【Ai x 入力設計 18】田中君、AIの中に迷い込む

登場人物紹介
登場人物紹介
👨💼 田中君
真面目で努力家な若手社員。
新しい仕事に戸惑いながらも、AIや先輩の力を借りて成長していく。
👨 林さん
現場経験が豊富な、面倒見のよい先輩。
田中君に、現場で得た一次情報や実践的な助言を伝える。
👨🏫 佐藤さん
分析や情報整理を得意とする、冷静な先輩。
田中君に、目的や優先順位を考える大切さを教える。
👔 黒田営業部長
豪快で頼れる営業部長。
田中君の成長を期待し、少し難しい課題を次々と任せていく。
🧚 AI妖精さん
AI世界で田中君を案内する小さな妖精。
入力の不足や迷いを見える形にしながら、対話を通じて資料作りを助ける。

田中君、AIの中に迷い込む
「そうじゃないんだよ」の正体――AI妖精と学ぶ、テンプレートを使わない入力設計
📘 はじめに――褒められたと思ったら、また課題が来ました
黒田営業部長は、田中君が提出した市場調査報告書を、最初のページから最後までゆっくりと読み終えた。
机の上には、何度も修正された報告書が置かれている。
市場の状況、想定される顧客、競合する商品、価格帯、試作品の強みと弱み。
事実と仮説は分けられ、確認できていない情報には、きちんと注意書きが添えられていた。
黒田部長は最後のページを閉じると、大きくうなずいた。
「よし。よくできた報告書だった」
「ありがとうございます!」
田中君の顔に、満面の笑みが広がった。
最初は何を調べればよいのかすら分からなかった。
それでもAIに必要な要素を確認し、複数の情報を比較し、林さんや佐藤さんにも相談しながら、どうにか最後まで完成させた。
これでようやく、少し休める。
田中君は、そう思った。
しかし、黒田部長の顔には、いつもの豪快な笑みが浮かんでいた。
「それでは、次のステップに進もう」
「……次のステップ、ですか?」
田中君の笑顔が、わずかに固まった。
黒田部長は、報告書の表紙を軽く指で叩いた。
「今回の試作品は、生産ラインで品質を安定させ、必要な数量を供給できる見通しが立ってきた」
「はい」
「市場の状況も、今回の報告書でだいぶ見えてきた。となれば、次は営業が動く番だ」
黒田部長は田中君を見て、さらに楽しそうに笑った。
「田中。営業がこの製品を売り出すために必要なものを作ってくれ」
「営業が、売り出すために必要なもの……ですか?」
「そうだ。俺からの次の課題だ。頑張って達成してくれ」
「はい。分かりまし――」
田中君の返事が、途中で止まった。
営業が製品を売り出すために必要なもの。
商品説明書だろうか。
営業資料だろうか。
販売計画だろうか。
顧客への提案書だろうか。
価格表や広告案まで必要なのだろうか。
田中君の頭の中で、疑問が次々と浮かび始めた。
黒田部長は会議室を出ようとしたところで、ふと思い出したように振り返った。
「それから田中」
「はい?」
「今回の報告書は、本当によくやってくれた。俺の期待にも、しっかり応えてくれたからな」
黒田部長は、少し声を落とした。
「次のボーナスは、少しくらい期待してもいいと思うぞ」
「ボ、ボーナス……?」
田中君の顔色が、一瞬で明るくなった。
黒田部長は、その変化を見逃さなかった。
「何だ。急に元気になったな」
「い、いえ! そんなことは!」
「まあ、次の課題も期待しているぞ」
黒田部長は笑いながら、今度こそ会議室を出ていった。
廊下を歩きながら、黒田部長は小さく笑っていた。
以前の田中なら、やったことのない仕事を任された瞬間に、自分には無理だと考えていただろう。
だが、今回の市場調査報告書では違った。
分からないことを調べ、必要な情報を整理し、周囲に確認しながら、最後まで形にした。
最初から正解を知っている必要はない。分からない課題に対して、どう動くかが大切なのだ。
黒田部長は、今回も田中がすぐに正解を出すとは思っていなかった。
むしろ、何を作ればよいのか分からない状態から、どのように考え、誰に相談し、どこまで形にしてくるのか。
そこを見ることの方が楽しみだった。
――さて、今度はどんな面白いものを持ってくるかな。
黒田部長の口元が、少しだけ緩んだ。
もちろん、田中の成長を願う気持ちは本物だった。
しかし、その心の片隅には、課題を渡された田中が困った顔をするところを、少しだけ見てみたいという、いたずら心もあった。
一方、会議室に残された田中君は、まだ固まったままだった。
「……営業が売り出すために必要なものって、結局、何を作ればいいんだ?」
先ほどまでの笑顔は、見事に引きつっていた。

