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【読書】入門 シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才 その4

出版情報

  • タイトル:入門 シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才

  • 著者:中野 剛志

  • 出版社 ‏ : ‎ PHP研究所

  • 発売日 ‏ : ‎ 2024/11/19

  • 新書 ‏ : ‎ 336ページ

本記事は…

本記事は、本書 入門 シュンペーターを紹介する一連の記事のうちその4である。

百年前の偉人から学ぶ

 著者の中野剛志は現役の官僚であり評論家だ。いや思想家と言ってもいいのかもしれない。その中野は最近(2025.03)立て続けに2冊の本を上梓した。1冊目が本書 入門シュンペーターであり、もう1冊が政策の哲学だ。本書 入門シュンペーターイノベーションを中心とする経済対策に近しいものだとすると、政策の哲学は文字通り政策一般を立案する上での(とはいえやや経済政策よりではあるが)哲学であるといえよう。

 …というわけで、早速本書の内容に入っていこう。本書は、本当に読みやすく、わかりやすい。頭のいい人がまとめると、こうなるのか〜、という見本のような本。もちろん内容も潤沢だ。ご興味のある方はぜひ本書 入門シュンペーターに直接当たってください。
 ネタバレを好まない人は目次を貼るのでご希望の場所に飛んでください。よろしくお願いします。


 シュンペーターの予言に入っていく前に、中野はシュンペーター的国家を論じている。まず、それを見ていこう。

シュンペーター的国家

企業は「内部留保と再投資」と「終身雇用」から「削減と分配」へ

 前回はシュンペーターの後継者たち、ペンローズラゾニックの研究成果を概観した。イノベーションを起こす企業の組織論と、さらに80年代以降社会環境が「経営者社会主義」から「株主資本主義」に変化し、イノベーションが起こせなくなり、株主が企業から価値を収奪する仕組みへと変化してしまったことを見てきた。言い換えれば、「内部留保と再投資」と「終身雇用」から「削減と分配」へという変化である。

 60年代の米国企業は「内部留保と再投資」と「終身雇用」を守ってイノベーションを起こす資源としていたが、80年代以降はイノベーションを起こせない「削減と分配」の「株主資本主義」へと変貌してしまった。
 日本も遅れて米国と同様の規制緩和と構造改革によって株主のみに富が集まる株主資本主義の社会へと変わったのだが、「あれ?でも日本よりアメリカの方がイノベーション起きてるんじゃない?」というのが、素朴な疑問だp233。 
 その回答も、シュンペーターの後継者であるラゾニックはちゃんと用意している。イノベーションには企業だけではなく、社会条件や政府の政策も重要なのだ、とp233。もう1人のシュンペーターの後継者であるマリアナ・マッツカートは、さらに踏み込んで「国家は企業家とすら言えるのでは」という観点から『企業家としての国家』という著作を出版しているp236。

米政府が行ってきたインフラや知識への投資

 ラゾニックは、米政府は19世紀以降、イノベーションを促進するようなインフラや知識への投資を積極的に行ってきたと指摘しているp234。

  • 物的インフラ投資

    • 大陸横断鉄道建設への支援

    • AT&Tの独占的地位の容認

    • 国内航空路線ネットワークの構築

    • 州間高速道路システムの整備

    • インターネット

      • ←米政府が30年以上にわたって開発してきた国防省や全米科学財団のネットワークが前身

いわゆるGAFAMやインテル、シスコシステムなど巨万の富をもたらすインフラを提供したのは米政府なのだp235。

  • 知識への投資

    • 国立衛生研究所へ1938年〜2018年までに1兆ドル

    • 半導体集積回路

      • トランジスタの発明は第二次世界大戦中の軍事研究から

      • シリコンバレーの形成は1957年設立のフェアチャイルドセミコンダクターの周辺に新興半導体企業が多数設立されたから。製品は主に軍事用だった

      • 軍事需要によって1963年には約32ドルだったものが1968年には約2ドルに劇的に価格が下落。商用利用を可能にした。

日本の産業政策を潰し自国では産業政策を推進した米政府

 米国は、1980年代から1990年代にかけて、「通産省(現在の経産省)の産業政策が市場の競争を妨げるアンフェアなものであると日本を激しく批判し、産業政策をやめるよう外圧をかけた」p237。国内でも「産業政策はムダであるとか、市場競争を歪めるので有害であると考えられるように」なったp237。まんまと、新自由主義にハメられてるじゃん!!

その結果、通商産業省、そしてその後継組織である経済産業省は、産業政策をやめてしまい、新自由主義的な構造改革に邁進するようになりました。

入門シュンペーター p237

あ〜あ!日本破壊がここでも!!

