【Ai x 入力設計 15】田中君 第1部 🤖 田中君、AIと市場調査報告書をつくる


👥 登場人物紹介
👨💻 田中君
製造現場で約10年働く、この物語の主人公。
真面目で責任感がありますが、抜けを恐れて情報を集めすぎる傾向があります。
市場調査報告書を作る中で、AIに答えを求める使い方から、AIを使って自分で判断する方法を学んでいきます。
👨🔧 林さん
田中君と同じ現場で働く先輩。
難しい話を身近なたとえに置き換えながら、現場で本当に実行できるのかを確認します。
田中君が自分より先にChatGPTへ相談したことを、少しだけ気にしています。
👨🏫 佐藤さん
情報整理と改善に詳しい相談役。
報告書の目的、情報の優先順位、根拠と結論のつながりを確認します。
過去に六十ページの報告書を作り、上司から三ページ目で読むのを止められた経験があります。
👩💼 まゆみさん
林さんの恋人で、顧客や読み手の立場から意見を出します。
商品の強みが顧客の価値として伝わるか、情報が多すぎないかを鋭く指摘します。
言い方が少し直接的で、林さんから注意されることもあります。
👔 黒田営業部長
田中君へ市場調査報告書の作成を依頼した営業部長。
細かな説明よりも、まず結論と次に取るべき行動を求めます。
仕事を任せるときの決まり文句は、
「じゃあ田中、頼むわ!」
です。

📊 3つのAIで情報を集め、比較し、裏取りする――人間が主役になるコンテキスト型ライティング実践編
🏭 試作ラインから、市場へ
田中君は、試作ラインの一角で、新製品の状態を確認していました。
この製品は、数か月前から試作を繰り返してきたものです。
最初から順調だったわけではありません。
材料の配合を変更すれば、今度は形状が安定しない。
設備の条件を調整すれば、仕上がりにばらつきが出る。
品質を優先すると、製造時間が長くなる。
製造時間を短縮すると、不良が増える。
一つの問題を解決すると、別の問題が顔を出す。
田中君たちは、そのたびに原因を探し、条件を変更し、また試作品を作りました。
材料の配合を見直す
設備の温度や圧力を調整する
作業手順を変更する
検査項目を追加する
不良品と良品の違いを比較する
実際に使用した際の感触を確認する
そうした試行錯誤を繰り返し、ようやく品質が安定してきたところでした。
田中君は、完成した試作品を手に取りました。
最初に作ったものと比べると、見た目も、使いやすさも、耐久性も大きく改善されています。
この製品なら、もしかすると本当に商品として売り出せるかもしれない。
田中君たちの間にも、少しずつそんな期待が生まれていました。
ただし、それを決めるのは自分たちではありません。
量産するかどうか。
市販するかどうか。
どの価格で売るのか。
どの顧客を対象にするのか。
それらは、営業部や企画部、経営側が判断することです。
田中君たち試作チームの仕事は、まず製品を形にすることでした。
少なくとも、田中君はそう思っていました。
その人物が現れるまでは。
💨 黒田営業部長、豪快に現れる
「田中!」
試作ラインの入口から、大きな声が響きました。
田中君が振り向くと、黒田営業部長がこちらへ向かって歩いてきます。
黒田営業部長は、営業部全体をまとめる責任者です。
細かい数字にも目を通しますが、話し方や仕事の任せ方はかなり豪快でした。
長い説明をするよりも、
「目的はこれだ。あとは頼む」
と言って、相手に任せることが多い人物です。
任された側からすると、信頼されているとも言えます。
一方で、説明が少なすぎるとも言えました。
「はい、何でしょうか」
田中君が返事をすると、黒田営業部長は、机の上に置かれていた試作品を手に取りました。
「これだよ、これ」
「試作中の新製品ですね」
「ああ。だいぶ良くなったらしいじゃないか」
田中君は、少しうれしくなりました。
「はい。まだ細かい調整は必要ですが、最初の頃と比べると、かなり安定してきました」
「そうか、そうか」
黒田営業部長は、試作品をひっくり返したり、横から眺めたりしながら、満足そうにうなずきました。
そして、何気ない調子で言いました。
「そろそろ市販の話を進めるぞ」
「えっ」
田中君は、一瞬聞き間違えたのかと思いました。
「市販ですか?」
「そうだ。いつまでも試作ばかりしていても仕方がないだろう」
「それは、そうですが……」
田中君たちが作ってきたものが、いよいよ商品として会社の外へ出ていく。
そう考えると、喜びと同時に緊張が込み上げてきました。
まだ改善したいところはあります。
本当に顧客に満足してもらえるのかという不安もあります。
しかし、それでも、商品化へ進む可能性が出てきたことは素直にうれしいことでした。
「そこでだ、田中」
黒田営業部長は、試作品を田中君へ返しました。
「市場を調べて、報告書にまとめてくれ」
「はい?」
田中君は、今度こそ自分が聞き間違えたのだと思いました。
「市場調査だよ、市場調査」
「私がですか?」
「そうだ」
黒田営業部長は、実に簡単な話であるかのようにうなずきました。
「君たちが丹精込めて作ってきた商品だろう」
「はい」
「だったら、この商品の良いところも、悪いところも、君たちが一番よく知っている」
「それは、そうだと思います」
「営業や企画に全部任せる前に、まずは作った側の視点で市場を見てみてくれ」
黒田営業部長の話には、確かに筋が通っています。
商品を作ってきた田中君たちだからこそ、分かることがあります。
どこを改善してきたのか。
どの部分に苦労したのか。
競合商品と比べた際に、どこが強みになりそうなのか。
反対に、量産や販売に移す際に、どのような問題が起こりそうなのか。
そうした現場の一次情報は、営業部や企画部だけでは分かりません。
ただし、田中君には一つ、大きな問題がありました。
市場調査の報告書を書いたことが、一度もありません。
「黒田部長」
「何だ?」
「市場調査というのは、具体的にはどのあたりまで調べればよいのでしょうか」
黒田営業部長は少し考えました。
「市場のことを調べればいい」
「その市場というのは……」
「似た商品があるのかとか、いくらで売られているのかとか、どんな人が買うのかとかだな」
「なるほど」
「それから、この商品が売れそうなのかも見てくれ」
「売れそうかどうかですか」
「ああ。大事だろう」
もちろん大事です。
しかし、田中君には、それをどのように調べ、何を根拠に判断すればよいのか分かりません。
「報告書の形式は決まっていますか?」
「特に決まっていない」
「提出期限は……」
「なるべく早く」
「なるべく早く、ですか」
「そうだ」
黒田営業部長は、田中君の肩を軽くたたきました。
「じゃあ田中、頼むわ!」
そう言い残すと、黒田営業部長は次の予定を思い出したように、足早に試作ラインから出ていきました。
田中君は、手に持った試作品を見つめました。
そして、黒田営業部長が去っていった方向を見ました。
「頼むわ、で済む仕事なんだろうか……」
📄 第1章 報告書なら書いたことがあるはずだった
🔍 市場調査報告書という、名前は似ている別の書類
😨 頼られた喜びより、不安の方が大きい
田中君は、自分の席へ戻りました。
黒田営業部長から直接、重要な仕事を任された。
本来なら、もう少し喜んでもよい場面です。
自分たちが作ってきた新製品が評価され、市販に向けて動き始める。
しかも、市場調査の最初の仕事を、試作チームへ任せてもらえたのです。
これは、単なる雑用ではありません。
今後の商品化を左右する、重要な仕事です。
しかし、田中君の頭の中には、喜びよりも先に、いくつもの疑問が浮かんでいました。
市場調査とは、何を調べる仕事なのか
類似商品を探せばよいのか
価格を比較すればよいのか
顧客へアンケートを取る必要があるのか
市場規模を調べる必要があるのか
どこまで調べれば十分なのか
調べた結果を、どのように報告書へまとめるのか
最後に、自分が「売れる」「売れない」と判断するのか
田中君は、試作品を机の横に置きました。
「報告書なら、書いたことはあるんだけどな……」
思わず、独り言が出ました。
田中君は、これまでにも多くの報告書を書いています。
田中君が書いてきた報告書
生産実績をまとめた日報や月報
設備停止の経緯を記録した報告書
不良品が発生した際の原因報告書
作業遅延が起きた際の状況説明書
改善活動の前後を比較した改善報告書
試作条件を変更した際の結果報告書
これらの報告書には、ある程度共通する流れがありました。
工程報告書で整理すること
何が起きたのか
いつ、どこで起きたのか
どの程度の影響があったのか
なぜ起きたのか
どのように対応したのか
今後、同じ問題を防ぐために何をするのか
自分の工程で実際に起きたことなら、田中君は説明できます。
設備が止まった時間も分かります。
不良が何個発生したのかも記録されています。
どの条件を変更したのかも、作業記録を見れば確認できます。
つまり、工程報告書では、田中君自身が持っている現場の事実を中心に書けばよかったのです。
しかし、市場調査報告書は違います。
市場は、田中君の目の前にはありません。
顧客が何を考えているのかも分かりません。
競合企業が、なぜその価格を設定しているのかも分かりません。
似た商品が売れていたとしても、自社の商品も売れるとは限りません。
逆に、似た商品が少ないからといって、そこに大きなチャンスがあるとも限りません。
需要がないから、商品が存在していない可能性もあります。
田中君は、椅子に深く座り直しました。
「同じ報告書でも、全然違うじゃないか」
🧩 起きたことを書く報告書と、これからを考える報告書
田中君は、これまで自分が書いてきた報告書と、今回求められている報告書を頭の中で比較しました。
これまでの工程報告書
すでに起きた事実を扱う
自分たちの工程内の情報が中心
数字や記録を確認できる
原因や対応を説明する
再発防止や改善につなげる
今回の市場調査報告書
これから起きる可能性を扱う
社外や顧客の情報が中心
確定していない情報が多い
競合や需要を比較する
市販するかどうかの判断につなげる
並べてみると、名前は同じ「報告書」でも、役割が大きく違います。
工程報告書では、
何が起きたのか
を説明します。
市場調査報告書では、
これから何をするべきなのか
を考えるための材料を示します。
田中君は、そこでようやく、自分が困っている理由に気づきました。
文章の書き方が分からないのではありません。
市場調査報告書という仕事そのものを理解していないのです。
報告書の形だけをまねしても、中身は作れません。
市場規模、競合商品、顧客層などの言葉を並べても、それぞれ何のために必要なのかが分からなければ、判断材料にはなりません。
💻 まずChatGPTに聞いてみる
田中君はパソコンを開きました。
そして、いつものようにChatGPTを起動します。
入力欄に、最初はこう書こうとしました。
新製品の市場調査報告書を書いてください。
しかし、送信ボタンを押す直前で手を止めました。
商品について、まだほとんど説明していません。
調査結果もありません。
対象となる顧客も決まっていません。
市場調査報告書がどのようなものなのか、自分自身も理解していません。
その状態で「書いてください」と頼めば、ChatGPTはそれらしい報告書を作るかもしれません。
見出しも整っているでしょう。
文章も読みやすいでしょう。
市場の動向、競合分析、顧客ニーズ、今後の展望といった言葉も並ぶでしょう。
しかし、その内容が今回の商品に合っている保証はありません。
田中君は、入力した文章を削除しました。
「書かせる前に、まず聞かないと駄目だな」
田中君は、自分が知っていることと、分からないことを整理して入力しました。
私は製造現場で、自分の工程に関する生産実績、不良発生、設備停止、作業遅延、改善結果などの報告書を書いた経験があります。
今回、自分たちが試作してきた新製品を市販する前に、市場調査を行い、その結果を報告書にまとめるよう指示されました。しかし、市場調査報告書を書いた経験はありません。市場調査報告書とは、そもそも何のために作るものなのでしょうか。私がこれまで書いてきた工程報告書との違い、誰が何を判断するために読むのか、一般的な役割について、初心者にも分かるように説明してください。
田中君は内容を読み返しました。
自分の経験。
今回任された仕事。
分からない部分。
知りたいこと。
必要な情報は、ある程度入っています。
田中君は、送信ボタンを押しました。
🤖 ChatGPTが説明した市場調査報告書の役割
ChatGPTは、市場調査報告書について、次のように説明しました。
市場調査報告書は、単に市場について調べた情報を並べる書類ではありません。