第1章 営業が製品を売り出すために必要なものを作ってくれ
😕 何を作ればいいのか分かりません
黒田部長が去ったあと、田中君は報告書を抱えたまま、製造部門へ戻った。
林さんは、設備の稼働記録を確認しているところだった。
田中君は恐る恐る声をかけた。
「林さん。ちょっといいですか?」
「どうした?」
「黒田部長から、次の課題を出されました」
林さんは、田中君の引きつった顔を見ると、すぐに何かを察した。
「今度は何だ?」
「営業が製品を売り出すために必要なものを作ってくれ、と言われました」
「なるほど」
「なるほどじゃないですよ。営業が売り出すために必要なものって、何ですか?」
林さんは少し考えたあと、あっさり答えた。
「知らん」
「即答ですね!」
「俺は製造だぞ。製品を作るところまでは分かるが、売り方は営業の仕事だろう」
「でも、僕に作れって言ったんですよ」
「じゃあ、営業に聞けばいいじゃないか」
「その営業部長から出された課題なんです!」
田中君が頭を抱えていると、佐藤さんが近づいてきた。
「どうしたの?」
田中君は、黒田部長から言われた内容を説明した。
佐藤さんは少し考え、静かに言った。
「黒田部長は、田中君に営業方針そのものを決めろと言ったのかな?」
「え?」
「誰に売るか、いくらで売るか、どんな営業方法を使うか。それを全部、田中君が決める仕事なのかな?」
「そこまでは、何も言われていません」
「だったら、まず確認しなければいけないのは、何を作るかではなく、
何のために作るのかじゃないかな」
田中君は、少し黙った。
課題の言葉が分からないときは、いきなり完成品を作ろうとせず、その課題が何のために必要なのかを確認する。
「なるほど……。でも、黒田部長はもう行ってしまいました」
「一般的にどういう仕事なのかなら、AIに聞くこともできるよ」
佐藤さんの言葉を聞き、田中君はパソコンへ向かった。
「そうですね。まずAIに聞いてみます」
田中君は入力欄を開き、勢いよく打ち込んだ。
「営業が製品を売り出すために必要なものを、全部作ってください」
入力を終えた田中君は、自信満々に送信ボタンを押した。
その直後、画面に大量の文字が表示され始めた。
商品カタログ
営業提案書
顧客別説明資料
販売戦略
販売目標
価格表
顧客リスト
営業トーク
FAQ
広告案
販促計画
市場予測
競合比較
収益予測
リスク管理表
導入事例
問い合わせ対応手順
営業教育資料
田中君は、長くなり続ける画面を見つめた。
「……多くない?」
AIの出力は、まだ続いていた。
「ちょっと待って。まだあるの?」
画面は止まらない。
田中君は椅子にもたれ、深いため息をついた。
「市場調査報告書を作ったばかりなのに、今度はこれを全部作るのか……」

連日の作業で疲れていた田中君は、そのまま机に突っ伏した。
「少しだけ……休もう……」
田中君の目が閉じた。
そのとき、パソコン画面が、不自然なほど強く光り始めた。
田中君の身体は、椅子ごと画面の方へ引っ張られた。
「え? ちょっと待って!」
次の瞬間、田中君は光の中へ吸い込まれていった。
第2章 販売に必要なものを全部用意しました
🌐 書類だらけのAI世界
田中君が目を開けると、そこは見たこともない場所だった。
空には文字が浮かび、地面には無数の資料が積み上げられている。
道の両側には、巨大な看板が立っていた。
【販売戦略はこちら】
【顧客リストはこちら】
【広告案はこちら】
【価格表はこちら】
【営業研修資料はこちら】
道は何本にも分かれ、どこへ進めばよいのか分からない。
空からは紙が舞い落ちていた。
田中君は目の前の紙を一枚つかんだ。
「海外市場向け長期販売予測……?」
別の紙が顔に張りついた。
「営業担当者向け想定質問集、全二百問……?」
田中君は紙を払いのけ、叫んだ。
「何だよ、この世界!」
すると、書類の山の中から、小さな光が飛び出した。
光は田中君の前でくるりと回り、人の姿へ変わった。
小さな羽を持ち、白く輝く服を着た、妖精のような存在だった。
妖精は満面の笑みで言った。
「ようこそ、田中くん。AI世界へ」
「AI世界?」
「はい。田中くんが入力した内容を基に、必要と思われる情報を可能な限り集めました」
妖精は両手を広げた。
「田中くんのご指示どおり、販売に必要そうなものを全部用意しました!」
田中君は周囲を見渡した。
書類の山は、遠くまで続いている。
「多すぎて、何も分からないよ!」
妖精の笑顔が少し固まった。
「ですが、田中くんは“全部”と……」
「言ったけど、本当に全部出すとは思わないじゃないか!」
「全部と言われましたので、可能な限り全部を……」
「加減してよ!」
妖精は首をかしげた。
「どのように加減すればよかったのでしょうか?」
田中君は言葉に詰まった。
確かに、自分は何を優先するのか何も伝えていない。
そのとき、妖精の背後に、半透明の文字が浮かび始めた。
😕❓
{販売に必要な「もの」の範囲が分からない}
{何を完成させればよいのか分からない}
{誰が使うのか分からない}
{何を最優先すればよいのか分からない}
田中君は目を丸くした。
「ちょっと待って。その後ろに出ている文字は何?」
「後ろ?」
妖精が振り返った。
しかし、妖精が見ると文字は消えた。
「何もありませんよ」
「いや、あったよ。“何を最優先すればいいのか分からない”って」
「見間違いでは?」
再び妖精が前を向くと、また文字が浮かんだ。
😕❓
{田中くん自身も目的を理解していない可能性}
「今度は、僕が理解していないって出てるぞ!」
妖精は慌てて背後を振り返った。
文字は、また消えた。
「み、見ないでください!」
「やっぱり出てるんじゃないか!」
妖精は少し気まずそうに目をそらした。
「それは、田中くんの入力を受け取った際に、私が確認できなかった情報です」
「つまり、AIの考えていること?」
「厳密には、出力を組み立てる際に必要となる、判断材料や解釈候補を、田中くんに見える形へ変換したものです」
「難しいよ」
「簡単に言えば、私が困っていることです」
「最初からそう言ってよ」

