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青空を見上げるために、逃げた母と子 『青空と逃げる (単行本)』辻村 深月

『青空と逃げる (単行本)』辻村 深月

まとめ

『青空と逃げる (単行本)』辻村 深月
理不尽なスキャンダルで日常を奪われた母子の、日本各地を巡る苦しくも温かい再生の旅路を描いた物語です。ただ怯えて逃げ回るだけだった二人が、自らの意志で世界を信頼し、力強く一歩を踏み出すまでのたくましい成長に深く涙しました。

『青空と逃げる (単行本)』辻村 深月

①各地の美しい景色と人の優しさに触れて、固くこわばった母子の心がゆっくりと解きほぐされていくプロセス
②旅の終着点・仙台で、親子が自分の意志で「助けてほしい」と他者に手を伸ばす切実で勇敢なシーン
③あの名作『傲慢と善良』との胸が熱くなるリンク。親子の踏み出した先にある、温かい世界の広がりを示すサプライズ

「逃げること」は決して後ろ向きな諦めではなく、自分たちの「青空」を取り戻すための、静かで力強い闘いなのだと教えてくれる一冊です。読後に深く澄み渡る青空を見上げたときのような、圧倒的な清々しさと勇気をぜひ体験してください。皆さんは心細い時に救われた本はありますか?
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感想

『青空と逃げる (単行本)』辻村 深月
もし、ある日突然、理由もわからない悪意に晒され、愛する我が子との日常を奪われてしまったら――。本作は、身に覚えのないスキャンダルに巻き込まれ、平穏な生活から放り出された俳優の妻・早苗と、幼い息子の力(ちから)が、行くあてもなく日本各地を逃げ回ることを余儀なくされた、苦しくも温かい再生の旅路を描いた物語です。
息を潜めるように始まった二人の逃亡生活は、四万十、家島、別府、そして仙台へと移り変わっていきます。逃げる先々の美しい景色と、そこで出会う温かい人々の眼差しに触れるにつれて、こわばっていた母子の心がゆっくりと解きほぐされていく様子がとても愛おしく描かれています。ただ怯えて「逃げる」だけだった二人が、旅の軌跡とともに少しずつたくましく変貌を遂げていくプロセスの描写が、本当に見事です。
特に私の胸を熱くさせたのは、旅の終着点である仙台での、ある切実な瞬間でした。息子の力が見知らぬ大人に対して、自らの言葉で「助けてほしい」と勇気を振り絞って伝えた場面。そして、その小さな背中に背中を押されるようにして、母親の早苗が、これまでなら決してできなかった「自ら一歩を踏み出す選択」をする場面です。他人に頼ることを恐れ、世界から隠れるように生きてきた親子が、自分たちの意志で世界を信頼し、もう一度繋がろうとしたその瞬間に、涙があふれるほどの深い感動を覚えました。
そして、この「世界を信頼する」というテーマは、辻村深月ファンにとって最高の、そして最も意味のあるサプライズへと繋がっていきます。物語の終盤、あの『傲慢と善良』の登場人物が姿を現した瞬間、「ここで繋がるのか!」と思わずニヤッとしてしまう贅沢な高揚感を味わうと同時に、深く納得させられました。親子が一歩を踏み出した先には、私たちの生きるこの世界が確かに、そして温かく広がっている。それを象徴するような他作品とのリンクが、物語の過酷な現実をふっと希望で満たしてくれます。
逃げることは、決して後ろ向きな諦めではない。自分たちの「青空」を取り戻すための、静かで力強い闘いなのだと教えてくれる一冊です。読み終えたあと、深く澄み渡る青空を見上げたときのような清々しさと、明日を一歩踏み出すための確かな勇気が、胸いっぱいに広がる素晴らしい名作でした。
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