【乳酸耐性を高める】 −コリ回路とナイアシンが導く疲労回復のメカニズム−
序章|乳酸を誤解していないか?
「乳酸が溜まると疲労する」
「乳酸が筋肉痛の原因だ」
スポーツ現場でいまだに語られるこの言説、じつは半分は誤解です。
乳酸(lactate)は、過剰な運動で酸素が不足したときに生成される代謝産物ですが、それは単なる“老廃物”ではありません。むしろ、糖代謝の副産物として生じたエネルギー源であり、肝臓へと送られて再び糖へと再生(糖新生)される重要なプロセス。それが「コリ回路(Cori cycle)」です。
この回路がうまく機能すれば、乳酸は無駄なくリサイクルされ、アシドーシス(酸性疲労)も起きにくくなります。逆に、コリ回路がうまく働かないと、乳酸が血中に滞留し、筋肉のpHが低下。疲労感やパフォーマンス低下、時に吐き気を引き起こす原因となるのです。
そしてこのコリ回路の働きに不可欠な栄養素が「ナイアシン(ビタミンB₃)」。つまり、ナイアシンが不足すると乳酸代謝が滞り、酸性疲労を引き起こしやすくなるのです。
第1章|乳酸=疲労物質という“誤解”
「乳酸が溜まると筋肉が疲労する」
「乳酸が原因で足が動かなくなる」
いまなおスポーツの現場では、こうした言葉が繰り返されています。
しかし実際には、この認識は半分以上が誤解です。むしろ乳酸は、體が自らを守るために生み出す“応急処置的エネルギー”でもあります。
■ 乳酸は“悪者”ではなく“代替エネルギー”
私たちの筋肉は、本来なら酸素を使ってグルコースを燃やし、効率的にエネルギー(ATP)を得ます。しかし、試合中のスプリントや激しい攻防の連続では、酸素が追いつかず“嫌気的代謝”が優先されます。
このときグルコースは解糖系で分解され、乳酸が生成されます。この乳酸は、エネルギー産生の副産物というより、「酸素が足りない状況下でATPを得るための救済措置」であり、いわば體の自己防衛反応なのです。
つまり乳酸は、パフォーマンスを維持するために身体が生み出した“仲間”であり、決して敵ではありません。
■ 「酸性疲労(アシドーシス)」の真犯人とは?
では、なぜ「乳酸=疲労物質」という誤解が生まれたのでしょうか?
それは、乳酸が生まれると同時に水素イオン(H⁺)も放出され、筋肉内が酸性に傾くためです。このpH低下が、筋収縮を阻害し、燃焼効率や神経伝達にも悪影響を及ぼすことがわかっています。
しかし、真に問題なのは「乳酸そのもの」ではなく、それがうまく処理できずに蓄積する状態=代謝不全なのです。
■ “乳酸の旅”──コリ回路というリサイクル経路
実は、筋肉で生じた乳酸の多くは血流に乗って肝臓へ運ばれ、再びグルコースへと再合成される(糖新生)という経路をたどっています。この仕組みを「コリ回路(Cori cycle)」と呼びます。
簡単に流れをまとめると:
筋肉でグルコース → ピルビン酸 → 乳酸
血流を介して乳酸が肝臓へ
肝臓で乳酸 → ピルビン酸 → グルコースへと再合成(糖新生)
グルコースが再び筋肉へ戻り、再利用される
この一連の流れがうまく回っていれば、乳酸は貴重な再エネルギー源として機能します。逆に、コリ回路が滞れば、乳酸は処理されずに蓄積し、筋疲労やアシドーシスを引き起こす要因となってしまうのです。
■ コリ回路を回すために必要な“燃料”とは?
このリサイクル回路を支えているのが、ナイアシン(ビタミンB₃)です。ナイアシンは、乳酸の代謝を司るNAD⁺(補酵素)の材料であり、糖新生が正常に行われるために不可欠な栄養素です。
第2章|ナイアシンが支える“疲労回復の配線”
乳酸を糖へと戻す。
それを可能にしているのが「コリ回路(Cori cycle)」であり、その裏で目立たぬ活躍をしているのが「ナイアシン(ビタミンB₃)」です。
■ ナイアシンとは何か?