 そしてフレッド・ブロックという学者によると、米国は日本よりもはるかに強力な産業政策をしていたというp238。

それは、政府が企業に基礎研究資金を助成するというレベルにとどまらず、政府職員が積極的に活動し、民間企業とネットワークを形成し、技術開発の方向性を指示していました。

入門シュンペーター p238

ぐぬぬ!
 ちなみにフレッド・ブロックは「イノベーションに関する最も重要な3人の思想家」のうちの1人だという。もう1人はマリアナ・マッツカート。

米政府の代表的な産業政策

 マリアナ・マッツカートは米政府のイノベーションに与えた積極的な活動の例として、以下の4つを挙げているp238。

  • DARPA

    • ソ連のスプートニクに衝撃を受けて1958年に立ち上げた組織。米国のコンピューター産業におけるイノベーションはDARPAなしには語れない。

  • SBIR(中小企業技術革新研究)プログラム

    • 1982年開始のハイテク中小企業助成プログラム。ハイテク・スタートアップへの資金供給源として、その重要性を増している。

  • オーファンドラッグ(希少疾病医薬品)法

    • 1983年に成立。薬剤に対する知的財産権と市場の保護の強化、税制上の優遇、臨床治験や研究開発に対する助成、優先審査と迅速承認などを定める。バイオ医薬品産業は大きく発展し、大手バイオ医薬品産業の成長をもたらす

  • 国家ナノテクノロジー・イニシアティブ

    • 1990年代米政府は次世代新技術の一つにナノテクノロジーに選定。年間18億ドルの支出を行う。目的を明確に設定し、民間企業ができない長期的な投資を行う(このころには民間企業は短期利益を志向していたので長期投資を期待できなくなっていた)。

 「政府には、明確な目的を持って、次世代の技術を特定して資源を重点的に配分することで、特定の産業を成長させる能力がある」とマッツカートは主張したp243。

 iPhoneは米政府の支援なしには生み出せなかったのは『企業家としての国家』にある通りである。

不確実性を低減する能力のある政府

 中野は下記のようにいう。

 シュンペーターの遺産を継ぐ経済学者たちは、現実のイノベーションは、確率で表すこともできない「不確実性」に直面する中で実現するものだと主張しました。

入門シュンペーター p245

確率で表すこともできない「不確実性」」がポイントだという。つまり何回繰り返せば、とかいくつのテーマを選択すれば、とかいくら費やせば、では予測はできないのだ。
 シュンペーター自身は、大規模組織が、競争制限を行うことで、不確実性を低め、巨額の投資を可能にしていると論じた。ラゾニックは、企業組織による「戦略的管理」が必要だと論じたp246。
 さらにシュンペーター派の経済学者たちは、イノベーションのための投資をやりやすくする上で、特に重要な役割を担っているのが国の制度や社会的条件であることを明らかにしているp246。そしてマッツカートは特に政府の政策が重要であると強調したp247。イノベーションに必要な将来の不確実性に立ち向かえるのは政府である、とp249。

破綻しない財政という確実性

 シュンペーターは貨幣循環論という銀行の信用創造による貨幣論を展開し、「銀行による信用創造こそがイノベーションに必要な資金源であり経済成長のカギだ」という論を展開している(本書 入門シュンペーター第二章)。本一連の記事では詳細は省いている。理由はMMT(現代貨幣理論)と酷似しているからだ(以前『MMT講義ノート』を読み記事を書いたことがある)。違いは中央銀行と一体化した中央政府の存在だp257。MMTの言う通り政府発行の国債が破綻することがないのであれば、政府主導のイノベーションへの各種投資の不確実性は大幅に削減される。もちろん無尽蔵に国債を発行し貨幣を供給すればいいというものではない。そこには自ずと過剰なインフレを起こさないなどの制約はあるp260。MMTの正しさについては日本経済が証明した、と言う話もある(赤字国債を発行し続けても破綻しなかった。実際の財務省HPにも「自国通貨建て国債はデフォルト(破綻)しない」と記載がある等)。

なぜ日本でイノベーションが起こらなくなったのか

  • 米国でイノベーションが起こる理由

    • 米政府が大規模な産業政策を積極的に行う

      • 長期的な投資を肩代わりする。これによりイノベーションを起こす

    • 米企業は「削減と分配」のコーポレート・ガバナンス改革により

      • 自らリスクを背負って長期的な投資を行わなくなる

      • 政府による技術開発投資の恩恵を多大に受けているのに、その利益を株主と経営者が独占労働者や国全体に還元していない

  • 日本でイノベーションが起こらない理由p265

    • 日本政府は「小さな政府」を目指す行政改革を行い産業政策をやめる

      • 緊縮財政を行いデフレを放置

    • 日本企業は「削減と分配」のコーポレート・ガバナンス改革により

      • 自らリスクを背負って長期的な投資を行わなくなる

これじゃ、日本でイノベーションは起きなくなるよ!