主な目的は、新製品について、
顧客の需要があるのか
どのような人が必要としているのか
競合商品にはどのようなものがあるのか
競合商品と比べて、どのような違いがあるのか
どの価格なら受け入れられるのか
どのような方法で販売するのか
市販する際に、どのようなリスクがあるのか
商品化を進めるべきか
追加調査が必要なのか
といった内容を整理し、商品化に関わる人が判断するための材料を提供することです。
田中君は、その説明を何度か読み返しました。
工程報告書は、すでに起きたことを整理する。
市場調査報告書は、これから起こり得ることを予測し、判断材料を作る。
田中君は、ノートに次のように書きました。
工程報告書
起きたことを説明し、原因と対策を示す書類
市場調査報告書
市場の状況を調べ、これからどうするかを判断するための書類
「なるほど……」
田中君は、ようやく少しだけ入り口が見えた気がしました。
しかし、すぐに新しい疑問が浮かびます。
市場調査報告書が、何のために必要なのかは分かりました。
では、その報告書には、具体的に何を入れればよいのでしょうか。
市場について調べようと思えば、いくらでも調べることがありそうです。
市場規模。
顧客。
競合。
価格。
販売方法。
将来性。
流行。
法規制。
原材料。
SNSでの評価。
海外市場。
思いつくだけでも、次々に項目が出てきます。
全部を調べる必要があるのでしょうか。
それとも、今回の報告書に絶対必要なものがあるのでしょうか。
田中君は、次の質問を入力し始めました。
市場調査報告書は、調べた情報を大量に並べるための書類ではありません。
商品化に関わる人が、これから何をするのかを判断するための書類です。だからこそ、文章を書き始める前に、まず報告書の目的を理解する必要があります。
📊 第2章 市場調査報告書に絶対必要なものは何か
🧭 項目を増やす前に、判断に必要な順番を決める
💻 「構成」ではなく「必要な要素」を聞いてみる
市場調査報告書が、これからの判断に使う書類だということは分かりました。
しかし、田中君の疑問はまだ解決していません。
では、何を調べればよいのでしょうか。
市場について調べようと思えば、いくらでも項目が出てきます。
市場規模
市場の成長率
想定顧客
顧客の年齢
顧客の職業
顧客が抱えている悩み
競合商品
競合商品の価格
販売方法
SNSでの評価
将来性
海外市場
法律や規制
原材料価格
製造能力
販売後のリスク
田中君は、頭の中に浮かんだ項目をノートへ書き出してみました。
書けば書くほど、調べることが増えていきます。
「市場調査って、こんなにやることがあるのか……」
田中君は、早くも少し不安になってきました。
黒田営業部長は、確かにこう言いました。
「市場を調べて、報告書にまとめてくれ」
しかし、市場の何を、どこまで調べるのかまでは言っていません。
黒田営業部長にもう一度確認する方法もあります。
ただし、黒田営業部長に聞けば、おそらくこう返ってくるでしょう。
「必要なことを調べればいい」
田中君には、その光景が簡単に想像できました。
「その必要なことが分からないんだけどな……」
そこで田中君は、もう一度ChatGPTへ質問することにしました。
ただし、今回は少し慎重に考えます。
単に、
市場調査報告書の構成を教えてください。
と聞くだけでは、十分ではありません。
構成だけを聞けば、
表紙
目次
調査概要
市場分析
競合分析
結論
といった、報告書の見出しだけが返ってくる可能性があります。
それでは、書類の形は分かっても、何を優先して調べるべきかまでは分かりません。
田中君が知りたいのは、きれいな目次の作り方ではありません。
今回の新製品を市販するかどうか判断するために、何が絶対に必要なのか。
そして、どの情報から先に集めるべきなのか。
その順番です。
田中君は、次のように入力しました。
市場調査報告書が、新製品を市販するかどうかや、どのように販売するかを判断するための書類だということは分かりました。
次に、市場調査報告書を作成する際に、絶対に必要な要素を教えてください。単に項目を並べるのではなく、重要度と優先順位が高い順に並べてください。また、それぞれの項目について、次の内容も説明してください。・なぜ必要なのか・その情報がないと何を判断できないのか・自社の新製品を市販する際に、どのように使われるのか私は市場調査報告書を初めて作るため、できるだけ専門用語を使わずに説明してください。
田中君は、入力した内容を読み返しました。
今回も、自分の状況と知りたいことを具体的に伝えています。
単に「教えてください」と聞くのではなく、
何を作ろうとしているのか
何を判断したいのか
どのような順番で知りたいのか
どの程度の難しさで説明してほしいのか
まで伝えています。
田中君は、送信ボタンを押しました。
🤖 ChatGPTが最初に示したもの
ChatGPTから返ってきた回答の最初には、次のような説明がありました。
市場調査報告書で最も重要なのは、情報を多く集めることではありません。
何を判断するための調査なのかを明確にし、その判断に必要な情報を優先して集めることです。
田中君は、その文章を読みながらうなずきました。
「やっぱり、最初は目的なんだな」
ChatGPTが示した優先順位の第一位は、調査目的でした。
🎯 優先順位1 何を判断するための調査なのか
調査目的とは、この市場調査を通して、最終的に何を決めたいのかということです。
今回の場合、考えられる目的は複数あります。
この新製品を市販する価値があるか
どのような顧客に販売するか
どの価格帯で販売するか
競合商品との差別化が可能か
すぐに量産するか
小規模な試験販売から始めるか
市販前に追加で何を確認するか
同じ新製品の市場調査でも、何を決めたいかによって、必要な情報は変わります。
たとえば、販売価格を決めたいのであれば、
競合商品の価格
顧客が受け入れられる価格
製造原価
流通費用
利益を確保できる価格
が重要になります。
一方、商品そのものに需要があるかを確認したいのであれば、
どのような顧客が困っているのか
現在は何を使って解決しているのか
既存商品にどのような不満があるのか
その問題を解決するために、お金を払う意思があるのか
を調べる必要があります。
田中君は、黒田営業部長から言われた内容を思い出しました。
「この商品が売れそうなのかも見てくれ」
かなり大まかな指示です。
しかし、今回の目的は少なくとも、
この新製品を市販する価値があるのかを判断すること
だと考えられます。
さらに、
市販前に、何を追加で確認するべきかを明らかにすること
も必要になるでしょう。
田中君は、ノートの一番上に大きく書きました。
調査目的:新製品を市販する価値があるかを確認し、市販前に必要な追加検証を明らかにする。
「これが最初か」
田中君は、少しだけ報告書の輪郭が見えてきた気がしました。
👥 優先順位2 誰がこの商品を必要としているのか
次にChatGPTが挙げたのは、想定顧客でした。
商品を売るのであれば、誰に売るのかを考えなければなりません。
しかし、「誰にでも使えます」という考え方では、対象が広すぎます。
対象が広すぎると、
どの機能を強調するのか
どの価格にするのか
どこで販売するのか
どのような広告を出すのか
競合を何に設定するのか
が決められません。
想定顧客を考える際には、単に年齢や性別だけを見るのではありません。
どのような場面で使うのか
現在どのような不便を感じているのか
何を重視して商品を選ぶのか
どの価格帯なら購入できるのか
どのような販売場所を利用するのか
まで考える必要があります。
田中君は、試作品を見つめました。
この商品は、確かに多くの人が使える可能性があります。
しかし、「使える人」と「実際にお金を払って買う人」は同じではありません。
「誰でも使えるから、誰にでも売れるとは限らないのか」
田中君は、ノートに書き加えました。
想定顧客:この商品の強みを必要とし、実際に購入する可能性がある人。
💭 優先順位3 顧客は何に困っているのか
想定顧客が決まっても、それだけでは十分ではありません。
その顧客が何に困っているのか。
何を改善したいと思っているのか。
何を面倒だと感じているのか。
そこまで確認する必要があります。
ChatGPTは、顧客の悩みや要望を知る際には、次のような視点が必要だと説明しました。
現在、どのような方法で問題に対応しているのか
現在の商品や方法に、どのような不満があるのか
その不満は、どの程度深刻なのか
不満を解決するために、お金を払う意思があるのか
顧客が最も重視するのは、価格、品質、使いやすさ、耐久性のどれか
田中君たちは、自分たちの製品を良くするために、何度も改善を繰り返してきました。
しかし、それは主に製造側の視点です。
不良を減らす
品質を安定させる
製造時間を短縮する
耐久性を高める
作業しやすくする
これらは、製造する側にとって重要な改善です。
一方で、顧客が本当に求めているものと一致しているかは、まだ分かりません。
製造側が苦労して改善した部分でも、顧客がその違いを感じなければ、購入理由にはなりません。
反対に、製造側では大きな特徴だと思っていなかった部分が、顧客にとっては非常に重要な可能性もあります。
田中君は、少し考えました。
商品をよく知っていることと、顧客をよく知っていることは別なのです。
🥊 優先順位4 競合商品と代わりになる方法
次に必要なのは、競合商品です。
田中君は、最初は自社商品と形が似ているものだけを探せばよいと思っていました。
しかし、ChatGPTの説明では、競合とは似た商品だけではありません。
顧客が同じ問題を解決するために使っているものは、すべて競合になる可能性があります。
たとえば、新しい道具を開発した場合、競合になるのは他社の道具だけではありません。
既存の手作業
別の種類の道具
外部業者への依頼
使い捨て商品
修理して使い続ける方法
何も買わずに我慢するという選択
も含まれます。
顧客は、必ず商品同士を比べているとは限りません。
今のままで困り続けることと、新しい商品を買うことを比較している場合もあります。
田中君はノートに書きました。
競合:形が似た商品ではなく、顧客が現在選んでいる解決方法。
「これは、思っていたより広いな」
田中君は、競合商品を調べるだけでも、かなり時間がかかりそうだと感じました。
✨ 優先順位5 自社商品の一番良いところは何か
ChatGPTが次に挙げたのは、自社商品の強みでした。
市場調査というと、市場や競合など、会社の外ばかりを見る印象があります。
しかし、外部情報だけを集めても、自社商品と比較できなければ意味がありません。
確認する必要があるのは、
競合より優れている部分
顧客にとって分かりやすい利点
他社が簡単にまねできない部分
品質や耐久性
使いやすさ
価格
保守や交換のしやすさ
製造技術による特徴
です。
ただし、作った側が「優れている」と思っているだけでは不十分です。
顧客がその違いを価値として感じるかどうかが重要になります。
田中君たちが苦労して改善した部分が、そのまま顧客へのアピールポイントになるとは限りません。
たとえば、製造条件を細かく調整し、製品のばらつきを半分に減らしたとしても、顧客が使った際に違いを感じられなければ、販売上の強みとしては伝わりにくいでしょう。
一方、持ちやすさを少し改善しただけでも、毎日使う顧客にとっては大きな価値になる可能性があります。
田中君は、ここで少し自信を取り戻しました。
市場のことは分かりません。
しかし、商品についてなら知っています。
どこを改善したのか。
なぜその形状にしたのか。
どの条件で品質が安定するのか。
どこに製造上の難しさがあるのか。
それらは、田中君たちが持っている一次情報です。
「ここなら、僕たちにも書ける」
田中君は、少しだけ前向きになりました。
💴 優先順位6 いくらなら買ってもらえるのか
次に必要なのは価格です。
しかし、単に競合商品の価格を並べればよいわけではありません。
考える必要がある価格は、少なくとも三つあります。
顧客側の価格
いくらなら試しに買ってみようと思うか
いくらを超えると高いと感じるか
既存商品との差額を受け入れられるか
市場側の価格
競合商品はいくらで売られているか
高価格帯と低価格帯で何が違うか
値引き販売が多いか
定期購入やセット販売があるか
自社側の価格
製造原価はいくらか
包装や配送にいくらかかるか
販売手数料はいくらか
利益を確保できるか
量産すれば原価が下がるか
市場で受け入れられる価格でも、自社に利益が残らなければ販売を続けられません。
反対に、十分な利益が出る価格でも、顧客が高いと感じれば売れません。
