【Ai x 入力設計 11】田中君 、60点の報告書をAIと一緒に90点へ - 現場の一次情報を、読み手に届く言葉へ変えるAI活用術


👥 登場人物紹介
🌱 田中君 (画面 左)
20代。
好奇心旺盛で、気になったことはすぐに試してみる行動派。
AIについては初心者だったが、
「とりあえずやってみよう」
という性格のおかげで、少しずつ活用の幅を広げていく。
本作の主人公。
☕ 林さん (画面 中央)
30代前半。
田中君の友人。
人の話をよく聞き、面倒見が良いタイプ。
相手の成長を素直に喜べる性格で、
田中君がAIに興味を持つきっかけを作った人物。
本作では読者に近い視点で疑問を投げかける役割も担う。
🏭 佐藤さん (画面 右)
40代前半。
仕事が非常にできるが、
それをひけらかすことはない。
人を見下したり否定したりせず、
相手の話をよく聞きながら、
気付きを与える形で導いてくれる。
AIを使いこなしているというより、
改善活動を長年続けた結果として、
AIを自然に活用している頼れる大先輩。
田中君シリ-ズの記事です。

田中くん、60点の報告書を90点にする
田中くんは、少し緊張しながら部長の席の前に立っていた。
提出した報告書には、自分なりに現場で見たこと、感じたこと、改善できそうな点を書いたつもりだった。
決して手を抜いたわけではない。むしろ、かなり真剣に書いた。
部長は報告書に目を通したあと、少しだけ間を置いて言った。
「田中、お前の報告書な。筋は悪くない」
田中くんは、少しだけほっとした。
「ありがとうございます」
しかし、部長はそのまま続けた。
「ただ、今のままだと60点だな」
「60点……ですか」
田中くんの表情が少し曇った。
自分ではそれなりに書けたと思っていたからだ。
部長は、そこで報告書を突き返すようなことはしなかった。
「勘違いするなよ。アイデアが悪いと言っているんじゃない。現場を見ている目は悪くない。むしろ、そこは評価している」
田中くんは顔を上げた。
「では、何が足りないんでしょうか」
部長は報告書の一部を指さした。
「読む側に伝わる説明が足りない。現場を知らない人が読んだ時に、なぜこれが問題なのか、なぜこの改善が必要なのかが少し分かりにくい」
「なるほど……」
「田中、お前、最近AIをよく使っているんだろう?」
「はい。報告書の整理や、文章の見直しに少し使っています」
部長はうなずいた。
「なら、これをAIと一緒に90点まで持っていってみないか」
田中くんは少し驚いた。
「AIで、ですか?」
「ああ。AIに丸投げしろという意味じゃない。お前の報告書の良い部分、足りない部分、読み手が疑問に思いそうな部分を整理させてみるんだ」
部長は続けた。
「この報告書は、材料は悪くない。ただ、読む人に伝わる形になりきっていない。だったら、AIを使って説明の不足を見つければいい」
田中くんは、少し考えてからうなずいた。
「分かりました。AIには、どう聞けばいいですかね」
部長は紙に簡単なメモを書いた。
「こう聞いてみろ」
この報告書を読んで、良い部分、分かりにくい部分、説明が不足している部分、上司や他部署が疑問に思いそうな部分を整理してください。
報告書の意図は変えずに、読み手に伝わりやすくするための改善案を出してください。
田中くんは、そのメモを見て目を丸くした。
「これなら聞けそうです」
「そうだろう。AIは報告書を代わりに書く道具じゃない。お前の考えを、相手に伝わる形に整えるための道具だ」
田中くんは、報告書を抱え直した。
さっきまでの「60点」という言葉は、もうただのダメ出しには聞こえなかった。
今は、90点に近づけるための出発点に見えていた。
部長は最後に言った。
「大事なのは、AIを使ったかどうかじゃない。お前の考えが、読む人にちゃんと届くかどうかだ。そこをAIと一緒に磨いてこい」
田中くんは、はっきりとうなずいた。
「はい。やってみます」

田中くん、80点から90点への壁にぶつかる