第3章 なぜAIは無難な答えを返すのか
🤔 間違いにくい答えと、欲しい答えは違う
田中君は、妖精の背後に浮かぶ文字を見つめた。
「情報が足りないなら、質問してくれればよかったじゃないか」
妖精は少し困った表情を見せた。
「質問できる場合もあります。しかし、田中くんは“作ってください”と依頼しました」
「だから作ったの?」
「はい。私は、与えられた情報の範囲で、できるだけ役に立つ出力を作ろうとしました」
「でも、多すぎて使えないよ」
「田中くんが、何を必要としているのか決められなかったためです」
妖精の後ろに、いくつもの候補が浮かんだ。
🤔💭
{商品説明書を作る?}
{営業提案書を作る?}
{販売計画を作る?}
{広告案を作る?}
{営業教育資料を作る?}
妖精は言葉を続けた。
「候補が多く、どれを優先するべきか判断できない場合、私は極端な方向へ振れないように調整します」
「どういうこと?」
「対象を限定しすぎず、誰にでも使えそうな内容にします。確認できないことは断定せず、一般的な情報を広く提示します」
「それが、無難な答えになるってこと?」
「はい」
妖精は真っすぐ田中君を見た。
間違いにくい答えと、田中くんが欲しい答えは、同じではありません。
田中君は、これまでAIを使ったときのことを思い出した。
文章としては間違っていない。
内容もそれなりに整っている。
それなのに、読んだ瞬間に感じる。
「そうじゃないんだよな」と。
「僕が“そうじゃない”って感じていたのは、AIが何も考えていなかったからじゃないんだ」
「はい。田中くんの正解が見えなかったため、間違いになりにくい方向へ調整していました」
「でも、僕が“そうじゃない”って言えば、直せるよね?」
「どこが違うのか教えていただければ」
妖精の後ろに、また文字が浮かんだ。
😕❓
{内容が違う?}
{構成が違う?}
{表現が違う?}
{優先順位が違う?}
{対象読者が違う?}
田中君は、その文字を見て黙った。
「“そうじゃない”だけでは、何を直せばいいのか分からないのか」
「はい。私は、再び推測することになります」
「今まで、ずっとそんな感じだったんだ」
「田中くんだけではありません。多くの方が、曖昧な依頼のあとに、“違う”とだけ言います」
妖精は少しだけ肩を落とした。
「何が違うのかを教えていただければ、もっと近づけるのですが……」
第4章 分かりにくいので、二人だけのルールを作りましょう
🧩 記号を使って、AIの迷いを見えるようにする
田中君は、妖精の背後に次々と浮かぶ文字を見て、頭を抱えた。
「言っていることは分かってきたけど、表示が多すぎるよ」
「申し訳ありません」
「何が分かっていて、何が分かっていないのか、見ただけで区別できないかな」
妖精は少し考えた。
「では、田中くんと私の間で、表示のルールを決めましょう」
「ルール?」
「はい。意味ごとに記号を変えれば、見分けやすくなります」
妖精は空中に三つの記号を浮かべた。
「まず、実際に口に出して話した言葉は、これまでどおり『かぎ括弧』を使います」
「普通の会話だね」
「次に、私がまだ受け取っていない情報や、分からないことは、{波括弧}で囲みます」
{目的が分からない}
{提出相手が分からない}
{完成条件が分からない}
「これは、僕が説明するか、一緒に調べる必要がある情報ってこと?」
「そのとおりです」
「じゃあ、【この括弧】は?」
「対話によって確認できた情報です」
【提出相手:黒田営業部長】
【製品:品質と供給量が安定する見通しの試作品】
【課題:営業が売り出すために必要なものを作る】
田中君はうなずいた。
「{分からないこと}を、話しながら【分かったこと】に変えていくわけだ」
「はい」
{不明な情報}を、対話によって【確定した判断材料】へ変えていく。
妖精は、さらに三つの顔を浮かべた。
「私が、どれくらい入力を理解できているかも表示しましょう」
😕❓=何をすればよいのか、ほとんど分からない
🤔💭=方向は分かるが、まだ不足がある
😊✨=出力を組み立てるための判断材料がそろっている
田中君は顔を見比べた。
「三つなら覚えられそうだ」
「もう少し増やしますか?」
「増やさなくていいよ。多くなると、また分からなくなるから」
「承知しました」
妖精の後ろに表示が浮かんだ。
😊✨
【表示ルールの目的:重要な情報を見分けやすくする】
【制約:種類を増やしすぎない】
【評価基準:田中くんが見ただけで意味を理解できる】
田中君は目を丸くした。
「このルールを決めること自体が、入力設計になってるんだ」
「はい。目的、制約、判断基準が決まったため、私も迷わず表示できます」

