相棒 劇場版「関係者以外立入禁止クライシス」【パロディ✕コメディ】
この小説はフィクションです。実在の人物・団体・社会問題とは何の関係もありません。
きのころには、長年の疑問があった。
「以」から始まる言葉の中で、
「以外」だけが例外っぽいことに。
「10以下の数」は、10を含む。
「10以上の数」は、10を含む。
「150円以内」は、150円を含む。
ならば、「関係者以外」は?
「以外」だけが、その前にあるものを「含まない」のだ。
「関係者以外立入禁止」と看板に書かれていた場合、
立入禁止の対象には、関係者は含まない。
もし、「以外」の解釈が変更になって、
他の「以」と同様、「関係者も含む」となったら——?
その妄想を形にしたのが、次の小説である。
この小説は反響を呼び、
発表するや否や、映画化が決定した。
いや、正確には、この小説のラストで、
すでに、映画化は決定していたのである。
初めて自作が映画化されることに浮かれたきのころが、
聞いたこともない映画制作会社に到着したのは、
ある冬の寒い日だった。
映画制作会社の企画担当者は「ヤバ杉」と名乗った。
お互いに挨拶を交わした後、
ヤバ杉がグッと身を乗り出す。
「きのころさん、この映画、大ヒット間違いないですよ!
これを見てください。」
ヤバ杉が差し出したのは——
『相棒 劇場版「関係者以外立入禁止クライシス」』
と表紙に大きく書かれた企画書であった。
きのころは、あやうくびっくりしそうになりながらも、
なんとか落ち着いた感じを装う。
「ああああ、あ、相棒ですか!?」
ヤバ杉は、手を軽くヒラヒラさせて、
「いえ、相棒ではありません。相棒です。」
と答えた。
「そそそそ、そ、相棒!?」
「え、きのころさん、まさか、ご存知ないんですか?」
「い、いえ、もちろん、知ってますよ。
主人公は、杉下右京さん、ですよね!?」
「はいぃ? 違いますよ!
杉上左京です。」
「すすすす、杉上左京!?」
思わぬ展開に、きのころがイスからずり落ちたとき、
ヤバ杉が企画書をめくり、1枚の写真を指し示した。

「杉上左京です」
きのころは、写真を確認して、イスに座り直した。
うーん。
間違いなく、よく知っている、あの人だ。
ということは、自分が勘違いしているだけで、
本当は、杉上左京という名前だっただろうか…?
自信がなくなってきたきのころに、ヤバ杉が言う。
「実は、左京の相棒役を、
きのころさんにお願いしようと思っているんです」
「え? 今、あいぼう役って言いました?」
「いえ、そうぼう役です」
――だから、そうぼう役って、何なんだ?
疑問はあるにせよ、小説の映画化だけでなく、
トントン拍子に映画にも出演できるとは、絶好の機会である。
「左京と共演するイメージイラスト、見ますか?」
「はい、お願いします!」

「いや、キーホルダーですよね!?」
「いけませんか?」
「これは、本当に共演といえるんでしょうか?」
そう言うと、ヤバ杉は、次のイラストを見せてきた。
「一応、別パターンも用意してますよ」

「ど根性ガエル!?」
「ど根性きのこです」
「いや、名前はどうでもいいんですよ!
もっと、あいぼ…相棒らしいのはないんですか?」
ヤバ杉は、仕方がない、とでも言うように大きなため息をつき、
次のイラストを見せてきた。