シュンペーターの予言

 1990年前後のソ連崩壊を目の当たりにした私たちにとっては、社会主義は停滞する社会でイノベーションなんて起きるわけない社会(軍事物資だけは別か)、資本主義はイノベーション起きまくりで豊かな社会という印象が残っている。だが、シュンペーターは、「資本主義は華々しい成功を収めた後、必然的に、そして徐々に社会主義に移行する」と予言しているのだ。えええ?シュンペーターほど頭のいい人がそんな予言を!?どういうことだろうか?
 著者 中野はシュンペーターの想定する社会主義は、民主主義と両立し、銀行による信用創造もなくならない。「シュンペーターの言う「社会主義」とは、公共セクターの役割が民間セクターよりも大きい経済システムのこと」と理解しておけばよいと言うp273。そしてその移行には100年でも足りないだろう、とp274。

 資本主義というシステムには、その表面上の現象とは別に、ゆっくりとした社会主義へと転換していく傾向が底流としてある

入門シュンペーター p274

 これがシュンペーターの分析なのだ、と。
 以降シュンペーターの議論を展開しつつ、数字を織り交ぜながら現状と照らし合わせている。私たちも見ていくことにしよう。

シュンペーターの論旨

 シュンペーターの論旨は、資本主義合理主義的個人主義の精神を生み出し、それが社会全般を支配するようになる。そして戦争は損得勘定からして割に合わないので、平和主義になり英雄というものも輩出されなくなる。ついにはイノベーションまで組織的になり合理化されて、精力的で天才的な個人ではなく、大企業組織の専門家たちによって、組織が自動機械のようにイノベーションを生み出すようになる。

 んん?まるでAIに負ぶさろうとしている現代社会のことを言っていないか??

 そして貴族階級没落により政治は劣化し、大企業による寡占化が進むと中小企業が衰退し、私有財産制度も形骸し、契約の自由も骨抜きになるだろう。また育児・子育ては割に合わないと判断され少子化が進むだろう。「こや孫の世代に財産や良いものを残そう」という動機は失われ、目先の利益を追うようになり長期的な視点が欠落し、長期投資が少なくなればイノベーションが起きずに資本主義は衰退する

 まさか少子化まで予言しているとは!そしてそれが長期的な視点の欠落をもたらすとは!!

 いよいよ、社会主義へと移行していくのだが、それは経済システムにおける公共セクターの役割が次第に大きくなることを意味している。資本主義の要件である私有財産制と契約の自由が形骸化すると、公共セクターが経済活動を行うようになることへの抵抗が減っていく。

 シュンペーターがこの説を著した晩年は、大恐慌(1929年ごろ)から10年〜20年経ち政府による各種経済対策、社会政策、例えば景気対策、富裕層への課税などによる所得格差の是正、物価統制、労働市場や金融市場に対する規制、公共的事業、社会保障政策などが当たり前のこととして受け入れられるようになっていた。20世紀初頭までの自由放任の社会主義はもはや受け入れられなくなっていた。つまり、経済システムでの公共セクターの役割が大きくなっていたのだ。それは世界恐慌と第二次世界大戦によって加速したとシュンペーターは述べているp294。

漸次社会化する資本主義

 この後、シュンペーターはインフレが社会主義へ歩を進めることになる、なぜなら賃上げにより労働者の力を強め資本家の力を弱めるからと論じ、さらに資本主義の枠内で漸次社会化が進むと述べた。

 ここで著者 中野はラゾニックによる資本主義の変遷を例にとって説明する。なんと社会化の例として日本の企業スタイルを挙げているのだ!

19世紀以降の資本主義の変遷
入門シュンペーター p299
オリジナルはラゾニックの著作より

 ピンボケで恐縮だが、少し上図を説明しよう。19世紀のイギリスでは所有者資本主義が始まった。つまり資本を出す人が経営も行ったのである。これは軽工業を中心とする第一次産業革命を支えた20世紀前半の米国では経営者資本主義が台頭した。経営者と所有者(株主)は分離し、経営者は企業経営の専門家として専門職スタッフを内部に抱えて企業を経営した。この方式によって鉄工業や重化学工業など、重工業企業を効率的に運営できるようになり、米国は第二次産業革命の勝者となった。20世紀後半の日本ではいわゆる日本的経営(ここれは集合資本主義と呼ぶ)によって、経営者が専門職スタッフのみならず、現場作業員ともコンセンサスを形成し、社員が全員参加で企業経営を行うというものだった。終身雇用によって技能労働者を組織内部で育成し、企業間の調整は企業グループ(系列)内で行った。
 中野は次のようにいう。

