そして誰も社債を買わなくなった
※本記事は『週刊バブルウォッチ:ソフトバンクとAI神話の終焉』創刊号に収録予定です。
SBGの綱渡り財政カレンダー
2025年4月、ソフトバンクグループ(SBG)は、過去最大規模となる6,000億円の個人投資家向け社債(5年債、利率3.0~3.6%)の発行を発表しました。これは、同月および今後に控える社債償還の資金、さらに傘下ファンドから取得した英Arm社株の未払代金に充てるためです。
しかし市場は、この『借りて返す』構造に敏感に反応しました。発表直前の4月4日時点で、SBGの5年物クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)スプレッドは約329bpsまで急上昇し、2023年5月以来の水準に達します。そして、4月7日にはSBG株が前日比12%も急落。市場は明確に『警戒モード』に入ったのです。
このタイミングでSBGは、約10年ぶりに機関投資家向け社債(100億円規模)の発行も試みましたが、規模は極めて限定的。Bloombergの表現を借りるならば、もはやこれは『個人頼みが鮮明』となった状態です。
言い換えれば、SBGの社債は機関投資家から『危なっかしくて買えない水準』とみなされており、高金利に釣られた個人投資家にそのリスクを押し付ける構図が強まっているとも言えるでしょう。
安定と言いながら膨らむリスク
2024年度第3四半期決算(2025年2月発表)では、SBGは3,691億円の純損失を計上しました。主因は、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)関連の評価損と、5,400億円にのぼる円安による為替差損です。
一方でCFOは『NAV(純資産価値)約29.3兆円』『手元流動性約5兆円』『LTV(ローン・トゥ・バリュー)12.9%』といった指標を挙げ、健全性を強調します。事実、S&Pは2024年5月にSBGの長期格付けを『BB+(安定的)』へ1ノッチ引き上げ、ムーディーズも同年11月に『ポジティブ』へ見通しを改善しています。国内格付け機関JCRは『A』評価を継続中です。
しかし、こうした表面的な健全性の裏で、外貨建て債務の返済リスクがじわじわと増しています。特に円安が進めば、社債償還時の円換算返済負担が増し、実質的な債務圧力は上昇する一方です。
金利は二倍、信頼は半分に
今回発行される5年債の想定利率は3.0〜3.6%。一方、2020年に発行された同期間のホークスボンド(第55回無担保社債)の利率はわずか1.640%でした。つまり、金利負担は二倍以上に膨らんでいます。
しかも、これは単なる『金利上昇』ではなく、『信頼の低下』の裏返しです。借金を返すために新たな借金をする。しかも前より高い利息を払って。

これを『自転車操業』と呼ばずして、何と言うべきか。せめて『綱渡り経営』という表現にとどめておきましょう。
AIに夢を、社債に恐怖を
孫正義氏は近年、資産売却による『守り』の姿勢から一転、2023年末以降、AIインフラへの大規模な攻勢に打って出ました。2025年1月には『スターゲート計画』、3月にはOpenAIへの最大400億ドル出資を公表。総額で5,000億ドル(約75兆円)という世界的規模の投資戦略を掲げています。
この動きはNAV拡大を狙った未来投資であると同時に、『もし失敗したら即崩壊』という危うさを伴います。SBGは『プロジェクトファイナンス』『共同出資』などを通じてリスク軽減を図っていると強調しますが、借りる額が大きければ、リスクもまた大きくなるのが現実です。
投資先が崩れると、本体も揺れる
SVF傘下の主要企業群──WeWorkの破綻、OYOやBYJU’sのIPO延期など、投資先の評価損がSBG本体の財務に直接跳ね返る構造は依然として変わっていません。
中でも注視すべきは、SBGが約90%保有するArm社の株価動向。同社の評価額はNAVに直結しており、米中半導体摩擦や輸出規制などの地政学リスクによって、Armの企業価値が大きく揺れる可能性があります。
SBG自身も開示資料で『対中規制が回収リスクに直結する』と明記しており、地政学の激震はただちに財務の地盤沈下につながりかねません。
破綻警戒カレンダー(2025年4月〜)
以下は、今後の社債償還スケジュールおよび注目イベントです。
4月7日:6000億円社債発行発表、SBG株急落
4月18日:新発債利率決定、機関投資家向け小規模発行
4月20日:外貨建て社債(約1,000億円相当)償還
4月25日:第55回ホークスボンド(5,000億円)償還
5月中旬:2025年3月期決算発表(業績悪化で再評価の可能性)
7月30日:ドル・ユーロ建て社債(約1,900億円)償還
8月中:Arm株取得代金の最終支払い完了(約95億ドル)
9月19日:ユーロ建て社債(約1,150億円)償還
年末:OpenAI出資300億ドル分の『条件期限』
2026年4月・7月・9月:国内外での大型償還が再び到来
これらの償還イベントの成否が、今後のSBGの資金繰りを決定づけます。
最後に
『信用』とは、未来の約束に対して、市場が静かに下す『投票』のようなものです。いま、ソフトバンクグループは、その投票用紙すら自ら印刷し、個人投資家に配り歩いているように見えます。
6,000億円の社債を発行して、5,000億円の社債を返す。これはもはや『資金調達』ではなく、『借金のための借金』です。
しかも、投資金額ならまだしも、なぜか金利は倍プッシュ。──これを『自転車操業』と呼ばずして、何と呼ぶべきでしょうか。
それでも、『孫さんは凄い』『AIはすべてを変える』と信じ、手元の資金を社債に投じる方はあとを絶ちません。
その言葉を最後に信じたのは、WeWorkだったのか、DiDiだったのか、それともOYOだったのか……いまや定かではありません。
夢にお金を出すという行為は、たいてい現実で涙を流す結果につながってきました。そしてSBGは、投資家に未来を語りながら、過去の失敗を着実に積み上げ続ける、『信用のブラックホール』となりつつあります。
果たして、次に吸い込まれるのは、どなたの個人資産や、老後の生活資金なのでしょうか。
武智倫太郎