田中くんは、AIとの画面を見つめながら、何度も同じような質問を繰り返していた。
「この報告書を、もっと良くしてください。」
AIは、すぐに返事をくれた。
結論をより明確にし、数字の根拠を補足すると、さらに説得力が増します。
また、対策案を具体的に書くことで、読み手に伝わりやすくなります。
田中くんは、その通りに直した。
もう一度、AIに聞いた。
「さらに良くするには、どこを直せばいいですか?」
AIは、また答えてくれた。
結論を簡潔にし、根拠を明確にし、対策を具体化するとよいでしょう。
田中くんは、画面の前で眉を寄せた。
「……さっきと、あまり変わらないな」
AIの答えが間違っているわけではない。
でも、田中くんが求めている“あと10点”には届いていない気がした。
画面には、AIと何度もやり取りしながら修正した報告書が開かれている。
最初に部長へ提出した時より、かなり良くなっている自信はあった。
結論は前に出した。
数字の根拠も足した。
対策案も具体的にした。
再発防止の観点も入れた。
部長から言われた「60点」という状態から考えれば、かなり前進している。
田中くん自身も、今なら80点くらいまでは来ていると思っていた。
それでも、何かが足りなかった。
「うーん……あと10点、どこを詰めればいいんだろう」
その時、後ろから聞き慣れた声がした。
「おやおや、田中君。AIと一緒に頑張って作業しているみたいだが、ずいぶん暗い表情をしているね」
田中くんが振り向くと、そこには佐藤さんが立っていた。
「佐藤さん……実は、報告書の修正で行き詰まっていまして」
「ほう。部長に出した報告書かい?」
「はい。部長からは、筋は悪くないけど今のままだと60点だと言われました。それで、AIと一緒に90点を目指してみないかって言われたんです」
佐藤さんは、ゆっくりとうなずいた。
「それで、どこまで来たんだい?」
「僕の中では、80点くらいまでは詰められたと思っています。AIにも何度も見てもらって、結論も整理しましたし、数字も補いました。対策もかなり具体的にしたつもりです」
「なるほど」
「でも、あと10点が分からないんです。AIに聞いても、だんだん同じような指摘ばかりになってきて……正直、頭が痛いです」
佐藤さんは、田中くんの画面をのぞき込んだ。
しばらく黙って報告書を読んでいた佐藤さんは、小さく「ふむ」とつぶやいた。
「田中君」
「はい」
「この報告書は、とてもよくできているよ。現場を見ている人間が書いた報告書としては、かなり筋がいい」
田中くんは、少しだけ表情を明るくした。
「本当ですか?」
「ああ。本当だ。ただ、一つ気になるところがある」
田中くんは、すぐに背筋を伸ばした。
「どこでしょうか」
佐藤さんは、画面の文章を指さした。
「現場寄りの表現が多すぎる」
「現場寄り、ですか?」
「そうだ。君は製造現場をよく知っている。だから、現場の人間には伝わる言葉で書けている。そこは強みだ」
佐藤さんは、少し間を置いて続けた。
「ただし、読む人がみんな君と同じ現場経験を持っているわけではない」
田中くんは、黙って画面を見た。
「たとえば、部長は現場経験があるからまだ読める。でも、他部署の管理職や経営側の人が読んだ時に、同じように伝わるかというと、少し難しいかもしれない」
「つまり、内容が悪いわけではなくて……」
「そう。内容ではなく、翻訳が足りないんだ」
「翻訳……」
佐藤さんはうなずいた。
「私たち現場の人間は、つい現場の言葉で説明してしまう。ロット、段取り、手戻り、混入、確認工数、再発防止。どれも大事な言葉だが、現場を知らない人には重さが伝わりにくい」
田中くんは、少し考え込んだ。
「たしかに、僕は分かっている前提で書いていたかもしれません」
「そこだよ。君の報告書は、現場の人間にはかなり伝わる。でも、現場を知らない人には、なぜそれが問題なのか、どれくらい大きな影響があるのかが見えにくい」
