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【読書】入門 シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才 その2


出版情報

  • タイトル:入門 シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才

  • 著者:中野 剛志

  • 出版社 ‏ : ‎ PHP研究所

  • 発売日 ‏ : ‎ 2024/11/19

  • 新書 ‏ : ‎ 336ページ

本記事は…

本記事は、本書 入門 シュンペーターを紹介する一連の記事のうちその2である。

百年前の偉人から学ぶ

 著者の中野剛志は現役の官僚であり評論家だ。いや思想家と言ってもいいのかもしれない。その中野は最近(2025.03)立て続けに2冊の本を上梓した。1冊目が本書 入門シュンペーターであり、もう1冊が政策の哲学だ。本書 入門シュンペーターイノベーションを中心とする経済対策に近しいものだとすると、政策の哲学は文字通り政策一般を立案する上での(とはいえやや経済政策よりではあるが)哲学であるといえよう。

 …というわけで、早速本書の内容に入っていこう。本書は、本当に読みやすく、わかりやすい。頭のいい人がまとめると、こうなるのか〜、という見本のような本。もちろん内容も潤沢だ。ご興味のある方はぜひ本書 入門シュンペーターに直接当たってください。
 ネタバレを好まない人は目次を貼るのでご希望の場所に飛んでください。よろしくお願いします。


創造的破壊とは何か

創造的破壊は、イノベーション研究の第一人者シュンペーターの経済思想の代表的な言葉だが、シュンペーターが60歳前後のころから使い始めたものだ。ここで、もう一度、2人のシュンペーターについておさらいしておこう。

2人のシュンペーター

 実際にシュンペーターが2人いるわけではない。だがあたかも2人いるかと思われるほど、考え方が違っている。芯のところ変わらないとしても。
 30歳手前で『経済発展の理論』を執筆したシュンペーターは、イノベーションを起こす人を、社会的・心理的抵抗をものともしない、物事をやり抜き通す行動の人として描いた。今の私たちが、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブスに見出すイメージだ。
 一方、60歳ごろ『資本主義・社会主義・民主主義』を書いたシュンペーターはイノベーションは大企業が起こす、と考えを改めた。
 それは30年の間に、大企業が新製品を出しながら市場の独占、シェア拡大を狙って切磋琢磨する姿を見てきたからだ、と著者 中野は指摘する。この間、企業は大きくなり、人々は豊かになった。そして大不況を乗り切る力があるのも大企業だと看破した。コロナ禍でも中小企業が倒産・廃業した姿を私たちも見たはずだ。
初期シュンペーターをシュンペーター・マークⅠ後期シュンペーターをシュンペーター・マークⅡと呼ぶ研究者もいるそうだ。本書でもたびたびこの呼称を使っているp132-p140。

創造的破壊は大企業が起こす

 シュンペーター・マークⅠはエネルギッシュで行動的な個人の起業家がイノベーションを起こす企業者だと考えていたが、シュンペーター・マークⅡは大企業がイノベーションを起こす企業者だと考えを改めた。それはマークⅠからマークⅡに移行する30年の間に、大企業が巨大化し市場を独占する姿とそれによって人々が豊かになっていく姿を見たからだ。
 そして、それを主流派経済学では説明できない。

主流派経済学の誤謬

 主流派経済学が想定しているのはシュンペーターに言わせれば、経済成長をしない「静態的」な経済状態だ。「市場は均衡」していて、イノベーションは起きない。そしてそこで想定しているのは「完全競争」の世界だ。
 一方、イノベーションが起きる「動態的」な経済状態では、「市場の均衡」は常に破られ、起きるのは市場のシェアを独占しようと切磋琢磨する「独占競争」である。

  • 【主流派経済学】 ←→ 【シュンペーターの経済理論】

  •   市場の均衡  ←→  市場の均衡は常に破られる

  •   完全競争   ←→  独占競争

  • 経済成長は想定外 ←→ 経済システム内部に経済成長の要因がある

  • 完全競争

    • 静態的

    • 同一の商品やサービスについて、無数の生産者と消費者がいて、自由に競争しているが、どの生産者も消費者も、市場の価格を与えられたものとして受け入れているp137。

    • 市場は均衡し価格が決定する

  • 独占競争

    • 動態的

    • どんな企業も、自社製品の価値を戦略的に設定し、品質で他社製品との差別化を図り、そして広告を打って、自社製品の消費者を囲い込もうと競争するp139。シェア拡大、市場を独占しようとする行動だ。

    • 市場の均衡は常に破られる

新しい産業組織

 シュンペーターは経済発展のエンジンはイノベーションであり、それを新結合と呼んでいた。再度紹介すると、次の5つであるp142。

  • (1) 新しい財貨の生産

    • 消費者にとって未知の財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産

  • (2) 新しい生産方法の導入

    • 当該産業部門において実質上未知な生産方法の導入。商品の商業的取り扱いの新方法も含む

  • (3) 新しい販路の開拓

    • 当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓

  • (4) 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得

  • (5) 新しい組織の実現、独占的地位の形成あるいは独占の打破

このうち、シュンペーター・マークⅡは(5)に着目した。「新産業組織形態」と呼んで、産業組織論を展開している。これはシュンペーター・マークⅠにはなかった視点だp143。

創造的破壊:内部から経済構造を変革する

 中野は「創造的破壊」を含んだ箇所を引用している。

内外の新市場の開拓および手工業の店舗や工場から…企業にいたる組織上の発展は、不断に古きものを破壊し新しきものを創造して、たえず内部から経済構造を革命化する産業上の突然変異…の同じ過程を例証する。この「創造的破壊」…の過程こそ資本主義についての本質的事実である。それはまさに資本主義を形づくるものであり、すべての資本主義的企業がこの中に生きねばならぬものである。