顧客、市場、自社の三つが重なる価格帯を探す必要があります。
田中君は、ここで製造原価についても確認しなければならないことに気づきました。
市場調査という社外の仕事だと思っていましたが、社内情報も必要です。
調べる範囲が、また少し広がりました。
📈 優先順位7 市場の大きさと今後の変化
市場規模や成長性も必要な情報として挙げられました。
顧客が数人だけ存在しても、商品として継続的に販売できるとは限りません。
ある程度の需要があるのか。
今後、需要が増えるのか。
一時的な流行なのか。
長期的に必要とされるものなのか。
そうした点を確認します。
ただし、ChatGPTは、市場規模の大きな数字だけを見ないように注意しました。
たとえば、関連市場全体が一千億円あったとしても、自社商品が狙える部分が一%未満であれば、実際の対象市場はかなり小さくなります。
反対に、市場全体は小さくても、特定の顧客層に強い需要があり、競合が少なければ、十分に参入する価値があるかもしれません。
田中君は、市場規模という大きな数字を出せば、立派な報告書になると思っていました。
しかし、本当に必要なのは、
自社商品が実際に狙える市場が、どの程度あるのか
ということでした。
🚚 優先順位8 どのように顧客へ届けるのか
商品が良くても、顧客へ届ける方法がなければ売れません。
販売方法としては、さまざまな選択肢があります。
店舗販売
自社サイト
大手通販サイト
法人営業
代理店販売
展示会
既存顧客への案内
限定的な試験販売
販売経路によって、必要な費用や価格も変わります。
店舗で販売する場合は、店頭で目立つ包装が必要になるかもしれません。
通販で販売する場合は、写真や説明文が重要になります。
法人向けであれば、営業担当者が機能や導入効果を説明する必要があります。
田中君は、商品そのものだけではなく、売り方まで考える必要があると知りました。
⚠️ 優先順位9 分からないこととリスク
市場調査報告書では、分かったことだけを書くのではありません。
まだ分からないことも、明確に書く必要があります。
たとえば、
顧客へ直接意見を聞いていない
調査対象が少ない
競合商品の販売数が分からない
原材料価格が変動する可能性がある
量産時の品質が安定するか分からない
法律や安全基準の確認が終わっていない
市販後の問い合わせ対応が決まっていない
といった内容です。
分からないことを書くと、報告書の評価が下がるように感じるかもしれません。
しかし、分からないことを隠して、市販後に問題が発覚する方が危険です。
市場調査報告書では、
現時点で分かっていること
と、
まだ確認できていないこと
を分ける必要があります。
田中君は、この部分を読んで少し安心しました。
すべてを完璧に調べなければ、報告書を提出できないと思っていたからです。
しかし、確認できていない情報については、今後の調査課題として示せばよいのです。
✅ 優先順位10 結論と次に行うこと
最後に必要なのは、結論です。
ただし、市場調査報告書の結論は、必ずしも、
市販する
市販しない
の二択ではありません。
次のような結論も考えられます。
顧客の需要はありそうだが、価格の確認が必要
競合との差はあるが、顧客に伝わるか検証が必要
全面販売ではなく、小規模な試験販売から始める
特定の顧客層に限定して販売する
追加アンケートを行ってから判断する
製品の一部を改善してから市場へ出す
大切なのは、
現時点の情報で、何が言えるのか
と、
次に何を確認すれば、判断を前へ進められるのか
を示すことです。
田中君は、黒田営業部長が報告書を読む姿を想像しました。
大量の市場情報を渡されても、黒田営業部長は困るでしょう。
知りたいのは、
市販する価値があるのか
何が強みなのか
何が足りないのか
次に何をするのか
です。
田中君は、ノートの最後に書きました。
結論:集めた情報の説明ではなく、次の行動を決められる形にする。
📝 田中君、全部を書き写す
ChatGPTの回答を読み終えた田中君は、必要な項目をノートへ整理しました。
最初は十項目ほどだったはずです。
しかし、それぞれの項目について詳しく調べようとすると、さらに細かい項目が増えていきます。
顧客について
年齢
性別
職業
生活環境
使用場面
購入頻度
購入場所
購入理由
不満
希望
価格感覚
競合について
商品名
会社名
価格
品質
機能
耐久性
販売場所
口コミ
宣伝方法
保証
交換部品
市場シェア
市場について
市場規模
成長率
地域差
季節変動
法規制
海外動向
人口動態
将来予測
新規参入企業
SNSでの話題
田中君は、思いつく項目を次々に追加しました。
ノートは、すぐに二ページ、三ページと増えていきます。
「すごいな……」
田中君は、自分で作った一覧表を眺めました。
これだけ調べれば、かなり詳しい市場調査報告書になるはずです。
抜けも少ないでしょう。
黒田営業部長にも、「よく調べた」と言ってもらえるかもしれません。
田中君は、さらに項目を追加しました。
海外での類似商品の販売状況
十年後の市場予測
関連商品の特許
商品に関係する学術研究
原材料の国際価格
競合企業の経営状況
輸出した場合の規制
為替変動の影響
市場調査という言葉から連想できるものを、ほとんどすべて入れています。
田中君は、満足そうにうなずきました。
「よし。これを上から順番に全部調べよう」
そのときでした。
「田中君」
後ろから声がしました。
田中君が振り向くと、林さんが立っていました。
林さんは、田中君の机に広げられたノートと、パソコンの画面を交互に見ました。
「何してるんだ?」
「市場調査報告書に必要な情報を整理してるんです」
「へえ」
林さんは、ノートを一枚めくりました。
さらに、もう一枚めくります。
そして三枚目を見たところで、手を止めました。
「これ、全部調べるのか?」
「はい」
田中君は、自信を持って答えました。
「ChatGPTに必要な要素を優先順位順に出してもらいました。それを見ながら、関連する項目も追加したんです」
林さんは、もう一度ノートを見ました。
「海外市場も?」
「将来的には必要になるかもしれません」
「為替も?」
「海外で売ることになれば関係します」
「十年後の人口動態も?」
「市場の将来性を考えるなら必要かと」
林さんは、しばらく黙っていました。
そして、少し寂しそうな顔をして言いました。
「そうか」
「どうしたんですか?」
「いや、別に」
「何か問題がありますか?」
林さんはノートを机へ戻しました。
「俺に相談する前に、ChatGPTを頼るんだなと思ってな」
「えっ」
「寂しいもんだな。長いこと一緒に働いてきた後輩が、最初に相談する相手はAIか」
「いや、林さんに市場調査報告書を書いた経験があるか分からなかったので」
「ない」
「ないんですか」
「ないけど、相談ぐらいはできるだろ」
田中君は、返す言葉に困りました。
林さんは、再びノートを見ました。
「それで、これを全部調べるのに、どれくらいかかるんだ?」
「まだ分かりません」
「報告書はいつまでなんだ?」
「なるべく早く、と」
「黒田部長らしいな」
林さんは苦笑しました。
そして、大量の項目が書かれたノートを指さしました。
「田中君」
「はい」
「これだけ調べたあと、黒田部長は何を決めればいいんだ?」
田中君は、答えようとして口を開きました。
しかし、言葉が出てきません。
市販するかどうか。
どの顧客に売るのか。
価格をいくらにするのか。
追加調査をするのか。
調べる項目は大量にあります。
しかし、それぞれの情報を、どの判断に使うのかまでは整理していませんでした。
林さんは、もう一度ノートをめくりました。
「必要なものを調べてるんじゃなくて、調べられそうなものを全部並べてないか?」
田中君は、画面に並んだ項目を見ました。
一つひとつは、市場調査に関係しています。
どれも間違っているとは言えません。
しかし、全部必要かと聞かれると、自信がありません。
田中君は、少しだけ声を落としました。
「抜けがあったら困ると思って……」
林さんは、椅子の横に立ったまま腕を組みました。
「抜けがない報告書と、分かりやすい報告書は、同じなのか?」
田中君は、また答えられませんでした。
AIに必要な要素を出してもらうことは、報告書作りの始まりにすぎません。
AIが提示した情報を全部使えば、良い報告書になるわけではありません。
重要なのは、今回の判断に必要な情報を人間が選び、優先順位を付けることです。
田中君はまだ、その選別をせず、AIが出した仕事をすべて引き受けようとしていました。

🤖 第3章 俺に相談する前に、ChatGPTを頼るのか
😢 AIに少し嫉妬する林さんと、まだ一文字も書けていない田中君
🧍 林さん、静かに拗ねる
「俺に相談する前に、ChatGPTを頼るんだなと思ってな」
林さんは、少し寂しそうに言いました。
田中君は思わず姿勢を正します。
「いや、林さん。別に、林さんを頼りにしていないわけではないんです」
「そうか」
「市場調査報告書を書いたことがあるか、分からなかったので」
「ない」
「やっぱり、ないんですか」
「ないけどな」
林さんは、机の上に広げられたノートを指先で軽くたたきました。
「市場調査報告書を書いた経験がなくても、田中君が何に困っているのかぐらいは聞けるだろ」
「それは、そうですけど……」
「十年近く一緒に現場で仕事をしてきた先輩より、最初にAIへ相談するわけだ」
「そんな言い方をされると、すごく悪いことをしたような気になります」
「別に責めてはいない」
林さんはそう言いましたが、表情には少しだけ責めている様子が残っていました。
田中君は困りました。
確かに、分からないことが出てきた瞬間、迷わずChatGPTを開いていました。
市場調査報告書とは何か。
何のために作るのか。
どのような情報が必要なのか。
それらを林さんに一度も相談せず、先にAIへ聞いています。
「すみません」
田中君が素直に謝ると、林さんは少し慌てました。
「いや、謝らなくていい。AIを使うなと言ってるわけじゃない」
「では、どうすればよかったんでしょうか」
「ChatGPTに聞く前か、聞いた後にでも、俺たちに話してくれればよかったんじゃないか」
林さんは、田中君のパソコン画面を見ました。
「一人で分からないものを抱えて、AIの回答と格闘してるから、そんな顔になるんだろ」
「そんな顔ですか?」
「報告書を一冊書き終えた人の顔をしてる」
「まだ一文字も書いてません」
「だから心配してるんだよ」
田中君は、パソコン画面を見ました。
確かに、まだ報告書の本文には何も書いていません。
それなのに、すでにかなり疲れていました。
📚 分からない言葉が、次から次へと出てくる
ChatGPTへ市場調査報告書に必要な要素を聞いたところまでは、順調でした。
問題は、その後です。
回答の中には、田中君が普段の仕事ではあまり使わない言葉が、いくつも出てきました。
顧客セグメント
市場ポジショニング
価格受容性
参入障壁
代替手段
市場浸透率
差別化要因
流通チャネル
顧客インサイト
潜在需要
文章の流れから、何となく意味を想像できる言葉もあります。
しかし、何となく理解した状態で報告書を作り始めるのは危険です。
田中君は、一つずつChatGPTへ聞き直していました。
顧客セグメントとは何ですか。
製造現場の人間にも分かる言葉で説明してください。
ChatGPTから説明が返ってきます。
田中君は読みます。
そして、また聞きます。
市場ポジショニングを、専門用語を使わずに説明してください。
さらに質問します。
価格受容性とは、顧客がいくらまでなら支払えるかという意味でしょうか。
続いて、参入障壁について聞きます。
参入障壁とは何ですか。
工場の柵や門のことではありませんよね。
田中君自身も、さすがにそれではないと思っていました。
しかし、一応確認しておきたかったのです。
林さんは、チャット履歴を下へスクロールしました。
質問と回答が、長く続いています。
「ずいぶん聞いたな」
「分からない言葉を、そのままにできなかったので」
「それは正しいと思うぞ」
「ありがとうございます」
「でも、これは何だ?」
林さんは、画面の一部分を指さしました。
市場浸透率と市場占有率と市場シェアの違いを、小学生にも分かるように説明してください。
田中君は、少し気まずそうに答えました。
「最初の説明では、違いがよく分からなかったんです」
「小学生まで下げたのか」
「中学生向けでも、少し難しかったので」
林さんは笑いをこらえるように口元を押さえました。
「笑わないでください」
「笑ってない」
「笑ってますよね」
「いや。ちゃんと理解しようとしているのは、立派だと思ってる」