佐藤さんは、田中くんの方を見た。
「だから、AIの使い方を少し変えてみるといい」
「どう変えるんですか?」
「AIに、報告書を良くしてもらうんじゃない。君の現場の言葉を、現場を知らない人にも分かる言葉に翻訳してもらうんだ」
田中くんは、はっとした。
「翻訳として使う……」
「そうだ。AIは、君の代わりに現場を知っているわけではない。でも、君が現場の情報を渡せば、それを一般の読み手に伝わる形へ整えることはできる」
佐藤さんは、メモ用紙に短く書き出した。
この報告書には、製造現場の表現が多く含まれています。
現場経験の少ない管理職や他部署の人にも伝わるように、専門用語や現場特有の表現を分かりやすく言い換えてください。
ただし、現場の意図や問題の深刻さは弱めないでください。
田中くんは、その文面を見つめた。
「なるほど……。僕はAIに“もっと良くして”とばかり聞いていました」
「それでも80点までは行ける。だが、90点にするには、誰に伝える報告書なのかをはっきりさせる必要がある」
佐藤さんは穏やかに言った。
「現場の言葉を、管理側に届く言葉へ変える。そこにAIを使うんだ」
田中くんの表情が、少しずつ明るくなっていった。
「佐藤さん、これならあと10点、詰められそうです」
「そうだろう。君の報告書に足りなかったのは、熱意でも情報量でもない。読み手への橋だ」
「読み手への橋……」
「そう。現場の一次情報は、君が持っている。AIは、その橋をかける手伝いをしてくれる」
田中くんは、もう一度パソコンに向き直った。
さっきまで重たく見えていた報告書が、今は少し違って見えた。
直すべき場所が、ようやく見えた気がした。
「よし……もう一回、AIに聞いてみます」
佐藤さんは満足そうに笑った。
「いいね。田中君。80点の報告書を90点にする最後の仕事は、文章を増やすことじゃない。伝わる相手を増やすことだよ」

林さん、報告書にもう一つの壁を見つける
田中くんは、画面に映る報告書を何度も読み返した。
現場の言葉が、驚くほどすっきりと整理されている。
「これは……いけるんじゃないか」
田中くんの口元が、少しだけ緩んだ。
部長に「60点」と言われた時のことが、もう遠い昔のことのように感じられた。
田中くんは、佐藤さんにもらったアドバイスをもとに、AIと何度もやり取りしていた。
現場の言葉を、管理職や他部署の人にも伝わる言葉へ変える。
その考え方に気づいてから、報告書はずいぶん読みやすくなっていた。
さっきまで詰まっていた場所に、少しずつ橋がかかっていくような感覚があった。
「よし……これなら、かなり良くなってきたかもしれない」
田中くんが小さくつぶやいた時、今度は別の声が聞こえた。
「田中くん、報告書、かなり頑張って書いているみたいだね」
振り向くと、林さんがこちらを見ていた。
「林さん」
「さっき佐藤さんから何やらアドバイスをもらっていただろう。ずいぶん表情が明るくなったけど、出来はどうなんだい?」
田中くんは、少し照れくさそうに笑った。
「はい。佐藤さんから、現場の言葉を読む人に伝わる言葉へ翻訳してみたらどうかって言われまして。今、一生懸命AIと頑張っているところです」
「なるほどね」
「どうですか、見てみますか?」
林さんは、少しだけ身を乗り出した。
「頑張ってるんだったら、ちょっと拝見してみようか」
田中くんは、画面を林さんの方へ向けた。
林さんは、ゆっくりと報告書を読み始めた。
最初はうなずきながら読んでいた。
しかし、途中から少しだけ表情が曇った。
田中くんは、その変化にすぐ気づいた。
「あの……何か気になるところがありますか?」
林さんは、画面から目を離さずに言った。
「ふむ。すごくよくできていると思うよ。前よりかなり整理されている」
「本当ですか?」
「ああ。現場で何が起きているのか、問題点も対策もかなり見えやすくなっている」
田中くんは、ほっとした。
だが、林さんはそこで少し間を置いた。
