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短編小説『ハイスクールハリケーンサバイブ』



ハイスクールハリケーンサバイブ

「燃やそう」
そう呟くと、クラス委員の芹沢が松木を包んだカーテンに火を放った。

ぱちぱちと音を立て、炎は青白く揺れる。
悲鳴も、咳き込みも、誰も止めようとはしなかった。

芹沢は、誰よりも冷静だった。
火をつける手に迷いはなく、目には何の揺らぎもない。
その視線を受けた者は、声を飲み込んだ。

――俺たちは狂っていた。
俺たち二年四組は、この日のことを一生忘れないだろう。
そう、俺たち全員が共犯者だった。

「ねえ、台風来るって、ヤバくない?」
ポケットラジオを片手に、アケミが教室へ駆け込んできた。

「マジ? 帰れねーじゃん」
「ていうか、台風きたら文化祭中止じゃない?」
「もう、帰ろーぜ!」

クラスの女子たちが一斉に騒ぎ出す。
机の上に広げた装飾の紙花も、貼りかけの模造紙もそのままに。

「ちょっと! 演劇どうすんのよ!」
「帰れなくなったらどうするの!?」
「窓ガラス割れたら死ぬって!」

声が重なり、教室は一気にざわついた。
その空気を切り裂くように、バン!と音が鳴る。

机を叩いたのは、クラス委員の芹沢だった。

「お前らいい加減にしろ! 口動かす前に手を動かせ!」

怒鳴り声が教室を突き刺し、全員が一瞬黙り込む。
こういう時、やっぱり頼りになるのが芹沢だ。
俺たちは顔を見合わせ、仕方なく作業に戻った。

外は暴風雨、廊下は冠水。教師たちは避難誘導で消え、残されたのは俺たち二年四組だけ。

「おい! 給食室にプリンが残ってたぞ!」
松木が抱えてきたトレイに、ぷるぷると震える金色のカップが並んでいた。

一瞬の沈黙。
そして、地獄の幕は上がった。

「それ私のだから!」
「ふざけんな! 力あるヤツが食うんだ!」
「やめろって、殴るな!」

机が倒れ、椅子が飛び、窓ガラスが割れる。
甘ったるい匂いが、鉄の味と混じり合っていく。

「クソッ、もっと派手にやってやる!」
松木がシャツを破り捨て、上半身裸になる。
プリンを手でぐちゃぐちゃに潰し、その泥を顔や胸に塗りたくる。

「これが俺の――死化粧だぁぁッ!」

「きもっ!」
「うわ、松木イカれてやがる!」

アケミは机の下で震え、サッカー部の川崎はプリンのカップを武器にぶん投げる。

「プリン弾だァァ!」
「ぎゃあっ、目に入った!」

カスタードが飛び散り、床は甘い海に沈んでいく。
誰もが笑い、叫び、殴り合い、奪い合う。

「俺の分はどこだァ!」
「プリンごときで死ねぇぇ!」

やがて松木は、カーテンに絡まったまま動かなくなっていた。
顔は蒼白で、胸は上下していない。
誰かが脈を取ったが、何も言わずに手を引っ込めた。

俺たちは、芹沢に任せた。
そうすれば、自分の手は汚れないと思ったから。
止められなかったんじゃない。安心したくて、任せたんだ。

「……燃やそう」
芹沢の低い声が、教室を貫いた。
火がカーテンへ、松木へと移る。

「――カットォォォ!」

突然、扉が開き、照明が点る。
映像研究部のカメラが下ろされ、担任が顔を引きつらせながら入ってきた。

「……最高だ。二年四組の文化祭映画『ハイスクールハリケーンサバイブ』、完成だ!」

松木はカーテンから這い出し、プリンまみれの体で親指を立てる。
「マジで死ぬかと思った……いや、死んだフリだけどな!」

笑い声が弾けた。だがその笑いはどこか硬かった。

……だが、俺は考えていた。

芹沢は、カメラの存在に一度も触れなかった。
その視線は、最後まで燃え跡に落ちていた。
“演技だよな?”と誰かが聞いた時も、芹沢は笑わなかった。

担任は笑っていた。だが、その目は松木の胸元に釘付けだった。
「よかった、生きてたな」と誰かが言った。担任は答えなかった。

松木は笑っていた。けれど、目だけは笑っていなかった。

俺たちは生き残った。

けど、俺たちは気づいていた。

あの時――ほんの一瞬でも。
本当に殺意があったことを。


あとがき

せりふ三題噺に参加させていただきました。
今回のお題はセリフ「燃やそう」、そして「教室」「台風」「プリン」。

……このラインナップを見て、僕の脳みそは即答しました。
「バトルロイヤルしかない」って。
台風で閉じ込められた教室、そこにプリンが出てきたら――もう血で血を洗う争奪戦しか浮かばないでしょ。
そして冒頭の「燃やそう」にドーンと繋がる。

最初は“撮影オチ”なんてなかったんです。
でも書いてみたら、ちょっと過激すぎて「これ公開したら僕が燃やされるかも」と思ったので、慌ててカメラを回しました。
結果オーライで、「演技? 本気?」みたいな不気味さも残せたのでよし。

あと時代設定はわざと少し昔にしています。
スマホじゃなくてポータブルラジオで台風を知る世界。
そしてそのラジオを持ってきたのは――アケミ。
そう、どこか昭和の香りがする名前です。令和生まれのアケミちゃん、ごめんなさい。悪気はないんだ。
物語を書くときは、実際にその時代の「名前ランキング」とかを見て、雰囲気を合わせたりしています。
なので今回は、平成初期くらいの高校を舞台にしました。

三題噺はお題を渡された時点で「いや無理やろ」と思うのに、気づいたら勝手に暴走して、こうして一本の話になっている。
……やっぱりこのカオス感がクセになりますね。


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プリンの取り合いより優先してほしいお願いがあります。
それは「スキ・フォロー・コメント」の3連コンボ!
この3つを決めてもらえると、僕の文化祭は大成功です。

連載中の『配達員ろること2号』もぜひどうぞ。台風の中でもプリンを届ける勢いで更新してます。

Xでは、フードデリバリーの話や小説の小ネタ、AIイラストも投稿中。
たまに「プリン弾」みたいなカオスな話も投下してます。
興味のある方はのぞいてみてください。


※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

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