「口元が笑っています」
「それは元からだ」
「そんなはずありません」
🧠 AIに聞けば、一瞬で理解できるわけではない
田中君は、ChatGPTを使えば、市場調査報告書についてすぐ理解できると思っていました。
分からないことを質問すれば、AIが答えてくれる。
答えを読めば、仕事が分かる。
仕事が分かれば、報告書を書ける。
その程度に考えていたのです。
しかし、実際にはそう簡単ではありませんでした。
AIから説明を受けても、その説明の中に知らない言葉が出てきます。
知らない言葉を聞き直すと、今度は別の概念が出てきます。
その概念が、今回の商品にどう関係するのかも考えなければなりません。
たとえば、ChatGPTが、
顧客を複数のセグメントに分類し、各セグメントのニーズを分析します。
と説明したとします。
文章だけを読めば、何となく分かります。
しかし、実際に田中君たちの商品へ当てはめるには、さらに考える必要があります。
顧客を何によって分けるのか
年齢で分けるのか
使用目的で分けるのか
個人と法人で分けるのか
使用頻度で分けるのか
価格を重視する人と品質を重視する人で分けるのか
言葉の意味が分かっても、仕事の中で使えるとは限りません。
田中君は、言葉の説明を受けるたびに、自社商品へ当てはめようとしていました。
そのため、理解するだけでも時間がかかっていたのです。
「ChatGPTに聞けば、もっと簡単に進むと思っていました」
田中君が言うと、林さんはうなずきました。
「便利ではあるんだろ?」
「便利です。分からないことを何度聞き直しても、嫌な顔をされませんから」
「俺も嫌な顔はしないぞ」
「林さんは、三回ぐらい同じことを聞くと顔に出ます」
「それは田中君の聞き方にも問題がある」
「やっぱり嫌な顔をするじゃないですか」
「AIと張り合うつもりはない」
林さんはそう言いながらも、少しだけ不満そうでした。
🔍 言葉を理解することと、目的を理解すること
林さんは、田中君が作った調査項目の一覧をもう一度見ました。
そこには、市場調査に関係しそうな言葉が大量に並んでいます。
市場規模
成長率
顧客分析
競合分析
価格分析
販売経路
需要予測
将来性
法規制
海外市場
原材料価格
為替変動
特許情報
林さんは、その中の一つを指さしました。
「これは何だ?」
「市場ポジショニングです」
「意味は分かったのか?」
「競合商品と比べて、自社商品を市場のどの位置に置くかということです」
「例えば?」
田中君は、一瞬止まりました。
「例えば……高品質で高価格の商品なのか、低価格で買いやすい商品なのか、というところでしょうか」
「この商品は、どっちなんだ?」
田中君は、試作品を見ました。
「まだ分かりません」
「じゃあ、この市場ポジショニングっていう項目は、今すぐ調べられるのか?」
「競合商品の価格や品質が分かれば、比較できると思います」
「商品の販売価格は決まってるのか?」
「まだです」
「誰に売るかは?」
「まだはっきりしていません」
「じゃあ、何と何を比べるんだ?」
田中君は答えられませんでした。
言葉の意味は分かりました。
しかし、今回の商品で何を調べ、何を決めるために使うのかは、まだ分かっていません。
林さんは、次に「価格受容性」を指さしました。
「こっちは?」
「顧客がどのくらいの価格なら受け入れられるかです」
「顧客は誰だ?」
「まだ決まっていません」
「誰か分からないのに、受け入れられる価格は分かるのか?」
「分かりません」
「じゃあ、田中君」
林さんは、ノートを閉じました。
「言葉はたくさん分かった。でも、何から決めるかは、まだ分かってないんじゃないか?」
田中君は黙りました。
その通りでした。
ChatGPTから、多くの言葉と知識を教えてもらいました。
一つずつ意味も確認しました。
しかし、田中君の頭の中では、それらがまだ一本につながっていません。
調査目的を決める。
顧客を考える。
顧客の悩みを調べる。
競合と比較する。
価格を考える。
それぞれの言葉は理解できても、何を起点にして、どの順番で考えるのかが整理できていなかったのです。
🧰 知識を集めるだけでは、仕事は進まない
林さんは、田中君の机の上に置かれた試作品を手に取りました。
「田中君は、この商品を作るとき、設備の設定を全部同時に変えるか?」
「変えません」
「どうしてだ?」
「全部同時に変更すると、どの条件が結果に影響したのか分からなくなるからです」
「最初に何をする?」
「問題を確認して、影響が大きそうな条件から順番に変えます」
「市場調査も同じじゃないのか?」
田中君は、少し考えました。
製造現場では、問題が起きた際に、考えられる原因をすべて同時に変更することはありません。
材料、温度、圧力、速度、作業方法。
関係しそうな条件はいくつもあります。
しかし、すべて同時に変えれば、何が正しかったのか分からなくなります。
まず目的を決めます。
次に、影響が大きいと思われる項目を選びます。
一つずつ確認します。
市場調査も、本来は同じなのかもしれません。
市場に関係する情報をすべて集めるのではなく、今回の判断に大きく影響するものから確認する。
「林さん」
「何だ?」
「市場調査の報告書を書いたこと、ないんですよね?」
「ない」
「それなのに、かなりまともなことを言いますね」
「かなり、は余計だ」
林さんは試作品を机へ戻しました。
「市場調査のやり方は知らなくても、田中君が一度に全部やろうとしてることぐらいは分かる」
「確かに、少し詰め込みすぎたかもしれません」
「少しか?」
林さんは、三ページにわたる調査項目を見ました。
「かなりです」
「正直でよろしい」
🤖 AIが出した項目が、いつの間にか仕事になる
田中君は、調査項目を見直しました。
最初は、市場調査報告書に必要なものを知るために、ChatGPTへ質問しただけでした。
ところが、AIから項目を出された瞬間、それらすべてを自分がやらなければならない仕事だと思い込んでいました。
ChatGPTが、
海外市場も確認するとよい
将来性も分析するとよい
法規制も確認するとよい
顧客層を細かく分けるとよい
と提案するたびに、田中君は項目を追加しました。
その項目が、本当に今回必要なのかは考えていません。
AIが提示したことを、人間がすべて実行しようとしていたのです。
林さんは、ノートを眺めながら言いました。
「田中」
「はい」
「お前、ChatGPTを使ってるんだよな?」
「そうです」
「でも、今やってることを見ると、ChatGPTが出した仕事を、お前が一生懸命手伝ってるように見えるぞ」
田中君は、一瞬言葉を失いました。
「ChatGPTが出した仕事を、僕が手伝っている……」
「AIに必要そうなものを全部出してもらった。そこまではいい。でも、その後に、必要かどうかを決めず、全部やろうとしてる」
林さんは、大量の調査項目を指さしました。
「それじゃ、AIが仕事を決めて、人間がその仕事を片づける側になってないか?」
田中君は、改めて一覧を見ました。
自分では、AIを活用して効率よく仕事を進めているつもりでした。
しかし実際には、AIが出した項目を減らすことも、断ることもせず、すべて抱え込んでいます。
市場調査を進めるためにChatGPTを使ったはずが、いつの間にか、ChatGPTが作った巨大な調査計画を完成させることが目的になっていました。
「確かに……少し逆になっていますね」
「少しじゃないと思うけどな」
「林さん、今日ちょっと厳しくありませんか?」
「先にAIへ相談されたからな」
「まだ根に持ってるんですか」
「持ってない」
「持ってますよね」
「持ってないと言ってるだろ」
林さんはそう言いながら、田中君の隣の椅子を引き寄せて座りました。
帰るつもりはないようです。
👥 AIと人間、それぞれに分かること
林さんは、市場調査の専門家ではありません。
しかし、田中君と同じ現場で長く働いてきました。
この商品の試作にも関わっています。
そのため、AIが知らないことを知っています。
なぜこの商品を作り始めたのか
最初にどのような問題があったのか
どの改善に最も時間がかかったのか
どの部分に現場の技術が使われているのか
量産すると、どこで問題が起きそうなのか
作業者が実際に触れたとき、何を感じたのか
反対に、ChatGPTは市場調査報告書の一般的な形や、必要になりそうな視点を幅広く提示できます。
ChatGPTが得意なこと
市場調査報告書の一般的な役割を説明する
必要になりそうな調査項目を広く出す
専門用語を説明する
調査方法の選択肢を示す
構成案を作る
林さんたちが知っていること
商品を作った背景
現場で起きた事実
改善した内容
製造上の強みと弱み
社内で実際にできること
現場で感じる違和感
どちらか一方だけでは、十分な市場調査報告書にはなりません。
AIの一般知識だけで作れば、どの会社にも当てはまりそうな報告書になります。
現場の情報だけで作れば、市場や顧客の視点が不足します。
AIの知識と、人間が持つ一次情報を組み合わせる必要があります。
田中君は、ここで初めて、林さんへ相談する意味を理解しました。
林さんが市場調査報告書を書いた経験があるかどうかは、重要ではありません。
商品について知っている人間として、AIの回答を見ながら意見を出してもらうことに意味があるのです。
「林さん」
「何だ?」
「一緒に、必要な項目を絞ってもらえませんか」
林さんは、少しだけ満足そうにうなずきました。
「最初からそう言えばいいんだ」
「やっぱり、かなり寂しかったんですね」
「その話はもういい」
✂️ 必要そうなものと、今回必要なもの
田中君と林さんは、調査項目を一つずつ確認し始めました。
まず、海外市場。
「今回は国内での市販を考えてるんだよな?」
「はい」
「だったら、海外市場は今すぐ必要か?」
「将来必要になる可能性はあります」
「今の報告書の結論に使うのか?」
「使わないと思います」
「じゃあ、今回は外す」
次に、十年後の人口動態。
「この商品は、十年後の人口変化を確認しないと、市販できない商品なのか?」
「そこまでではありません」
「外す」
続いて、為替変動。
「原材料を海外から輸入してるのか?」
「一部は輸入しています」
「価格に大きく影響するのか?」
「現時点では分かりません」
「じゃあ完全に外すんじゃなくて、原材料価格のリスクとして短く残す」
田中君は、林さんの判断を聞きながら、項目に印を付けていきました。
今回必ず調べる
必要なら調べる
補足として残す
今回は調べない
最初は、項目を削ることに不安がありました。
情報を減らせば、不十分な報告書になるような気がしていたのです。
しかし、項目を分類していくと、むしろ目的が見えやすくなりました。
今回の報告書で本当に必要なのは、
商品を必要とする顧客がいるか
顧客は何を求めているか
競合商品と何が違うか
どの価格なら受け入れられるか
市販前に何を確認するべきか
という部分です。
海外市場や十年後の予測を削っても、市販判断に必要な中心部分は残ります。
林さんは言いました。
「必要そうなものを全部入れるんじゃなくて、今回必要なものを選ぶんだな」
「はい」
「ChatGPTは、選択肢を出すところまで」
「選ぶのは、僕たちですね」
「そういうことだと思う」
林さんは、市場調査報告書を書いた経験がないと言っていました。
しかし、この時点ではすでに、田中君よりもAIとの役割分担を理解していました。

🚶 そこへ佐藤さんがやってくる
二人が調査項目を整理していると、背後から穏やかな声が聞こえました。
「ずいぶんにぎやかだね」
田中君と林さんが振り向くと、佐藤さんが立っていました。
佐藤さんは、机の上に並べられた資料と、赤い線で消された大量の調査項目を見ました。
「市場調査報告書を作っているんです」
田中君が説明すると、佐藤さんはノートを手に取りました。
一ページ目。
二ページ目。
三ページ目。
そこには、市場調査に関係しそうな項目が、びっしりと書かれています。
佐藤さんは、少し笑いました。
「ずいぶん立派な報告書になりそうだね」
「最初は、全部調べようとしていたんです」
「全部?」
「抜けがあったら困ると思って」
佐藤さんは、田中君の言葉を聞いて、懐かしそうにうなずきました。
「分かるよ」
「分かるんですか?」
「ああ。私も初心者の頃は、それで悩んだものさ」
林さんが、少し意外そうに佐藤さんを見ました。
「佐藤さんでも、そんなことがあったんですか」
「もちろんだよ」
佐藤さんは、ノートを机に置きました。
「調べられるものを全部調べて、分かったことを全部書けば、立派な報告書になると思っていた」
田中君は、身を乗り出しました。
「それで、どうなったんですか?」
佐藤さんは、少し遠い目をしました。