入門シュンペーター p144
(この部分は資本主義・社会主義・民主主義より著者 中野が引用している)

 私は『資本主義・社会主義・民主主義』は読んでいないので想像とはなるのだが、シュンペーターは手工業や一般的な店舗から町工場そして、大工場への流れをある種の進化として捉えており、それは小組織から大組織への変遷であり、そうした全体を「創造的破壊」と呼んだのではないだろうか?そこには企業内部での変革も含まれる。そしてそれは市場の独占的競争のためである、と。
 さらにシュンペーターは独占的な大企業組織が創造的破壊を引き起こすメカニズムを分析したp146。

独占的競争のために不確実性を下げる

 どのような企業も、そして独占的大企業は特に、シェア争いにしのぎを削っている。だが新製品や新組織を導入してもそれが常に成功するとは限らない。巨額な設備投資や技術開発を行なっても、利益があげられなかったり投資が回収できないようでは企業自体の存続に関わる。しかもそのためには長期的な投資が必要だ。そうしたこと全体が創造的破壊なのである。創造的破壊が起きている経済は常に不透明だ。そこで少しでも不確実性を下げるために、「製品の価格の変動を抑えるために競争を制限したり、技術開発投資のリターンが確実に確保できるように特許権を取得したり、取引先との間で長期契約を締結したりといった行動」するp148。ここでも主流派経済学とシュンペーターの経済理論の比較をしてみよう。

  • 【主流派経済学】  ←→ 【シュンペーターの経済理論】

  • 規制緩和・自由競争 ←→ 長期投資には不確実性を低める制限が必要

  • 市場価格受け身で受け入れる ←→ 戦略的な自社に有利な価格設定

つまり、規制緩和・自由競争を是としているようでは、長期的な視点で投資をし、絶えず創造的破壊を行い、イノベーションを繰り返して、経済発展をしていくことは困難なのだ。

日本の失われた30年

 著者 中野は本書の終章 おわりにで、「シュンペーターに従って発展し、シュンペーターに背いて衰退した国、それが日本だと言ってもよいのではないでしょうか」p318。「1990年代に入ると、日本は、構造改革と称して、シュンペーター的な中核をもった日本的システムを、自ら進んで破壊し始めました」p318。と、まとめている。また日本の失われた30年について、丸々章を費やして説明している(第三章 なぜ日本経済は成長しなくなったのか)。詳しいことは、本書を読んでいただくことにして、ここでは、下記のような本書の文言を引用して、簡潔に日本の失われた30年の理由を述べる。

 2001年小泉内閣は骨太の方針を閣議決定し構造改革を宣言した。もちろんそこには主流派系学者で新自由主義者の竹中平蔵が参画した。だが中野はこれを評して「この日本の改革はシュンペーターを誤解している」というp160。それは

シュンペーターは「創造的破壊」という表現を通じて、主流派経済学の市場均衡理論を完全に否定しました。
 ところが、2001年の「骨太の方針」は、市場原理主義(新自由主義)にのっとった構造改革、つまりシュンペーターが否定した政策を、「創造的破壊」と呼んでいるのです。…
構造改革が失敗に終わったことは、明白です。

入門シュンペーター p162
太字は記事筆者による

というわけで、もう日本の失われた30年の理由はこれに尽きるでしょう。

 これを書いている中野が現役の通産省の官僚であるとは驚きだ。つまり少なくとも日本では言論の自由は担保されているということだ。
 一方で、予算権限を握っている財務省はもちろんザイム真理教(主流派経済学)に侵されているし、通産省省内もそうだろう。中野がいかに言論活動を展開しようが省内力学では、圧倒的な無力感を感じたり、出世街道から外れたり、ということが起きているのではないだろうか?(イヤ知らんけど。推測です💦)
 私たちは、通産官僚に限らず、こうした個別の心ある官僚は応援したいし、「官僚はすべてダメ」のような言説にも注意を要したい。
 中野のような官僚を生かせる政治家が誕生することを願いつつ…。



 というわけで、今後はその3 イノベーションを起こす企業、その4 シュンペーターの予言続く予定である(予定は未定なので変更があり得ます💦)。


引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
また、文言の間違い、表現のわかりやすさなど、随時訂正しています。ご了承ください

おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために

ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。

中野剛志の著作

MMT関係

その他:中野剛志の著作

 著述家として、そして現役官僚として「よくこれだけ書く暇があるな」と思わせるほど、中野剛志は多産だ。その中で、心に引っかかったものをピックアップ。

買ったけど読めていない。分厚さに躊躇している。

これは読んでみたい。

現役官僚が自国政府の政策を堂々と批判できる。そういう言論の自由を今後も担保したいものだ。


インタビュー記事

著者が語る:動画


シュンペーターの著作

ケインズの経済学からケインズ経済学へ 一日本の場合一

論文のPDFである。ケインズのまとまった著作が日本に入ってくる前に、赤字国債発行、財政拡大などで恐慌脱出を図り、日本の繊維産業などを持ち直させた高橋是清の功績は大きい。返す返すも226事件(1936年、昭和11年)での暗殺が残念に思われる。この論文にも、他の書籍などでも発見できていないが、シュンペーターが来日した際、高橋是清と合った可能性もあるのではないか?(ま、これだけの大物同士が面談したとしたら、なんらかの記録が残されていると思うので、そういう可能性は低いのかもしれないが)。
早稲田商学第402号 2004年9月 池尾愛子
file:///Users/masakonishida/Downloads/93123_402.pdf


公益資本主義関連


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