ナイアシンは水溶性ビタミンB群の一つで、体内では主にNAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という形で機能します。このNAD⁺こそが、乳酸代謝やエネルギー生産の要となる電子の受け渡し役(補酵素)なのです。
具体的には:
ピルビン酸 → 乳酸 の変換では、NADHがNAD⁺に戻る
乳酸 → ピルビン酸 の逆変換では、NAD⁺が必要になる
つまり、ナイアシンが不足するとこの回路はどちらにも回らなくなるのです。
■ コリ回路を動かす“目に見えない歯車”
コリ回路は、筋肉で生まれた乳酸が血流によって肝臓に送られ、そこで糖新生を経て再びエネルギー源(グルコース)として筋肉へ戻る「リサイクル回路」です。
その各ステップではNAD⁺が不可欠となり、ナイアシンがその材料となっています。
反応乳酸 → ピルビン酸:NAD⁺
ピルビン酸 → グルコース(糖新生):NAD⁺
このNAD⁺が不足すると、乳酸がピルビン酸に戻せず、結果として乳酸性アシドーシスや疲労蓄積が進行してしまいます。
蓄積した乳酸はコリ回路を経て糖新生される💡
— 續池均(kintsuzuike)@MTR Method Lab®︎ (@kintsuzuike) November 7, 2021
激しい運動で乳酸が溜まりやすいアスリートはLDH(乳酸脱水素酵素)の低下を疑う。
真っ先に必要となる栄養は「ナイアシン」一択です😎🔥 https://t.co/hQbhVNdbuP pic.twitter.com/8B7fQsrlnm
■ ナイアシン不足が引き起こす“代謝ブレーキ”
ナイアシンが不足すると、コリ回路だけでなく以下の代謝系にも悪影響を与えます。
クエン酸回路(TCA回路)→ ATP産生の低下
β酸化(脂肪燃焼)→ NAD⁺が必要
DNA修復、抗酸化酵素の活性
とくに試合終盤やインターバルの多いトレーニング中には、乳酸処理とATP再合成のスピードが勝負を分けるため、ナイアシンは「目立たぬキープレイヤー」と言えるでしょう。
■ 運動選手にとっての“ナイアシン戦略”
1日推奨量(成人男性)は13〜15mg程度ですが、ハードトレーニングを行うアスリートでは需要が跳ね上がることが知られています。さらに、糖質中心の食生活、アルコール常飲、ストレス過多でも消費が増加します。
食品例(ナイアシンが豊富):
鰹・マグロ・レバー・鶏むね肉
ピーナッツ・アーモンド
干し椎茸・たけのこ など
また、トリプトファンからの変換でも一部補えるものの、ストレス下では優先的にセロトニンに使われるため、積極的な摂取が望まれます。
第3章|乳酸耐性を高めるトレーニング戦略
ナイアシンを含む栄養によって“乳酸処理能力”を支えることは非常に重要です。しかし、コリ回路を含めたエネルギー代謝システムそのものを強化するには、やはりトレーニングが不可欠です。
とくにサッカーのように高強度・断続的な運動を繰り返す競技では、「乳酸に耐える能力」=乳酸耐性が、後半のパフォーマンスを大きく左右します。
■ 乳酸耐性とは何か?
“乳酸耐性”とは、厳密には「乳酸の生成スピードに対する処理・クリア能力のバランス」を指します。
乳酸を多く生成しても滞りなく処理できる能力
乳酸の影響下でも神経伝達・筋出力を落とさない能力
この力を高めることが、いわゆる“疲労しにくい體”の土台になります。
■ トレーニングの基本原則:蓄積 → 耐性 → 回復
乳酸耐性を高めるには、単に長く走るだけでは不十分です。ポイントは「乳酸が溜まる強度ゾーンでどれだけ耐えられるか」という負荷設定と、その後のリカバリーとの組み合わせです。
<トレーニング例:中〜高強度インターバル>
形式:20秒全力+40秒ジョグ × 10セット
目的:血中乳酸濃度を意図的に高めつつ、循環と回復力を強化する
<トレーニング例:シャトルラン・坂道スプリント>
形式:30m往復ダッシュ×連続10本+回復ジョグ
目的:乳酸閾値を引き上げ、酸性下での出力維持を狙う
このようなトレーニングを、週に1〜2回取り入れることで、「乳酸に慣れる」體がつくられていきます。
■ “酸性環境下での神経系強化”が鍵
乳酸が蓄積した環境では、筋肉の出力だけでなく、脳と筋のあいだの神経伝達効率も低下します。つまり、後半のプレーが雑になったり、視野が狭くなったりする背景には、神経系が酸性環境で正しく機能できていないという問題があります。
この状態でも冷静な判断・プレーを維持する力は、トレーニングによって鍛えることが可能です。
▶ 例:
乳酸蓄積下での判断付きスプリントドリル(色や音への反応)
試合終盤を模した戦術的インテンシティトレーニング
■ 栄養戦略とのセットで「リカバリー力」まで強化