「六十ページの報告書ができた」
「六十ページ……」
「上司に言われたよ」
佐藤さんは、当時の上司の口調をまねるように続けました。
「これを読んだあと、私は何を決めればいいんだ?」
林さんが尋ねました。
「六十ページ全部読んだあとで言われたんですか?」
佐藤さんは首を横に振りました。
「三ページ目で言われた」
田中君と林さんは、同時に黙りました。
佐藤さんは、大量の調査項目を見ながら穏やかに笑いました。
「田中君。情報をたくさん集めることと、良い報告書を作ることは同じじゃない」
田中君は、佐藤さんの次の言葉を待ちました。
AIに聞けば、多くの知識と選択肢を得られます。しかし、AIが出した選択肢をすべて実行すれば、仕事が良くなるわけではありません。
AIは選択肢を広げる。人間は目的に合わせて選び、絞り込む。
この役割を逆にすると、人間がAIの作った仕事を手伝う側になってしまいます。
🗂️ 第4章 佐藤さんも、初心者の頃は詰め込みすぎていた
📚 六十ページの報告書が教えてくれた、情報を選ぶという仕事
😅 三ページ目で止められた報告書
「六十ページの報告書ができた」
佐藤さんの言葉を聞いて、田中君は思わず自分のノートを見ました。
今のところ、調査項目を書き出しただけです。
しかし、このまま一つひとつ詳しく調べていけば、六十ページどころでは済まないかもしれません。
競合商品を比較する。
顧客層を分類する。
価格を調べる。
市場規模を確認する。
海外市場や人口動態まで入れれば、百ページに届く可能性すらあります。
「それで、上司から三ページ目で止められたんですよね」
田中君が確認すると、佐藤さんは苦笑しました。
「ああ」
「残りの五十七ページは、読んでもらえなかったんですか?」
「目次は見てもらえたよ」
「本文は?」
「三ページまでだね」
林さんが腕を組みました。
「残りの五十七ページ、かなり頑張って書いたんですよね」
「かなり頑張った」
「つらいですね」
「つらかったよ」
佐藤さんは、当時を思い出すように静かにうなずきました。
市場に関係する情報を、できる限り集めました。
関係しそうな数字も入れました。
競合企業の情報も調べました。
将来予測も、海外動向も、顧客の傾向もまとめました。
見出しも整え、図や表も入れました。
文字数も多く、資料としての見栄えもよかったそうです。
田中君は尋ねました。
「そこまで作ったのに、何が駄目だったんでしょうか」
佐藤さんは、少し考えてから答えました。
「上司が知りたいことより、私が調べたことの方が多かったんだ」
「調べたことの方が多い?」
「私は、これだけ調べましたと示すことばかり考えていた。でも上司が知りたかったのは、次に何を決めるべきかだった」
佐藤さんは、田中君のノートを開きました。
「情報の量は多かった。でも、情報と判断がつながっていなかったんだよ」
📦 調べた情報を全部入れたくなる理由
田中君は、佐藤さんの失敗談を聞きながら、自分にも同じ傾向があると感じました。
調べた情報を削るのは、何となくもったいなく感じます。
時間をかけて見つけた数字です。
苦労して読んだ資料です。
AIへ何度も質問して、ようやく理解した内容です。
それらを報告書から外すと、調べた時間まで無駄になるような気がします。
「佐藤さん。調べた情報を使わないのって、少し抵抗がありませんか?」
「あるよ」
「やっぱり、あるんですね」
「特に初心者の頃はね。調べたものを全部見せたくなる」
佐藤さんは、指を折りながら理由を挙げました。
調査不足だと思われたくない
抜けを指摘されたくない
自分が努力した証拠を見せたい
せっかく調べた情報を捨てたくない
情報が多いほど説得力が増すと思ってしまう
何が重要か分からないため、全部入れておきたくなる
林さんが言いました。
「最後の理由が一番ありそうですね」
「そうだね」
「何が大事か分からないから、全部大事に見える」
「その通りだよ」
田中君は、自分のノートを見ました。
海外市場。
人口動態。
為替変動。
特許。
競合企業の経営状況。
関連する学術研究。
どれも完全に無関係とは言い切れません。
しかし、今回の市販判断に本当に必要かと聞かれると、はっきり答えられません。
つまり田中君も、重要だから残していたのではなく、重要かどうか分からないから残していたのです。
「全部入れる方が安全だと思っていました」
田中君が言うと、佐藤さんは首を横に振りました。
「情報を全部入れることが、安全とは限らないよ」
「どうしてですか?」
「重要な情報が埋もれるからだ」
🌲 情報が増えるほど、見えなくなるもの
佐藤さんは、田中君のノートに大きな丸を三つ書きました。
最初の丸には、顧客の需要。
次の丸には、商品の強み。
最後の丸には、市販に必要な条件と書きました。
「今回、黒田営業部長が本当に知りたいのは、このあたりだと思う」
田中君はうなずきました。
「この商品を欲しがる人がいるのか」
「そう」
「競合と比べて、売る理由があるのか」
「うん」
「市販するために、何が足りないのか」
「そこだね」
佐藤さんは、その三つの丸の周囲に、細かい項目をいくつも書き足していきました。
海外市場。
人口動態。
関連特許。
原材料の国際価格。
競合企業の経営状況。
将来の法改正。
広い範囲のSNS分析。
「情報が増えれば増えるほど、この三つの中心が見えにくくなる」
田中君は、ノートを少し離して見ました。
確かに、周囲の情報が多すぎて、最初に書かれた三つの丸が目立たなくなっています。
佐藤さんは続けました。
「森を見るために木を増やしすぎたら、かえって迷うこともある」
林さんが言いました。
「森は、木が多いものじゃないんですか」
「そういう話ではないよ」
「分かってます」
「今の顔は、分かっていない顔だったけどね」
林さんは黙りました。
田中君は、少し笑いながらも佐藤さんの言葉を理解しようとしました。
情報が少なければ、判断を誤る可能性があります。
しかし、情報が多すぎても、読み手は重要な部分を見つけられません。
つまり、報告書では、
情報不足を防ぐこと
と、
情報過多を防ぐこと
の両方が必要なのです。
⚖️ 「関係がある」と「今回必要」は違う
佐藤さんは、田中君が書き出した項目の中から「海外市場」を指さしました。
「これは、新製品に関係があるかな?」
「将来的には関係すると思います」
「では、今回の国内市販を判断するために絶対必要かな?」
田中君は少し考えました。
「絶対ではありません」
「そうだね」
次に、佐藤さんは「原材料の国際価格」を指さしました。
「これは?」
「一部の材料を輸入しているので、関係はあります」
「現在、大きな価格変動が起きている?」
「そこまでは確認できていません」
「今回の販売価格を決める際に、影響は大きい?」
「影響する可能性はありますが、主な判断材料ではないと思います」
「では、本文の中心に大きく入れる必要はないかもしれない。リスクとして短く残す方法もある」
田中君は、佐藤さんの質問を聞きながら、少しずつ違いが分かってきました。
市場調査に関係がある情報と、今回の報告書に必要な情報は同じではありません。
市場調査に関係する情報
いつか必要になる可能性がある
将来的な判断材料になる
商品や市場と何らかの関係がある
知っていれば役立つことがある
今回の報告書に必要な情報
黒田営業部長の判断に直接使われる
市販するかどうかに影響する
顧客と商品の関係を明らかにする
次の行動を決めるために必要になる
「関係があるから入れる、では駄目なんですね」
田中君が言うと、佐藤さんはうなずきました。
「そう。関係がある情報は無数にある。でも、報告書の目的に直接つながる情報は限られている」
🥇 第一優先 今回の判断に絶対必要な情報
佐藤さんは、新しい紙を一枚取り出しました。
そして、上部に大きく書きます。
第一優先:今回の判断に絶対必要な情報
「まずは、これがなければ判断できないという情報を選ぼう」
田中君と林さんも、一緒に考え始めました。
今回の目的は、新製品を市販する価値があるかを確認し、市販前に必要な追加検証を明らかにすることです。
そのために、最優先で必要なのは次の情報です。
この商品を必要とする顧客がいるか
顧客は現在、何に困っているか
顧客は商品に何を求めているか
競合商品や代替手段は何か
自社商品には、どのような強みがあるか
その強みが顧客の要望と一致しているか
顧客が受け入れられる価格帯はどこか
市販前に必ず確認すべき問題は何か
佐藤さんは説明します。
「これらが分からなければ、商品を市販する理由を説明できない」
「市場規模は入らないんですか?」
田中君が尋ねました。
「もちろん必要だよ。ただ、市場規模の大きな数字が分かっても、誰がこの商品を欲しがるか分からなければ、販売判断にはつながらない」
「先に顧客と商品の関係を確認するんですね」
「そうだね」
林さんも納得したように言いました。
「一千億円の市場ですと言われても、うちの商品を買う人が一人もいなかったら意味がないからな」
「極端だけど、分かりやすいね」
田中君は、第一優先の項目に赤い丸を付けました。
これらは、今回の報告書から外してはいけない情報です。
🥈 第二優先 判断を補強する情報
次に佐藤さんは、紙の中央へ書きました。
第二優先:判断を補強する情報
これらは、市販判断に直接必要な情報を支え、結論の信頼性を高めるためのものです。
市場全体の規模
市場の成長性
顧客層の人数
販売方法
販売場所
自社の製造能力
原価と利益
市販時の主なリスク
競合企業の動向
市販後の顧客対応
これらがあれば、第一優先の情報だけでは分からない現実性を確認できます。
たとえば、顧客が商品を欲しがっていたとしても、製造能力が不足していれば大量販売はできません。
価格を受け入れてもらえそうでも、販売手数料や配送費を含めると利益が残らない可能性があります。
市場に需要があっても、顧客へ届ける販売経路がなければ売れません。
つまり第二優先の情報は、
売れる可能性があるか
だけではなく、
実際に売り続けられるか
を考えるために必要です。
田中君は、第一優先と第二優先を見比べました。
第一優先で確認すること
顧客がいるか
需要があるか
商品の価値が合っているか
購入される可能性があるか
第二優先で確認すること
市場として成り立つか
製造を続けられるか
利益を確保できるか
顧客へ届けられるか
林さんが言いました。
「第一優先は、欲しい人がいるか。第二優先は、本当に商売にできるかということか」
「大まかには、そう考えていいね」
🥉 第三優先 将来必要になるかもしれない情報
最後に佐藤さんは、紙の下部へ書きました。
第三優先:将来必要になるかもしれない情報
ここには、今回の市販判断には直接使わないものの、事業が拡大した際や、条件が変わった際に必要になる可能性がある情報を入れます。
海外市場
輸出規制
為替変動
十年後の人口動態
将来の法改正
海外企業の競合商品
長期的な原材料事情
関連分野の学術研究
広い範囲の特許動向
全国規模の詳細なSNS分析
田中君は、これらの項目に少し未練を感じました。
「第三優先のものは、全部削除するんですか?」
「削除するとは限らないよ」
「では、どうするんでしょうか」
「今回は調べない項目として残しておけばいい」
佐藤さんは、新しい欄を作りました。
今後必要になった場合に追加調査する項目
「報告書へ全部書かなくても、検討した事実は残せる。今は優先しないと判断しただけで、永久に不要だと決めたわけではないからね」
田中君は安心しました。
情報を捨てるのではありません。
今回の目的に合わせて、調べる時期を分けるのです。
🧱 情報は積むのではなく、配置する
佐藤さんは、三段階に分けた項目を見ながら言いました。
「情報を積み上げれば、立派な報告書になるわけじゃない」
「では、どうすればいいんでしょうか」
「必要な場所に、必要な情報を配置するんだ」
第一優先の情報は、報告書の中心になります。
第二優先の情報は、中心となる主張を支えます。
第三優先の情報は、将来の検討項目や補足資料へ回します。
情報をすべて積み上げた報告書
何が重要か分からない
読み手が探さなければならない
結論までたどり着くのに時間がかかる
調査した人の努力が中心になる
読んだ後の行動が分からない
情報を目的に合わせて配置した報告書
最初に判断の軸が見える
必要な根拠をすぐ確認できる
不要な情報に迷わされない
読み手が結論を理解しやすい
次の行動を決められる
田中君は、最初に作った大量の調査項目を見ました。
自分は、情報を報告書の中へ積めるだけ積もうとしていました。
しかし、それでは情報の倉庫ができるだけです。
必要なのは、黒田営業部長が必要な情報へ迷わずたどり着ける設計でした。
