家族という劇場で、静かに演じ続ける優しさ 『家族シアター』辻村 深月
『家族シアター』辻村 深月
まとめ
『家族シアター』
身近だからこそ不器用になってしまう「家族」の関係を優しく、時に鋭く切り取った7つの物語からなる短編集です。綺麗事だけではない泥臭い感情の先にある温かさに触れたとき、じんわりと心が満たされました。

①苛立ちや嫌悪感までリアルですくい上げる、家族間の複雑な心の機微
②反発しつつも大切な人のために一歩を踏み出す、姉妹の不器用で真っ直ぐな優しさ
③日常の風景を極上のドラマへと昇華させ、痛みの先にある救いを丁寧に描く描写
特に収録作「1992年の秋空」の姉妹の健気さには格別の感動がありました。
読み終えたあと、少し照れくさくても「自分の家族の顔が見たいな、声をかけてみようかな」と思わされる、温かい余韻に満ちた名作です。家族との関係に戸惑いを感じたことのある方に、ぜひ手に取っていただきたいです。
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感想
『家族シアター』辻村 深月
一番身近だからこそ、時に最も不器用で、傷つけ合ってしまう。そんな「家族」という逃れられない関係に、戸惑いを覚えたことはないでしょうか。辻村深月さんの『家族シアター』は、そんな私たちの日常に寄り添い、時に優しく、時に鋭く「家族」の姿を切り取った7つの物語からなる短編集です。
本作の最大の魅力は、近くて避けられない関係だからこそ抱く、複雑な心の機微がリアルにすくい上げられている点にあります。そこには、ふとした苛立ちや甘え、あるいは自分の隠したい感情を他人に指摘されたときの嫌悪感など、誰もが一度は覚えたことのある泥臭い感情が並んでいます。しかし、そうした綺麗事だけではない痛みが克明に描かれているからこそ、すれ違いを乗り越えた先にある家族の温かさに触れたとき、私たちの心はより一層深く、じんわりと暖められるのです。
この魅力的な短編集の中で、本作が描き出す「愛おしい不器用さ」が最も色濃く詰まっているのが、宇宙飛行士になることを夢見る妹・うみかと、そんな妹のために言葉を綴る姉・はるかの関係を描いた「1992年の秋空」です。
反発し合いながらも、お互いを強く意識し、尊重し合おうとする二人の姿は、胸が痛くなるほど健気です。普段は素直に言葉を交わせなくても、大切な相手のために「自分にできることをやってみよう」と一歩を踏み出すその姿に、私はどうしようもないほどの愛おしさを覚えました。妹の壮大な夢を支えようとするお姉ちゃんの、口には出せないけれど「綴られた言葉」に託された真っ直ぐな優しさに触れた瞬間は、格別の感動がありました。
誰の日常にもある家族の風景を、極上のドラマへと昇華させてくれる名作です。読み終えたあと、少し照れくさくても「自分の家族の顔が見たいな、声をかけてみようかな」と思わされるような、優しく温かい余韻がいつまでも心に残り続ける素晴らしい作品でした。
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