去る者は追わず|ショートショート #アマノ文筆クラブ
ある日突然、ワタシの脳内に「去る者は追わず」というフレーズが舞い降りてきた。
これまでどちらかと言えば「去る者はとことん追う」タイプだったワタシに対する、何かの暗示なのだろうか。
脳内に現れたそのフレーズに、ワタシは抗わずに生きていくことにした。
早速その決意が試される時がやってきた。
職場の部下の女性から「実は退職するんですが、今日が最終日でした。これまでお世話になりました」と一言言われて退社していった。
ワタシは「去る者は追わず」の決意で、退職を教えてくれなかった理由も聞かず女性が退社する姿を見送った。
翌日。
「社長が社員に何も告げず会社の破産手続きをした後、行方不明になった」と、ある社員が大声を上げながら社内を走り回っていた。
ーーああ、会社なくなっちゃうのか
でもワタシは落胆しない。「去る者は追わず」。
失意もなく自宅に帰ってきたところ、ダイニングテーブルに一枚の紙きれが置いてあった。
「もうやっていけない。さよなら」と、殴り書きで書かれた夫からの手紙だった。
部屋を見渡すと、なるほど夫の物はキレイになくなっているばかりか、娘の物も一緒になくなっていた。娘も一緒に出て行ったようだ。
ーー家族がこの家から出て行ったのか
でもワタシは落胆しない。「去る者は追わず」。
翌朝。
何だか妙に寒いと思い目を覚ますと、ワタシは「外」で寝ていた。
そこにはいつの間にか家はなく、空き地になっていた。
真冬の冷気に触れて「くしゅん」とくしゃみをする。
ーー「家」も去って行ったのか
でもワタシは落胆しない。「去る物は追わず」。
家も失ったワタシは、近くのネットカフェで過ごそうと考えた。
家にお金も含め根こそぎ持っていかれたので手元に何もないが、まあ何とかなるかなと思い、とりあえず入店して、冷え切った身体をホットコーヒーで温めた。
店内の暖かさにいつしかワタシはウトウトと眠りについた。
ふと目が覚めた時に、辺りの異様な静けさに違和感を感じた。
個室から出てみると、人影が無い。
さっきまで沢山の客がいたはずなのに。
でも、店内を回っても誰もいない。店員すらいない。
そのまま外に出てみると、なんと、街中にも誰もいない。
あれだけ賑わっていた商店街には人っ子一人おらず、どんなに歩き回っても人の気配が消えていた。
お店というお店が開店していたが、その中には店員も含め、人影がなく、ある店の前にあるクレーンゲームのチャキチャキした音声が虚しく響き渡っていた。
ーーそっか、みんなも去って行ったのか
でもワタシは落胆しない。「去るモノは追わず」。
さらに翌朝。
ネットカフェで一夜を明かしたのだが、起きてみたときの光景にしばし呆然となった。
見渡す限りの「荒野」にポツンとワタシ一人だけが寝っ転がっていたのだ。
あれだけ沢山の建物があったはずなのに、一晩で何もかも去ったようだ。
ーーそっか、「日本」も去って行ったのか
でもワタシは落胆しない。「去るモノは追わず」。
荒野となった大地を一人でトボトボと歩いていたのだが、行く当てもない状況にだんだんと疲れ果ててしまい、その場にバタンキューしてしまった。
次に目を覚ました時に、自分の身に何が起こったのか、全く分からない状況になっていた。
真っ白。
私の目の前に広がっているのは、何もない「真っ白な空間」だった。
しばしぽかんとしていたが、ワタシの中で、ある推測が脳裏に浮かんだ。
ーーワタシから「世の中」も去って行ったのか
いや、実はワタシが世の中から去ったのか。
もはや生きているのか死んでいるのかさえ、分からない。
これからワタシはどうなっちゃうのだろうか。
ただ、この決意だけは今だに一貫していた。
ーー全てが去っても、ワタシは追わない

■今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌
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この作品は、甘野充さん企画参加作品です。
今回のタイトルは、【去る者は追わず】でした
自分は淡白な性格で、誰かに固執することはないですし、自分から去った人たちは「ここまでの御縁だったのだろう」と追うことはしません。
このnoteでも、いつの日からか交流しなくなった方、いつの間にかアカウントが削除されていた方など沢山いらっしゃいますが、いろいろと事情があるのだと思い、今現在、スキやコメントをしていただいている方々を大切にしていきたいと思います😌
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
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