短編小説『サムシングブルー』

サムシングブルー
水色は、やり直すための色だ。
役所を出た帰り道、冬の風が冷たかった。
あっけないものだ。紙一枚で終わるなんて。
――離婚届、提出完了。
駅前のリサイクルショップにふらりと入ったのは、ただ寒さを避けたかっただけだ。
けれど、棚の奥に吊られていたそれを見た瞬間、足が止まった。
白いウェディングドレス。
胸元には、ほどけかけた水色のリボン。
あの日、鏡の前で震える手で縫いつけたものだ。
「幸せになりますように」
その願いを思い出して、苦笑した。
タグには「¥8,000」。
十年前、クリーニング代にもならない値段で手放したのに、
今見ると、少し可愛く見えた。
――“サムシングブルー”。
花嫁が身につける“何か青いもの”。
幸せのおまじない。
「また、着てやるか」
思わず口にした声に、自分でも笑ってしまう。
店員が顔を上げた。
「試着、されますか?」
女は軽くうなずいた。
カーテンの向こうでドレスに腕を通す。
鏡の中の自分は、昔より少し痩せて、
目の奥に、まだ少し疲れが残っていた。
でも――リボンだけが変わらず、優しい水色でそこにあった。
外に出ると、街は夕暮れの色に染まっていた。
ポケットの中の指輪をそっと握る。
もう、誰のものでもないけれど。
ふと、前を歩く女の子の風船が、指から離れた。
「――あっ」
小さな声とともに、風船はふわりと舞い上がる。
女は見上げた。
空の高みで、風船が小さく揺れながら、
ゆっくりと消えていく。
その青が、さっき見たリボンと同じ色に見えた。
ふと振り返った女の子と目が合う。
互いに少し笑って、それきり言葉もなく別の方向へ歩き出した。
それを目で追いながら、肩の力を抜いた。
――やり直すって、案外悪くない。
女はマフラーを巻き直し、もう一度歩き出した。
思い出の中のリボンが、心のどこかで小さく揺れた。
その色は、確かに“未来”の色をしていた。
あとがき
シロクマ文芸部のお題「水色は」に参加させていただきました。
最初は「竜の涙の色」とか「水天一碧」なんて、幻想的な方向で考えていたんです。
でも途中で「水色は、後悔の色だ」という出だしで、DVに悩む女性の話を書いたところ――
ろるさんに「重すぎる」と不評で、あえなくボツに(笑)。
そこから気持ちを切り替えて、
“サムシングブルー”をモチーフに「やり直しの色」として描き直したのが今回の短編です。
結果的に、希望の余韻が残る作品になってくれて、今ではこっちにして正解だったなと思っています。
書いていて気づいたのは、僕の作品に出てくる女性はみんな強いということ。
配達員ろること2号シリーズのろるこ、解体師ラビのさゆり、
そして他の短編に登場するヒロインたちも、自分の足で立っている。
多分、僕自身が“ヒモ体質”だから(笑)、
守られるよりも、自立して前を向く女性のほうが魅力的に映るんでしょうね。
それと、どうでもいい小ネタですが――
タイトルが全部カタカナなの、実はかなり珍しいです。
百本以上書いた中で、『サムシングブルー』のほかに
『ハイスクールハリケーンサバイブ』くらいしか思い浮かばなかった。
名詞だけのタイトルでいえば、『楽園』とか『由良鬼(ゆらおに)』くらいでしょうか。
『ノクターン』や『ピース』もありますが、サブタイトル付きなのでノーカウント。
こうして振り返ると、タイトルも内容も、
どこか“再出発”とか“前を向く強さ”みたいなテーマに惹かれてる気がします。
水色は、やり直すための色。
――そんな言葉を、自分の創作のどこかに、これからも灯していけたらと思います。
💍 サムシングブルーを見つけたあなたへ
もし少しでも「もう一度歩き出そう」と思えたら、
スキ・フォロー・コメントで、あなたの“水色”を残していってください。
この作品の舞台裏には、連載中の『配達員ろること2号』の世界も流れています。
ろるこも2号も、たぶん同じように――
失敗して、笑って、もう一度走り出してる。
Xでは、フードデリバリーの話や創作小説、AIイラストなど、
作品の裏側や制作過程を日々発信しています。
水色の風船のように、ふわっとあなたのタイムラインに届いたら嬉しいです。
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。
また、一部の描写は実在するXユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、
特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
いいなと思ったら応援しよう!
無理のない範囲で応援いただけたら嬉しいです。
チップはnote更新や資料費にあててます。
読んでもらえるだけでもありがたいっす。