「ただね、田中くん。ちょっと専門的な知識が必要になる表現がまだ残っているかな」
「専門的な知識、ですか」
「そうだね。佐藤さんは経験が長いから、これでも十分に分かると思う。部長も現場を見ている人だから、おそらく読める」
林さんは、報告書の一文を指さした。
「でも、僕にとっては少し難しい表現がある。意味はなんとなく分かるけど、すっと頭に入ってこない」
田中くんは、少し驚いた。
「林さんでも、そう感じますか?」
「感じるよ。現場の人間でも、担当している工程が違えば分からない言葉はある。ましてや、他部署や経営側の人が読むなら、もっと引っかかるかもしれない」
田中くんは、黙って画面を見つめた。
佐藤さんの助言で、現場語を管理側に伝わる言葉へ変えたつもりだった。
でも、林さんの指摘で、まだ届いていない相手がいることに気づいた。
「じゃあ、どうすればいいんでしょうか」
林さんは少し笑った。
「中学生でも分かるように作り変えてみたらどうだい?」
「中学生でも、ですか?」
「そう。もちろん、内容を幼稚にしろという意味じゃない。難しい話を、難しいまま出さないということだよ」
林さんは続けた。
「本当に分かりやすい報告書は、専門家だけが読める文章じゃない。専門家が読んでも正確で、専門外の人が読んでも大筋が分かる文章なんだ」
田中くんは、ゆっくりとうなずいた。
「つまり、正確さを残したまま、もっと噛み砕くということですね」
「そうだね。AIにこう聞いてみるといい」
林さんは、田中くんのメモ帳に短く書いた。
この報告書を、中学生でも大筋が分かるように言い換えてください。
ただし、内容の正確さや現場で起きている問題の深刻さは弱めないでください。
専門用語が必要な場合は、短い説明を添えてください。
読み手が最初に理解すべき順番で、文章を整理してください。
田中くんは、その文面を見て、目を丸くした。
「なるほど……。僕は“管理職に伝わるように”とは考えましたけど、“専門外の人にも分かるように”までは考えていませんでした」
林さんはうなずいた。
「そこが最後の10点かもしれないね」
「最後の10点……」
「佐藤さんは、現場の言葉を管理側に翻訳することを教えてくれた。僕から見ると、次はもう一段、誰にでも伝わる言葉にすることだと思う」
田中くんは、報告書を見直した。
たしかに、文章はかなり整っている。
でも、まだ読む人に知識を求めている部分がある。
「僕の報告書は、読む人に少し頑張らせていたのかもしれません」
林さんは、少し嬉しそうに笑った。
「いい気づきだね。報告書は、書いた人の努力を見せるものじゃない。読む人が判断しやすくなるためのものだ」
田中くんは、深くうなずいた。
「AIに、もう一回聞いてみます」
「いいと思うよ。今度は“すごい報告書にして”じゃなくて、“誰が読んでも判断できる報告書にして”と頼むんだ」
田中くんは、キーボードに手を置いた。
さっきまでの報告書は、現場を知る人に向けた文章だった。
佐藤さんの助言で、管理側にも届く文章になった。
そして林さんの言葉で、さらに広い読み手へ届ける必要が見えてきた。
田中くんは、AIに新しい指示を入力した。
「この報告書を、中学生でも大筋が分かるように言い換えてください。ただし、内容の正確さと問題の深刻さは弱めないでください」
送信ボタンを押した瞬間、田中くんの表情はもう暗くなかった。
報告書を90点に近づける最後の道筋が、ようやく見えてきた気がした。
田中くん、90点の報告書を部長へ持っていく
田中くんは、完成した報告書を手に、もう一度部長の席へ向かった。
最初に提出した時よりも、ずいぶん時間がかかった。
けれど、その時間は無駄ではなかった。
AIと何度もやり取りした。
佐藤さんからは、現場の言葉を管理側に伝わる言葉へ翻訳することを教わった。
林さんからは、専門外の人にも分かるように噛み砕くことを教わった。
田中くんは、少し緊張しながら報告書を差し出した。
「部長、報告書を修正しました。確認をお願いします」