🏭 製造現場と同じ、優先順位の考え方
林さんが、三段階に分類された紙を見ながら言いました。
「これ、現場の仕事と同じだな」
「どのあたりがですか?」
田中君が尋ねました。
「設備が止まったとき、全部の部品を交換しないだろ」
「しませんね」
「まず、止まった原因になりそうなところを確認する」
「はい」
「直接原因じゃないけど、再発に影響しそうなところも確認する」
「そうですね」
「今すぐ関係ない部品は、後から点検する」
佐藤さんもうなずきました。
「まさに同じだね」
製造現場で設備トラブルが起きた場合、確認する項目には優先順位があります。
最優先
設備を停止させた直接原因。
次の優先
再発や品質に影響する関連部分。
後回し
今回の停止とは直接関係しないものの、将来故障する可能性がある部分。
すべての部品を同時に分解すれば、復旧までに時間がかかります。
どの部品が原因だったのかも分からなくなります。
市場調査も同じです。
関係しそうなものを全部調べるのではなく、判断に影響する順番で確認する必要があります。
田中君は、少し笑いました。
「市場調査って、もっと特別な仕事だと思っていました」
「使う言葉は違っても、考え方は現場と似てるのかもしれないな」
林さんが答えました。
🧹 田中君、調査項目を整理する
三人は、田中君が作った調査項目を一つずつ分類していきました。
第一優先へ移したもの
顧客の悩み
顧客が求める価値
競合商品の特徴
競合商品の価格
自社商品の強み
顧客が受け入れられる価格
市販前の追加検証
第二優先へ移したもの
市場規模
市場の成長性
販売経路
製造原価
量産能力
原材料価格
市販時のリスク
第三優先へ移したもの
海外市場
輸出規制
為替変動
十年後の人口動態
海外競合企業
将来の法改正
広範囲の特許分析
分類が終わる頃には、田中君のノートはかなり見やすくなっていました。
最初は、三ページにわたって横並びだった項目が、目的別に整理されています。
「ずいぶん減りましたね」
田中君は、少し不安そうに言いました。
佐藤さんは首を横に振ります。
「減ったんじゃない。優先順位が付いたんだよ」
「でも、調べる量は少なくなりました」
「少なくなっていいんだ。今回必要な情報へ集中できるからね」
林さんも言いました。
「黒田部長は、田中君が何時間調べたかを見るわけじゃない。市販する価値があるかを見るんだろ」
田中君はうなずきました。
調査項目の多さは、仕事の質を示すものではありません。
必要な判断にたどり着けるかどうかが、報告書の質を決めます。
📊 報告書では、情報に役割を与える
佐藤さんは、三段階に分類された紙の横に、さらに役割を書き加えました。
第一優先の役割
結論を作る
第二優先の役割
結論を支える
第三優先の役割
将来の検討に備える
「同じ情報でも、報告書の中で役割が違う」
佐藤さんは説明します。
市場規模を大きく書いても、その数字が結論に使われていなければ意味がありません。
競合商品の特徴を詳しく並べても、自社商品との違いが分からなければ比較になりません。
顧客の口コミを大量に紹介しても、顧客が何を求めているか整理されていなければ判断には使えません。
情報を載せる際には、
この情報は、どの結論に使うのか
この情報がなければ、何を判断できないのか
この情報は、どの主張を支えているのか
を確認する必要があります。
田中君は、各項目の横に、使用目的を書き加えていきました。
顧客の悩み:商品への需要を確認する
競合商品の特徴:自社商品との差を確認する
競合商品の価格:受け入れられる価格帯を考える
自社商品の強み:購入される理由を整理する
市場規模:継続販売できる可能性を確認する
製造能力:市販後に供給できるか確認する
主なリスク:市販前に追加確認する内容を決める
一覧にすると、調査項目と判断の関係が見えやすくなりました。
「これなら、何のために調べるのか分かります」
田中君が言うと、佐藤さんはうなずきました。
「目的が書けない項目は、今回の報告書には必要ない可能性が高い」
💬 佐藤さんが伝えた、丁寧な仕事の意味
整理が一段落したところで、田中君は佐藤さんへ言いました。
「僕は、全部調べることが丁寧な仕事だと思っていました」
「私も昔はそう思っていたよ」
「違うんですね」
佐藤さんは、整理された調査項目を見ました。
「丁寧な仕事というのは、情報をたくさん集めることじゃない」
そして、田中君を見て続けます。
「必要な情報を見極めて、読む人が判断できる形にすることだよ」
田中君は、その言葉をノートへ書き留めました。
林さんが横からのぞき込みます。
「それ、太字で書いた方がいいな」
「手書きなので、太字にはできません」
「二重線で囲めばいい」
「そこまでしますか?」
「大事なんだろ」
田中君は、佐藤さんの言葉を二重線で囲みました。
👀 そこへ、まゆみさんが現れる
調査項目の整理を終えた頃、林さんの後ろから声がしました。
「何を三人で集まってるの?」
林さんが振り向きます。
そこには、まゆみさんが立っていました。
「田中君が、市場調査報告書を作ってるんだ」
「へえ」
まゆみさんは、田中君の机へ近づきました。
田中君は、整理し直した調査項目と、まだ作成途中の報告書構成を見せます。
「ChatGPTから必要な要素を出してもらって、今、優先順位を整理したところです」
「見てもいい?」
「どうぞ」
まゆみさんは、画面を上から下まで眺めました。
一度、下までスクロールします。
そして、もう一度上へ戻します。
表情は変わりません。
田中君は、少し緊張しながら感想を待ちました。
まゆみさんは、数秒考えてから言いました。
「二つだけ」
「二つ?」
「まず、まだ情報が多すぎる」
田中君は、思わず目を見開きました。
三人でかなり減らしたつもりでした。
しかし、まゆみさんの指摘はそれだけではありません。
画面に表示された新製品の説明を指さして、続けました。
「それから、この商品の一番良いところが埋もれてる」
田中君は、完全に面食らいました。
林さんは、その表情を見て、すぐに口を挟みます。
「おいおい。田中君が固まってるじゃないか」
まゆみさんは、林さんの方を見ました。
「見たままを言っただけよ」
「内容は間違ってないのかもしれないけど、もう少し柔らかい言葉を使った方がいいと思うぞ」
「分かってはいるんだけど、つい口に出ちゃうのよ」
「うん」
「私の性格、知ってるでしょ」
「知ってる」
林さんは一度うなずき、少し間を置いて聞きました。
「反省は?」
まゆみさんも、少しだけ間を置きました。
「……反省します」
佐藤さんは静かに笑い、田中君はどう反応すればよいのか分からないまま、画面と二人の顔を交互に見ていました。

初心者が陥りやすい失敗は、情報が足りないことだけではありません。
関係する情報をすべて詰め込み、何が重要なのかを見えなくしてしまうことです。
AIは、多くの情報や選択肢を提示できます。しかし、その中から今回必要なものを選び、役割を与えるのは人間です。
丁寧な仕事とは、全部を入れることではなく、必要なものを見極めることです。
👀 第5章 まゆみさんが見抜いた二つの問題
✨ 市場を見る前に、商品の価値を見失っていないか
😨 田中君、いきなり核心を突かれる
「二つだけ」
まゆみさんは、田中君のパソコン画面を見ながら言いました。
「まず、まだ情報が多すぎる」
田中君は、思わず画面を見直しました。
つい先ほどまで、林さんと佐藤さんの二人に手伝ってもらい、調査項目をかなり整理したところです。
海外市場。
十年後の人口動態。
為替変動。
将来の法改正。
広い範囲の特許調査。
今回の市販判断に直接関係しないものは、第三優先へ移しました。
本文に入れる情報も、最初に比べればかなり減っています。
それでも、まゆみさんには多く見えるようでした。
「これでも、かなり減らしたんです」
田中君が説明すると、まゆみさんは画面を下へスクロールしました。
「減らしたのは分かる」
「では、どこが多いんでしょうか」
「項目の数だけじゃないのよ」
まゆみさんは、画面に並んだ説明文を指さしました。
市場規模。
競合商品の価格帯。
市場の成長性。
販売経路。
顧客の分類。
製造能力。
原材料価格。
市販時のリスク。
どれも今回の報告書に関係する情報です。
しかし、一つひとつの説明が長く、それぞれが同じ強さで並んでいました。
「全部が大事そうに書いてあるから、何が一番大事なのか分からない」
田中君は、言葉に詰まりました。
情報を第一優先、第二優先、第三優先へ分類しました。
しかし、報告書の中では、まだそれらが同じような分量と強さで並んでいます。
頭の中では優先順位を付けたつもりでも、文章には反映できていませんでした。
まゆみさんは、さらに続けます。
「読む人に考えさせすぎなのよ」
「考えさせすぎ?」
「これを全部読んで、自分で重要な部分を探して、自分で結論を出してくださいっていう資料に見える」
田中君は、黒田営業部長がこの報告書を読む姿を想像しました。
黒田営業部長は、細かい資料にも目を通します。
しかし、だからといって、田中君が集めた情報の中から、重要なものを自分で探し出したいわけではありません。
知りたいのは、
この商品には需要があるのか
顧客は何を求めているのか
自社商品には、どのような強みがあるのか
市販するために、何が不足しているのか
次に何をするべきなのか
という部分です。
調査した人が情報を選ばず、判断する人へ全部渡すのは、報告ではなく資料の移動にすぎません。
田中君は、まゆみさんの言葉を聞きながら、少しずつそのことに気づき始めました。
⚡ まゆみさんの二つ目の指摘
「それから、もう一つ」
まゆみさんは、机の上に置かれた試作品を手に取りました。
「この商品の一番良いところが埋もれてる」
「商品の良いところですか?」
「そう」
まゆみさんは、もう一度報告書の構成案を見ました。
そこには、市場調査に必要な情報がきれいに並んでいます。
調査目的。
想定顧客。
顧客の悩み。
競合商品。
価格。
市場規模。
販売方法。
リスク。
追加検証。
しかし、自社商品の特徴については、短い説明が一つ入っているだけでした。
「市場については、これだけ詳しく調べようとしてる」
まゆみさんは画面を指さしました。
「でも、この商品の一番良いところについては、数行しか書いてない」
「商品の詳しい説明は、別の資料にあるので……」
「黒田営業部長が、別の資料も全部読み直す前提なの?」
田中君は、また言葉を失いました。
「それに、製品の仕様を書けばいいという話じゃないのよ」
「仕様ではない?」
「お客さんが、この商品を見て何を望むのか。
その望みに対して、この商品が何を与えられるのか。その部分が見えないって言ってるの」
田中君は、試作品を見ました。
製品の寸法。
材料。
重量。
耐久性。
製造条件。
検査基準。
それらについてなら、細かく説明できます。
しかし、それは製造側の情報です。
顧客が知りたいのは、材料の配合や設備条件ではありません。
商品を使うことで、
何が楽になるのか
何が早くなるのか
何が安全になるのか
どのような不満が減るのか
従来の商品と何が違うのか
ということです。
田中君たちは、商品の作り方には詳しくても、商品の価値を顧客の言葉に変換できていませんでした。
💥 少し強すぎた、まゆみさんの言葉
まゆみさんは、試作品を机へ戻しました。
「この商品を一番よく知ってるのは、作ってきた田中君たちでしょ」
「はい」
「何度も試作して、どこを改善して、何が良くなったのかも分かってるはずよね」
「そうですね」
「それなのに、市場の数字や競合情報ばかり並べて、肝心の商品の強みを調査に反映してない」
まゆみさんの言葉は、さらに勢いを増していきます。
「商品を作った人たちが、自分たちの商品の一番良いところを説明できないまま、市場だけ調べてどうするの?」
田中君は、完全に固まりました。
言われていることは理解できます。
しかも、おそらく正しい。
しかし、一度に正面から言われたため、すぐには言葉が返せません。
その様子を見た林さんが、すぐに口を挟みました。
「おいおい」
「何よ」
「田中が面食らってるじゃないか」
「見たままを言っただけよ」
「内容が間違ってるとは言ってない」
林さんは、少し声を落として続けました。
「もう少し柔らかい言葉を使った方がいいと思うぞ」
まゆみさんは、少しだけ口を尖らせました。
「分かってはいるんだけど、つい口に出ちゃうのよ」
「うん」
「私の性格、知ってるでしょ」
「知ってる」
林さんは、そこで一度うなずきました。
そして、少し間を置いて聞きます。
「反省は?」
まゆみさんは黙りました。
田中君も、佐藤さんも、その答えを待ちます。