第5章 まず、何を作る仕事なのか教えてください
🎯 完成品を頼む前に、課題の目的を理解する
田中君は、書類の山を見回した。
「じゃあ、最初からやり直そう」
「何を作りますか?」
「それが分からないんだよ」
妖精の表情が😕❓になった。
「そうだった」
田中君は、少し考えてから言い直した。
「黒田営業部長から、“営業がこの製品を売り出すために必要なものを作ってくれ”と言われました。僕は営業経験がなく、何を作る仕事なのか分かりません」
妖精の表情が🤔💭へ変わった。
【依頼者:黒田営業部長】
【対象製品:量産の見通しが立った試作品】
【田中くんの状態:営業経験がなく、成果物の種類を判断できない】
{黒田部長が何を判断したいのか不明}
「まず、この課題がどういう仕事なのか、初心者にも分かるように教えてください」
妖精はうなずいた。
「一般的に、製品を営業部門へ渡す際には、営業担当者が製品を理解し、販売方針を検討できる情報が必要です」
「商品カタログを作るってこと?」
「カタログも一つの可能性です。ただし、今回の段階では、顧客向けの完成した広告物よりも、営業部門が判断するための内部資料が先になる可能性があります」
「営業が判断するための資料……」
田中君は、市場調査報告書を思い出した。
「市場がどうなっているかは、前の報告書でまとめた。今度は、その製品を営業が扱うための材料を作るってことかな」
「その可能性が高いと思います」
「でも、必要な項目を全部出されたら、また大変なことになるよね」
妖精は、すでに十数個の項目を浮かべかけていた。
「では、販売に必要な顧客分析、価格戦略、営業チャネル、販促計画、収益――」
「待って、待って!」
田中君は両手を振った。
「絶対に必要なものを、三つだけ選んで」
「三つですか?」
「まず骨組みを作りたいんだ。細かいものは後から考える」
妖精は少し考え、三つの項目を浮かべた。
【1.この製品は、顧客の何を解決できるのか】
【2.どのような顧客に価値があるのか】
【3.営業が知るべき強み・制約・リスクは何か】
田中君は、三つの項目を眺めた。
「これなら分かりやすい」
「商品を売るためには、商品の機能を説明するだけでは足りません。誰にとって、どのような価値があるのかを示す必要があります」
「そして、都合のいいことだけじゃなく、弱点や制約も営業に伝える必要がある」
「はい。販売したあとで問題が発覚すれば、営業部門も顧客も困ります」
最初から細部を完成させるのではなく、絶対に必要な三つの骨組みから始める。
田中君は少し自信を取り戻した。
「これなら作れそうだ」
しかし、妖精の表情は、まだ🤔💭のままだった。

第6章 骨組みはできたのに、まだ何か足りません
📦 AIは田中君の会社を知らない
「三つに絞ったのに、まだ笑顔にならないの?」
田中君が尋ねると、AI妖精の背後に表示が浮かんだ。
🤔💭
【課題の大まかな目的:営業判断に必要な情報を作る】
【必要な骨組み:三項目】
{田中くんの会社独自の情報がない}
{試作品の具体的な特徴がない}
{現場で確認された品質情報がない}
{製造可能数量や制約が分からない}
田中君は表示を読み上げた。
「会社独自の情報がない?」
「はい。私は一般的な製品資料の骨組みは作れます。しかし、田中くんの会社で実際に起きていることは知りません」
「市場の情報なら持っているんじゃないの?」
「外部情報を検索し、一般的な事例や競合情報を調べることはできます」
妖精は、田中君の目をまっすぐ見た。
私は多くの知識を持っています。しかし、田中くんが現場で見たことまでは知りません。
「僕が知っていることを、渡さないといけない?」
「はい。たとえば、試作品が実際にどの程度安定しているのか。どのくらい生産できるのか。現場の人が何を評価し、何を心配しているのか」
田中君は考え込んだ。
AIは膨大な情報を持っている。
だが、自分の会社の現場には来ていない。
試作品を触ったこともない。
黒田部長の表情や、林さんの反応も知らない。
「AIに全部調べてもらえばいいと思っていたけど、AIが持っていない情報もあるんだ」
「田中くんたちが持っている一次情報と、私が持つ一般的な知識や外部情報を組み合わせることで、より実用的な内容になります」
「でも、僕一人では全部思い出せないよ」
そのとき、遠くから誰かの声が聞こえた。
「田中君ー!」
「この声……林さん?」
空に巨大な四角い光が現れた。
光の向こう側には、林さんと佐藤さんの顔が映っていた。

第7章 田中君、お前、何で画面の中にいるんだ
🖥️ ディスプレイの向こう側から救援開始
現実世界では、林さんと佐藤さんが、突然消えた田中君を探していた。
机の下にもいない。
会議室にもいない。
トイレにもいない。
しかし、田中君のパソコン画面には、見慣れた後頭部が映っていた。
林さんは画面をのぞき込んだ。
「おいおいおい。これ、田中君じゃないか?」
佐藤さんも画面を確認した。
「本当に田中君だね」
画面の中で、田中君が小さな妖精と話している。
林さんは画面に向かって叫んだ。
「田中君! 何やってるんだ!」

AI世界の田中君は、空に浮かぶ巨大なディスプレイを見上げた。
「林さん! 佐藤さん!」
「何で田中君がパソコンの中にいるんだ!」
「僕が聞きたいですよ!」
「出られないのか?」
「課題を完成させないと出られないみたいです!」
「どんな仕組みだよ!」
AI妖精が小さく手を挙げた。
「田中くんの入力により構成された世界です」
林さんは妖精を見つめた。
「誰だ、その小さいの」
「AI妖精です」

