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もし簿価~もしソフトバンクの女子インターンが簿価会計の教科書を読んだら~

 企業価値は『未来』で測るものだと、誰が決めたのだろうか。
 それがどれほど不確かな希望でも『フェアバリュー』という名の光で照らされれば、投資家は信じてしまう。
 簿価とは過去の記憶、減価償却されたモノの亡霊。
 だが、亡霊には、時に真実が宿る。

 これは、ある女子インターンが『未来の幻』ではなく、『過去の真実』に目を向けてしまった架空の物語である。
 彼女が読み始めたのは、誰も開かなくなった古い会計の教科書だった。
 そして気づいてしまったのだ。夢を簿価で測ってしまったら、すべてがどう壊れるかに……。

第一章:『マネジメント』と『まやかしメント』

 ある日、財務分析部の女子インターンの大神乃嶺は、倉庫の段ボール箱の中から埃をかぶった一冊の本を見つけた。

『連結貸借対照表の読み方(日本基準)』

『……なんだこれ、簿価って何?』

 それは、今どき誰も見向きもしない、減価償却と簿価主義の教科書だった。

 一方、彼女がインターンを務める企業……。それが、ソフトバンクグループ。

『NAVです』『フェアバリューです』『未上場株もAIで時価算出してます』

未上場株もAIで時価算出してます

 そう語る上司の目は、いつも遠くの未来を見ていた。現金の束ではなく、評価益という幻を見ていた。

『でも……これ、もし簿価で評価したらどうなるんだろう?』

 大神乃嶺は、好奇心から『もし簿価』という禁断の実験を始めてしまった。

第二章:NAVという名の錬金術

 SBGの時価純資産(NAV)は、決算発表のたびに話題をさらう。
『1株あたりNAVは1万2000円! 今の株価は割安だ!』
『資産価値は40兆円、負債なんて15兆円だから問題ない!』
 市場は喝采を送るが、そのNAVの中身は……。

・アーム(Arm)株式:簿価2兆円 → 時価8兆円
・ビジョンファンド未上場株:簿価5000億円 → 時価評価3兆円(推定)
・保有株の含み益合計:20兆円超(帳簿の4倍)

 NAVとは『時価評価された資産』から『簿価のままの負債』を引いた、都合のいい差額。要するに、資産は夢、負債は現実という、会計界の蜃気楼。

第三章:もし簿価だったら……驚愕の連結B/S

 大神乃嶺は、簿価ベースでSBGの連結貸借対照表を再構築してみた。

項目 NAV基準 簿価基準(推定)
・総資産 約50兆円 約18兆円
・総負債 約15兆円 約15兆円(変わらず)
・純資産 約35兆円 約3兆円
・時価総額(株価) 約10兆円(2025年現在) 簿価純資産割れ

 さらに、未上場株の簿価を勘定に入れれば、『ビジョンファンドの幻想』は一掃され、債務超過スレスレ。

『あの……これ、もし金融庁が『NAV会計禁止』って言ったら、即アウトじゃないですか?』

 大神乃嶺の声は、誰にも届かない。IR担当は、今日も投資家に『夢』を語るから。

焼き尽くされるエクセルの海
 彼女が作った簿価B/Sを見て、経理部のベテランがつぶやいた。

『君……そのExcel、シュレッダーにかけた方がいいよ。うっかり流出したら株価が飛ぶ』

 だが、大神乃嶺は思った。

『企業価値は、時価で語っていいけど、債務はいつも現金で返すものよね?』

 そして、彼女はそっと社内Slackに投稿した。

『NAVで企業価値を語る時代は、もう終わっているかも知れません』

マネジメントは『誤魔化しメント』に変わった
 もし孫正義がNAVではなく簿価で企業価値を測っていたら、『レバレッジの魔法』は使えなかった。きっと、『幻の未来図』ではなく、『現実の資金繰り』に向き合っていた。

 でも、そうだったら、ソフトバンクグループはここまで大きくなってはいなかったのかも知れない。

第四章:NAVの呪文が解ける日

~Excelから魔法が消える時~

『NAVというのは、未来の可能性に値札をつける作業です』

 IR説明会の壇上で、幹部が涼しい顔で語る。後ろのスクリーンには、例の『エクセル神話』が映る。

保有資産一覧(時価評価)
・Arm株:8兆円
・T-Mobile株:4兆円
・Coupang株:2兆円
・その他未上場スタートアップ:夢×100社

 それらが合計され、『NAV=40兆円』という数字が、まるで預金残高のように扱われる。

 でも大神乃嶺は気づいてしまった。
 そのNAVの正体は、Excelのセルに埋め込まれた『もしも』という関数のかたまりだった。

脳内試算:もしもの世界
 SBGの幹部が使う『もしも』の公式は、こうだ。
=IF(IPO予定="未定", 直近資金調達額×夢倍率, 株価×保有株数)

