SBGの自転車操業と倍返し投資の末路:孫正義がAI神話で仕掛けた最後の博打
※本記事は『週刊バブルウォッチ:ソフトバンクとAI神話の終焉』創刊号の巻頭特集として収録予定です。
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一方、Kindle版はといえば、どこをタップしてもページがめくれるだけ。
リンク? ないよそんなもん。あるのはテキストと、昭和の文通みたいな静けさだけだね。
でも、それがまたいいんです。
なぜならKindleには、『何も起こらない』という癒しがある。データも飛ばなければ、広告も出ない。かつて、鉛筆と原稿用紙だけで闘っていた文士たちにとって、これはまさに現代の文芸ストイシズム。
昭和の書斎でラジオの音だけを頼りに夜を過ごしたあの頃。
画面に何も動かない、ただ文字だけがそこにあるという贅沢。
それがKindleです。
というわけで、活字を静かに味わいたい方、あるいはnoteが閉鎖されるその日が来る前に『紙に近い何か』として記録を残したい方は、ぜひKindle版も無料公開中に、ご一読ください。
ところで、2025年に入って以降、ソフトバンクグループ(SBG)の株価は大きく揺れ動いています。同社の株式掲示板を眺めていると、株式投資に不慣れな個人投資家たちが、どのような誤解に基づいて行動しているかが非常にわかりやすく可視化されています。
彼らの多くは、配当収益や企業の成長によるキャピタルゲインを目的とした中長期の資産運用ではなく、信用取引による短期売買を繰り返しており、実質的には『株価が上がるか下がるかの丁半博打』に近い手法をとっています。投資スタイルは、ほとんどFXトレーダーと変わりません。
そのため、SBGの本質はもちろん、世界経済や半導体業界の構造的変化といった背景をまったく理解していないまま投機に走っているケースが目立ちます。ただ、『値動きが大きい銘柄に張る』という観点では、方向さえ当たれば利益を出せるというロジックを理解している点で、一般的な現物投資家よりも信用取引の仕組みには精通しているとも言えるでしょう。
とはいえ、ファンダメンタルズを完全に無視した『ギャンブラー的投資家』も少なくありません。彼らにとって重要なのは『SBGか否か』ではなく、『激しく動くかどうか』。コロナ禍には医薬品株、地政学リスクには防衛関連株といった感じで、ただひたすら『目立つテーマ』に張っているだけなのです。こうした投資家層に、SBGが抱える構造的問題を理解してもらうのは極めて困難です。
本稿では、今週の株価がどう動くかではなく、SBGと孫正義の『未来信仰』が日本経済を揺るがし、場合によっては第三次世界恐慌、さらには第三次世界大戦の引き金にすらなりかねないという現実を、冷静かつ構造的に分析します。目的は、そうした暴走を未然に止めるための視座と情報を、読者の皆様に提供することです。
同じ過ちを繰り返す孫正義:市場は二度目の夢に騙されるか
私はこれまでも孫正義による致命的な経営判断ミスを繰り返し指摘してきました。今回は、その典型的な失敗パターンに加え、半導体産業の波を読み誤るという『産業史的な誤解』にも焦点を当てます。
本稿の論旨をご理解いただければ、日産200社分に相当する200兆円規模の空手形を孫正義が振り回しているという状況が、いかに世界経済にとってリスクであるか、明白になるはずです。
孫正義の典型的な投資パターンと財務への影響
― 2017年から2025年までの時系列分析 ―
投資スタイルの特徴
・孫正義の投資スタイルは、AIやテクノロジーの長期的な成長性に焦点を当て、短期的な収益性よりも大きなビジョンに基づく投資を優先する傾向がある。この『大きく賭ける』アプローチは、成功すれば大きなリターンをもたらすが、失敗時の損失も甚大である。
・Arm Holdingsの上場のような成功例がある一方、ビジョン・ファンド(VF)を通じたWeWorkやDiDiなどの投資失敗が累積し、財務に大きな負担をかけている。
主な投資案件と経緯(時系列順)
◆ 2017年~
