69.純正同胞会
画像はウィキペディアから転載。
『教書』
純正同胞会は、イスマーイール派の宗教的秘密結社です。
イフワーン・アッ=サファーの訳語で、「純潔兄弟団」とも訳されますが、ここはイスラム学の泰斗・井筒俊彦にならって「純正同胞会」とします。
訳が安定していないということで、やはりというべきか、純正同胞会も純潔兄弟団もイフワーン・アッ=サファーも日本語のウィキペディアにはページが存在しません。
純正同胞会は、十世紀、イラクのバスラで活動していました。

イフワーン・アッ=サファーは省略形で、正式名称はイフワーン・アッ=サファー・ワ・フッラーン・アル=ワファー・ワ・アフル・アル=ハムド・ワ・アブナー・アル=マジドです。「純潔の兄弟、忠実な友、称賛に値する人々、栄光の息子」という意味です。
この人たちは十世紀後半、五十二章からなる『ラサーイル・イフワーン・アッ=サファー』という百科事典的な教書を作成しました。

この『ラサーイル・イフワーン・アッ=サファー』も訳語がありませんので、やはり井筒俊彦にならって単に『教書』とします。
『教書』は四部門に分類され、全編で五十二部あります。
当時とは異なっているかもしれませんが、現在では最初の十四編は第一部、つまり入門編で、数学と論理学が記されています。
第二部は十七編で、自然科学と心理学、第三部は十編で形而上学を主題とし、最後の十一編では占星術、錬金術、魔法魔術などを取り扱っています。
このNoteを読みつづけてきた方ならピンとくると思われます。「いつものアレ」です。
純正同胞会に影響を与えたのは、サービア教徒です。
サービア教徒たちは、ヒプシスタリアンのようなユダヤ教グノーシス派の伝統を受け継ぎ、新プラトン主義とヘルメス主義の伝統をイスラム世界に伝えた人たちです。
そして『教書』は、スーフィーやユダヤ人カバラ学者のインスピレーションの源になりました。
スーフィー、スーフィズムについては、のちほどお伝えする予定です。
シーア派
『教書』は、シーア派の一派イスマーイール派の支持者たちによって書かれたと一般的に認められています。
ユダヤ百科事典によると、シーア派の一派は、アブダッラー・イブン・サバによって創設されました。
アブダッラー・イブン・サバは、イスラム教を受け入れたイエメンのユダヤ人です。
シーア派は、ムハンマドの娘婿で第四代正統カリフのアリー・イブン・アビー・ターリブ(六〇一年~)とその子孫のみが指導者(イマーム)としてイスラム共同体を率いることができる、という主張からはじまりました。