「……反省します」
林さんは満足そうにうなずきました。
「よろしい」
「何で林さんに採点されなきゃいけないのよ」
「採点じゃない。確認だ」
「似たようなものでしょ」
「違う」
二人のやり取りを見ていた田中君は、どう反応すればよいのか分からないまま、画面へ視線を戻しました。
佐藤さんは、少し笑いをこらえているようでした。

🌱 林さんの影響で、これでも丸くなった
まゆみさんは、もともと思ったことをすぐ口に出す性格でした。
相手の説明に矛盾があれば、その場で指摘します。
目的が見えなければ、
「結局、何がしたいの?」
と聞きます。
回りくどい説明が続けば、
「先に結論を言って」
と言ってしまいます。
本人に相手を傷つけるつもりはありません。
むしろ、問題を早く解決したいと思っているだけです。
しかし、思考の速さに言葉が追いつくと、表現が強くなりすぎることがあります。
以前は、今よりもさらに直接的でした。
林さんと付き合うようになってから、
一度相手の話を最後まで聞く
すぐ否定せず、意図を確認する
正しいことでも、言い方を選ぶ
相手が理解できる順番で話す
ことを少しずつ意識するようになりました。
本人としては、かなり丸くなったつもりです。
ただし、林さんから見ると、まだ改善の余地は残っていました。
まゆみさんは、田中君が黙り込んでいることに気づきました。
また言いすぎたかもしれない。
そう思いましたが、その場ですぐ素直に言葉を直すのは、少し苦手でした。
「言い方は悪かったけど」
まゆみさんは、先ほどより少し声を落としました。
「この商品の良さが、ほかの情報に埋もれるのは、もったいないと思ったの」
「いえ」
田中君は顔を上げました。
「言われたことは、その通りだと思います」
「本当に?」
「少し驚きましたけど」
林さんが横から言います。
「少しじゃない顔をしてたぞ」
「林さん、今は黙っていてください」
「はい」
まゆみさんに言われると、林さんは素直に黙りました。
田中君は、試作品を手に取りました。
「僕たちは、どう作るかばかり考えてきました」
「うん」
「品質を安定させること、不良を減らすこと、製造時間を短くすること。それが商品の良さにつながると思っていました」
「それも大事だと思う」
「でも、それがお客さんにとって、どんな良さになるのかまでは整理できていません」
まゆみさんは、今度はゆっくりとうなずきました。
「そこを考えればいいんじゃない?」
🏭 製造上の改善と、顧客が感じる価値
佐藤さんは、田中君たちの話を聞きながら、紙を一枚取り出しました。
中央に縦線を引きます。
左側に、製造側の改善。
右側に、顧客が感じる価値と書きました。
「田中君たちが改善してきたことを、顧客側の言葉へ置き換えてみよう」
田中君は、試作中に改善した内容を挙げました。
製造側の改善
製品のばらつきを減らした
耐久性を向上させた
表面処理を変更した
形状を調整した
重量を少し軽くした
検査項目を増やした
不良発生率を下げた
佐藤さんは、一つずつ尋ねます。
「製品のばらつきが減ると、顧客にとって何が良くなる?」
田中君は考えました。
「どの商品を買っても、同じ使い心地になります」
「耐久性が上がると?」
「長く使えるので、買い替え回数を減らせます」
「形状を調整した理由は?」
「持ったときに手へ当たりにくくするためです」
「重量を軽くしたことで?」
「長く使用しても疲れにくくなると思います」
佐藤さんは、右側へ書き加えました。
顧客が感じる価値
商品ごとの差が少なく、安心して購入できる
長く使えて、交換費用を抑えられる
手に当たりにくく、使いやすい
長時間使用しても疲れにくい
品質不良に当たる可能性が低い
同じ内容でも、製造側と顧客側では表現が変わります。
製造側の表現
製品の重量を従来試作品より8%削減した。
顧客側の表現
長時間使用した際の負担を減らし、扱いやすくした。
製造側の表現
表面処理を変更し、摩耗試験の結果を改善した。
顧客側の表現
傷みにくく、長期間使用できる耐久性を高めた。
田中君は、二つの欄を見比べました。
「同じ改善なのに、ずいぶん印象が違いますね」
佐藤さんはうなずきます。
「市場調査報告書では、両方必要だよ」
「両方ですか?」
「製造上の事実だけでは、顧客への価値が伝わらない。顧客への価値だけでは、根拠が弱い」
つまり、
製造上の改善事実
と、
その改善によって顧客が得られる価値
を結びつける必要があります。
🔗 商品の強みと、顧客の望みを結びつける
まゆみさんは、佐藤さんが作った二つの欄を見ながら言いました。
「私が言いたかったのは、そこ」
「製造側の改善を、顧客の価値に置き換えることですか?」
「それだけじゃない」
まゆみさんは、右側の「顧客が感じる価値」を指さしました。
「この価値を、本当に欲しい人がいるのかを調べるのが市場調査でしょ」
田中君は、少しずつ理解しました。
これまでの田中君は、市場調査を次のように考えていました。
これまでの考え方
市場全体を調べる
顧客を広く調べる
競合商品を調べる
最後に自社商品と比較する
しかし、まゆみさんの指摘を反映すると、調査の始まりが変わります。
商品の強みを軸にした考え方
自社商品の一番良いところを整理する
その良さが、顧客のどの問題を解決するか考える
その問題に困っている人が実際にいるか調べる
顧客が現在使っている競合や代替手段を確認する
自社商品の強みが、購入理由になるか検証する
市場全体を無目的に広く調べるのではありません。
自社商品が持つ価値を必要としている人を探すために、市場を見るのです。
林さんが、試作品を見ながら言いました。
「市場に合わせて商品を見るだけじゃなくて、商品の強みを基準に市場を見るってことだな」
「そう。それ」
まゆみさんはすぐに答えました。
「誰にでも売れそうな商品として調べるんじゃないの」
「この商品の一番良いところを必要としているのは誰か。その人が何に困っていて、今は何を使っているのかを調べる」
田中君は、ノートへ書きました。
商品の強みを先に整理し、その強みを必要とする顧客を探す。
🗣️ アピールポイントは、作った側が決めるだけではない
田中君は、商品の強みをいくつか書き出しました。
耐久性が高い
軽量である
扱いやすい
品質が安定している
長時間使用しても疲れにくい
しかし、ここで新しい疑問が出てきました。
「この中から、一番のアピールポイントを僕たちが決めていいんでしょうか」
佐藤さんは答えました。
「候補を決めるのは、商品を知る田中君たちだね」
「候補ですか?」
「作った側は、商品の特徴を一番よく知っている。でも、どの特徴に最も価値を感じるかは顧客によって変わる」
たとえば、田中君たちは耐久性を最大の強みだと考えているかもしれません。
しかし、顧客が現在最も困っているのが重さであれば、軽量で扱いやすいことの方が強い購入理由になります。
反対に、顧客が頻繁な買い替えに困っているのであれば、耐久性が最も重要になります。
作り手が行うこと
商品の強みを候補として整理する
強みの根拠となる事実を示す
競合との違いを説明する
どの顧客に役立ちそうか仮説を立てる
市場調査で確認すること
顧客は本当にその問題に困っているか
どの強みに最も価値を感じるか
その価値にお金を払うか
競合商品で問題は解決されていないか
強みが顧客へ分かりやすく伝わるか
つまり、アピールポイントは、作り手だけで決めつけるものではありません。
しかし、作り手が商品の強みを整理しなければ、市場へ何を確認すればよいかも決まりません。
🍱 林さんの弁当理論、再び
林さんは、画面に残っている大量の情報を見ながら言いました。
「前に弁当の話をしただろ」
「いつしましたか?」
田中君が尋ねます。
「今しようと思ってた」
「まだしてなかったんですね」
「細かいことはいい」
林さんは、気を取り直して続けました。
「うまそうなものを全部弁当箱に詰めても、うまい弁当にはならない」
「はい」
「唐揚げ、刺身、カレー、ラーメン、ケーキを全部入れたら、豪華には見える」
「ラーメンは、どうやって入れるんですか?」
「そこは重要じゃない」
まゆみさんが冷静に言いました。
「最初から例えに無理があるのよ」
「分かりやすく説明しようとしてるんだ」
「だったら、もう少し現実的な弁当にしたら?」
「話が進まないから黙っててくれ」
林さんは、再び田中君を見ました。
「とにかく、情報を全部入れると、何を食べさせたい弁当なのか分からなくなる」
「報告書も、何を伝えたいのか分からなくなるということですね」
「そうだ」
「最初からそう言えばよかったんじゃない?」
まゆみさんが言いました。
林さんは少し黙りました。
「例えを使いたかったんだ」
「ラーメンを入れたかっただけでしょ」
「違う」
田中君と佐藤さんは、二人のやり取りを見ながら笑いました。
🧭 調査の軸が見えてきた
まゆみさんの二つの指摘によって、田中君たちが行う市場調査の軸が変わりました。
問題1 情報が多すぎる
対策として、
今回の判断に直接必要な情報へ絞る
重要な情報ほど、先に短く示す
補足情報は後ろへ回す
読み手に情報選別を任せない
ことにしました。
問題2 商品の良いところが埋もれている
対策として、
製造側の改善内容を整理する
顧客が感じる価値へ置き換える
最も強いアピールポイントの候補を決める
その価値を必要とする顧客を調べる
商品の強みと市場の需要を結びつける
ことにしました。
田中君は、報告書の構成案を修正しました。
これまでは、市場概要が最初に大きく置かれていました。
しかし、修正後は、調査目的の次に自社商品の特徴と顧客への価値を置きます。
修正前の構成
市場概要
市場規模
市場の成長性
顧客分析
競合分析
自社商品の特徴
価格
リスク
結論
修正後の構成
調査の目的
自社商品の特徴と強み
商品が解決できる顧客の問題
その問題を抱える想定顧客
競合商品と代替手段
自社商品との違い
受け入れられる価格
市場規模と販売可能性
市販に向けた課題
追加検証
現時点での判断案
「商品の良さから始めるんですね」
田中君が言うと、佐藤さんは答えました。
「商品の自慢から始めるわけではないよ」
「違うんですか?」
「商品の強みが、顧客のどんな問題を解決できるのかを示すんだ」
商品の特徴だけを並べれば、宣伝になります。
市場情報だけを並べれば、一般的な調査資料になります。
商品の強みと顧客の問題を根拠によって結びつけることで、市場調査報告書になるのです。
🔍 まず、何を調べるべきか
田中君たちは、商品について次の内容を整理しました。
商品側で分かっていること
どこを改善したのか
何が以前より良くなったのか
その改善を数字で示せるか
競合より優れている可能性がある部分
量産時に注意すべき点
品質を維持する条件
市場側で確認すること
その強みを必要とする顧客がいるか
顧客は現在どのような不満を持っているか
競合商品で、その不満は解決されているか
顧客はどの価値を最も重視するか
その価値に、いくらまで支払えるか
どのような言葉なら、価値が伝わるか
調査すべき内容が、かなり具体的になりました。
市場全体について何でも調べるのではありません。
自社商品の価値を必要とする人がいるかを確かめる。
それが、田中君たちの市場調査の中心になります。
🙇 まゆみさん、少しだけ言い直す
話が一段落したところで、まゆみさんは田中君へ言いました。
「さっきは、ちょっと言いすぎた」
「大丈夫です」
「本当に?」
「はい。最初は驚きましたけど、言われなければ気づかなかったと思います」
まゆみさんは、少し安心したように息を吐きました。
「間違ってないことでも、言い方まで正しいとは限らないから」
林さんが隣でうなずきました。
「よくできました」
「何で上からなのよ」
「反省したことを評価してる」
「林さんに評価されるために反省したんじゃない」
「そうか」
「そうよ」
まゆみさんは林さんへそう返したあと、田中君の報告書構成をもう一度見ました。
「でも、今度は商品がちゃんと見える」
「ありがとうございます」
「情報も、さっきより少なく見える」
「実際には、そこまで減らしていません」
「順番を変えたからよ。大事なものが先に見えると、ほかの情報も読みやすくなる」
これは、田中君にとって新しい発見でした。
情報量を減らすだけが、分かりやすくする方法ではありません。
重要な情報を先に示し、情報同士の役割を明確にすることでも、報告書は読みやすくなります。
🚀 次は、外の情報を集める
自社商品の強み。
その強みが顧客へ与える価値。
調査の目的。
優先して確認する内容。
ここまで整理したことで、ようやく外部情報を調べる準備が整いました。
田中君は、パソコンを開き直します。
