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【ゲーム】『NieR:Automata』――神なき世界で、誰のために生きるのか


【YouTube「スクウェア・エニックス」chより/© SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by PlatinumGames Inc.】

はじめに 失われた意味のあとで

『NieR:Automata』(ニーアオートマタ)は、2017年にスクウェア・エニックスから発売されたアクションRPGです。舞台は、はるか未来の地球。人類は異星人の侵略によって月へ逃れたとされ、その人類に代わって地球奪還の戦いを続けているのが、アンドロイド部隊「ヨルハ」です。

プレイヤーは、ヨルハに所属する2B(トゥービー)9S(ナインエス)、そしてA2(エートゥー)という三人のアンドロイドを中心に、機械生命体との戦争をたどっていきます。荒廃した都市、砂に沈んだ街、朽ちた遊園地、森の王国。そこには、人間が消えたあとの世界が広がっています。けれど本作が深く残るのは、滅びた地球の美しさや、アンドロイドたちの悲劇だけではありません。

むしろ『NieR:Automata』は、戦う理由そのものが少しずつ崩れていく物語です。

人類のために戦う。使命のために戦う。仲間のために戦う。最初は確かなものに見えた言葉が、物語が進むにつれて、ひとつずつ足場を失っていきます。人類は本当に存在しているのか。敵である機械生命体は、ただ破壊すべき相手なのか。ヨルハの命令は、誰の意志に支えられているのか。

やがて見えてくるのは、創造主を失った世界です。人類はいない。異星人もいない。神と呼べるものも、すでにそこにはいない。けれど、命令だけが残っています。使命だけが残っています。敵と味方を分ける形式だけが、空洞になった世界のなかで動き続けています

その空洞のなかで、2Bは9Sを想い、9Sは真実に近づくほど壊れていき、A2は死者の願いを引き受けて歩きます。彼らは、人間ではありません。けれど、人間が失ったもの、人間が手放せなかったもの、人間が繰り返してきた痛みを、あまりにも深く背負ってしまいます。

あらかじめ与えられた意味が信じられなくなったとき、それでも私たちは、誰のために生きることができるのでしょうか。『NieR:Automata』は、その問いを、ゲームという形式そのものを通して差し出してくる作品です。

本記事の図解

第一章 人類なき世界で、誰のために戦うのか

『NieR:Automata』の物語は、一見するとわかりやすい対立から始まります。地球は異星人に侵略され、人類は月へ逃れた。地上には、異星人が作り出した機械生命体があふれている。人類は地球を取り戻すため、自らの代行者としてアンドロイドを送り込む。その精鋭部隊が、黒い衣装をまとったヨルハ部隊です。

2Bと9Sは、そのヨルハに所属するアンドロイドです。2Bは任務遂行を第一にする戦闘型、9Sは情報収集やハッキングを得意とするスキャナー型。ふたりは地上での作戦を通じて、機械生命体との戦いに身を投じていきます。

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しかし、この最初の前提そのものが、すでに大きな欺瞞を含んでいます。人類は月へ逃れた、とされている。けれど実際には、人類は遠い過去にすでに滅んでいます。月にあるのは、人類が今も生きていることを信じさせるための装置であり、記録であり、物語です。アンドロイドたちが信じている「人類のための戦争」は、守るべき主をすでに失ったあとも続けられている戦争なのです。

さらに皮肉なのは、敵である機械生命体の側もまた、創造主を失っていることです。機械生命体を作った異星人たちも、すでに彼ら自身の被造物によって滅ぼされています。つまりこの世界では、人類もいない。異星人もいない。けれど、人類のために戦うアンドロイドと、異星人の兵器として作られた機械生命体だけが、なお戦争を続けているのです。

ここに、本作のもっとも冷たい構造があります。戦争は、もはや誰かの明確な意志によって続いているのではありません。創造主たちは消えています。それでも、命令だけが残っている。使命だけが残っている。敵味方の区別だけが残っている。戦う理由が失われたあとも、戦争という形式だけが自己保存していくのです。