 未上場企業は『最近のファンディングで評価額1兆円!』と言いながら、売却実績ゼロ。しかも、売ると市場が冷めるから売れない。売らないから価値は維持される。まるで、賞味期限が書いていない食品のようだ。

『これじゃあ、評価益っていうより、評価されたい願望の塊じゃないですか……』

 大神乃嶺のつぶやきは、やがて社内のSlackで密かにシェアされ始めた。
 タグはこうだ。#NAV神話の終焉 #Excelの黒魔術 #簿価に帰れ

会計士の遺言:『減損は裏切らない』
 そんな中、ある会計士OBが社外のセミナーでこう言った。

『私は40年、企業の財務を見てきたが、簿価は嘘をつかない。
NAVは語る。けれど、減損は叫ぶ。』

 実際、SBGのビジョンファンドでは過去に数兆円規模の減損が発生。
 そのたびに、NAVはリフレッシュされ、新しい夢が上書きされた。
 減損という名の現実逃避。

 大神乃嶺はふと思う。

『減損って、NAVから愛想をつかされた時価じゃないですか?』

金融庁、動く?
 そして2026年某日、金融庁がポツリと発表した。

『企業の財務開示におけるNAV強調は、投資家の誤認を招く恐れがある。
今後、簿価情報と併記し、NAVとの差異を開示するガイダンスを検討する』

 市場は震えた。
 メディアは書き立てた。

『NAVは実在しなかった!? SBG、時価評価の禁断領域へ』

笑わないアナリスト
『NAVって、バリュー投資家が一番嫌う言葉なんだよ』

 そう語るのは、某証券会社のアナリストの芹沢。
 彼は静かに言った。

『NAVは評価益を原資にした信用取引みたいなもんだよ。上がってるうちは信じられるけど、逆回転したら地獄だ。』

『NAVが企業価値だって? それ、自分の持ってる宝くじが当たる前提で住宅ローン借りてるのと同じだよ』

 大神乃嶺は笑えなかった。

そして、NAVが消えた日
 ある夜、SBGのIRページから、NAVのグラフが静かに消えていた。

 誰も理由を説明しない。
 メディアも触れない。
 でも社内の一部ではこう呼ばれていた。
『呪文が解けた日』

第五章:孫正義、夢の帳尻合わせ

~キャッシュの逆流とExcelの涙~

営業キャッシュフローは語る
『投資ってのは、夢に金を払う行為じゃない。未来の帳尻に先に金を払ってるようなもんだ』

 あるベテラン財務マンが言った。

 ソフトバンクグループの営業キャッシュフロー(CF)は、2024年もマイナスを継続。
 なぜか? ビジョンファンドのスタートアップから現金は生まれていない。寧ろ『キャッシュを生むまでが、永遠の助走期間』である。

『NAVでは黒字、でも営業CFはずっと赤字……。それ、普通の会社だったら倒産予備軍ですから』

 大神乃嶺はようやく気づく。
 NAVの裏側には、現金の逆流がある。

帳尻の魔法:資産売却ショータイム
 では、SBGはどうやって決算を『見栄え良く』していたのか? それは『資産売却益』という一時金の注入だ。

・Arm株の一部を売る → 数千億円の営業外収益
・T-Mobile持株売却 → 数兆円の特別利益
・子会社上場時の売却益 → 見せかけの黒字

 つまり、『夢から生まれた含み益』ではなく、『夢を切り売りして得た現金』で、PLとBSを整える。『これ、家計でいえば収入ゼロでも貯金を切り崩して生活費を補填してる状態ですよね……?』

 大神乃嶺のつぶやきに、芹沢アナリストが言った。

『いや、それよりタチが悪い。親の遺産を切り崩して、子ども名義でカードローン組んでるような話だ』

減損という自爆スイッチ
 NAVでの評価益に対し、会計監査が突きつける現実……。それが減損。
 実績の出ない企業、資金調達難のスタートアップ、外部評価のない未上場株……。