部長は報告書を受け取り、ゆっくりと読み始めた。
田中くんは、その間、黙って立っていた。
以前なら、部長が眉を寄せるたびに不安になっていた。
けれど今回は、少し違った。
自分だけで書いた報告書ではない。
AIと一緒に整理し、佐藤さんと林さんの視点を入れて、読む人に届くように磨いた報告書だった。
しばらくして、部長が顔を上げた。
「田中」
「はい」
「かなり良くなったな」
田中くんは、思わず息を止めた。
「本当ですか?」
「ああ。最初の報告書は、現場を見ている人間が読めば筋は分かった。ただ、現場を知らない人には少し難しかった」
部長は、修正されたページを指さした。
「今回は、簡単で分かりやすくなっている。しかも、ただ簡単にしただけじゃない。専門的な部分を噛み砕きながら、中身の深さは残している」
田中くんの表情が明るくなった。
「佐藤さんと林さんにも見てもらいました。佐藤さんからは、現場の言葉を読む人に伝わる言葉へ翻訳した方がいいと言われました。林さんからは、中学生でも大筋が分かるくらいにした方がいいと」
部長は小さく笑った。
「なるほど。いい助言をもらったな」
「はい。AIにも、その方向で何度も聞き直しました」
部長は報告書をもう一度見た。
「私たち技術屋や、現場を知っている人間は、つい勘違いするんだ」
「勘違い、ですか」
「報告書を読む相手も、自分たちと同じくらい現場を知っているはずだと思ってしまう」
田中くんは、静かにうなずいた。
「僕も、最初はそうだったと思います」
「現場の人間にとっては当たり前の言葉でも、他部署の人には当たり前ではない。技術屋にとっては当然の前提でも、経営側や管理部門には伝わらないことがある」
部長は、報告書の一文を指でなぞった。
「今回の報告書は、そこに配慮できている。専門知識や現場経験がない人にも、何が問題で、なぜ対策が必要で、どう改善すればよいのかが伝わる」
田中くんは、少し照れくさそうに頭を下げた。
「ありがとうございます」
「特に良いのは、中身が薄くなっていないところだ」
部長の声は、穏やかだったが、はっきりしていた。
「分かりやすくしようとすると、内容まで薄くなることがある。だが、この報告書は違う。現場の重要な情報を残したまま、読み手が判断できる形に整理されている」
田中くんは、その言葉を聞いて、胸の奥が少し熱くなった。
最初に60点と言われた時は、正直かなり落ち込んだ。
けれど今は、その60点という言葉が、改善の出発点だったのだと分かる。
部長は報告書を閉じた。
「田中。この報告書は、横展開に使える」
「横展開、ですか?」
「ああ。今回の内容は、君の部署だけの話ではない。他の工程や他部署にも関係する。だからこそ、現場を知らない人が読んでも分かる必要があった」
田中くんは、そこでようやく気づいた。
自分は、部長に提出するためだけに報告書を書いていた。
しかし部長は、その先の読み手まで考えていた。
他部署の管理職。
現場経験の少ない担当者。
経営側。
これから同じ問題に向き合う別のチーム。
その人たちにも伝わる報告書にする必要があったのだ。
部長は、少しだけ表情を緩めた。
「田中、よくここまで持ってきたな。これは90点と言っていい」
田中くんは、驚いたように目を開いた。
「90点……」
「ああ。ただし、AIが90点にしてくれたわけじゃないぞ」
部長は、田中くんをまっすぐ見た。
「AIを使って、自分の報告書の弱いところを見つけた。佐藤や林の意見を聞いて、読み手を広げた。そして最後に、自分で判断してまとめ直した。そこが良かったんだ」
田中くんは、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。最初は、AIにどう聞けばいいのかも分かりませんでした。でも、途中から分かってきました」
「何が分かった?」
「AIに“もっと良くして”と頼むだけでは足りないということです。誰に向けて、何を伝えるのかを決めないと、AIも本当に必要な直し方ができないんだと思いました」
