【創作小説×レシピ】バーチャル居酒屋『酒肴録』第12話: 手羽先のチューリップ唐揚げとビール
内容紹介
今日の一皿は、いつもの手羽先にちょっと手間を加えた「手羽先のチューリップ唐揚げ」。
バーチャル居酒屋で繰り広げられる、ビールと心ほぐれる物語、そしてレシピや材料紹介をお楽しみください。
本編
のれんをくぐると、ちいさなせかいにつつまれる。
ことばは酒にほどけ、肴にかたらう。
こんやは、なにが録されようか。
暗く静かな通りを舞台に、淡い行燈がぼんやりと浮かび上がる。白いのれんがその光をやさしく拡散している。
篠原龍生は舞台照明デザイナーの仕事をしている。今日は、独立前に仕事をしたことのある、翻訳家の九重美夜子と、カフェでランチをしていた。
「龍生さんにぜひ、行って欲しい店があるのよ」
街灯の少ない暗い路地を抜けた先に、そのお店はあった。お店の名前も聞いていたが、のれんには何も書かれていない。龍生はしばらくの間、行燈の和紙から透けるやさしい明かりを見つめたあと、のれんをくぐった。
「いらっしゃいませ」
狭い店だった。カウンターの向こうには、紺の作務衣に白い前掛けを結んだ真城一献が立っていた。ただそれよりも、壁に掛けられている日本画の方が印象的で、こちらの方がスポットライトを浴びる主役なのではないかとさえ、思われた。
「翻訳家の美夜子さんに強くおすすめされて、来てみました」
龍生はカウンター席に腰を下ろしながら、静かにそう言った。
「美夜子さん、ありがたいですね」
それだけ言うと、真城は黙って作業を始めた。冷蔵庫から、鶏の手羽先を取り出す。キッチンバサミを右手に持ち、手羽中だけを切り離すと、二本の骨のつなぎ目を外し、まるでオペをするかのような手捌きで、骨を一本抜き出していった。
そして、一本になった骨の先の方に肉を押し込むと、塩胡椒と小麦粉をまぶし、次々と高温の油の中に入れていく。入れるたびに、じゅっと音が鳴る。骨付き肉たちが奏るぱちぱちという音が店の中に響いた。
「手羽先のチューリップ唐揚げです」
皿の上には、黄金色をしたチューリップが並んでいた。龍生は思わず箸も持たずに骨を指で掴むと、肉にかぶりついた。
パリッと表面を歯が貫く音を合図に、口の中に一気に肉汁が流れ込んだ。シンプルな塩胡椒の味付けが、鶏の脂を引き立てている。手羽先を食べる機会は多いが、この料理は肉を喰らっている獣の魂を呼び起こした。
龍生は止まらなくなり、二本目を掴んでまたかぶりついていると、カウンターによく冷えた薄張りのグラスと瓶ビールが置かれた。
「赤星です」
龍生は早速、右手にチューリップを持ったまま、汚れていない左手で瓶をつかむと、グラスに傾けた。黄金色をした液体が、グラスのすれすれまで満たしていく。瓶を置き、その左手で今度は冷たいグラスをそっと持ち上げると、黄金色を一気に喉の奥に流し込んだ。脳がキーンと痺れる。次は右手のチューリップを頬張る。なんて便利なんだ。両手が幸せで塞がってしまった。
「これはある意味、両手に花ですね。カウンターという舞台に花が咲き、スポットライトが当たりました」
龍生は真剣に、でもちょっと冗談めかして笑った。真城もそれを聞いて、微笑み返した。
「私は、舞台照明の仕事をしているんです。もちろん今日は、美夜子さんの紹介で来たんですけど。路地を抜けた先に、暗闇の中に浮かび上がるこのお店を見た時、妙な親近感を覚えました」
「なるほど、そういう見方もできるんですね。『酒肴録』に、録しておきます」
龍生は再びのれんをくぐった。二回目は、鶏と麦の香りを纏わせて。
真城一献は、龍生の背中を見送ると、再び厨房へ戻った。今夜もまた、ひとつの酒肴が録された。
おまけレシピ

手羽先から手羽元だけを切り離す。
手羽元の二本の骨の連結部分をハサミで断つ。
二本の骨のうち細い方を、捻りながら抜き取る。
肉を先の方へ寄せるように押し込む。
塩胡椒をし、薄力粉をまぶす。
160度に熱した油で3分揚げて、一度取り出して少し休める。
200度に熱した油に再度入れて、30秒ほどで取り出す。
材料紹介
サッポロラガービール赤星 : 家で開けたらそこはもう居酒屋。
