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第9章|夕日―魅惑の赤、覚醒の赤―【#創作大賞2026 #ホラー小説部門 】応募作品。全13章・完。


【 創作大賞2026 】【 ホラー小説部門 】小説『夕日』第9章『真ん中の公衆電話』の章タイトル画像

鹿島の下見の翌日。
意外に早く、その日がきた。

「情報が来るのが遅くてね。
すまんが、今夜鹿島に行ってくれ。
鹿島神宮駅に公衆電話が3つある。」

「真ん中の公衆電話にバッグが置いてある。
23時ジャストだ。」

「右や左の公衆電話にも
バッグがある可能性があるが、
それはダミーだ。
無視して真ん中のだけ持って来い。」

「今回は、こっちでも手を打っておく。」

「どこに持っていくんだ?」

「バッグを取れたら連絡する。
それから、念のため茨城ナンバーに
変えておけ。」

押入れの中を探す。
あった。茨城ナンバーを取り出す。

23時まであと6時間。
時間は十分にある。

カローラワゴンを点検する。
ナンバーを変える。
ガソリンを満タンにする。

ガソリンを入れた帰りに小さな
ジュエリーショップを見つけた。

「じゃあ指輪。」

めぐみが言っていた。
こういう店に初めてきた。

指輪はどれも同じに見える。
何が違うのか分からない。

高ければ喜んでくれるのか。
入った店が悪かった。
一番高いもので35万円。

とりあえずそれにした。

22時。
鹿島神宮駅に着いた。
公衆電話まで、30秒の位置に
カローラワゴンを止める。

昨日めぐみと来たことが
遠い昔のようだ。

姿が見えないようにうずくまる。
火は目立つ。煙草は吸えない。

22時55分。
黒いセダンが
公衆電話に近づいたのを確認した。

まだだ。23時ジャストと
言われている。
その5分が長い。

22時59分。
カローラワゴンの
エンジンに火を入れた。

回転数が安定していない。
待ち切れないんだな。

ライトはまだだぜ。

あと30秒。
G-SHOCKの秒針を見つめる。

5、
4、
3、
2、
1、
急発進。
23時ジャストに
公衆電話の前で急停車。

ドアを開ける。飛び出す。

左右の公衆電話の上にバッグ。
ダミーだ。無視する。
真ん中。バッグ、足元だ。

掴む。
戻る。

ドアを閉めるより早く、
カローラワゴンを出した。

追ってきた。
パッシングを続けてくる。

思い出せ。信号の少ない道を。
下道。走る。
アクセルを踏み続ける。

狭い道。選んで走った。
引き離せない。
セルシオのようだ。

インターに乗るときが危ない。
料金所で一度は
減速しなければならない。

セルシオとの距離。
それだけを見る。

できるだけ引き離しておきたい。
前方の信号が黄色になった。

踏み込む。

セルシオは止まった。
往来する車に足止めされている。
クラクションを鳴らしている。

一気にインターを目指す。
どのレーンが速いか。
どこが空いているか。
一番空いているところを目指す。

高速、乗れた。

ハイビームがルームミラーを焼く。

眩しい。

昨日の夕日とは違う眩しさだ。
エンジン音が近づく。
ミラーの中のセルシオが大きくなる。

アクセルを踏んでも小さくならない。

セルシオとカローラワゴンでは、
車の性能が違いすぎる。

更に前方を2台の大型トラックが
塞いでいる。

これまでか。

そのとき、トラックが左右に割れた。
道ができた。

前に出る。
左右にはトラックの壁。

その間を、カローラワゴンが走る。

全長18メートルのトラックが
俺たちを挟んでいる。
ステアリングを間違うと終わる。
ブレーキを踏んでも終わる。

吉田ぁ!
競艇で、差すってこういうことかぁ!
頼むっ!
カローラワゴン!

ギアを下げて急加速。

アクセル全開。

アクセルペダルが、
すっと軽く沈んだ。

俺の考えの先を、
もっと先まで
知っているかのように、
アクセルペダルが反応してくれる。

カローラワゴンと意思を共有した。

全速でトラックの間を抜きにいく。

エンジンが唸る。
ステアリングの震えが全身を包む。
タイヤが軋む。
最後にカローラワゴンが吠える。

めぐみへの指輪の箱が揺れる。
絶対に落とさない。

抜けた。

セルシオはトラックに
足止めされて、ミラーから消えた。

携帯電話が震えた。

「おめでとう。第一関門突破だな。
五反田で降りろ。
つけられてないことを確認したら
また連絡する。」

どこから見てるのか
不思議なくらい正確だ。

五反田で降りる。
尾行を確認する。
住宅街を目指す。

一方通行を選ぶ。
ルームミラーに一瞬、
ライトを確認した。

気のせいか。

一般道に出る。
また一方通行に入る。
後ろを確認する。

ついてくる車はいない。

携帯電話が震える。

「おめでとう。成功だ。
戸越銀座の入口にファミレスがある。
そこの店員に、バッグを渡せ。」
「この時間には店員は一人しかいない。」

目つきが鋭く、
ファミレスの店員とは思えない男に
バッグを渡した。

無愛想にバッグを受け取ると
大事そうに抱え、店の奥に入って行った。

仕事は終わった。

アパートに帰るとドアポストに
100万円が入っていた。
多いのか少ないのか、
俺には分からない。

ただ、命懸けだった。

カローラワゴンと、やり切った。

部屋に入るといつも通り
携帯電話が鳴る。

「君ならやれると思っていたよ。」
「こちらで手配したトラックが役に立ってよかった。」

手配したトラック?
まぁいい。

俺はカローラワゴンと、
2人でうまくやれた。

手配など必要なかった。

100万円と指輪をテーブルに置く。
めぐみは喜んでくれるだろうか。
ネックレスも買えばよかった。

この稼ぎがあれば、
めぐみとやっていける。

めぐみがいれてくれた
コーヒーで目を覚まして、
朝食はたまごサンド。

ちゃんとした人間に
なれるかもしれない。

めぐみが怖がってる何かからも、
俺が守る。

俺もめぐみも、
リッチで働かなくてもいい。

新しい暮らしが
できるかもしれない。

セルシオ。

性能の差が歴然としたセルシオでさえ、
俺とカローラワゴンは負かした。


何者にも負ける気がしない。




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