【創作小説×レシピ】バーチャル居酒屋『酒肴録』第6話: 肉味噌そうめんと芋焼酎
内容紹介
今日の一皿は、日本の夏の定番に中華を取り入れた「肉味噌そうめん」。
バーチャル居酒屋で繰り広げられる、芋焼酎と心ほぐれる物語、そしてレシピや材料紹介をお楽しみください。
本編
のれんをくぐると、ちいさなせかいにつつまれる。
ことばは酒にほどけ、肴にかたらう。
こんやは、なにが録されようか。
坂元奏は、蝉の合唱を聴きながら、何も書かれていない白いのれんの前に立っていた。虫の音をかき分けながら、もう一度耳を澄ました。けれども、中からは音が聞こえてこなかった。
奏は、石井葉月の元患者だった。プロの演奏家である彼女は、チェロの猛特訓の最中、倒れてしまった。ゴーシュのように、かっこうはやってこなかったが、葉月に助けられ、今はまだステージに立っている。
「いらっしゃいませ」
中に入ると、狭いカウンターの向こうに、紺の作務衣と白い前掛けをした真城一献が、耳の奥に響くような低い声で出迎えた。
「初めまして。葉月さんの紹介で─」
「それはそれは。─大きな楽器を背負われていますね」
「あ、はい。私、チェリストなんです」
「そうでしたか。では、お好きなお席にどうぞ。しばしお待ちください」
そう言うと、真城は水を張った大きな鍋を火にかけた。そしてぐらぐらと沸くと、白くて細い麺を投入した。
「そうめんですか?」
「暑くなってきましたからね」
そんな会話をしている間に、そうめんが茹で上がった。ざるにあげると、流水で洗い、氷水で冷やす。そして器に盛り付けた。
「肉味噌そうめんです」
カウンターには、そうめんとめんつゆの他に、赤褐色のひき肉と、たたききゅうりとツナが添えられていた。
「涼しげな見た目ですね。いただきます」
奏はまず、箸でそうめんを持ち上げ、めんつゆに潜らせ、音を立てて啜った。今年初のそうめんだ。爽やかなつゆの旨みが絡まった、安心の味だ。次に、めんつゆにそうめんを泳がせた上に、肉味噌を添えてみた。もう一度音を立てて啜る。今度は、和の伴奏に中華のメロディが乗っかってくる。肉味噌はピリッと辛く、ごま油が香ばしかった。
「おっしゃる通り、見た目もですが。あなたがそうめんで奏でるその音も、涼しげですよね」
「あ、本当だ。意外と、自分の出す音って、意識から外しがちですよね」
「ところで、こちらに合う一杯は、いかがですか?」
「ぜひお願いします!」
真城は厨房の奥から、一升瓶を取り出した。グラスに氷を張り、一升瓶を傾け、その上に水を注いだ。
「晴耕雨読の白麹です」
差し出されたグラスに鼻を近づけると、爽やかな芋の香りがほんのり漂ってくる。その時、グラスにぶつかった氷がカランと音を立てた。
口をつけると、さっぱりしたアルコールが、口腔を駆け抜け、喉へ落ちていった。肉味噌の油が流れ落ちていくと、もう一度それをが欲しくなった。再び麺をつゆに泳がせ、肉味噌を乗せる。今度はきゅうりとツナも乗せてみた。真っ白いそうめんが、同じ音を奏でながら、次々と表情を変えていった。
「葉月さん、いかがでしたか?」
真城はやさしく響く低い声で、尋ねた。
「おかげさまで、この前私のコンサートに来てくれたんです。その時、ここのお店のことを、明るいトーンで教えてくれて。少し、安心できました」
奏は満遍の笑みでそう答えると、またそうめんの演奏に戻っていった。
「酒肴録は、録音もできますか?」
奏は食べ終えると、茶目っ気混じりにそう聞いてみた。
「もちろんです。今日は、酒と肴に、奏さんの音が加わりました」
「そうこなくっちゃ。じゃ、また演奏しに来ないと、ですね」
奏は再びのれんをくぐった。二回目は、ごま油と涼しげな気分を纏わせて。
真城一献は、奏の背中を見送ると、再び厨房へ戻った。今夜もまた、ひとつの酒肴が録された。
おまけレシピ

豚ひき肉を150~200g、ごま油で表面にこんがりと焼き色がつくまで炒める。
すりおろしにんにく、生姜を加え火を通し、香りを出す。
味噌、醤油、酒、みりん、砂糖を大さじ1ずつ加えて煮詰める。
ぬか漬けきゅうり、または生のきゅうりをたたいて、ツナと和える。
そうめんを茹でる。
材料紹介
そうめん : 1,000円ポッキリ。夏の定番。
豚ひき肉 : あったら便利な冷凍ひき肉。しかも小分け。
ごま油 : ごま油は香りが勝負。
味噌 : 減塩で美味しい。保つからまとめ買いがお得。
ツナ缶 : 必須保存食。しかも嬉しいノンオイル。
めんつゆ : めんつゆはやっぱりこれかな。常温保存可能で買い溜めOK。
晴耕雨読白麹 : 香りも優しい、夏のさっぱりな一杯。そうめんのお供にも。
