無計画家族が出会った謎のモチモチ絶品料理「斤餅」専門店『種福園』 【無計画親子の台北、行き当たりばったり旅行記】第5話
「せっかくの旅行だから、1番コスパが良くて美味しいものを!」と欲張るあまり、お店が決まらずに日が暮れる……。そんな“無計画旅あるある”の限界を迎えた家族を救ったのは、「斤餅」という謎の看板を掲げる老舗店でした。そのまま食べたら「……ん?」、しかし周りの真似をして「あること」をした瞬間、大化けする絶品料理。行き当たりばったり旅が生んだ、最高の美味体験レポートです。
第5話無計画家族が出会った謎のモチモチ絶品料理「斤餅」専門店『種福園』
【前回のあらすじ】
台湾の猛暑でエネルギーを使い果たした家族と一時別行動。初めての海外単独行動にドギマギしながらも、徒歩で台湾のエモい風景を眺めながら「國立中正紀念堂」を目指すことに。目の前に現れた壮大な建物に圧倒されつつ、運良く衛兵交代式も見られて大満足!道中、日本でもお馴染みのコメダ珈琲店を発見してホッコリしながら、おしゃれな街並みが広がる「華山1914文化創意產業園區」を堪能し、一度ホテルへ戻ることにしました。
ホテルでひとしきり休憩を挟み、気がつけばお腹もいい具合に減ってきました。さあ、お待ちかねの夕食へ出かける時間です。
一歩外へ出ると、たくさんのバイク便がせわしなく停車していたり、日本ではあまり見かけないデザインの消防車(?)に遭遇したりと、夕暮れの街歩きだけでも新鮮な発見があります。


しばらく歩いていると、いかにも高級そうな佇まいの焼肉店「武鶴肉舖」が目に飛び込んできました。


ガラス越しに見える美しいお肉に惹かれつつも、メニューの価格をチラ見して、
「う、ちょっと高そう(汗)。」
と一歩後退。
いやいや、せっかく台湾に来たのだから、もっとローカルでディープな料理を食べよう!と自分に言い聞かせ、再びお店を探すことにしました。
夕陽に映えるノスタルジックなビル群が実に綺麗で、歩いているだけで心がエモさで満たされていきます。


……が、綺麗だエモいだと言っていられるのも最初のうち。歩けども歩けども、なかなか「ここだ!」というお店が見つかりません。
実はこれ、我が家のいつものパターン(笑)。
常に無計画なため、その日の気分でお店を探すのですが、そのくせ
「せっかく食べるなら、今ある選択肢の中で1番良くて、しかもコスパが良いものを!」
とついつい欲張ってしまうタチなのです。
結果、あれこれ悩みすぎて泥沼にハマり、なかなかお店が決まりません。
そんなこんなで街をさまよっているうちに、だんだんと日も暮れ始めてしまいました。


「お腹が減った」
「お店が決まらない」
「でも妥協はしたくない」
の三重奏に歩き疲れた頃、目の前にオアシスのような公園を発見しました。

とっくにお店探しに飽き果てていた息子は、水を得た魚のように遊具へ突進!
私達夫婦も、ひとまず設置されている健康器具のようなベンチに腰掛け、一息つくことにしました。

休憩しながらふと前を向くと、そこになんだか不思議なお店が目につきました。

看板には「種福園」の文字。

日本の老舗蕎麦屋さんのように、通りに面したガラス張りのショーウィンドウがあり、中では白い帽子を被った職人のおじいちゃんが、真剣な眼差しでパン生地のようなものをこねています。

直感的に「あ、ここは絶対に美味しいお店だ」というレーダーが反応しました。
しかし、看板に書かれている主役らしき料理名は「斤餅」。
……きんもち?ひょうたん餅?謎の漢字に頭の上に疑問符が浮かびます。お餅の仲間でしょうか。
その下には「牛肉麺」とも書かれているので、麺類のお店なのかもしれません。
お店の前にある手書きのプラカードをスマホの翻訳アプリでかざしてみるものの、ローカルすぎる料理名ゆえか、うまいこと翻訳されず「なんの料理かはよくわからんなぁ」という状態に。


