「マフラー健康法案」可決!
#なんのはなしですか
この記事は完全にフィクションです。
実在の人物・団体・書物とは何の関係もありません。
そして、以下の2つの記事の続編です。
未読の方は、ぜひこちらからお読みください。
マフラー健康法案、可決の日
国会議事堂前は、いつになくカラフルだった。
全国から集まった熱狂的「マフラー健康法」実践者たちが、
推し色(担当カラー)のマフラーを振っていたのである。
マフラーを手に持っているわけではない。
首に巻いたマフラーが長すぎて、指先にまで到達しているのだ。
彼らは口々に叫んでいた。
「健康は首からァァァ!」
「首の冷えは国家的損失!」
「巻け、巻くんだジョー!!」
遠目にも、
「巻き起こせ!巻き巻きムーブメント」
と書かれたのぼりが見える。
そして午後3時8分。
歴史に刻まれる文言が、国会議事堂内のモニターに光った。
マフラー健康法案 可決
賛成312票、反対3票。
マフラー健康党が政権与党となって2ヵ月。
反対派は、もはや風前の灯火となって、
首をすくめていた。
——その首に、マフラーは巻かれていない。
その夜。
ニュース番組は、どこもかしこも、
マフラー健康法案、通称「マフ健法」の話題で持ちきりだった。
マフラーを巻いたキャスターが強張った笑顔で原稿を読み上げる。
「新しく成立したマフラー健康法により、
すべての国民は、外出時はもちろん、
家の中でもマフラーを常時着用する義務が生じます。
さらに——」
ここでキャスターの声が震えた。
「——学校、職場などでの首元チェックが必須化されます」
彼女自身、叫びたいのを必死でこらえているようだった。
スタジオでも「首元検温官」が待機していたからである。
マフラー健康法案の内容
マフラー健康法
第1条(目的)
本法は、国民の首元を恒常的に温めることにより、
健康の維持増進、免疫力の確保、及び国民精神の安定向上を図ることを目的とする。
第2条(定義)
1.マフラーとは、首部を覆う帯状の布又はこれに準ずる物をいう。
2.「巻き心」とは、適切な巻き方を行おうとする
国民の意思および姿勢をいう。
3.「最低巻き数」とは、首部を保護するために必要とされる
巻き回数をいう。
第3条(基本義務)
国民は、常時マフラーを着用するよう努めなければならない。
第4条(巻き温度管理)
1.国または自治体は、「首元温度計測装置」を設置し、
適温を外れた者に対し指導を行うことができる。
2.過度の温めもまた健康損害の恐れがあるため、注意喚起の対象とする。
第5条(教育及び普及)
学校、企業、団体は、
正しいマフラー巻き方・手入れ方法・巻き心について、
必要な教育を実施しなければならない。
第6条(例外規定)
1.入浴時、医療処置等、首元を覆えない場合の非着用を認める。
2.ただし、「巻き心の維持」を損なわないよう努めるものとする。
第7条(罰則)
1.繰り返しの巻き忘れ・巻き不足が確認された者は、
「巻き直し講習」の受講を命じられる。
2.極端な巻き心欠如が認められた場合、
「3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」 を科す。
きのころ、われ関せず
マフラー健康法の提唱者であるきのころは、
こうした騒ぎに「われ関せず」の姿勢を貫き、
のんきにテレビを見ていた。
しかし、最近、テレビも様子がおかしいのである。
目に余る「マフラー」推し、「巻」推しが目立つ。
たとえば、新しく始まるアニメの番宣。

主人公の名前は……
巻野つくし!?
続けて流れたCMでは、定番のクリスマスソング。
あ、これは、昔見た「JR東海」のCMだ。
女優の名は……

巻瀬里穂!?
マフラー警察の誕生
法案可決からわずか1週間後。
各地の交番に、異様な制服を着た一団が現れた。
彼らの胸には、輝く文字。
MP
——Muffler Police(マフラー警察)
制服は濃紺。
襟元には極太ウールの「階級マフラー」が巻かれ、
階級が上がるほど巻きの回数が増して顔が見えない。
彼らの任務は以下の通り。
・マフラー非着用者を発見したら、
笛を吹いて「イエローカード」を出す
・巻き方が雑な者には「巻き直し指導」を行う
・悪質な場合は現行犯で逮捕する
ガサ入れ(家宅捜査)の実施
そしてついに——
マフラー警察によって全国初の「ガサ入れ」が行われた。
場所は東京都杉並区。
一戸建てが並ぶ静かな住宅街。
通報は近隣の住民からだった。
「向かいの家の奥さんが、
家でマフラーを巻いていないようなのですが……」
当然、許される行為ではない。
こうして向かいの家の奥さんは、家宅調査の対象になった。
ガサ入れ当日、午前9時。
「マフラー警察です!開けてください!」
奥さんは慌てて玄関に出た。
その首元は——
完全に無防備。
隊長は眉間に皺を寄せた。
「……これは、
巻き心の欠如の疑いがありますねェ」
奥さんは震えながら訴えた。
「違うんです!今日は洗濯中で…!」
「言い訳は署で聞く。
現場検証、はじめ!!」
隊員たちは室内に雪崩れ込み――
ベランダ、洗面所、洗濯機の中まで確認した。
洗濯中のマフラーがないのはもちろん、
予備のマフラーも見つからない。
隊長は冷たく言い放った。
「巻き心の欠如、確認!
身柄拘束!」
奥さんは泣き崩れた。
きのころ、巻き込まれる
そんな中、すべての元凶(?)である
きのころは、自宅でタロットカードをシャッフルしていた。
テレビでは、陽気な音楽に乗せた漫談が流れている。

♪ あーあ、やんなっちゃった
あーあ、おどろいた
テレビのテロップには、
巻伸二の巻クレレ漫談
の文字が踊る。
いや、「巻クレレ」って何?
ネックにマフラーを巻いたウクレレ?
あれでよく演奏できるもんだ。
そのとき、玄関の呼び鈴がなり、
宅配便が届けられた。
入っていたのは……
2体のアンティークドール。

巻き返しますか?
巻き戻しますか?
(オリジナル)
「まきますか まきませんか」
マンガ『ローゼンメイデン』(原作:PEACH-PIT)より。
主人公が受け取ったアンティークドールのネジを「まく」か「まかない」かの選択を迫るメールの文言に由来する。
つまり――
「巻き返し」を選んだら、反撃開始?
「巻き戻し」を選んだら、元に戻る?
「いや、今さらどうしろと?」
きのころは、諦めの心境でタロットカードを1枚引いた。
手にしたカードは――

「The Hanged Man」
――吊るされた男
いや、吊るされたきのこ か。
「どちらにしても、巻き添えは避けられない…」
きのころはため息をついた。
なんのはなしですか
今回は以上です。
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