覚刺激が少ない。プールの中は単調な景色だ。他人の動きも水を通して見えるので、刺激が和らぐ。
聴覚刺激が遮断される。水中は音が遠のく。職場の騒がしさとは真逆の世界だ。
触覚は水圧で均一化される。陸上では肌に当たる空気の流れや誰かの視線まで感じてしまうHSPの皮膚感覚が、水の中では均一な圧力に包まれる。
体重が軽くなる。浮力で身体への負担が減り、関節の痛みも消える。
つまり水の中は、HSPにとって五感の入力が最小化される空間だった。普段過剰に受け取り続けている外部刺激が、すべて穏やかになる。
そしてもう一つ。私は水中で頭の中で歌っていた。退屈が苦手だったから、無意識にそうしていた。
これも今思えばHSPの脳に対する最高の処方箋だった。
HSPは「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる脳の領域が活発と言われている。これは何もしていない時に勝手に動き出す脳のネットワークで、過去の嫌な記憶を繰り返し再生する反芻思考の温床になる。
普通の人は退屈するとぼんやりするだけだが、HSPは退屈すると過去の嫌な記憶が勝手に再生されてくる。だから退屈が苦手になる。
水中で頭の中で歌うことは、このデフォルトモードネットワークの暴走を意識的にブロックしていたことになる。歌という別のチャンネルを流すことで、反芻思考が入り込む隙間を埋めていた。
無自覚にやっていた、HSPの脳に対する最高の対処法だった。
刺激が遮断された水の中で、頭の中で好きな曲を流しながら、ただ歩く。今振り返れば、これがHSPで罵倒の記憶を持つ私の神経系を、ゆっくりと整えてくれていたのだと思う。
「味が戻った」のは、妻と出会ってからだった
77kgになった頃、私は確実に変わっていた。
同じ量を食べられなくなった。満腹まで食べると太るとわかるようになった。腹6分から7分でないとキープできないと、身体で理解した。揚げ物の量はかなり減った。
これは生理学的に説明がつく。
慢性的な過食状態では、レプチン抵抗性が起きている。満腹ホルモンが出ても脳が反応しなくなる状態だ。でも運動継続と減量によって、内臓脂肪が減りレプチン分泌が正常化し、視床下部の受容体感受性が回復する。少量の食事でも「もう満足」のシグナルが届くようになる。
満腹中枢が回復するには最低3ヶ月の運動継続が必要とされる。私が経験した停滞期2〜3ヶ月は、ちょうど身体のセンサーが校正されていた期間だったのだと、今ならわかる。
停滞期は、失敗じゃない。身体のセンサーが正常に戻っている期間だ。
ただ、ここで一番大事なことを言いたい。
「味が戻った」のは、痩せた直後だった。そしてそれは、妻と出会ってからだった。
妻と一緒にイタリアンに行った。フレンチに行った。色々な店に行った。それぞれの料理に、それぞれの美味しさがあることに、初めて気づいた。
「美味しい」という感覚が、私の中に戻ってきた瞬間だった。
これはダイエットの本には絶対書かれていないことだと思う。
「無」で食べていた私が、「美味しい」と感じられるようになったのは、痩せたからではない。アドラーの言う「共同体感覚」が、私の中に芽生えたからだ。
罵倒時代の私は、共同体から切り離されていた。職場では否定され続け、誰とも繋がっていなかった。だから感情が麻痺し、食も「無」になった。
ジム時代の私は、自己決定の感覚は取り戻していたが、まだ1人だった。水中で1人で歌っていた。
そして妻と出会い、共に食卓を囲むようになって、初めて私は誰かと「繋がっている」感覚を持った。
その共同体感覚が戻ってきた瞬間、食の味が戻ってきた。
順序が大事だ。
痩せたから味が戻ったんじゃない。所属する共同体ができたから、味が戻った。そして食を「楽しめる」ようになったから、過食しなくてよくなった。
今、家族との食卓だけが安心できる
正直に告白する。
38歳の今でも、私は他人との食事は苦手だ。職場の飲み会、大人数の食事会では、相変わらず神経が消耗する。他人の咀嚼音、雰囲気、視線。HSPの感覚は、全部受け取ってしまう。
でも家族との食事は違う。
何も気にせず食べられる。妻が作ってくれた食事を味わえる。娘との食卓は、最高の時間だ。食べるのが早いのは今も変わらないが、それでも「無」ではない。
これがHSPの食の本質だと思っている。
HSPが食を取り戻すには、安全な共同体が必要だ。
不特定多数との食事で消耗するのは、HSPの正常な反応だ。でも家族のような安全な共同体があれば、食は「楽しみ」に変わる。安全な場所で食べられるようになることが、HSPにとっての本当の食事の回復だ。
HSPで太っているあなたへ
最後に、いくつか伝えたいことがある。
まず食事量について。これは経験から言える。一度ハメを外すとすぐに増えてしまう。だから「ある程度一定」を保つ意識が大事だ。完璧な食事制限じゃなくていい。極端に増やさない、という意識だけで全然違う。
次に、運動について。HSPは大人数のレッスンより、刺激の少ない運動が向いている。私の場合は水中ウォークだった。1人カラオケで停滞期を乗り越えた時期もあった。あなたに合う「刺激の少ない運動」を見つけてほしい。
そして思考の枠組みについて。アドラーの『嫌われる勇気』を一度読んでみてほしい。「自分の人生を自分で決める」という感覚が腹落ちした時、初めて身体が動く。HSPが痩せるには、この順序がとても大事だ。
最後に。
もし今、あなたが「無」で食べているなら、それはあなたが弱いからじゃない。感情が麻痺するほど消耗してきた、その結果だ。
味が戻ってくるまでには時間がかかる。でも、安全な場所と安全な人間関係を見つけたとき、必ず戻ってくる。
私は38歳の今も80kgだ。少しリバウンドしたが、夜の散歩1時間とストレッチポールでのケアを続けている。健康には今も気を使っている。**ストレッチポール**は10年以上毎日使っている、自分にとって欠かせない道具だ。
完璧じゃなくていい。
「無」だった食卓に、いつか「美味しい」が戻ってくる日のために。今日できる小さなことを、続けてほしい。
作業療法士16年目|特養・ユニットケア勤務|元認知症ケア指導管理士|HSP・ISFJ
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