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【創作小説×レシピ】バーチャル居酒屋『酒肴録』第9話: 白米と日本酒


内容紹介

今日の一皿は、日本人の心の故郷「白米」。
バーチャル居酒屋で繰り広げられる、日本酒と心ほぐれる物語、そしてレシピや材料紹介をお楽しみください。

本編

のれんをくぐると、ちいさなせかいにつつまれる。
ことばは酒にほどけ、肴にかたらう。
こんやは、なにが録されようか。

 和紙を陽光に透かしてみる。柔らかい光がランダムに通り抜けていく。上出来だ。新庄麗しんじょううららは心の中でそうつぶやくと、肩を撫で下ろした。
 和紙職人は現在、全国でも数百名しかいないというデータがある。麗はそんな伝統工芸の世界に飛び込んだ、期待の新人だった。新人といっても、すでに四十という数字が現実味を帯びてきた年齢だが、いまだに和紙の薄い一枚が、まるでそこだけが重力が高まっているかのように、麗に重圧と緊張を強いていた。

 普段は福井で活動しているが、今日は仕事で東京に来ていた。打ち合わせの際に、麗の和紙を使わせてほしいという画家が、東京に来たらぜひ寄ってほしいという店を紹介してくれた。

 その店は、路地を何度も曲がった先にあった。白い、文字の無いのれんに、淡い行燈の光が、暗闇の中でぽつんと浮かんでいた。麗はしばらくその行燈を眺めた後、のれんをくぐった。

 「いらっしゃいませ」

 店に入ってまず目に飛び込んできたのは、狭い壁に掛けられた一枚の絵だった。

 「あの。これって、もしかして─」
 「はい、神崎七海かんざきななみさんの作品です」
 「やっぱり。私、七海さんとお仕事しているんです。私の作った和紙を、作品に使いたいと言ってくれて。今日ちょうど、お打ち合わせしてきたんです」
 「そうでしたか。和紙職人さんなんですね」
 「はい。とは言ってもまだ、この世界では若手なんですが─」
 「では、少々お待ちください」

 そう言うと、真城一献ましろいっこんは土鍋を取り出し、火にかけた。中に何が入っているのかは、カウンターからは覗けなかった。この暑い日に鍋料理だろうかと、麗の背中を嫌な予感が流れた。
 真城はじっと鍋の中を見つめていた。そして何かを確認すると、蓋を閉めた。それからも相変わらず腕組みをして、鍋を睨みつけていた。さらにその状態で時間が過ぎていくと、鍋に開いた小さな穴から、弱々しい湯気が流れ出始めた。嗅いだことのある香りが、カウンターまで漂ってきた。

 「お米、ですか?」
 「はい。お時間いただいてすみません。もうしばらくお待ちください」

 そんな会話をしているうちに、穴から流れ出る湯気がみるみるうちに勢いを増していった。そして最後、蒸気機関車のように勢いよく吹き出した瞬間に、真城はその土鍋を火から下ろした。
 その後もさらに、それまでにかかったくらいの時間を、麗はただじっとして過ごした。お米にここまで時間をかけるのかと、正直ちょっと焦ったくなり始めた。

 ようやく、真城はもう一度動き出して、カウンターに置いた鍋敷に土鍋を乗せると、麗の目の前でその蓋を開けて見せた。

 「大変お待たせしました。白米です」

 おかずは何も無いのだろうか?麗は不安げな顔でしゃもじと茶碗を受け取ると、土鍋からごはんをよそった。よく見ると、一粒一粒が立っていて、表面に少し照りがある。立ち上る湯気からは、なぜか故郷を思い出すような匂いがした。

 「いただきます」

 麗は箸の先でごはんを少し持ち上げると、口の中に含んだ。噛み締めた瞬間、自然な甘みが口いっぱいに広がる。それだけではない。ちょっと香ばしさもある。今度は先ほどよりも多めに口に運ぶ。素直に、美味しい。一粒一粒が感じられて、それでいて柔らかい。

 「お酒はお飲みになりますか?」
 「ごはんと、ですか?」
 「お米にはやはり、お米が合います」

 そう言うと、真城は冷蔵庫から瓶を取り出して、少し高めの台座のついた透明なグラスに、透明な液体を注いだ。

 「風の森 ALPHA1という、少し珍しい名前の日本酒です」

 グラスを持ち上げると、すっと甘い風が吹いたような気がした。グラスに口をつけて、少しだけ傾けてみる。フルーツのような甘味とお米の旨みが口の中に広がる。しかし、喉に流し込むと、すっとそれが綺麗に消えていった。

 「飲みやすい」

 麗は小さくそうつぶやくと、もう一度日本酒を口に入れた。そして、再び箸を持ち上げ、ごはんを一口頬張る。

 「え、これって─」

 また、思わず声が出てしまった。そして麗は、気づいたら土鍋の底が見えるまで、何度も箸とグラスを持ち替えていた。

 「土鍋で炊いたごはんって、こんなに美味しいんですね。しかも、日本酒と合うなんて」
 「炊く前に、ほんの少しだけ塩と米油を入れています。そうすると、より臭みがなくなって、艶が出るんです。そしてやっぱり、お米からできた日本のお酒に、合うんですね」
 「お米ひとつで、すごいこだわりですね」
 「きっと、和紙もそうでしょう。ただの紙だと思っているうちは、七海さんも使わせて欲しいとは、言わないんじゃないでしょうか」
 「そうですよね。やっぱり、背負うべきものは背負わないと、次にはいけませんね」

 麗はのれんをくぐる前に、何かを思い出したようにもう一度振り返った。

 「今度、行燈の和紙を、私のものに張り替えに来ても良いですか?」
 「ありがとうございます。もう古いので、ぜひ、お願いします」
 「ではまた、録しに来ますね。『酒肴録』、ですもんね」

 麗は再びのれんをくぐった。二回目は、炊き立ての香りを纏わせて。

 真城一献は、麗の背中を見送ると、再び厨房へ戻った。今夜もまた、ひとつの酒肴が録された。

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第10話へ続く…

おまけレシピ

白米
  1. お米1号に対し200~210ccの水を入れ、ごく少量の塩と米油を入れる。

  2. 中火にかけ、表面がふつふつと沸いてきたら蓋を閉めて13分そのまま。

  3. 穴から勢いよく湯気ができたら、火から下ろして15~20分蒸らす。

材料紹介

  1. 炊飯土鍋 : せっかくだからお米を美味しく炊こう。

  2. 生活応援米 : 入荷したら買っておこう。

  3. 風の森 ALPHA1 : 白米とだっていけちゃいます。


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