部長は満足そうにうなずいた。
「その通りだ」
田中くんは続けた。
「それと、報告書は自分が分かっていることを書くものではなく、相手が判断できるように書くものなんだと分かりました」
部長は、静かに報告書を机に置いた。
「いい気づきだ。そこまで分かったなら、次は最初から80点の報告書が書けるようになる」
田中くんは少し笑った。
「次は、最初から90点を目指します」
「いや、最初から90点でなくていい」
部長は言った。
「まずは、60点でもいいから出すことだ。そこからAIや周囲の力を使って、80点、90点に育てればいい」
田中くんは、その言葉に救われるような気がした。
完璧な報告書を一人で作る必要はない。
まず形にする。
足りないところを見つける。
AIと人の視点を使って磨く。
それもまた、仕事の進め方なのだ。
部長は最後に、報告書を田中くんへ返した。
「この報告書を、次の会議で使おう。君から説明してくれ」
「僕が、ですか?」
「ああ。これだけ分かりやすくまとめられたなら、君自身の言葉で説明できるはずだ」
田中くんは、少し緊張しながらも、しっかりとうなずいた。
「はい。やってみます」
最初は60点だった報告書。
AIと向き合い、佐藤さんに現場語の翻訳を教わり、林さんに誰でも分かる表現を教わり、ようやく90点に近づいた。
田中くんは、報告書を抱えながら思った。
AIは、報告書を代わりに完成させてくれる道具ではない。
自分の考えを、相手に届く形へ磨くための相棒なのだ。

部長は報告書を閉じ、軽く背もたれに寄りかかった。
いつもより少しだけ、表情が柔らかい。
「田中、ちょっと座れよ。報告書の話はこれで終わりだ。少し雑談しよう」
「はい」
田中くんは、まだ少し緊張を残したまま、向かいの椅子に腰を下ろした。
部長は窓の外を眺めながら、ゆっくりと言った。
「正直なところ、最初の報告書を見た時は、“また現場の熱意だけが先行したものかな”と思ったよ」
田中くんは、少しだけ肩をすくめた。
「……やっぱり、そう見えましたか」
「悪い意味だけじゃない。現場を見ていなければ、あの熱量は出ない。だが、熱量だけでは報告書は通らない」
部長は、机の上の報告書を軽く指で叩いた。
「でもお前は、ちゃんとAIを使って、読み手に届く形まで持ってきた。これは大きい」
「ありがとうございます。最初は、AIに何を聞けばいいのかも分からなくて……本当に右往左往しました」
部長は小さく笑った。
「それでいいんだ。AI時代に必要なスキルって、結局そこなんだよ」
田中くんは、少し身を乗り出した。
「そこ、ですか?」
「ああ。完璧なプロンプトを書けることでも、最新のAIツールを全部使いこなせることでもない」
部長は、少し間を置いて続けた。
「自分の一次情報を、相手に伝わる言葉へ整理できる力だ」
「一次情報……」
「現場で見たこと。感じた違和感。実際に困っていること。積み重ねてきた経験。そういうものだ」
田中くんは、佐藤さんと林さんに言われたことを思い出した。
現場の言葉を、管理側に届く言葉へ。
専門的な表現を、専門外の人にも分かる言葉へ。
どちらも、自分の中にあった情報を、相手に届く形に変える作業だった。
部長は指を一本立てた。
「AIは鏡みたいなものだ。曖昧なものを渡せば、曖昧な答えが返ってくる」
田中くんは、思わず苦笑した。
「それ、今回かなり実感しました。最初は“もっと良くしてください”みたいな聞き方ばかりしていて、AIの返答もだんだん似たようなものになってしまって」
「そうだろうな」
「でも、“現場を知らない人にも分かるように”とか、“中学生でも大筋が分かるように”と聞き方を変えたら、返ってくる答えが変わりました」
部長は満足そうにうなずいた。
「それが大事なんだ。AIに何を聞けばいいか分からない、という壁は、実は自分の頭の中がまだ言語化できていないというサインでもある」
田中くんは、ゆっくりとうなずいた。