Paytm(インドのフィンテック)
出資開始:2017年、SBGは約16億ドルを投資。
上場:2021年11月、インド証券取引所(評価額約200億ドル)。
経緯:上場後、株価は急落し、2023年時点で約75%下落(株価は400~500ルピー台)。SBGは2022~2023年に保有株の一部を売却し、評価損は約8億ドル程度と推定される。
◆ 2018年~
SenseTime(中国のAI企業)
出資額:約10億ドル。
上場:2021年12月、香港証券取引所(評価額約120億ドル)。
経緯:米国の投資禁止リスト(2021年12月)により株価が下落、2023年時点でピーク時から約60%下落。SBGは2023年までに保有株を大幅に売却し、約7億ドルの損失を計上。
◆ 2019年~
OYO(インドのホテル)
投資開始:2015年以降(2019年に追加投資)、ピーク時の評価額は約100億ドル。
経緯:コロナ禍で旅行需要が減少し、IPOは延期。2023年時点の評価額は約30億ドル。SBGの評価損は約12億ドル(約0.18兆円)程度と推定。
Ola Electric(インドの電動スクーター)
投資額:約4億ドル。
上場:2024年8月、インド証券取引所(評価額約40億ドル)。
経緯:上場後、株価は約40%下落(2024年12月時点)。評価損は約1.5億ドル程度。
◆ 2021年
Coupang(韓国のEC大手)
上場:2021年3月、NYSE(評価額ピーク時約800億ドル)。
経緯:上場直後は株価が好調だったが、2022~2023年にEC市場の競争激化で下落。2024年は業績回復により株価はピーク時の約50%水準で安定。SBGは一部売却済みで、損失は限定的。
DiDi(中国の配車)
上場:2021年6月、NYSE(評価額約680億ドル)。
経緯:上場直後、中国政府のデータ規制により株価が急落(ピークから約80%下落)。2022年に上場廃止。SBGの評価損は約30億ドル。
Katerra(米建設テック)
出資額:約20億ドル。
経緯:2021年6月、経営不振により破産申請。SBGはほぼ全額を損失計上。
Grab(東南アジアの配車)
上場:2021年12月、SPAC経由でNASDAQ(評価額約400億ドル)。
経緯:上場後、株価は約70%下落(2023年時点)。2024年も低迷が続き、SBGの評価損は約15億ドル。
◆ 2023年
Zume Pizza(ロボット宅配)
経緯:2018年に投資開始(約3.75億ドル)。2023年に事業停止、SBGは全額損失計上。
WeWork
投資額:約100億ドル。
経緯:評価額は2019年ピーク時の470億ドルから急落。2023年11月、米連邦破産法11条を申請。SBGの損失は約90億ドル(約1.3兆円)。
◆ 2024年~2025年
OpenAIへの投資
財務への影響
※以下の数字には、2兆、3兆の誤差が含まれている可能性があります。
連結純有利子負債
2024年12月末:約20.5兆円(前年比+約0.8兆円)。
主因:ビジョン・ファンドの投資損失と新規投資。Ampere買収(65億ドル)は2025年3月発表、完了は2025年後半予定。
連結損益
2023年度:純利益約0.2兆円(Armの評価額上昇とT-Mobile株売却が寄与)。
2024年Q3(10~12月):純損失約3,500億円(ビジョン・ファンドの評価損が影響)。
累積赤字(2020~2023年): ビジョン・ファンド1および2で約8.5兆円。
NAV(純資産価値)
2024年9月:約25.0兆円(前年比+約2.5兆円)。
内訳:Arm株がNAVの約45%を占める。ビジョン・ファンド1の資産は約700億ドル。
信用格付けと調達コスト
S&P:2024年、BB+を維持(BBへの格下げは誤り)。
社債金利: 2024年発行分で約3.0%。2025年3月、約5,000億円の社債発行を計画。
総合評価と今後の展望
財務構造の問題点
負債増大:2020年以降、純有利子負債は約4.5兆円増加。
収益構造の脆弱性:黒字はArmの評価額上昇に依存し、ビジョン・ファンドの収益は不安定。