当然といえば当然の主張です。ですがやはり過激派といわれるだけあり、過激です。
伝承によると、アブダッラーはアリーがカリフになったあと、「汝は汝である!」と語りかけました。
つまり「おまえはアッラーだ」といったわけです。ヤバすぎる発言なので、アリーはアブダッラーをマダインに追放しました。
この「汝は汝である」は、インド哲学にも見られます。「梵我一如」、サンスクリットの「Tat tvam asi(汝は其(そ)れなり)」です。
梵はブラフマンで、我は個人のことです。「梵我一如」「汝はそれなり」は、これらが同一であることを知ることによって永遠の至福に到達しようとする思想です。
神との合一といえばグノーシスです。一神教的宗教では神は絶対ですので、「梵我一如」なる思想とは完璧に相容れません。
ですが神秘主義思想や神秘主義者はどこにでもいます。上記のようなサイトもあります。あるタイプの人たちにとっては魅力的なので、あるタイプの人たちは影響を受け、一派を形成し、世を乱すことになります。
アリーが暗殺されたあと、アブダッラーは教えを説きはじめます。アリーはじつは生きていて、アリーの体の中には神の一部が隠されていて、一定の時間が経てば正義で地上を満たすために戻ってくる、という教えです。
そしてアリーが戻ってくるまでは、アリーの神性は、一時的に代わりを務めるイマームたちの中に隠されています。
やはりどこかで聞いたような話です。より正確にいうと、どこかで聞いたような話の持っていき方です。
この思想全体が、預言者エリヤの伝説と結びついたメシアの思想に基づいていることは容易に理解できる。
コーランの中では、アッラーは「アル=アリー」(いと高き者)と呼ばれることもあります。
シーア派のあいだでは、イマームの地位は、アリーから第六代イマームのジャアファル・アッ=サーディク(七〇二年~)に直接受け継がれ、第十二代イマームまで継承された、と考えられていました。
そして八七三年、第十二代イマームは姿を消しました。これは文字どおりの意味ではなく、世界の内側または見えない次元に隠れたのです。
この「お隠れ」(ガイバ)の状態は現在もつづいていて、最終的には最後の審判の日に再臨します。
十二人のイマームに従うシーア派を、十二イマーム派といいます。英語ではトゥエルバーです。
中には第六代イマーム、ジャアファルの息子のイスマーイールに忠誠を誓う信者もいました。そちらはイスマーイール派、または七イマーム派(セブナー)として知られていました。
カバラへの影響
『教書』は複数の伝承を引用していますが、それらには共通の起源があるとされています。
そしてユダヤ教をギリシャ哲学で解釈するという点で、パネアスのアリストブロス(紀元前三世紀か二世紀)と呼応しています。この人は新ピュタゴラス学派の影響も受けていました。
『教書』によると、ピュタゴラスは 「ハッラーン出身の一神教徒」でした。
ピュタゴラスの考えでは、一は数そのものではなく、数の原理です。もちろん唯一神をあらわしています。
二は能動的知性、三は普遍的魂、四は自然にそれぞれ例えられます。
また、一は統一、二は対立、三は調和を象徴すると考えました。
これはのちのカバラにつながっていきます。この一二三はただの数遊びではなく、さらには実践的にも使えます。
「対立」は、統一(支配)における最も重要な手段です。敵の都市を落としたいのであれば、間者を送り込んで敵同士でいがみ合いをさせればいいのです。アメリカにおける民主党と共和党のようにです。
たびたびお伝えしてきたエロマンガ擁護も一例として挙げられます。
擁護派と否定派のくだらない対立の果てに、小児性愛者はエロマンガのおかげで実行に移さずに済んでいるのだ、という「調和(詭弁)」が生まれました。
そして「ダメなものはダメ」という昭和の教えが、いわゆる正統派の一神教徒の立場です。
本屋ではライトノベルが面陳されています。子供はもれなく性欲を煽る表紙を目にするのですが、これを否定すると「表現の自由」の否定になってしまいます。
これらは陰謀論でもなんでもなく、エロを広めたいオカルトの仕事です。エロマンガはさすがに面陳できないからです。
同胞会の教義
『教書』について学者たちは、ピュタゴラス、新プラトン主義、そしてマギの伝統の要素を反映しているとみなしています。
この百科事典に見られるテーマは、単一の主からの発露による創造という新プラトン主義的な理論と、すべての被造物は階層的なパターンに従って組織されている、という考え方です。
目的は、グノーシス主義の伝統にならって、入信者たちに肉体的、世俗的な執着を捨て、魂を浄化し、自分たちが生まれた神聖な源に帰る方法を教えることでした。
同じようなことを何度もお伝えしているのですが、カルト(会社、学校含む)はどれも同じです。イニシエーションでビビらせ、洗脳し、階級が上がると教団の真実が明かされます。
純正同胞会は、サービア教徒のように、預言者エノクをイドリスとして崇拝し、イドリスをヘルメスと同一視していました。

イドリスの知識は占星術が主要な部分を占め、天球と天使から受けた啓示に由来すると考えました。
純正同胞会によると、占星術を発見したのはヘルメスです。ヘルメス(イドリス)は土星に昇り、三十年間土星の回転に同調しました。
そして土星のあらゆる状態を目撃して学んだあと、ヘルメスは地上に戻って占星術の知識を分かち合いました。
同胞会の兄弟たちは、毎月三日の夕方に集会を開き、天文学や占星術に関するスピーチを行いました。
そして「プラトンの祈り」「イドリスの祈り」「アリストテレスの秘密の詩」などの賛歌が朗読されました。
この集会のあいだ、または太陽が牡羊座、蟹座、天秤座に入る日に祝われる祭りのあいだにも、サービア教徒を彷彿とさせる典礼が行われていました。
また『教書』は、お伝えしたとおり階層が主要なテーマで、兄弟たちは自分たちを年齢別に緩やかに四つの階級に分けました。
職人、政治指導者、王、哲学者(預言者)です。たとえば哲学者は五十歳以上でなければなりません。
そして自分たちは、教団が「哲学者、賢人、幾何学者、天文学者、博物学者、医者、占い師、予言者、呪文や魔法を唱える者、夢の解釈者、錬金術師、占星術師、その他言及しきれないほど多くの種類の者たち」から構成されていたことを誇ってもいました。
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