シュンペーターは、20世紀前半に、資本主義が「所有者資本主義」から「経営者資本主義」へと転換していくのを観察して、「社会化」が進んでいると考えました。…その後「経営者資本主義」が「集合資本主義」になると…現場作業員まで巻き込むようになります。「経営者資本主義」よりさらに「社会化」が進んだのが「集合資本主義」なのです。

入門シュンペーター p300

 私はこの日本的経営=「集合資本主義」は、「すべての人がイノベーションを起こすタネを持ち得る」という信頼感からきているように感じている。だからこれが「イノベーションがやがて自動化され、ついには起きなくなる」前兆のようには感じられないのだが…。どうだろう?

シュンペーターの予言の検証 その1:歴史的な流れ

 では、シュンペーターの予言は正しかったのだろうか?1970年代ごろまでは、と中野はいう。

 1950年代以降、先進資本主義諸国では、ケインズ主義的な経済政策が普通に行われるようになり、また福祉国家化も進みました。累進所得税が導入されて所得格差も縮小しました。また、インフレが常態化するようになっていました。
 こうして見ると、確かに1950年代から1970年代頃までは、シュンペーターが予測したとおり、資本主義諸国は社会主義に向かって前進していたのです。

入門シュンペーター p301

 しかし1980年代に新自由主義が台頭し、米英では政府の積極的な役割を否定し、公営企業の民営化、社会保障費の抑制、労働市場や金融市場の規制緩和などを次々と実施していった。さらに東西冷戦が終結して社会主義陣営の敗北が確定した1990年代以降日本や各国に広がっていった

 新自由主義は「社会主義への前進」を阻止し、資本主義を守ろうとする試みであるとも言えるp306。

 では日本社会にはどういう影響があったのか?

 特に、日本は、ラゾニックがシュンペーターの予測した「社会化」の進んだ形態である「集合資本主義」=日本的経営を、自ら破壊していきました

入門シュンペーター p302

 グローバリゼーションが進んだことによって、政府が資本主義を管理するのは、もはや不可能であると信じられるようになった、と。

シュンペーターの予言の検証 その2:データでの検証

 では、データでさらに詳細に見ていこう。中野は下図を掲載し、1980年代以降の新自由主義の台頭や、1990年代のグローバリゼーションの進展にも関わらず政府がそれほど小さくなっていないことを説明する。下図は200年超という超長期の各国の政府支出の対GDP比を示したものである。これがいわゆる政府の大きさとなる。1900年から1950年にかけての鋭いピークはそれぞれ第一次・第二次世界大戦を表している。2020年ごろのピークは言わずと知れたコロナパンデミックだ。

政府支出の対GDP比(1800-2023)
(利子を含んだ総政府支出)
https://ourworldindata.org/government-spending
入門シュンペーター p303 に同様のグラフを掲載されている

 どの国も1950年と2019年を比べると1.5倍から3倍ほど増えている(英は例外で増えてはいるがほぼ変わらない)。新自由主義が席巻した1990年代以降も先進諸国は政府支出を伸ばしている。日本は緊縮財政を続けていたが、同時にGDPも成長しなくなったため、2019年代の対GDP比政府支出は新自由主義改革を始めた1990年代以前よりも、むしろ大きくなっている
 シュンペーターは「社会主義への前進」の証拠の一つに社会保障政策を挙げている。1980年代以降も先進諸国の社会保障費は上昇を続けているp304-p305。

社会保障支出の対GDP比(1800-2022)
(社会保障支出には、健康、高齢者対策、障害関連給付、家族、積極的労働市場プログラム、失業、住宅などの分野が含まれる)
https://ourworldindata.org/government-spending
入門シュンペーター p305 に同様のグラフを掲載されている

「社会主義への前進」は続いている

 上の2つのグラフからわかるのは、先進国政府は大きくなり、社会保障政策は手厚くなり、「社会主義への前進」は明らかに続いている
 新自由主義とグローバリズムの台頭により「今だけ金だけ自分だけ」の合理主義蔓延はびこり、確かに損得を考えて英雄的な行動は減ってきているのかもしれない。
 「組織が自動機械のようにイノベーションを生み出す」に関しては、「株主資本主義」が席巻し、企業の利益は簒奪され、企業には長期的な視点を持つ余裕も資金もない。今となっては米国では米政府がイノベーションの担い手となり、日本については誠に心許ない状況だ。
 確かに政治は劣化し、米国ではバイデンジャンプ、日本では増税メガネやおにぎりの食べ方すら汚いと揶揄されるような首相が続いている。
 大企業が寡占化し、日本でもインボイス制度やコロナ禍で休業しても補償をしないなど、中小企業いじめが続いている。日本の少子化は目も当てられないし、派遣労働は顔の見えない契約の連続そのものではないのか?

