⚪️掌編小説|蜜柑堂書店 第二十話
第十九話からの続き
週末のブックフェア『7月32日の課題図書』に備え、前日の金曜は十八時に店を閉めた。
ぼくも準備作業のため残業したのだけれど、何より驚いたのはルナちゃんの仕事ぶりだった。
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本屋さんのアルバイト。十六歳のロック少女──いやロックかどうかは分からない。にも関わらず最初は何故かパンクロッカーだと思っていた。聴かせてもらった楽曲は可愛らしいポップソングだった。というか、そもそも十六歳だっけ?
ぼくは彼女のことを何も知らない。
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詩を書くことは知っている。曲を書くことも。その良し悪しがどうとか、詩や音楽について詳しいことは何ひとつ言えないけれど、ルナちゃんがそれを何の衒いもなく、臆することなく、自分の作品として他者に開示できることに、ぼくはある種の憧れのようなものを感じていた。
そのくせぼくは親しげにお兄ちゃんと呼んでくれる彼女のことを、良い気になって、つまりお兄ちゃんぶって、可愛い妹でも見るような目で見て狭い場所に押し込めている。安心しようとしている。
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十六歳のぼくなんてそりゃ酷いもんだった。それに比べたらルナちゃんは出来すぎた妹だ。
自分の役割が分かっていて、いま何が求められているかもちゃんと理解した上で、自分から率先して動くことが出来る。
分からない場合は蜜柑さんに訊ねることも出来るし、その訊ね方も、自分の中で選択肢をあらかじめ用意しているように見える。
「お兄ちゃん、ここはあたしがやるから蜜柑さんを手伝ってあげて」
「あいよー」
「お兄ちゃん、こっちこっち、これ重たいからお願いー」
「おー」
別に仕切り屋という訳じゃない。視野が広すぎて、世界を見る目の解像度が高すぎて、しかもあっという間に最適解を見つけてしまう。
せめて作業をリスト化しておくべきだった。これじゃあまるでこっちがバイト君みたいだ。
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凹むわ。
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いつもの土日を知らないからフェア当日の賑わいが特別なのかどうなのか、今ひとつピンと来ない。
蜜柑さんは店内の読書スペースに設けた相談カウンターで子どもたちひとりひとりと丁寧に対話している。その隣でヒーラギさんが謎のサポート。
ぼくはそんな様子を眺めながら店番をしている。
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店内に入ってすぐのところ、少し広めの空間の、右手に第72回『青少年読書感想文全国コンクール』の課題図書が積んであり、それと対を成すように左手に東野圭吾の全作品が積んである。
昨日のセッティングのとき、まるで仁王門ですねと言ったら蜜柑さんが笑ってくれたのが嬉しかった。ルナちゃんは鼻をクンクンさせながら首を捻っていたけれど。
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例によってぼくが店番のときは客が一向に来ない。だからといって会計カウンター不在という訳にもいかない。
ぼくは暇すぎてただ見るともなしに蜜柑さんを見ている。
各年代の子どもたちと、ひとりひとり誠実に向き合う蜜柑さんは、美しくて、まるで先生でありお母さんでありお姉さんのようだ。
ぼくは毎年毎年蜜柑堂を訪ねる小学生や中学生や高校生となって、ただもう蜜柑さんに会いたいがために、読みたくもない課題図書を読み続ける子どもになったつもりで、ああそれも悪くない、全然悪くないと思った。
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遂に暇を持て余したぼくは東野圭吾の『探偵ガリレオ』を購入して読み始めた。これも蜜柑堂書店の課題図書のひとつだ。
そして「第一章 燃える」を読み終えたとき、ふと、これをもとに感想文を書こうとしている誰かの立場になって考えてみた。
蜜柑さん、ミステリーで感想文を書かせるのはさすがにエグすぎますって。
(第二十一話に続く)
*すみません、お題語を使って「燃える」の感想を書きたいのですが、ネタバレになってしまいます!
*私の好きなクリエイターさんによる「東野圭吾感想文」をこちらで紹介させていただきます。
@チズさん
*見出し画像は@羽さんが描いてくれた蜜柑さんの夏バージョンです。いつも素敵な絵をありがとうございます!
*関連エピソード:第五話、第七話、第十一話、第十九話