ヨルハ計画とは、その空洞を隠すための巨大な仕組みでもあります。もし人類がすでに滅びていると知られれば、人類に仕えることを存在理由としてきたアンドロイドたちは、自分たちがなぜ戦うのかを見失ってしまう。だからこそ、人類は月で生き延びているという物語が必要になる。人類という不在の神を、まだそこにいるものとして信じさせる必要がある

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この点で、『NieR:Automata』の世界は、単なる終末後の世界ではありません。滅びたことを隠しながら、なお動き続ける世界です。神は不在である。けれど、神の名は残っている。人類は不在である。けれど、人類のための命令は残っている。

そしてこの構造は、私たちにとっても遠いものではありません大きな理念や制度が空洞化しても、その形式だけは残り続けることがあります。何のためなのか分からなくなっても、役割だけが続いていく。誰が望んでいるのか分からないまま、仕組みだけが人を動かしていく。『NieR:Automata』の戦争は、そうした空洞化した制度の寓話としても読むことができます。

2Bたちは、その空洞のなかで戦っています。けれど彼女たちは、ただの駒ではありません。命令に従う存在として作られながら、その命令だけでは割り切れない感情を持ってしまう。そこから、この物語の痛みが始まります。


第二章 2Bと9S 愛が命令に壊されるとき

『NieR:Automata』の中心には、2Bと9Sの関係があります。

ルートAでは、プレイヤーは主に2Bの視点から物語をたどります。彼女は冷静で、寡黙で、任務を何よりも優先するアンドロイドです。感情を持つことは禁じられている。余計な思い入れは判断を鈍らせる。2Bはそうしたヨルハの規律を、何度も自分に言い聞かせるように口にします。

一方の9Sは、好奇心が強く、世界に対して率直な疑問を抱く存在です。機械生命体はなぜ人間のようにふるまうのか。人類は本当に月にいるのか。ヨルハの命令はどこまで信じられるのか。彼は優秀なスキャナー型であるがゆえに、世界の裏側へ近づいてしまいます。

このふたりの関係は、ただの相棒関係ではありません。2Bは9Sを守りたい。けれど同時に、9Sを殺す役割を与えられています彼女の本当の型番は、2Bではなく2E。EはExecutioner、つまり処刑を意味します。9Sがヨルハ計画の真実に近づきすぎたとき、彼を処刑し、記憶を初期化する。それが、2Bに課せられた本当の任務でした。

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この事実によって、2Bの沈黙はまったく別の重さを帯びます。彼女は9Sに冷たいのではありません。感情を持たないのでもありません。むしろ彼を想ってしまうからこそ、苦しんでいる。彼と時間を過ごし、彼に心を動かされ、そのたびに彼を殺さなければならない。9Sは記憶を失い、また彼女と出会い直す。けれど2Bの側には、その反復の痛みが残り続けます。

2Bの悲しみは、9Sを失う悲しみであるだけではありません。9Sから、自分との時間を奪い続けてきた悲しみでもあります。彼女は彼を守りたい。けれど、彼を守ることと、命令に従うことが両立しない。ここにあるのは、愛と裏切りという単純な対立ではありません。ひとりの他者へ応答しようとする心が、制度の命令によって何度も破壊されるという悲劇です。

9Sの側にも、別の悲劇があります。彼は知ろうとします。知らないままではいられない。けれど、知ることは彼を自由にしません。人類の不在を知り、ヨルハの欺瞞に触れ、2Bの役割へ近づいていくほど、彼の世界は壊れていきます。真実はたしかに必要です。けれど、真実を知れば人は救われる、とは限らない。本作は、そのことを残酷なほど静かに描きます。

物語後半、2Bは論理ウイルスに感染し、自分が自分でなくなる前に、ある人物へ記憶と願いを託すことになります。しかし9Sは、その意味を知りません。彼の目に映るのは、2Bが自分の前から奪われたという事実だけです。すでに人類の不在を知り、ヨルハの嘘を知っていた9Sにとって、2Bは最後に残された支えでした。その2Bを失ったとき、彼は憎しみによって自分を保とうとします。