 中野は、2008年のリーマンショック時の各国政府の経済対策や、2020年のコロナ禍での経済安全保障対策などを例に挙げ、「経済介入なしには資本主義は維持できないことが明らかになった」と結論づけているp313。そしてシュンペーターはそのような状態に陥った資本主義のことを社会主義への過渡的な形態とみなし、「酸素吸入器付きの資本主義」と呼んだp314。
 さらに中野は日本経済を振り返り、

…日本は、1990年代以降、30年にわたって、規制緩和、自由化、民営化、産業政策の放棄、緊縮財政など、政府の積極的な介入という「酸素吸入器」を外してきました。
 その結果、日本は、デフレに陥って資本主義の機能が停止し、イノベーションが起きなくなり、経済成長もしなくなりました
 これは「酸素吸入器」を外したから、資本主義が生きていけなくなったということではないでしょうか。…
 日本は、はからずも、「資本主義は生き残ることができない」というシュンペーターの予測の正しさを立証してしまった
 どうやらそのようです。

入門シュンペーター p314-p315

と、述べている。

終わりに

 シュンペーターは、自身の「資本主義は華々しい成功を収めた後、必然的に、そして徐々に社会主義に移行する」という予言に対して、敗北主義だと批判する人々がいることを知り、以下のような言葉を残している。

ある船が沈みつつあるという報告は、けっして敗北主義的ではない。…その報告がたんねんに実証されているにも関わらず、ただ単にそれを否定するような人があれば、その人は逃避主義者である。

入門シュンペーター p321

 そう、私たちはどうやら資本主義が沈没しつつある船だと、認める必要がありそうだ。では、その処方箋は?

 著者 中野は本書を読めば自ずとその答えはわかるだろう、というp320。ヒントは循環貨幣論(銀行による信用創造)、イノベーションを起こす企業組織論、として、「企業家としての国家」論にありそうだ。
 日本人はもう一度しっかりシュンペーターを学び直すことが必要である、と。

 それに加えて…私自身は…複雑系としての人間、みなの幸せを願い役に立ちたいと願う人々、人間の創造性は無限だと信じることが必要なのではないだろうか、と思うのだ。

 というのもシュンペーターがいかにイノベーションについての専門家といえども、彼の議論にはこうした要素が欠けているように見えてしまう。
 世紀の偉人の著作をこれだけわかりやすく噛み砕いた本を読んで…日本人なら当たり前に持っている感覚を…欠いているようにみえてしまう。

 シュンペーターの知見と日本人の常識。
 最強のタッグだと思うのだが…。

 みなさんはどう思うだろう?


 


引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
また、文言の間違い、表現のわかりやすさなど、随時訂正しています。ご了承ください

おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために

ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。

中野剛志の著作

MMT関係

その他:中野剛志の著作

 著述家として、そして現役官僚として「よくこれだけ書く暇があるな」と思わせるほど、中野剛志は多産だ。その中で、心に引っかかったものをピックアップ。

買ったけど読めていない。分厚さに躊躇している。

これは読んでみたい。

現役官僚が自国政府の政策を堂々と批判できる。そういう言論の自由を今後も担保したいものだ。


インタビュー記事


著者が語る:動画



シュンペーターの著作

ペンローズの著作

ラゾニックの著作

マリアナ・マッツカートの著作

新しい版。

古い版。

ケインズの経済学からケインズ経済学へ 一日本の場合一

論文のPDFである。ケインズのまとまった著作が日本に入ってくる前に、赤字国債発行、財政拡大などで恐慌脱出を図り、日本の繊維産業などを持ち直させた高橋是清の功績は大きい。返す返すも226事件(1936年、昭和11年)での暗殺が残念に思われる。この論文にも、他の書籍などでも発見できていないが、シュンペーターが来日した際、高橋是清と合った可能性もあるのではないか?(ま、これだけの大物同士が面談したとしたら、なんらかの記録が残されていると思うので、そういう可能性は低いのかもしれないが)。
早稲田商学第402号 2004年9月 池尾愛子
file:///Users/masakonishida/Downloads/93123_402.pdf

公益資本主義関連

財務省

「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」。


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