今の祭り|ショートショート #アマノ文筆クラブ
莉子が何か、変だ。
これまで話したこともないのに、最近急に話しかけてくるようになった。
しかも本当にしょうもない話題ばかり。例えば、
「今日は何時に起きました?」
「明日の天気、なんでしょうね」
「学校へ向かう途中で道を聞かれて教えてあげました」
話を膨らませる要素が全くない、一往復で会話終了な内容にオレは当惑していた。
ーーこれは、オレのことが好きというサインか?
そうとも取れるし、取れないとも感じる。
急に話しかけてきては一往復だけの会話。
うーん、わからん。
周藤莉子は、リーズナブルな懐石料理で人気を博してるレストランチェーン店でオレと同じバイト仲間だ。
ここ最近はシフトが合えば必ず一声かける、しかしそれ以上何も発展しない奇妙な間柄になっていた。
同じバイト仲間の漢どもから「周藤さん、お前に気が合うんじゃないの?羨ましい~!」としょっちょうからかわれ、内心オレもそう思い始めていた。
可愛いだけならこの世にごまんといるが、それに加え、屈託のない笑顔と誰とでも気さくに話せる人柄、細やかな気配りなど、性格に偏差値があれば余裕で八十超えだろう。そんな彼女のファンは多い。
一方、オレとの会話は一往復会話のみで何とも素っ気ないが、シフトが合う度に必ず向こうから話しかけてくる謎。
嫌いならそもそも話しかけてこないし、好きならあんな素っ気なくはないだろう。考えれば考えるだけ謎が深まるし、莉子を意識してしまう。
ある日、いつも通り更衣室で着替えをしてホールに出ようとしたとき、ちょうど莉子とばったり鉢合わせた。すると、案の定、
「お疲れ様です。今日も沢山お客さんが入ると良いですね」
「う、うん、そうだね」
というルーティン一往復会話をして莉子はささっとホールへ出て行ってしまった。
ーー何、この関係!?ワケワカメ
今日は莉子の顔を窺ってみたが、別に照れくさそうに話している風でもなく、植物に対して、いや、何ら変哲もない壁に言葉を投げかけているかのような、そんな乾いた表情だった。
ーーそれってオレである必要ないんじゃね?家の壁でいいじゃん!
莉子の気持ちが分からないまま夏が過ぎ、季節は晩秋に差し掛かっていた。
街中には早くも恋人たちの季節がやってきていたある日のバイト後。
更衣室で私服に着替えながらスマホを確認すると、バイト仲間である新川美織からLINEでこうメッセージが入っていた。
「この後そこのファミレス行ける?話したいことがあって」
バイト仲間で唯一仲がいい女の子で、よくバイト後に近くのファミレスで朝まで話し込むほどの仲だ。だが、こんなに仲良くてもお互い恋愛感情が湧かない。知り過ぎも良くないのだろう。
俺はOKというスタンプで返すと、さっと着替えてファミレスへ向かった。
「建都、ここのところずっと莉子ちゃんから声かけられていたでしょ」
美織が開口一番そう言った瞬間、ドキッとした。
この盟友にその話は伏せていたからだ。
「あ、ああ。何でそんなこと知っている?」
美織はそれには答えずにすっくと立ち上がり、ドリンクバーで好物のダルダルソーダを入れて戻ると、話の続きをし始めた。
「この前、莉子ちゃんと仲良い聡美ちゃんと二人で話すタイミングがあってさ、その時に「実は」と莉子ちゃんから聞いた話をされたんだ」
「莉子ちゃん?」
「そう。今から話す内容、信じるか信じないかは建都次第ね」
「了解」
「まず、莉子ちゃんはタイムリープで未来から来たんだって」
「タイプリープって、あの!?」
「そのまま聞いて。未来では莉子ちゃんと建都は結婚していた」
「へ?」
「しかし、建都が親しい女と寝まくったことで莉子ちゃんは精神を患い、重度のうつ病で長期入院を余儀なくされた。当然離婚。そんな人生を悔いたときに、目の前に神様が現れ、一度だけ人生をやり直せるように建都と出会った頃にタイムリープしてくれた…というわけ。未来の建都、最低だな」
さりげなくディスられた俺をよそに美織は話を続けた。
「で、今にタイムリープした莉子ちゃんが、どうしてそこまで建都につまらない話ばかり持ちかけるかと言ったら、今の建都と話したい、でも例の女が近くにいるから親しく話せない、そういった葛藤に葛藤を重ねた結果の対応なんだって」
どう反応していいやら言葉が見つからない。
「あと、タイムリープした二つ目の目的は女への復讐で、近くそれは虫を躊躇せず握り潰すように成就させるからって言っていたらしい。その女も建都と一緒で自業自得だね」
そして最後にこう締めくくった。
「「今の祭り」なのよ、あの子にとって。未来の自分が後の祭りになることを知っているから変えようと必死になって…」
そこで、美織は感極まりぽろぽろと泣き始めた。
美織の純粋な涙を見つめながら、俺の心は戦慄と戦慄が掛け合わさり、自然と顎がガクガクとし始めて上手く声に出せない。
これだけは伝えねば。
ーー美織、お前、すぐに逃げた方がいい。後の祭りになる前に

サムネイル:Alpaka
■今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌
■小説専門マガジンに参加中です✨️
■創作系メンバーシップ「虹色創作部」に入部しています🍀
この作品は、甘野充さん企画参加作品です。
今回のタイトルは、【今の祭り】でした
後の祭りになってしまった恋、学生時代に多々ありました🥲
どうしてあの時に行動しなかったのか、今でも悔やまれる相手が4人います(これが多いのか少ないのか分かりませんが💦)。
とはいえ、後の祭りに変わりはないので、娘たちが大きくなった時には後悔のない恋をしてほしいと願っています。
ただ、後悔したくないと言って変人連れてきたら、玄関にある箒で相手を思いきり箒星にしてしまうと思います🌠(笑)
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
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