「たしかに……。僕は、現場で起きていることは分かっているつもりでした。でも、それを他の人に伝える形にはできていませんでした」
「そこに気づけたなら十分だ」
部長は少し声を落とした。
「だからこそ、“そうじゃねえんだよ”という違和感を大事にしろ」
田中くんは顔を上げた。
「違和感、ですか」
「ああ。AIの答えがズレている。上司の指摘がよく分からない。報告書が伝わらない。そういう時に、ただ怒ったり落ち込んだりして終わるんじゃない」
部長は、報告書をもう一度指さした。
「なぜ違うと感じたのか。何が足りなかったのか。本当は何を伝えたかったのか。そこをAIにぶつけて、少しずつ問いを磨いていく」
田中くんは、静かに聞いていた。
最初にAIへ投げた時、思ったような答えが返ってこなかった。
佐藤さんに見てもらい、林さんに見てもらい、そのたびにAIへの聞き方が変わった。
聞き方が変わるたびに、報告書も変わっていった。
部長は言った。
「AIは道具だ。道具がいくら賢くなっても、使う人間の解像度が上がらなければ意味がない」
「解像度……」
「お前は今回、それを少し体感したはずだ。60点の報告書を90点に育てたのは、AIの力だけじゃない。お前が自分の経験を見つめ直し、読む人に届く形へ整理したからだ」
田中くんは、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……はい。AIは答えをくれる存在じゃなくて、一緒に自分の考えを整理してくれる相棒なんだと、ようやく分かりました」
部長は満足そうにうなずいた。
「その感覚を忘れるな」
そして、少し穏やかな声で続けた。
「これからは報告書だけじゃない。日常の小さな業務でも同じだ。分からないこと、面倒くさいこと、なんとなく違和感があること。それを全部AIに丸投げするんじゃなく、自分の一次情報として渡してみる」
田中くんは、真剣な表情で聞いていた。
「それが、AI時代に生き残るというより、むしろ活躍するためのスキルだと思う」
田中くんは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。今日の話、しっかり胸に刻みます」
部長は軽く笑って、手を振った。
「よし。次の報告書も、最初は60点から始めて構わないからな」
「いいんですか?」
「ああ。最初から完璧を狙って止まるくらいなら、60点で出せばいい」
部長は、少しだけ声に力を込めた。
「その代わり、ちゃんと磨いて90点まで持ってこい」
田中くんは、報告書を胸に抱えながら、はっきりとうなずいた。
「はい。次は、最初から“誰に伝えるのか”を考えて書いてみます」
✨田中君シリ-ズです。ご興味がございましたらお楽しみください。
田中君シリーズを読んでいただき、ありがとうございます。
「続きも読みたい」「今回の記事が役に立った」と感じていただけましたら、スキ、コメント、チップで応援していただけるとうれしいです。
皆さまからの応援は、田中君のおやつ、林さんの胃薬、佐藤さんのコーヒーブレイクに使わせていただきます。
#AI初心者 , #ChatGPT活用 , #AI活用術 , #AIとの対話 , #プロンプト , #思考整理 , #選ぶ対話術 , #AI壁打ち , #言語化 , #仕事術 , #ビジネス , #マーケティング , #自己成長 , #学び直し , #AI入力設計
#AIForBeginners , #ChatGPTTips , #PromptEngineering , #AIConversation , #BeginnerAI , #AIWorkflow , #ThinkingWithAI , #AIProductivity , #LearnAI , #AISelection , #DialogWithAI , #AIOrganization , #AIThinking , #SimpleAI , #AIPractice