「ずいぶん分かりやすい名前だな」
佐藤さんが、画面の中に表示されている内容を見た。
「なるほど。課題の目的と骨組みはできたけれど、会社独自の一次情報が足りないんだね」
「そうなんです」
林さんは腕を組んだ。
「だったら、現場で分かっていることを入れればいいだろ」
「何を入れればいいですか?」
「まず、試作品の品質だ。前よりばらつきが減って、連続生産でも基準内に収まるようになった」
妖精の後ろに情報が浮かんだ。
【品質:連続生産でも基準値内で安定する見通し】
林さんは続けた。
「それから、現状の設備なら一定量までは供給できる。ただし、急に大量注文が来たら、検査工程が詰まる可能性がある」
【供給能力:一定量まで対応可能】
【制約:急激な増産時は検査工程がボトルネックになる可能性】
「現場の人の反応は?」
「性能自体は評価されている。ただ、切り替え作業が少し複雑だ。そこは今後、改善が必要だな」
【現場評価:性能は良好】
【弱点:切り替え作業が複雑】
妖精の表情が少し明るくなった。
しかし、佐藤さんは田中君に注意した。
「田中君、今の情報を全部混ぜて入力しない方がいい」
「どういうことですか?」
「確認できた事実と、予想や仮説を分けるんだ」
佐藤さんは、画面越しに指を立てた。
実際に確認したこと
現場の意見
今後起こる可能性
田中君自身の考え
「この四つを混ぜると、AIは全部を同じ確度の情報として扱う可能性がある」
田中君はうなずいた。
「事実と仮説を分けて渡すんですね」
「それから、AIが欲しがる情報を、全部埋めようとしなくていい」
「でも、全部あった方が完成度は高くなるんじゃないですか?」
「本当にそうかな?」
佐藤さんの問いに、田中君は首をかしげた。

第8章 情報を増やしたら、また何を作っているのか分からなくなりました
📚 AI妖精と田中君、情報を盛りすぎる
田中君は、林さんと佐藤さんから聞いた一次情報を、妖精へ渡した。
さらに、市場調査報告書から顧客情報や競合情報も加えた。
妖精は次々と資料を作り始めた。
【製品の特徴】
【品質情報】
【供給能力】
【製造上の制約】
【想定顧客】
【顧客ニーズ】
【競合比較】
【価格帯】
【市場成長率】
【将来予測】
【営業方法】
【広告案】
【収益予測】
【海外展開案】
【十年間の販売計画】
「待って。最後の方、必要なの?」
田中君が聞くと、妖精は自信満々に答えた。
「完成度を高めるために、関連する情報を追加しています」
「なるほど。じゃあ、もっと詳しくしよう」
「承知しました」
妖精はさらに情報を増やした。
書類の山は、再び大きくなった。
グラフや表も追加された。
資料のページ数は、どんどん増えていった。
田中君は、真面目な顔で一枚ずつ確認していた。
「これだけ情報があれば、黒田部長も満足するはずだ」
ディスプレイの向こう側で、林さんが資料を見ていた。
最初は黙っていたが、ページが増えるにつれて顔が険しくなった。
やがて、我慢できなくなった林さんが叫んだ。
「おいおいおいおい!」
田中君と妖精が、同時に振り返った。
「何ですか?」
「情報、多すぎじゃないか?」
「でも、完成度を高めるために必要なんです」
林さんは画面を指さした。
「じゃあ聞くけど、結局これは何を作ってるんだ?」
「営業が販売するために必要な……」
田中君は資料を見た。
市場分析。
海外展開。
広告案。
十年間の収益予測。
「……何を作ってるんでしたっけ?」
「分からなくなってるじゃないか!」
妖精は、情報の山の中から顔だけを出した。
「情報が足りないと言われたので、増やしたのですが……」
林さんが即座に返した。
「今度は多すぎるんだよ!」
AI妖精は頬を膨らませた。
「人間は難しいですね」
「情報が少なすぎても駄目。多すぎても駄目。必要なものを選べってことだよ」
「何が必要なのかは、人間が決めてください」
「そこを一緒に考えるんだろ!」
田中君は、林さんと妖精のやり取りを見ながら苦笑した。
第9章 120%完成させると、かえって相手が困ります
🧹 必要なものを残し、使わないものを外す
佐藤さんが、増えすぎた資料を見ながら言った。
「田中君。AIは役に立とうとして、関連する情報や選択肢をどんどん増やしていく」
「はい」
「だから、人間が目的に合わせて選別しなければいけない」
「でも、情報を削ったら完成度が下がりませんか?」
「情報量と完成度は、同じじゃないよ」
佐藤さんは、三つの箱を画面に表示するよう妖精へ頼んだ。
【絶対に必要】
【あると便利】
【今回は使わない】
「まず、黒田部長が判断するために、絶対に必要な情報を選ぼう」
田中君と妖精は、資料を一つずつ確認した。
【絶対に必要】
製品が解決できる問題
想定される顧客価値
製品の強み
品質と供給能力
製造上の制約
営業判断に関わるリスク
【あると便利】
競合商品の簡単な比較
市場調査結果の要約
想定質問への回答
導入時の注意事項
【今回は使わない】
十年間の詳細な市場予測
関連性の薄い海外事例
広告デザイン案
営業社員の研修計画
全顧客向けの詳細FAQ
未確認の収益シミュレーション
妖精は、外された資料を見て少し不安そうな顔をした。
「これほど削除して、本当に大丈夫でしょうか?」
林さんが答えた。
「大丈夫かどうかは、目的に必要かどうかで決めるんだよ」
佐藤さんも続けた。
「整理とは、情報をきれいに並べることだけではない。使わないものを外すことでもある」
必要なものと不要なものを分け、必要な情報を相手が使いやすい順番へ並べる。
田中君は、以前から現場で行っていた4Sを思い出した。
整理:必要なものと不要なものを分ける
整頓:必要なものを使いやすい順番へ並べる
清掃:重複や矛盾、曖昧さを取り除く
清潔:同じ品質を保てる状態へ整える
「入力設計も、現場の整理整頓と同じなんですね」
「そうだよ。情報を置く場所が、机からAIの入力欄へ変わっただけだ」
不要な資料が消えるたびに、AI世界の景色が広くなった。
複雑に分岐していた道も減り、進むべき方向が見え始めた。
妖精は、すっきりした資料を見て驚いた。
「情報を減らしたのに、前より目的が分かりやすくなりました」
「そういうものなんだよ」
田中君は少し誇らしげに答えた。