投資の信頼性:投資失敗の累積により、市場の信頼感は低下傾向。
成功事例の限界
・Alibabaの売却益(累計約12兆円)やArmの評価額上昇は、一定程度SBGの財務を支えているものの、ビジョン・ファンド全体で累積された損失(約8.5兆円)を完全に補填するには至っていない。
・さらに、Arm株の90%近くを保有する筆頭株主であるSBGが、もし将来的に市場で株を大量に売却すれば、Armの時価総額は一気に下落し、最悪の場合は現在の十分の一にまで縮小する可能性すらある。
・こうした構造的リスクが意識されるにつれ、市場の信頼感は徐々に低下傾向にある。
AI関連投資の展望
2025年3月のAmpere Computing買収(65億ドル)やOpenAI関連投資は、AIインフラ強化の戦略的動き。成功すればSBGの再建に寄与するが、AI半導体市場の競争や技術的不確実性がリスク要因。過去の投資判断の誤りを繰り返さないための慎重な運営が求められる。
総合評価
SBGは、投資先選定や撤退タイミングの誤りにより巨額の損失を計上してきたが、ArmやAI関連投資のポテンシャルは依然として大きい。財務構造は負債依存度が高いものの、『投資不適格』と断定するのは時期尚早。AI分野での成功と財務健全化には、長期的な視点とリスク管理の強化が不可欠である。
このようないつ破綻しても不思議ではない状況で、孫正義がSBGの破綻から目を背けるために打ち上げた花火が、以下の『75兆円のスターゲート計画』と、その倍プッシュの『150兆円AIロボ構想』なのです。
スターゲート計画:資金調達難と構想の不透明性(2025年1月~)
150兆円AIロボ構想(2025年3月~)
これらの孫正義の失敗事例から読み取れる傾向は、きわめて明確です。
投資初期の2019〜2021年には、SPAC(上場後に非公開企業を買収し、実質的に上場させる仕組み)や新興国、リアル資産に対する過剰な楽観が目立ちました。
続く2022〜2023年には、それらの投資における損失が次々と顕在化。そして2024〜2025年には、AIインフラ構想という『再賭博フェーズ』へと突入しています。
これらの構想は、当然ながら株主総会の承認を要するものではありません。そしてそれこそが、孫正義にとって最も都合のいい『スキーム』(英語で“scheme”とは、単なる計画や仕組みではなく『悪巧み』という意味でも使われる)なのです。
巨額のビジョンを次々と打ち上げることで、自らが築いた莫大な負債の山から人々の目を逸らし、『とにかく未来は明るいのだ』と思わせる物語を紡ぐ。それが、孫正義教祖による信仰型ストーリーテリングの核心です。そしてそのストーリーを、SBG信者=個人株主たちに供給し続けることで、SBGという幻想経済は、いまなお命脈を保っているのです。
もはやこれは、経済活動という名の『カルト布教』です。
破綻が迫ろうとも、それを『試練』だと言い換え、借金まみれの経営を『先見性の証』と称える姿勢には、宗教的な陶酔すら感じられます。
世の中には、かつて統一教会の教祖・文鮮明を盲目的に崇め、全財産を捧げた信者たちがいました。それと同様、孫正義を神格化し『孫さんなら、きっと何とかしてくれる』と信じ込んでいる人々がいることも、驚きではありません。
そうした『カルト信仰』の延長線上にあるのが、『75兆円のスターゲート計画』、そして『150兆円のAIロボ構想』です。
スターゲート計画が不発に終わる前に、次なる空想を『倍プッシュ』で上書きする。根拠は示されず、資金の出どころも不明。それでも『未来がある』と語り続けることによって、『株価』という儚い幻想だけは、かろうじて維持されているのです。
この構造は、もはや資本市場というよりも、精神産業と呼ぶべきものではないでしょうか。
実態は火の車。けれど、語られる言葉はいつも『実現することのない未来』です。SBGとは、現金でも資産でもなく『絶望的な希望』を担保にして資金を回し続けるビジネスモデルに他なりません。