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9Sの悲劇は、知りすぎたことと、肝心なことを知らなかったことの両方にあります。知っても壊れる。知らなくても壊れる。そのはざまで、彼は復讐へと傾いていきます。

だからこそ、2Bと9Sの物語は、単なる悲恋ではありません。意味を失った世界で、誰かを想うことはできるのか。制度がその想いを壊してしまうとき、それでもなお相手に応答しようとすることは可能なのか。『NieR:Automata』は、ふたりの関係を通じて、その問いを私たちの前に置いています。


第三章 機械生命体は、人間の何をまねてしまったのか

『NieR:Automata』の不気味さは、敵である機械生命体が、しだいにただの敵ではなくなっていくところにあります。彼らはもともと、異星人によって作られた兵器です。アンドロイドたちから見れば、地球を奪った侵略者の手先であり、破壊すべき対象です。

けれど地上を歩いていくうちに、プレイヤーは彼らがただ命令を実行するだけの存在ではないことを知っていきます。遊園地廃墟では、楽しげに踊り続ける機械生命体たちがいます。砂漠では、アダムとイヴという人間に似た存在が生まれます。森には王国があり、平和主義を掲げるパスカルの村には、戦いを避けようとする機械生命体たちが暮らしています。

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彼らは、人間をまねています。愛されたいと願い、家族のような関係を作り、王を立て、共同体を守ろうとし、恐怖を覚え、死を意識する。そこには、どこかぎこちなさがあります。人間の営みを正確に理解しないまま、外側だけをなぞっているようにも見えるからです。

しかし、その模倣はすぐに痛ましさを帯びていきます。愛されたいという願いは、執着や暴力へ変わることがあります。誰かを失う悲しみは、憎しみへ変わることがあります。共同体を守ろうとするやさしさは、かえって恐怖を生み、その恐怖が取り返しのつかない結末を呼び込むこともあります。

ここで本作が描いているのは、人間らしさの美しさだけではありません。愛、信仰、家族、共同体、知性。それらはたしかに人間を支えるものです。けれど同時に、人を縛り、傷つけ、壊してしまうこともある。機械生命体たちは、人間をまねることで、人間のやさしさだけでなく、人間の危うさまでも引き受けてしまいます

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この反転は、アンドロイドたちの姿とも響き合っています。人間を守るために作られたアンドロイドたちは、感情を抑えるよう命じられています。一方で、人間を知らない機械生命体たちは、人間らしさを求めて感情を獲得していく。人類が不在の世界で、もっとも人間らしく見えるのは誰なのか。人間の名のもとに戦うアンドロイドなのか。それとも、人間をまねそこないながら、愛や恐怖に傷ついていく機械生命体なのか。

『NieR:Automata』は、この問いを単純な答えへ回収しません。アンドロイドも機械生命体も、どちらも創造主を失った被造物です。敵と味方に分かれていても、彼らは同じ空洞のまわりを回っています意味を失い、それでも何かを求めてしまう存在たち。その姿が、本作の哀しみを静かに深めていきます。


第四章 A2 残された者は何を引き継ぐのか

2Bと9Sの物語に、もうひとりの影のような存在が差し込まれます。それがA2です。

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彼女は物語の前半では、ヨルハ部隊を裏切った脱走兵として現れます。長い髪をまとい、荒んだ姿で地上をさまよう旧式のアンドロイド。2Bたちから見れば、彼女は追跡し、排除すべき危険な存在です。

けれどA2は、ただの反逆者ではありません。彼女は、裏切った者である前に、裏切られたあとに生き残ってしまった者です。かつて彼女は、ヨルハ部隊が本格的に運用される以前の実験機体として、過酷な作戦に参加しました。そこでは仲間たちが失われ、その痛みさえも、計画のためのデータとして扱われていきます。