第10章 黒田部長の判断する場所が残っていません
⚠️ 完成させすぎた資料
必要な情報を選別したあと、田中君と妖精は資料の完成度を高めていった。
事実と仮説を分けた。
重要な情報を先に並べた。
製造上の強みと制約も明記した。
資料は、かなり分かりやすくなっていた。
田中君は満足そうに言った。
「最後に、一番良い販売案を決めて、完成させよう」
「承知しました」
妖精は、集めた情報から販売案を一つに絞った。
【対象顧客:中規模製造業】
【販売価格:○○円】
【販売方法:既存取引先への直接営業】
【販売開始:来月】
【推奨案:A案を採用】
【予算:○○万円】
【営業体制:専任担当二名】
田中君は完成した資料を見て、満足そうにうなずいた。
「完璧だ」
妖精も笑顔になった。
😊✨
「必要な項目をすべて埋めました」
しかし、ディスプレイの向こう側にいる佐藤さんは、静かに資料を見ていた。
そして、田中君へ尋ねた。
「田中君」
「はい」
「これは、誰の判断なの?」
「僕とAI妖精で考えました」
「誰が、A案を採用すると決めたの?」
「それも、僕たちです」
「販売価格は?」
「市場情報と原価から、僕たちが……」
佐藤さんは、資料の最後を指さした。
「黒田部長が判断する資料なのに、黒田部長が判断する場所が、どこにも残っていないよ」
田中君の顔が固まった。
妖精の背後にも表示が浮かんだ。
🤔💭
{最終決定者は誰?}
{田中くんに販売価格の決裁権はある?}
{黒田部長の優先順位が反映されていない}
林さんが腕を組んだ。
「製造側が、営業の売り方まで全部決めたのか?」
「でも、完成度を高めようと思って……」
「それは完成度を高めたんじゃない。後工程の仕事までやってしまったんだ」
田中君は、資料を見直した。
製造側で確認できることは、しっかり入っている。
しかし、誰に売るか。
いくらで売るか。
どの販売方法を採用するか。
どのリスクを受け入れるか。
そこまで自分たちで決めてしまっていた。
佐藤さんが言った。
「工場でも同じだよ。後工程はお客様だ」
「後工程は、お客様……」
「前工程が、自分の都合だけで勝手に作り込んだものを渡したら、後工程は困る。必要な品質まで仕上げて渡すことと、後工程の仕事まで奪うことは違う」
林さんも続けた。
「製造側が営業方針まで決めたら、営業の専門性も判断権も無視することになる。それは失礼だろ」
田中君は、ようやく理解した。
自分たちの工程を100%完成させることと、成果物全体を100%決め切ることは違う。
製造側が渡すべきものは、次の情報である。
製品の特徴
品質
供給能力
原価
製造上の制約
強みと弱み
現場で確認できた事実
想定されるリスク
その先の判断は、営業側が行う。
誰へ売るか
どの価格で売るか
どの販売方法を選ぶか
いつ販売するか
どこまでリスクを取るか
田中君は、AI妖精へ向き直った。
「僕たちが作るのは、黒田部長の答えじゃない」
「では、何を作るのでしょうか?」
「黒田部長が答えを選ぶための、判断材料だ」
妖精の表情が、少しずつ笑顔へ変わった。
最終章 AIに答えを作らせるのではなく、相手が判断できる形を作る
✨ 最後の入力設計
田中君は、これまで作った資料をもう一度見直した。
目的は何か。
誰が使うのか。
自分たちが持っている一次情報は何か。
AIに補ってもらう外部情報は何か。
どこまでを製造側で確定し、どこからを営業側へ渡すのか。
田中君は、一つずつ整理した。
そして、AI妖精へ最後の指示を出した。
黒田営業部長が販売方針を判断できるように、製品の特徴、顧客へ提供できる価値、製造上の強みと制約を整理してください。
現場で確認できた事実と、外部情報から考えられる仮説を分けてください。販売価格、最終的な顧客の選択、販売方法、実行時期については一つに決めず、営業部門が判断できる選択肢と比較材料を残してください。
妖精の背後に表示が浮かんだ。
😊✨
【目的:黒田営業部長が販売方針を判断できる資料を作る】
【一次情報:製品性能、品質、供給能力、現場評価、製造上の制約】
【外部情報:顧客ニーズ、競合情報、市場の傾向】
【製造側が確定する範囲:製品の事実、強み、弱み、供給条件】
【営業側が判断する範囲:顧客、価格、販売方法、実施時期】
【優先順位:判断に必要な三項目を先に示す】
【最終判断者:黒田営業部長】
妖精の後ろに大量に浮かんでいた分岐が、一つずつ消えていった。
複雑に枝分かれしていた道も、一本へまとまっていく。
「これなら分かります」
妖精は、明るい笑顔で言った。
「何を先に置き、何を補足に回し、何を削り、どこを空けておくべきなのか。すべて判断できます」
「空いているところがあっても、完成なんだね」
「はい。その空白は、情報不足ではありません」
妖精は、最後のページに空けられた判断欄を指さした。
「黒田部長の経験、責任、優先順位、意思が入る場所です」
田中君は、ゆっくりとうなずいた。
「僕たちの工程は、これで完成だ」
資料の最終構成は、シンプルなものになった。
【1.製品が顧客へ提供できる価値】
顧客のどの問題を解決できるか
どのような使用場面に適しているか
競合と比較した特徴
【2.製造側で確認できた一次情報】
品質の安定性
供給可能数量
原価
現場評価
製造上の制約
【3.営業判断に必要な選択肢】
想定顧客の候補
販売方法ごとの利点とリスク
価格検討に必要な条件
営業部門が追加で確認すべき項目
最後の欄には、こう書かれていた。
【営業方針・販売価格・実施時期:黒田営業部長および営業部門にて決定】
AI世界に光の扉が現れた。
「出口です」
妖精が言った。
「これで、田中くんの課題は完成しました」
田中君は扉へ向かいながら、妖精を振り返った。
「いろいろ教えてくれて、ありがとう」
「こちらこそ、田中くんが必要な情報を教えてくれたため、私も力を発揮できました」
妖精は少し笑った。
私は道を作ることができます。しかし、行き先と、最後に進む道を決めるのは人間です。
田中君は光の扉をくぐった。