料理の正体は五里霧中ですが、職人さんの手元から漂う「間違いない感」を信じ、意を決して家族3人で突入することにしました!
席に着くと、注文よりも先に、小皿に載った「謎のタレがかかったネギ」が配られました。

「はて、この生ネギはなんだろう? 居酒屋で言うところの強制的なお通し的なやつか?」
そんな謎を抱えつつ、漢字だらけのメニュー表を開きます。

すると、食堂の主食欄の1番上にドーンと鎮座していたのが、例の「斤餅(35台湾ドル)」でした。当時のお金で日本円にして約100円。めちゃくちゃリーズナブルです。
とりあえずこれが何者かを知るために
「斤餅をひとつ」
と店員さんにお願いすると、店員さんが身振り手振りを交えて親切に話しかけてくれました。
「とりあえず、うちは人数分の3つ頼んでおいたら間違いないよ!」(意訳)
なるほど、それならと斤餅を3つ、そしてお肉が食べたかったので牛肉の炒め物(京醬肉絲)やチャーハンなどを一緒に注文しました。
しばらくして、まずやってきたのが例のやつ。そう、謎に包まれた「斤餅」です。

お皿に載ってきたそれは、日本のパンとは明らかに違い、どちらかといえばクレープやトルティーヤに近いビジュアル。しかし、それらよりも明らかにふっくらとしていて、見るからにモチモチしていそうです。
まずは素材の味を確かめるべく、そのまま何もつけずにガブリとかじってみました。
「ほう……!」
口に含むと、他の台湾の粉もの料理にはない、分厚くてしっかりとしたコシのあるモチモチ感が広がります。小麦の素朴な甘みがあって、これ単体でも確かに美味しい。
美味しい……のですが、何かこう、脳内のグルメセンサーが
「これは正解の食べ方ではないぞ?」
とアラートを出してきます。
「これはいったい、どうやって食べるのが正解なんだろうか……?」
店員さんは忙しそうに店内を駆け回っていますし、聞くに聞けません。そこで私たちは、周囲の地元のお客さんたちをじっくり観察する「サイレント偵察」を敢行することにしました。
すると、隣の席の常連らしき人が、斤餅を器用に広げ、そこへ別で頼んだ炒め物料理をドサッと乗せて、くるくると器用に巻いて食べているではありませんか!
「なるほど、そういうことか!」
霧が晴れた私たちは、さっそく同じように真似をして、斤餅におかずをたっぷりと包み、お口へ放り込みました。


するとどうでしょう……美味しいのなんの!
斤餅の心地よいモチモチとした弾力。その何層にも重なった小麦の層を歯が通り抜けると、驚くほど柔らかく味付けされた牛肉の食感が現れます。そして最後に、一緒に巻き込んだ野菜の「シャキシャキ」とした小気味よい歯ざわりが完璧なアクセントとして加わるのです。
噛めば噛むほど、旨味あふれる牛肉と、濃厚で香ばしい甘味噌(甜麺醤)の風味が斤餅の生地と一体になり、口の中が幸福感で満たされていきます。
そして何より……これがビールに猛烈に合う!!🍺
あまりの美味しさに箸が止まらなくなり、すぐさま追加で斤餅をオーダー。「巻いては食べ、巻いては食べ」の無限ループに突入し、大満足のディナーとなりました。