そしてその『希望』が剥がれ落ちたとき……。最後にすべての損を背負わされるのは、言うまでもなく、その夢を信じて『絶望』することになる投資家たちです。
根拠もなければ財源もない。株主の承認すら必要とせず、他人のカネと信頼だけを頼りに突き進むこれらの構想群は、もはや『他人の褌で相撲を取る』といった生ぬるい比喩で片づけられるものではありません。
これはまさに、『信者の財布で打ち上げる花火大会』です。そしてその中央で、最も強いライトを浴びているのが、孫正義という名の『夢語り商人』なのです。
果たしてこれは、『希望の夢』なのでしょうか。
それとも、『破滅の悪夢』なのでしょうか。
ここまでお読みいただいた皆様には、もはや改めて語る必要はないかも知れません。
2018年との驚くべき類似
今回の構造的な危機は、2018年12月に起きた『信認崩壊の連鎖』と驚くほどよく似ています。
2018年12月に起きた象徴的事件
・中国系米国人のスタンフォード教授・張首晟氏が急逝
・HuaweiのCFO・孟晩舟氏がカナダで逮捕
これらの事件は、テクノロジーと安全保障が交錯する新冷戦時代の幕開けを象徴する出来事でした。
そしてSBGはその最中、通信子会社ソフトバンクの国内最大級IPO(約2.65兆円)を進めていましたが、
・初値割れ(1,500円 → 1,282円:14.5%安)
・約4,000万人に影響する通信障害(IPO直前)
さらに、投資先であるNVIDIA株も仮想通貨バブル崩壊により約60%下落($333 → $133)。SBGは40億ドル相当の保有株に対し、巨額の評価損リスクを抱えることとなりました。
2025年も再び始まった夢と現実の乖離
7年後の現在、孫正義は再び“夢”を語り始めています。その中心にあるのが、ArmとAmpereを中核とする『スターゲート計画』です。
しかし現実には、以下のような不安定な構造が浮き彫りになっています。
・AI関連銘柄の天井感(すでに一部は調整局面へ)
・Ampereの性能限界と競争力の低さ(NVIDIAに劣る)
・米中半導体摩擦の再燃
・SBG信用倍率20倍超という異常なレバレッジ構造
・SBG株は一見上昇しているように見えますが、その実態は空売り勢の撤退による『踏み上げ』に過ぎず、『支えのない空中浮遊』状態です。
ArmとAmpere:『神話』を背負わされた銘柄たち
2018年、NVIDIAは仮想通貨バブルの崩壊で60%下落しました。
2025年、ArmとAmpereは『生成AI神話』の中核銘柄として、過剰な期待という重荷を背負わされています。
特にArmの株価は上昇しているものの、業績成長との乖離が指摘され始めており、『AIの中核を担うには力不足』とする声も強まっています。
そしてSBGは、NVIDIAで得た利益を確定させた一方、Ampereのような未成熟銘柄で『倍返しの大博打』に出たのです。
『夢の語り口』が同じになった瞬間、市場は冷静になる
『AIは人類の叡智の一万倍』
『10年後、世界の時価総額の1割がSBG関連になる』
こうした言葉は、2018年当時の『未来支配論』の焼き直しに他なりません。市場は、同じ話を二度聞かされたときに冷静さを取り戻すものです。
夢が繰り返されたとき、それはもう神話ではなく妄信なのです。
2025年4月現在、ソフトバンクグループ(SBG)の株価は一時的に反発しているように見えますが、その背後には以下のような要因が潜んでいます。
1.異常な信用倍率(20倍超)
2.空売りの踏み上げ圧力
3.依然として高水準のVIX(恐怖指数)
VIX指数は4月14日時点で30.89と、前日の37.56からは低下したものの、依然として高水準にあります。これは市場の不安定さを示しており、投資家の警戒感が続いていることを意味します。
このような状況下で、SBGが語る『夢』は、過去と同様に市場の熱狂を呼び起こすかもしれませんが、その語り口が2018年と同じになった瞬間、市場の熱狂は冷める可能性があります。
そして『信じた者だけが負ける』のが、SBG投資の本質なのです。
武智倫太郎(経済コラムニスト/SBG警戒システム開発者)

