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配達員ろること2号 第7話『ころるっくる、行方不明』

第7話『ころるっくる、行方不明』

ない……ないっ!

昼ピークが終わって、いつもの公園でひと息。
ベンチに腰を下ろして、無意識に配達バッグに目をやる。──そのとき、気づいた。

「……ないっ!」

見慣れたはずの黒いバッグ。
左上に、あるはずの──ころるっくるのキーホルダーが……ついていない。

一瞬、脳内が真っ白になる。
でもすぐに、記憶がフラッシュバックする。

昼ピークの終わり。
無謀な横断をした──三車線道路を、信号も横断歩道もない場所で、まっすぐ突っ切ろうとして。
車に轢かれそうになって、息を呑んだ瞬間──
自転車ごと、倒れていた。

──あの時、ころるっくるのキーホルダーが……
取れたのかもしれない。

すぐに2号さんが助けてくれたけど……

「たかが数百円のために命かけるとか、ホンマにアホやぞ」

──あの時、叱られたっけ。
誰かに本気で怒られたのなんて、いつぶりだろう……

ふと、公園の奥からバイクの音が聞こえた。
振り向くと、2号さんが歩いてくる。

「あ、2号さん……さっきはありがとうございます」

2号はふんっと鼻を鳴らすと、無言のままベンチに腰を下ろし、スマホを取り出した。
画面を見つめながら、指だけが静かに動いている。

やっぱり怒ってるのかな……あの時のこと……

「あ、あの……」

2号の横顔を見ていたら、つい言葉が出ていた。

2号がゆっくりと、ろるこの方を向く。

「あの……さっきは、本当にありがとうございました。
 ちゃんとお礼、言わなきゃって……」

「怪我がなくてよかったな」

それは、いつもの低い声。
でも、どこか柔らかかった。
ろるこには、ほんの少しだけ──笑っているようにも見えた。

ろるこは一瞬、返事を忘れそうになった。

「……あ、はい!」

2号は何も言わない。

「……あ、ころるっくるのキーホルダー……
 アニメのキャラなんですけど、バッグにつけてたの、分かります?」

ろるこは、視線を落とした。

「転んだ時になくなっちゃったんですけど……
 私の身代わりになってくれたのかな、なんて……」

ろるこは、2号の横顔をそっと見た。
けれど、2号は視線を動かさなかった。

そのまま、時間だけが静かに過ぎていく。

やがて、2号はゆっくりと立ち上がる。
何も言わず、ベンチを離れて、バイクにまたがった。

ろるこは、その背中を目で追っていた。


翌日。昼ピークの終わり。
ろるこは、またあの公園にいた。

昨日と同じベンチ。
バッグの左上には、まだ何もついていない。

遠くから、バイクの音が近づいてくる。
この音──間違いない、2号さんだ。

ろるこが顔を上げると、2号が無言で近づいてくる。

そのまま、ポケットから何かを取り出し、ろるこに差し出した。

ろるこは、戸惑いながらそれを受け取る。

手のひらに、小さな重みが乗る。

ころるっくるだった。
落ちたときについたのか、表面にはうっすらと汚れが残っている。

「……え、探してくれたんですか?」

思わず出た言葉に、2号は何も返さなかった。

ろるこは、キーホルダーを受け取り、そっと手のひらで包んだ。

もう一度、ころるっくるの顔を見つめる。
小さく、呟くように言った。

「……きっと、私のことを守ってくれたのかな……」

しばらく、黙っていた。
指先が、そっとキーホルダーをなぞる。
そして──小さく息をついて、2号のほうを向く。

ろるこは、ころるっくるを差し出した。

「あ……これ、2号さんにあげます。
ちょっと汚れちゃったけど……
今度は、2号さんのこと守ってくれるかも……しれないんで……」

2号は、黙ってそれを見つめていた。

ころるっくるが、小さく揺れる。

「あ、本当はにごーるのキーホルダーが欲しかったんですよね…でも売り切れちゃって」

2号は、キーホルダーを一度だけ手の中で転がすと──
そのままポケットにしまった。

「じゃあな」

短く、それだけ言って、バイクにまたがる。

ろるこは、その背中を見送った。

「……受け取ってくれるんだ」


あとがき

7話、いかがでしたでしょうか。

物語も折り返し地点に入り、「やっと物語が動き始めたな」という感覚が、制作陣としても正直嬉しい限りです。
──おっと、これはネタバレではありませんのでご安心を。

実は『ろること2号』は、もともと第一部・第二部という形で、大まかなテーマと構成を決めて進めている物語です。
第一部は全12話構成。その最終話までのプロットも、一応は出来上がっていました。

……が、物語というのは書き進めるうちに、どんどん変化していきます。
「あのエピソードも入れたいな」「この出来事を描かないと感情が繋がらないかも」──そうやって膨らんでいった結果、当初予定していた展開とは違う形になることもしばしばです。

たとえば前回の第6話も、本来は構想になかった話です。
読者の方からいただいたリクエストをきっかけに制作したのですが、完成してみると、ろること2号の関係性に小さな変化をもたらす、大切な回になりました。

第1話のあとがきでも書いたように、この物語には明確な“ゴールのイメージ”があります。
たとえば、こんなふうな──

でも、いざ物語を進めていっても、2人の関係にまったく変化が起きない……!
「これはもう、2号のほうから恋愛に発展する未来なんて見えないよな」
ろるさんとも、そんな話をよくしていました。

「ろるこが先に2号に恋して、ガンガンに攻めていかないと、2号がろるこを意識することなんて一生ないだろうね」と。

でもその“ろるこが恋に落ちるような出来事”すら起きない。
──これは、ひょっとして……?と、物語の進行に少し悩んでいた時期もありました。

そんな矢先、ろるこは2号に助けられ、キーホルダーをなくす。
それを聞いた2号が、何も言わずに探して戻ってくる──!

誰にでも作れるnote連載ではありますが、これが「キャラが動き出す」ってことか……と、初めて実感した瞬間でした。

実はこの第7話は、もともと2.5話『にごーるところるっくる』の続きとして考えていた話です。
ふたりの関係性を絵本のような柔らかいタッチで描く、“サブエピソード”のつもりでした。
関係が進んだときにだけ描かれる、いわば0.5話単位の物語。

本来、第6話のエピソードが存在しなければ、ろるこが2号に助けられることも、キーホルダーをなくすこともなかったはずでした。
なので、物語の始まりと結末は、最初に考えていたものとは違う形になりました。

でも、だからこそ出来上がったこの7話には、強い手応えがあります。
完成してみると、「あのとき迷いながらも作ってよかった」と心から思える、そんな回になりました。


※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。


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