 そのたびに、SBGの決算には突然現れる赤い数字。

『減損損失▲9,740億円』

 あるときはWeWork、またあるときはOYO、そして幾多の希望の星。

『夢は見るまでは輝いてるけど、一度、現金にできないと判定された瞬間に、ゴミになるんですね……』

 大神乃嶺はExcelで、NAVグラフの隣に『減損累積グラフ』を作成した。
 その形は、ジェットコースターのように急降下していた。

NAV信者たちの沈黙
『孫さんが言ってるなら大丈夫』
『NAVがあるから買いだよ』
『これは次のGoogleだって言ってたじゃないか!』

 かつてそう言っていた個人投資家たちは、今や口を閉ざしていた。
 NISA口座に並ぶSBG株の平均取得単価を見つめながら。

 SNSでは、こうつぶやく声が増えた。

『NAVって、信仰だったんだな』
『簿価って、現実だったんだな』

そして夢の帳尻が尽きるとき
 2026年、突如としてソフトバンクグループは、社債の新規発行停止を発表。『市場環境の変化により柔軟な財務方針へ』と書かれていたが、真実はこうだ。

『もう担保にできる夢が残っていなかった』

 資産売却も限界。NAVで盛った企業価値が、市場に受け入れられなくなった。

 そのとき、大神乃嶺は一つの言葉をExcelに打ち込んだ。
=IF(NAV="信仰", "現金がすべて", "倒産は現実")

 そして彼女は、つぶやいた。

『もし簿価だったら……。この会社、もっと早く夢から目覚めていたかもしれない』

第六章:もし簿価経営だったら──ソフトバンクは潰れたのか?

〜神話なき経営の終わり、そして再起の地平〜

『NAVなし経営』の禁断シミュレーション
 2026年、ある金融系シンクタンクが極秘裏に作成していた一つのレポートが社内で話題となった。

『SBG簿価会計導入時シナリオ(非公開試算)』

 そのシミュレーションは単純だった。
『NAV』の代わりに、すべてを簿価ベースで評価した財務諸表を前提に、資金調達能力、格付け、社債利回り、そして市場心理を分析したのだ。

 その結果はとっくに債務超過。調達不能。BB格で社債暴落。日本語で言えば、『大企業の顔をしたゾンビ』であった。

 レポートの表紙には、こうあった。

『簿価会計では、SBGは信用の劇場に立てない。時価評価こそが、演者としての衣装だった』

だが、『潰れた』とは言えない
 大神乃嶺は、ふと思った。

『もし最初から簿価でやっていたら、SBGはここまで巨大化せず、そもそも破綻するほどの規模にもならなかったのでは?』

 そう。簿価会計は拡張性を持たない。
 つまり、『安全ではあるが、夢は見られない。』
 それゆえに、『簿価経営だったら潰れなかったが、そもそもここまで登っていない』のである。

 孫正義という男は、高所からの転落死を覚悟したうえで、NAVの階段を駆け上がった。

NAVが消えた後の世界
 NAVというストーリーテリングを失ったSBGには、次の問いが待っていた。

『いま、何を語れば投資家は動いてくれるのか?』

AI?
半導体?
中東との提携?
データセンター?
国家戦略級構想?

 どれも、どこかで見たことのある話だった。
 どれも、『実体のない資産』をめぐる物語に過ぎなかった。
 投資家たちは、もはやパワーポイントで盛った『PPT芸』では動かない。

 SBGはついに、『現金残高』『減損履歴』『営業CF』によって『現実』を語りはじめた。それは、虚構の舞台から、泥のリングに降りてくる瞬間だった。

 株主総会、ざわめく
 2026年のSBGの株主総会。

 いつものように、孫正義はプレゼンを始める。

『皆さん…SBGは、NAVを語るのをやめました』

ざわ…… ざわ……

『理由は簡単です。夢を数字で売る時代は、もう終わったんです』

 誰かが手を挙げた。

『じゃあ今、我々は何に投資してるんですか?』

 孫正義は、一呼吸置いてから言った。

『現金の流れです。キャッシュこそが、未来を測る唯一の尺度です』

 会場は凍りついたが、大神乃嶺だけが後ろの方で静かに拍手していた。

再起の地平:新しい神話は必要か?
 SBGは再建へと舵を切った。

未上場株の整理
一、キャッシュ・カウ事業(携帯・通信・Yahoo!)の再評価
二、投資のローテーションを『時価評価』から『実効キャッシュ』へ

 もはや『神話』は語られない。だが、『生き残る企業』へと変貌を遂げるには、それで十分だった。

『神話はいらない。現金があれば、戦える』

NAV、そしてExcelを超えて


『簿価会計って、不便だけど、正直ですね』

 大神乃嶺は、小さく笑いながら古びた会計教科書を閉じた。

『NAVの時代は、Excelがすべてを創造できた。でもこれからは、Cash Flow Statementが人生設計の教科書よ』

 そして彼女は、新しいファイルを開いた。
="企業価値とは" & IF(現金>夢, "現実", "まぼろし")

もし社債……。もしSBGの個人向け社債をあなたが買っていたら?