至福の料理を堪能し、お会計を済ませて帰り際。
先ほどお店に入るきっかけとなったショーウィンドウを改めて覗き込んでみました。


そこでは先ほどのおじいちゃん職人さんが、流れるような手足の動きで斤餅のネタをこね、伸ばし、真ん中の鉄板で丁寧に焼き上げていました。その熟練の背中に、思わず心の中で拍手を送りました。
後から調べて分かったことですが、この「斤餅」はもともと台湾発祥の料理ではなく、中国北部(山東省など)の伝統的な小麦粉料理(北方点心)なのだそうです。
そのため、台湾の一般的な朝食屋さんにある「蛋餅(ダンビン)」などとは違い、台北市内でもこうした本格的な「斤餅専門店」として看板を掲げているお店は非常に少なく、とても貴重な老舗に巡り合えたようです。
【次回予告】
満腹になった家族を待ち受ける、台湾の夜。
お休みの前の夜食を買いに街へ繰り出すものの、楽しみにしていたホテル近くのスタバがまさかの閉店!?
しかし、別の店舗でテンションが上がりすぎて、タンブラーを購入したら謎の傘(?)をプレゼントされる展開に。
さらに、陸地のど真ん中であるはずの場所に、夜闇に浮かぶ「謎の船のマスト」を発見して……?
次回もどうぞご期待ください!
「種福園(ヂョンフーユェン)」ってなんじゃ?
台北の「種福園(ヂョンフーユェン)」は、創業40年を超える伝統的な北方(中国の東北地方・旧満州など)の麺点料理を楽しめる超人気老舗店です。
台北市内に「松江店(松江南京駅近く)」と「懷寧本店(二二八和平公園近く)」の2店舗があり、お昼や夕食どきには地元のサラリーマンや家族連れで大混雑するほど愛されています。
ここで誰もが注文する看板メニューが、「斤餅(ジンビン)」です。
「斤餅(ジンビン)」とは?
斤餅は、小麦粉・水・油というシンプルな材料で作られた、中国北方伝統の薄焼きパン(クレープのようなもの)です。
名前の由来:昔、中国で1斤(約600g)、2斤と「斤(重量の単位)で量り売りされていたこと」からこの名がつきました。
特徴:北京ダックを包む「カオヤーピン」に少し似ていますが、斤餅はもっと厚みがあり、職人が生地を何度も折り畳み、叩き、伸ばして焼くため、何層にも重なったパイのような構造になっています。外はサクッと香ばしく、中はモチモチ(Q弾)としていて、噛むほどに小麦の優しい甘みと香りが広がります。
種福園での「斤餅」の楽しみ方
種福園では、入り口近くのガラス越しに、職人さんが手際よく生地を伸ばして鉄板で焼き上げる職人技を見ることができます。
お店では、この焼き立ての斤餅に「甜麺醤(甘辛い味噌だれ)」を塗り、付属の「生のネギ(葱段)」と、お好みで注文した熱々の炒め物をくるっと巻いて、手で掴んでガブリと食べるのが正統派スタイルです。
お店の人に頼めば、箸とスプーンを使って上品かつ綺麗に巻くテクニックを実演して教えてくれます。
斤餅に合わせるべき「王道メニュー」
斤餅自体は白ご飯のような「主食」なので、味のしっかりした炒め物を包むことで真価を発揮します。種福園に行ったら、絶対に斤餅と一緒に頼みたい2大名物がこちらです。
1. 京醬肉絲(ジンジャンロウスー)
細切りのお肉(豚または牛を選べます)を、濃厚で甘辛い醬(甜麺醤ベース)で炒めた料理。斤餅のベストパートナーで、これとネギを一緒に巻くと、まるで北京ダックを食べているかのような贅沢なコクが口いっぱいに広がります。
2. 合菜戴帽(ハーツァイダイマオ)
もやし、ニラ、木耳、春雨、豆腐干(干し豆腐の細切り)などの野菜炒めの上に、丸く焼いた「卵焼きの帽子(戴帽)」をすっぽり被せた、見た目も楽しい伝統料理です。シャキシャキした野菜の食感と優しい塩気が、モチモチの斤餅と相性抜群です。
プチ情報
炒め物は結構ボリュームがあり、調味もしっかりしているので、2〜3人で斤餅を数枚(1枚40元ほど)頼み、これらのおかずをシェアして包みながらワイワイ食べるのが一番楽しめます。スープが欲しい時は、お店自慢の「清燉牛肉湯(澄んだ牛肉スープ)」を合わせるのも定番です。
台北旅行で行かれる際は、ぜひ焼き立てをハフハフしながら味わってみてください!
おわりに
あのとき、高級焼肉店に日よって引き返し、夕暮れの公園で足を止めていなければ、この味に出会うことはありませんでした。
歩き疲れた果てに偶然見つけた小さなお店で、こんなにも面白くて美味しい体験ができる。これだから、行き当たりばったりの無計画旅はやめられません(笑)。
みなさんも台北を訪れた際は、ぜひ公園の緑を眺めながら、種福園のモチモチな斤餅をハフハフと味わってみてください!
