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声だけの縁。名前も知らないのに挨拶に来てくれた

この世から旅立つ時が近づいてくると、魂が出たり入ったりするようになる、と何かで読んだことがあります。
本当かどうか、真実は分かりませんが、これは「もしかしたら」という体験を綴ってみました。


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在宅医療の会社で働いていた頃、よく電話をくださる患者さんの中に、トメさん(男性・仮名)というご高齢の方がいた。

トメさんと私は、一度も会ったことがない。
私は会社のシステムを通して彼のことを知っていたけれど、トメさんの方は私のことを「いつもの会社の人」くらいにしか思っていなかっただろう。
私の名前も知らないはずだ。


穏やかで優しい方で、声や話し方にどこか可愛らしいところがある人だった。
私は生まれた頃から祖父母とも暮らしていたので、高齢者の方にはもともと親しみを感じやすい。
トメさんの声と話し方は、そんな私にとってどまん中で、トメさんから電話がかかってくると誰よりも早く電話に出た。
トメさんの声を聞くたびに胸がきゅんとした。顔も知らないのに。

しばらくすると、トメさんは入退院を繰り返すようになった。
トメさんから来る電話の間隔が空くたびに、早く良くなるといいのだけれど、と思った。




あの夜のことは、今でも時々思い出す。

週末の夜遅く、布団の上に寝そべって本を読んでいた。
ページを追ううちにうとうとしてきた頃、耳の奥で声がした。
何を言っているのかは聞き取れなかった。ただ、トメさんの声だな、と思った。

そのまま、吸い込まれるように眠った。

翌週、出社した際、気になっていたトメさんの情報を調べると、ご逝去の記録があった。
私に声が聞こえた、その翌日だった。

人はこの世を去る時が近づいてくると、魂が体を離れたり戻ったりするのだと、どこかで聞いたことがある。
本当かどうかはわからない。
でも私には、トメさんが立ち寄ってくれたのかもしれない、という気持ちが自然と湧いてきた。

不思議と、怖くはなかった。

よく電話で話したとはいえ、顔も名前も知らない人間に…
トメさんは優しくて義理堅い人なのかも、と思った。
あの穏やかで可愛らしい声の人は、きっとそういう人だったのだろうと。


私の師匠です


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