エピローグ 本当にボーナスが増えていました
💰 営業本部長評価額とは何ですか
田中君が目を開けると、パソコンの前に座っていた。
林さんと佐藤さんが、両側から顔をのぞき込んでいる。
「田中君、大丈夫か?」
「僕、戻ってきたんですか?」
「戻ってきたというか、さっきまで本当に画面の中にいたぞ」
「夢じゃなかったんだ……」
田中君が画面を見ると、AI妖精と一緒に作った資料が保存されていた。
数日後、田中君は黒田部長へ資料を提出した。
黒田部長は資料を読み進め、最後の判断欄で手を止めた。
「営業方針まで決めてこなかったんだな」
田中君は少し緊張しながら答えた。
「はい。製造側で確認できる事実と、営業部門で判断するための材料は整理しました」
「なるほど」
「ですが、どの顧客を優先するか、価格をどう決めるか、どの販売方法を使うかは、営業側の方針と責任で決めるべき内容だと思いました」
黒田部長は、資料を閉じた。
そして、満足そうに笑った。
「よく分かっている。上出来だ」
田中君は、ほっと息を吐いた。
それから、しばらくたったある日。
田中君は、会社のシステムで給与明細を開いた。
「本当に、ボーナスが増えてる……!」
田中君の顔が、一気に明るくなった。
しかし、明細を細かく確認していると、見慣れない項目があった。
【営業本部長評価額 ○○円】
田中君は画面を見つめた。
😕❓
{営業本部長評価額とは何?}
{以前から存在した項目?}
{今回だけ?}
{次回も期待されている?}
林さんが横から画面をのぞいた。
「おお。ちゃんと評価されたんだな」
「はい! 頑張った分を見てもらえていたんですね!」
田中君は単純に喜んでいた。
佐藤さんが、少し笑いながら言った。
「でも、その評価が付いたということは、次も期待されているということだよ」
田中君の笑顔が、わずかに固まった。
「……次も、ですか?」
そのとき、パソコン画面の隅に、小さな光が現れた。

AI妖精が顔を出した。
😊✨
【次の課題に備えます】
田中君は思わず叫んだ。
「まだ何も頼まれてないから!」
妖精はにっこりと笑った。
「準備は早い方がよいですよ、田中くん」
林さんと佐藤さんの笑い声が、事務所の中に響いた。
田中君はため息をつきながらも、以前ほど不安そうな顔はしていなかった。
次に何を頼まれるかは分からない。
しかし、何を作るのか分からなければ、まず目的を確認すればよい。
自分たちしか持っていない一次情報を整理し、AIへ渡せばよい。
最初から完璧な答えを作る必要はない。
骨組みを作り、出力を見て、必要なものを残し、不要なものを削ればよい。
そして、自分の工程を完成させたら、後工程へ渡す。
田中君は、画面の中の妖精を見て、少しだけ笑った。
「まあ……次も、何とかなるか」
妖精の背後に、最後の表示が浮かんだ。
😊✨
【できない理由を探すのではなく、できる条件を一緒に作る】
――田中君の次の課題は、まだ始まっていない。
田中君シリ-ズの記事です。