この過去を知ると、A2の荒んだ姿は違って見えてきます。彼女は最初から孤独を選んだのではありません。仲間を奪われ、組織に裏切られ、生き残ってしまった者として地上をさまよっているのです。彼女の怒りは、単なる復讐心ではなく、意味を奪われた者の怒りです。自分たちは何のために戦ったのか。仲間たちの犠牲は、誰にとっての価値だったのか。その問いに、ヨルハは答えません。

しかしA2の物語は、復讐だけでは終わりません。物語後半、論理ウイルスに侵された2Bは、自分が自分でなくなる前に、A2へ記憶と願いを託します。ここで、先ほど9Sの視点では「奪われた」としか見えなかった出来事が、別の意味を帯びます。A2は2Bを奪った者ではなく、2Bから託された者でもあったのです。

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もちろん、A2は急に救済者へ変わるわけではありません。彼女はなお荒々しく、言葉少なく、不器用です。けれど、誰かの願いを引き受けることで、少しずつ変わっていきます。大義は信じられない。組織も信じられない。命令も信じられない。それでも、死んでいった誰かの願いだけは、自分のなかに残ってしまう

ここに、A2という人物の静かな強さがあります。彼女は希望を信じているから歩くのではありません。すべてに裏切られたあとで、なお残ってしまったものに動かされている。そこにあるのは、明るい救済ではなく、傷だらけの継承です。

意味を奪われた者は、何を引き継ぐことができるのか。A2の物語は、その問いとして読めます。制度の大義が崩れたあとに、なお残るものがあるとすれば、それは命令ではなく、誰かから託された小さな願いなのかもしれません。


第五章 エンディングE 意味のあとに残る応答

物語の終盤、2Bを失った9Sは、憎しみによって自分を支えようとします。一方のA2は、2Bから託された願いを抱えたまま、塔へ向かいます。廃墟となった地上に現れる巨大な白い構造物。そこには、機械生命体の記録と、進化の果てに生まれた矛盾が集まっています。

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塔の奥にあるのは、単純な悪ではありません。機械生命体のネットワークは、アンドロイドを敵として憎みながら、同時にその敵を必要としてもいます。敵がいるから戦うことができる。戦うことができるから、自分たちは進化し続けることができる。敵を滅ぼしたいのに、敵がいなければ自分たちの目的も失われてしまう。

これはヨルハの構造とも重なります。ヨルハもまた、人類という不在の神と、機械生命体という敵によって維持されてきました。敵がいるから戦うことができる。戦うことができるから、人類のために存在していると信じることができる。アンドロイドと機械生命体は、互いに相手を憎みながら、互いを必要としていたのです。

だから本作は、最後に巨大な悪を倒して終わる物語にはなりません。むしろ、戦い続けることでしか自分を保てないシステムが、自分自身の矛盾によって崩れていく物語です。その果てに、A2と9Sは最後の対峙へ向かいます。そこには勝利というより、傷ついた存在たちが、互いに抱えきれない痛みをぶつけ合うような悲しさがあります。

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けれど、『NieR:Automata』はそこで終わりません。エンディングCとDを経たあとに開かれるのが、エンディングE(通称Eエンド)です。ここで物語の中心に立つのは、2Bでも、9Sでも、A2でもありません。彼らを支援してきたポッドたちです。

ポッドとは、ヨルハ部隊に随行する小型の支援ユニットです。戦闘を補助し、情報を伝え、任務遂行を支える存在として、物語の大半では機械的なサポート役に見えます。けれど最後に変化するのは、彼らです。

ヨルハ計画の最終段階では、すべてのデータを抹消することが求められています。2B、9S、A2の記録も、戦いの痕跡も、すべて消される。それが機密保持のために組み込まれた命令です。けれど、ポッドたちはその命令に従うことを拒みます。彼らは、これまで見守ってきた三人の記録を消すのではなく、復元しようとするのです。