トレーニングで乳酸耐性を高めても、肝心の“処理ルート”が詰まっていては意味がない。だからこそ、ナイアシン・ビタミンB群・電解質(特にマグネシウム)といった栄養サポートが重要なのです。
さらに、トレーニング後のアクティブリカバリー(軽いジョグ・入浴・ミネラル補給)によって、乳酸の再利用(=糖新生)を促進し、次回のトレーニング効果を高める“回復力”まで育てていくことができます。
第4章|乳酸回路を支える栄養戦略
── ナイアシン・B群・クエン酸回路の連動
乳酸を「処理し、再利用する」體をつくるために、トレーニングと並行して不可欠なのが栄養戦略です。特に、前章で触れた「ナイアシン」は、乳酸を糖に戻すコリ回路の中枢的役割を果たしており、代謝における“裏エンジン”とも言える存在です。
■ ナイアシンだけでは完結しない“栄養の連携プレー”
実際には、コリ回路をスムーズに回すには、ナイアシン単体だけでなく、次のような栄養素との連携が求められます。
ビタミンB₁:糖質代謝(解糖系)の起点を担う
ビタミンB₂・B₆・B₁₂:NADHやFADH₂の代謝を支える
マグネシウム:ATP産生・酵素活性の補助
有機ゲルマニウム:ATP産生の促進と強化
クエン酸・アミノ酸:TCA回路の潤滑剤として機能
こうした“複数の歯車”が嚙み合うことで、乳酸の再利用はスムーズに進み、アシドーシスの抑制、ひいては後半の集中力維持にもつながります。
■ 「含有設計」に込めた私の意図
だから私は、プロテインを開発する際に、ナイアシンを多く含有させました。『Growithモリンガ配合たんぱく』15gあたりにナイアシンを32.7mgと高容量含有しています。
疲労回復や筋肉の再構築だけでなく、乳酸代謝や神経系の持続的活性を支えることこそが、次のプレーを決めると考えていたからです。単に“タンパク質が摂れる”プロテインではなく、エネルギー代謝まで視野に入れた設計思想。
それが私たちのプロダクトに込めた“機能性”の本質です。
とくに、乳酸が蓄積しやすい*インターバルスポーツ(サッカー・ラグビー・バスケットボールなど)においては、タンパク質×ナイアシン×マグネシウムの組み合わせが、プレー後半の運命を分けると言っても過言ではありません。
第5章|プロ選手の事例と
“乳酸は敵ではない”という視点の重要性
乳酸は敵ではない。
この一見逆説的な言葉を、実際に体感として理解している選手たちがいます。彼らは、乳酸を嫌うのではなく、“乳酸が出る領域でのプレー”を意図的に繰り返し、自らの限界値を高め続けてきたアスリートたちです。
■ あるJリーガーの言葉
「試合中、乳酸が一気にくる時間帯があるんですよ。でも、“これは来るべきものだ”ってわかってから、怖くなくなったんです」
― Jリーグ所属 MF(30代)
彼は、乳酸による疲労感を“異常”ではなく“想定内”のものと捉えたことで、焦りや判断ミスが激減したと言います。そして実際に、トレーニングと栄養管理の見直しによって後半のパフォーマンスは明確に改善しました。
■ 「乳酸を感じながら、研ぎ澄まされていく」世界
乳酸閾値を超えるような強度のトレーニングを積み重ねることで、乳酸に対する“神経系の耐性”が養われる。同時に、適切な栄養介入によってコリ回路が正常に機能すれば、乳酸はむしろ“もう一段階上へ引き上げてくれる”材料になる。
このように語るのは、当社がサポートするあるプロ選手です。その選手は、試合後半にかけて「研ぎ澄まされていく集中状態」に入ることが増えたと述べています。それは、乳酸が溜まり始めるゾーンでこそ、神経系と代謝が一体化するような、特殊な感覚だといいます。
■ “乳酸が出るからダメ”ではなく、“乳酸が出てからが勝負”
育成年代では、まだ「乳酸=悪者」として遠ざけられる風潮があります。
しかし、パフォーマンスのピークを後半に持ってくるには、乳酸が出る強度に“居られる身体とメンタル”を作っていくことが不可欠です。
そのためには:
トレーニングで意図的に“乳酸ゾーン”を経験させる
ナイアシンやマグネシウムなど代謝支援成分を補う
「乳酸は再利用される」という認知的フレームを育てる
こうした視点の転換によって、乳酸は「疲労物質」から「再生のサイン」へと姿を変えるのです。
■ 終わりに:乳酸を“活かす”時代へ
私たちは長年、“疲労を抑えること”ばかりに気を取られてきました。しかしこれからの時代は、“疲労の中で機能する體”こそが求められているのではないでしょうか。
乳酸を抑えるのではなく、受け入れて処理し、再利用していく。そのために必要なのは、トレーニングと栄養の設計思想のアップデートです。
そして、それを支えるのが「コリ回路」と「ナイアシン」。
この2つが回り始めたとき、乳酸は敵ではなく、あなたの體にとって最も信頼できる“味方”になります。
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