「まぁ、細かいところはこれから詰めるとして、
いったん、シナリオの方、見てもらっていいですか?」
「は、はぁ。わかりました」
『相棒 劇場版「関係者以外立入禁止クライシス」』
「関係者以外立入禁止」の看板の内側で他殺死体が発見された。
連絡を受けた特命係は、現場に急行する。
左京
「失礼」
きの山
「左京さん、これ…
普通の立ち入り禁止じゃなさそうですよ」
左京
「おや?」
左京は看板を見つめ、目を細める。
左京
「妙ですねぇ……。
“関係者以外”の文字が貼り直されていますねぇ」
きの山
「ただの看板の上書きですよね?
悪戯みたいなもんじゃ?」
左京
「どうやら、“以外”の解釈が、
意図的にすり替えられているようです」
きの山
「そんなことで人が殺されますかね?」
左京
「おやおや?」
きの山
「どうしました?」
左京は「関係者以外」の文字を指で軽くなぞる。
左京
「のりの量が場所によって違うんですよ。
これは“二度貼り直された跡”です」
きの山
「二度!?
じゃあ誰かが一度貼ったものを、
別の誰かが上書きしたってことですか?」
左京
「ええ。そのようですねぇ。
そしてその二人は…互いに違う目的を持っている」
きの山
「つまり…“以外”の利害関係にある人間同士が?」
左京
「それはこれから確かめますが……
どうもそう見えてきましたねぇ」
左京は看板に近づき、しゃがみ込み、斜めから見る。
左京
「おやおやおや?」
きの山
「今度は何に気づいたんです?」
左京
「気になりますねぇ……
この看板、わずか3度ほど南西に傾いています」
きの山
「3度!?
そんなの、普通の人は絶対気づきませんよ!」
左京
「細かいところが気になるのが僕の悪い癖」
(以上、アバンタイトル)
きのころは、ここまでのシナリオを読んで、
ヤバ杉にこう言った。
「何なんですか、これ?
なんか、人が死んでるんですけど」
「そりゃ、何人か被害者が出ないと盛り上がりませんよ」
きのころは、反論したい気持ちをぐっとこらえた。
原作と違ったっていいじゃないか。
映画化だもの。みつを
「それじゃ、次。
以学会で、謎の文書を発見するシーンを見てください」
「以学会」とは、
「以」の研究を専門とする学術団体である。
――謎の文書ってなんだ?
このシナリオより謎の文書が、地球上に存在するだろうか?
「以学会」地下資料庫
特命係は、「以学会」への潜入捜査を開始する。
しかし、地下資料庫には恐ろしい文書が眠っていた。
「“以”の定義変更による社会実験」
「言語による国民行動制御システム」
表紙に、物々しい文字が並ぶ。
銭形左京
「見てくれ!国家機密文書だー!
ルパンを追ってて、とんでもないものを見つけてしまった!
どうしよう?」

峰フチ子
「たいへんな発見です!」

きのころは、今度こそイスから転げ落ちた。
「これ、別の映画ですよね?
カリオストロ…」
ヤバ杉は、きのころの言葉をさえぎる。
「クライマックスのシーンをお見せします。
もう、全米が泣きわめくやつですよ!」
政府と「以学会」の合同記者会見
生中継で、全国民が見守る中、
「以外」に関する新ルールを宣言する。
「以後、“以外”の解釈については——」
その瞬間。
左京
「どうもありがとう」
「最後にひとつだけ、よろしいですか?」
会場が静まり返る。
「例えどんな理由があろうと……
言葉を利用して人々の自由を奪うことは許されません!」
左京
「あなた方は“以後も検討を続ける”とおっしゃった。
しかし、以後とはいつの後なんでしょう?
“以後”と“以降”の違いについては?
“前以て”はどうなります?」
司会者が左京を制止する。
「最後でもないし、ひとつでもない。
発言をつつしんでください!」
「はいぃ?」
そのとき、左京の表情が変わった。
「僕としたことが……うかつでした!」
左京の表情が引き締まる。
「これほど重大な見落としをしていたとは」
左京はまくし立てた。
「これで全てが繋がりました」
「いいかげんに、目を覚ましなさい!」
「まだ、わからないのですか!」
「決して許されることではありませんよ!」
「あなた、人間として恥を知りなさい!」
そして、プルプル肩を震わせながらこう言った。
「最後に、ひとつだけよろしいですか?」
「以外の解釈の変更など」
「以ての外ですよ!」
こうして、特命係の活躍により、「以学会」の暴走は止められた。
きのころは、力なく笑った。
「これ、以ての外って言いたいだけでしょう…。
最後、グダグダですよね?
ていうか、もう、私、出てない気がするんですが?」
「一応、ラストシーンも見ておきますか?」
銭形左京
「ヤツはとんでもないものを盗んでいきました。
きのころの出番です。」

いつの間にか、普通に、銭形のとっつぁんだ……
「ヤツ」って誰なんだ?
峰フチ子
「じゃあねえ」

本当の相棒は、フチ子さんだったか。
まぁ、これは仕方がない。
せめて、「原作:きのころ」だけでも残れば……
そこに、ヤバ杉のスマホが鳴る。
「え、あ、はい。あー。ええ。
わかりました」
ヤバ杉が、きのころの方に向き直る。
「すみません。映画の話、なくなっちゃいました」
「え、なんで?」
「原作が変更になったそうです」
新しい原作となる本には、
別のきのこが描かれていた。

なんのはなしですか
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