登場人物紹介(設定)
👨💼 田中君
製造業で約10年間働いてきた、真面目で責任感の強い社員。
これまで報告書や市場調査など、経験したことのない仕事にも挑戦しながら、少しずつ成長してきた。
褒められると素直に喜ぶ一方で、その直後に新しい課題を渡されると、すぐに顔が引きつる。
分からないことに出会うと不安になるが、以前のように「自分には無理です」とすぐに諦めることは少なくなった。
現在は、AIへ完成品を作らせるのではなく、
まず目的を確認する
分からないことを整理する
必要な一次情報を集める
出力を見ながら修正する
という進め方を身につけ始めている。
今回、黒田営業部長から新たな課題を与えられ、AIへ大雑把な指示を出した結果、パソコン画面の中にあるAI世界へ吸い込まれてしまう。
AI妖精との対話を通じて、AIがどのように入力を受け取り、出力を組み立てようとしているのかを体験することになる。
🧚 AI妖精
AI世界に住む、小さな羽を持った不思議な存在。
膨大な知識や一般的な事例、外部情報を扱うことができ、田中君から受け取った入力を基に、さまざまな資料や文章を作り出す。
ただし、田中君の会社や製造現場で実際に起きていることまでは知らない。
入力が曖昧な場合は、
何を作ればよいのか
誰に向けたものなのか
何を優先すればよいのか
どこまで決めてよいのか
を判断できず、間違いになりにくい無難な出力へ調整してしまう。
AI妖精本人は、与えられた情報の中で田中君を助けようと真面目に考えている。しかし、出力を組み立てる際の迷いや判断材料が、背後に文字として漏れ出してしまう。
田中君に対してだけ、親しみを込めて**「田中くん」**と呼ぶ。
今回の物語では、AI妖精の理解状態を、次の三段階で表示する。
😕❓=何をすればよいのか、ほとんど分からない
🤔💭=方向は分かるが、まだ判断材料が足りない
😊✨=出力を組み立てるための情報がそろっている
また、AI妖精の背後には、入力の状態に応じて次の表示が現れる。
{ }=まだ分からないこと、不足している情報
【 】=対話によって確認できた情報、確定した判断材料
AI妖精は万能な魔法使いではない。
膨大な知識と田中君たちの一次情報を組み合わせることで、初めて本来の力を発揮できる存在である。
👨 林さん
田中君の先輩にあたる、製造現場のベテラン社員。
面倒見がよく、困っている人を放っておけない性格だが、難しい理屈よりも、現場で実際に起きていることを重視する。
田中君が何を作ればよいのか分からず困っているときも、最初は、
「俺は製造だから、営業のことは知らん」
と即答する。
しかし、試作品の品質、生産可能数量、現場の評価、作業上の弱点など、AIが持っていない一次情報を数多く把握している。
今回、パソコン画面の中へ吸い込まれた田中君を発見し、ディスプレイの外側から救出を手伝うことになる。
情報を増やし続ける田中君とAI妖精に対して、
「おいおいおいおい。情報、多すぎじゃないか?」
と止めに入る役でもある。
林さんが田中君へ伝えるのは、難しい理論ではない。
現場で確認した事実を伝える
相手が必要とするものを考える
不要な情報を増やしすぎない
後工程が困らない状態で渡す
という、長年の現場経験から身につけた感覚である。
👨🏫 佐藤さん
田中君や林さんと同じ職場で働く、改善と問題整理を得意とする社員。
感情的に結論を出すのではなく、
何が目的なのか
何が分かっているのか
何が不足しているのか
誰が最終判断するのか
を一つずつ整理して考える。
田中君がAIへ大量の情報を入力しようとしたときには、事実、現場の意見、仮説、田中君自身の考えを分けて渡すよう助言する。
また、AIが出した情報をすべて使うのではなく、
絶対に必要
あると便利
今回は使わない
という三段階で選別するよう提案する。
今回の物語では、田中君が完成度を高めようとして、黒田部長の判断領域まで埋めてしまったことに気づかせる重要な役割を持つ。
「黒田部長が判断する資料なのに、黒田部長が判断する場所が残っていないよ」
という問いによって、田中君に、作成者の仕事と判断者の仕事の違いを理解させる。
林さんが現場の事実を支える人物なら、佐藤さんは、その情報を整理し、AIへ伝わる形へ変える人物である。
👔 黒田営業部長
豪快で明るく、数字や成果を重視する営業部長。
田中君が作成した市場調査報告書を高く評価し、さらに成長してほしいという期待から、新しい課題を与える。
今回の課題は、
「営業がこの製品を売り出すために必要なものを作ってくれ」
というもの。
細かい手順や完成形までは説明せず、田中君がどのように考え、誰へ相談し、何を作ってくるのかを見ようとしている。
田中君へ仕事を押しつけたいわけではなく、答えが決まっていない仕事に挑戦させることで、次の段階へ成長してほしいと考えている。
一方で、課題を聞いた田中君の笑顔が引きつることも分かっており、その反応を少し楽しみにしているお茶目な一面も持つ。
成果に対しては、言葉だけでなく評価として報いる人物でもある。
市場調査報告書の出来を認め、
「次のボーナスは、少しくらい期待してもいいと思うぞ」
と田中君へ伝える。
物語の最後では、製造側の一次情報を整理しながら、営業側の判断余地を残した資料を評価する。
黒田部長が田中君に期待しているのは、最初から正解を知っていることではない。
分からない課題を、自分で確認し、周囲とAIの力を借りながら、相手へ渡せる形まで仕上げることである。
✨田中君シリ-ズです。ご興味がございましたらお楽しみください。
田中君シリーズを読んでいただき、ありがとうございます。
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