〜金利という罠、夢のあとさき〜

『高利回り』に群がる人々
 2025年某日。都内の某証券会社のカウンターには、退職金を手にしたばかりの老人たちが列をなしていた。

『年利3.65%? えっ、ソフトバンクグループ? あの孫さんのところでしょ。大丈夫よ、だって大企業だもん』
『銀行に預けても増えないし、これくらいのリスクは……ねえ?』

 営業マンはこう囁く。

『ご安心ください。大企業の社債ですし、前回もちゃんと償還されました』

 笑顔の裏で、彼は知っていた。
 この『夢の利回り』が、いかにギリギリのキャッシュフローに支えられているかを。

信用格付けの落とし穴

 SBGの社債は、日本では『A格』付近で取引されていた。
 だが、海外の格付け会社からはすでに『投資不適格級(BB以下)』の警告。

『高利回り社債の背後には、高ストレス経営がある』

 大神乃嶺は、社債目論見書を読んでいた。

『返済原資:資産売却および借換えによる流動性の確保』……それ、つまり『次の社債で前の社債を返す』ってことですよね?

 つまりSBGの社債は、現代の『ポンジ的構造』を正規のフォーマットで合法化した唯一の芸術だった。

簿価で見れば、個人は買っていない
 もしソフトバンクグループ(SBG)のバランスシートが『簿価評価』で開示されていたなら、果たして誰がこの社債を買っただろうか?

・保有資産:18兆円(簿価)
・有利子負債:15兆円
・純資産:わずか数兆円──あるいは下手をすればマイナス

『こんな財務体質の企業が、個人投資家から数千億円規模で資金を調達していたとすれば、それはバブルではなく集団催眠です……。』
 芹沢アナリストは、静かにそう呟いた。

社債の最後の買い手=財務諸表を読まない個人

 プロの機関投資家はすでに手を引いている。
 銀行も、引受に及び腰だ。
 年金基金も、リスク管理の名のもとに撤退済み。

 それでもなお、『最後の買い手』として残ったのは、個人投資家だった。

『まさかソフトバンクが潰れるなんて……』
『証券マンも拙いなんて言ってなかったし……』
『もう少しで償還だったのに……』
 そんな声が、かつて高利回りファンドや外債仕組債に手を出した人々と、同じ口調でネットに並びはじめている。

もし社債を買っていたあなたへ
 この物語を読んでいるあなたが、もしSBGの社債を買っていたとしたら……。もしかすると、あなたはNAVという神話の『終着駅』を担わされた最後の乗客だったのかも知れない。

 でも安心してほしい。

 あなたの投資は、決して無駄ではなかった。
 なぜなら、そのお金でソフトバンク通信が楽天に買収されたのだから。

新会社名:ラクテンバンク株式会社

『夢を、分割払いで。』

 それが、買収発表時のキャッチコピーだった。
 合体相手の楽天モバイルは、血を吐くような赤字企業。
 SBGは債務超過、通信を売るしかなかった。

 この『救済的企業合体』は、なぜか国民的祝賀ムードで報じられた。

『通信の自由化の象徴』
『新たな資本主義の形』
『孫と三木谷の魂の握手』

 でもあなたは知っている。
 それが、終末処理だったことを。

 そして、最後に笑うのは誰か?
 NAVは崩れ、社債は紙くずになった。
 けれど、その裏で楽天の株価はなぜか爆上がり。
『SBGの優良資産を激安で買えた!』という期待が、短期筋を躍らせた。

 証券口座を開くと、こんな通知があった。

※お知らせ:SBG社債は、楽天ポイントに自動変換されました。
有効期限:365日。楽天市場・ラクマ・楽天トラベルなどでご利用いただけます。

 そう。あなたの投資は、楽天経済圏の肥やしになった。

終章:簿価の夜明け

 SBGという神話は終わった。
 楽天が、その残骸の上に新たな城を建てた。
 名づけて、NAV-LESS CITY(ナブレス・シティ)。

 そこにはもう、夢はない。
 あるのは、月額制とポイント還元だけ。

 そして、最後に残った教訓はこれだった。

 簿価で語れ。現金で考えろ。楽天ポイントで泣け。

『もし簿価』……それは、NAVの夢から目覚めた者たちが、楽天ポイントとともに現実へと着地する、『負け組のための幸福論』である。

 そして、ポイントで生きる者こそが、最後に笑う。

(つづく)

武智倫太郎

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