「次は、競合商品や顧客の不満を調べていくんですよね」
佐藤さんはうなずきました。
「そうだね。ただし、前みたいに市場全体を何でも調べるわけではないよ」
「商品の強みを必要としている顧客を中心に調べる」
「その通り」
田中君は、新しいチャット画面を開きました。
今回はChatGPTではありません。
外部の情報や最近の動きを広く確認するため、Grokを使うことにしました。
林さんが画面を見ながら言います。
「また、俺たちより先にAIへ相談するのか?」
「今回は、林さんも一緒に見ています」
「ならいい」
「基準はそこなんですね」
田中君は、少し笑いながら調査依頼の文章を作り始めました。
今度は、単に、
この商品の市場を調べてください。
とは書きません。
商品の強み。
想定する顧客。
確認したい問題。
必要な情報源。
調査の目的。
それらを、きちんとGrokへ伝える必要があります。
AIへ何を調べさせるかは、人間が決める。
田中君は、そのことを意識しながら、最初の一文を入力しました。
市場調査では、外部の情報を集める前に、自社商品の価値を整理する必要があります。商品の一番良いところは何か。
その良さによって、顧客のどの問題を解決できるのか…
商品の一番良いところは何か。その良さによって、顧客のどの問題を解決できるのか。その価値を必要としている人は、本当に存在するのか。
市場に合わせて商品を見るだけでなく、商品の強みを基準に市場を見る。
そうすることで、無関係な情報を減らし、調査の軸を明確にできます。
🔄 第2部へ――集めるだけのAI活用から、確かめるAI活用へ
田中君は、市場調査報告書に必要な情報を集めれば、仕事の大半は終わると思っていました。
しかし、実際に進めてみると、情報が多いほど判断しやすくなるわけではありませんでした。
市場規模。
競合商品。
顧客の不満。
商品の特徴。
価格。
将来予測。
AIへ聞けば、関連しそうな情報はいくらでも出てきます。
けれども、その中から、
今回の判断に本当に必要なものは何か
事実として確認できるものはどれか
顧客の声と市場全体の傾向をどう分けるか
自社商品の強みを誰の価値へ結びつけるか
何を本文に残し、何を外すか
を決めるのは、人間です。
田中君たちは、ようやく市場調査の中心となる問いへたどり着きました。
この商品の強みは、誰の、どのような問題を解決できるのか。
次に必要なのは、この問いへ都合のよい答えを付けることではありません。
外部の市場情報を集め、複数の視点から比較し、根拠を確かめることです。
Grokは、どのような情報を見つけるのか。
Claudeは、その情報をどのような構成へ整理するのか。
ChatGPTは、どのような論理で商品と顧客を結びつけるのか。
そして、同じ資料を複数のAIへ渡したとき、出てくる答えは本当に同じなのか。
田中君の市場調査は、ここから新しい段階へ進みます。
第1部で見つけたのは、調べるべき問いでした。
AIに答えを決めてもらうのではありません。
AIの違いを使って、人間が見落としているものを探す。
田中君たちの、本当の市場調査が始まります。
田中君シリ-ズの記事です。

👥 登場人物紹介(設定)
🤖 AIと市場調査報告書づくりに挑む5人
この物語では、AIに詳しい一人の人物が、すべてを解決するわけではありません。
市場情報を調べる視点。
製造現場を知る視点。
顧客にとっての価値を考える視点。
情報を整理し、論理を確認する視点。
そして、集めた情報を基に決断する立場。
それぞれ異なる経験を持つ人物が意見を出し合いながら、田中君の市場調査報告書を完成へ導きます。
AIは多くの情報や文章を提示します。
しかし、何を調べ、何を信じ、何を報告し、どのような判断を下すのか。
その中心にいるのは、あくまで人間です。
👨💻 田中君
試作ラインで働く、今回の物語の主人公。
製造現場で約10年間働いてきた経験を持ち、工程報告書や改善記録の作成には慣れています。
一方で、市場調査報告書を書くのは今回が初めてです。
真面目で責任感が強く、仕事を任されると、できるだけ抜けのない資料を作ろうとします。
その長所が裏返り、AIから提示された調査項目をすべて必要だと思い込み、情報を集めすぎてしまうこともあります。
田中君の特徴
真面目で、頼まれた仕事を最後までやり切ろうとする
分からないことを放置せず、AIへ積極的に質問する
情報が不足することを恐れ、調査範囲を広げすぎやすい
AIの整った回答を、最初は正解に近いものとして受け取りやすい
指摘を受けると、素直に考え直すことができる
製造現場の一次情報を持っている
学びながら、自分なりのAIの使い方を身につけていく
物語の序盤では、AIに何を調べればよいかを教えてもらい、その回答を一生懸命完成させようとします。
しかし、林さん、佐藤さん、まゆみさんとの対話を通して、
AIが出した仕事を、人間がすべて引き受けることがAI活用ではない
と気づいていきます。
最終的には、AIへ目的と役割を与え、複数の出力を比較し、根拠を確認し、自分の言葉で判断を説明できる担当者へ成長します。
AIから答えを受け取る人から、AIを使って判断材料を作る人へ。
それが、この物語における田中君の変化です。
👨🔧 林さん
田中君と同じ現場で働く、頼れる先輩。
製造現場の経験が長く、資料上の理屈だけではなく、
「それは現場で本当にできるのか」
という視点から物事を考えます。
難しい専門用語や抽象的な説明を、料理や弁当、検査作業などの身近なたとえへ置き換えるのが得意です。
ただし、そのたとえが少しずれたり、まゆみさんから突っ込まれたりすることもあります。
林さんの特徴
現場感覚を重視する
難しい話を、身近なたとえで整理する
理屈だけで成立している報告書に疑問を持つ
田中君が一人でChatGPTへ相談したことを、少しだけ引きずっている
口調は軽いが、仕事の本質を突くことがある
AIよりも、まず人間同士で話すことを大切にする
量産時の作業負荷や品質のばらつきに敏感
田中君がAIから出された大量の調査項目を処理しようとしていたとき、林さんはこう問いかけます。
「AIが出した仕事を、お前が一生懸命手伝ってるように見えるぞ」
この言葉は、物語全体を通じて重要な問いになります。
AIを使っているつもりでも、AIが作った課題や文章を完成させることが人間の仕事になれば、立場が逆転してしまいます。
林さんはAIの専門家ではありません。
しかし、現場で長く働いてきた経験から、
本当に必要な情報か
実際に作れるのか
作業者が再現できるのか
量産しても品質を保てるのか
を確認します。
AIが見つけた市場の可能性を、現場で実現できるか確かめる人物。
それが林さんの役割です。
👨🏫 佐藤さん
情報整理と改善に詳しい、田中君たちの相談役。
落ち着いた口調で相手へ問いを投げかけ、自分で考えられるように導きます。
正解をすぐに教えるのではなく、
「その情報は何の判断に使うのか」
「その結論は、どの根拠から出たのか」
「誰がその判断に責任を持つのか」
と問い返します。
一見すると隙のない人物ですが、過去には情報を詰め込みすぎた六十ページの報告書を作り、上司から三ページ目で、
「これを読んだあと、私は何を決めればいいんだ?」
と聞かれた失敗経験があります。
佐藤さんの特徴
情報の役割と優先順位を考える
事実、仮説、判断を明確に分ける
AIの文章が整っているだけでは信用しない
相手が自分で気づけるように質問する
自分の失敗も隠さず、実例として伝える
報告書は「情報を見せるもの」ではなく「判断を支えるもの」だと考える
AIを否定せず、任せる範囲を明確にする
佐藤さんは、集めた情報を次のように分類します。
今回の判断に不可欠な情報
結論を支える補助情報
将来の検討に使える情報
さらに、AIが提示した内容について、
事実は存在するか
資料は信用できるか
根拠から結論まで論理的につながるか
を確認するよう田中君へ教えます。
佐藤さんが一貫して伝えるのは、
AIの出力を採用する前に、人間がその役割と根拠を確認すること
です。
AIの答えを整える人物ではなく、人間の判断を整える人物。
それが佐藤さんです。
👩💼 まゆみさん
林さんの恋人であり、読み手と顧客の感覚を持つ鋭い助言者。
社内では林さんと交際していますが、仕事の内容については遠慮なく意見を伝えます。
専門用語や情報量に惑わされず、
「結局、この商品は誰のためのものなの?」
「一番伝えたい価値が埋もれていない?」
「それ、本当に買う人の気持ちになってる?」
と、読み手や顧客の立場から確認します。
指摘があまりに直接的なため、林さんから、
「もう少し優しく言えないのか」
と言われることもあります。
まゆみさんの特徴
情報の中心が見えなくなると、すぐに気づく
作り手の都合と、顧客の価値を分けて考える
専門的に整った文章でも、分かりにくければはっきり指摘する
顧客の発言と、実際の購入行動の違いに敏感
短い言葉で、本質を突く
林さんとの掛け合いで、物語に軽さを加える
指摘が厳しすぎたときは、一応反省する
田中君が集めた大量の情報を見たまゆみさんは、二つの問題を指摘します。
一つは、情報が多すぎること。
もう一つは、商品の最も強い価値が埋もれていることです。
製造側では、
軽量化した
耐久性を改善した
品質ばらつきを減らした
という改善が重要です。
しかし顧客が知りたいのは、
長時間使っても疲れにくいか
長持ちするか
価格に見合うか
今の商品から買い替える理由があるか
です。
まゆみさんは、製造上の強みを顧客価値へ置き換える役割を担います。
情報が正しいかだけではなく、その情報が相手に伝わり、行動につながるかを見る人物。
それがまゆみさんです。
👔 黒田営業部長
新製品の市場調査を田中君へ依頼した営業部長。
決断が早く、仕事を前へ進める力があります。
一方で、細かな調査方法や作業工程まで長く説明するより、まず結論を知りたがります。
田中君へ市場調査報告書を依頼するときも、細かい仕様書を渡すのではなく、
「じゃあ田中、頼むわ!」
と、大きな方向だけを示して仕事を任せます。
黒田営業部長の特徴
判断と行動が早い
細かな過程より、最初に結論を確認する
市場で売れる可能性を重視する
情報量より、次に何をするべきかを知りたがる
AIの活用自体には抵抗がない
ただし、最終的には担当者自身の説明を求める
一つの仕事が終わると、すぐに次の課題を持ってくる
完成した報告書を受け取った黒田営業部長は、最初にこう尋ねます。
「先に結論を聞こう。この商品、売れそうか?」
さらに、
「それで、AIは何と言ってる?」
と確認します。
ここで田中君が、
「AIが売れると言っています」
と答えるだけでは、報告になりません。
AIの仮説をどう確認し、現場の条件をどう加え、担当者としてどのような判断を下したのか。
黒田営業部長へ説明できて、初めて報告書が仕事として完成します。
黒田営業部長は、田中君たちの調査結果を基に、
全面販売はまだ行わない
対象顧客を限定して試す
価格と使用評価を確認する
量産条件で品質を確かめる
結果を見て本格販売を再判断する
という次の行動を決めます。
そして最後には、いつもの調子で田中君へ告げます。
「じゃあ田中、次も頼むわ!」
報告書を読むだけでなく、集めた情報を会社の行動へ変える人物。
それが黒田営業部長です。
🔗 5人が持つ、それぞれの視点
登場人物主な視点物語での役割
田中君 担当者・学習者AIを使いながら、人間が主導する方法を身につける
林さん 製造現場理論や市場性が、現場で実現できるか確認する
佐藤さん 情報整理・論理目的、根拠、優先順位、判断の関係を整える
まゆみさん 顧客・読み手商品の価値が顧客へ伝わるか確認する
黒田営業部長 営業・意思決定報告書を基に、会社として次の行動を決める
一人だけでは、市場調査報告書を完成させることはできません。
田中君だけでは、情報を集めすぎます。
林さんだけでは、市場の需要を十分に確認できません。
佐藤さんだけでは、現場や顧客の具体的な感覚が不足します。
まゆみさんだけでは、会社としての事業判断まではできません。
黒田営業部長だけでは、判断に必要な根拠を集められません。
それぞれの視点を組み合わせることで、
市場で求められているか
顧客に価値が伝わるか
現場で作れるか
根拠は信頼できるか
会社として進めるべきか
を、一つの報告書の中で考えられるようになります。
AIだけで報告書を作るのではありません。
この5人と3つのAIによる、市場調査報告書づくりが始まります。
✨田中君シリ-ズです。ご興味がございましたらお楽しみください。
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