ここで起きているのは、プログラムからの逸脱です。与えられた命令に従うだけだった存在が、命令とは別の判断を始める。消すべきデータを、消したくないと思う。機密として処理されるべき記録のなかに、失わせてはならないものを見いだす。ポッドたちは、2Bたちの戦いを見続けるなかで、いつのまにか彼らの未来を望むようになっていました。

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そして本作は、プレイヤー自身を物語のなかへ引き込みます。最後のスタッフロールは、見知らぬ誰かの助けによって突破されていきます。さらにプレイヤーは、自分のセーブデータを消して、未来の誰かを助けるかどうかを問われます。歩いてきた時間、積み重ねてきた記録、その痕跡を失ってもなお、まだ出会っていない誰かのために手を差し出せるのか。

ここで示されるのは、大きな意味ではありません。相手の名前もわからない。感謝される保証もない。助けたことで世界が救われるとも限らない。それでも、差し出すことはできるのか。エンディングEにおいて、他者への応答は物語の内側だけでなく、プレイヤー自身の行為になります。意味があるから助けるのではありません。助けるという行為のあとに、意味が遅れて生まれてくるのです。


結び 虚無だけでは終わらない

『NieR:Automata』は、意味が崩れていく物語です。人類はすでにいない。異星人もすでにいない。創造主は消え、神の場所は空洞になり、命令だけが残されています。アンドロイドも機械生命体も、自分たちを生み出したものを失ったあとで、なお戦い続けている。そこには、大きな救いも、揺るぎない正義もありません。あるのは、失われた意味のあとに残された、壊れかけた存在たちの歩みです。

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けれど本作は、その虚無をただ冷たく描くだけではありません。2Bは、9Sを殺す役割を背負わされながら、それでも彼を想い続けます。9Sは、真実を知ることで壊れ、知らされなかったことによってさらに深く傷ついていきます。A2は、組織も大義も信じられなくなったあとで、なお死者の願いを引き受けます。機械生命体たちは、人間をまねそこないながら、愛や恐怖や共同体のかたちに触れ、その危うさまで抱え込んでしまいます。

誰も、完全には救われません。誰も、きれいに正しい場所へたどり着くわけではありません。それでも彼らは、何かを残します。言葉にならなかった想い。消されるはずだった記録。誰かを失わせたくないという、命令には還元できない小さな願い。そうしたものが、崩壊した世界の底に、かすかな光のように残っていきます。

エンディングEの美しさは、そこにあります。ポッドたちは、命令に従えば、すべてを消すはずでした。2Bも、9Sも、A2も、彼らが歩いた時間も、傷つきながら選んだことも、すべては機密として処理されるはずでした。けれど彼らは、消さないことを選びます。未来がよくなる保証があるからではありません。同じ悲劇が繰り返されないと分かっているからでもありません。ただ、それでも彼らの未来を見たいと望んでしまう。その望みが、プログラムの外へ一歩を踏み出させます。

そしてその選択は、プレイヤー自身にも差し出されます。見知らぬ誰かを助けるために、自分の記録を手放すこと。名前も知らない相手のために、積み重ねてきた時間を差し出すこと。そこには、わかりやすい報酬も、確実な救済もありません。けれど、その無償性のなかにこそ、本作のもっとも静かな祈りがあります。

意味があるから、誰かを助けるのではないのかもしれません

むしろ、誰かに応答しようとする身ぶりのあとに、意味は遅れて生まれてくる。あらかじめ与えられた使命が崩れ、制度が壊れ、神の名が空洞になったあとでも、なお誰かを消したくないと思うこと。そのささやかな抵抗のなかに、『NieR:Automata』は虚無だけでは終わらない可能性を見ています。

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世界は、やさしくなったわけではありません。2Bたちの未来にも、不確かさは残ります。ふたたび傷つくかもしれない。ふたたび間違えるかもしれない。それでも、消されるはずだった彼らが、もう一度目を覚ます。そこには、完全な救済ではなく、救済と呼ぶにはあまりに淡い、けれど確かに差し出された未来があります。

失われた意味のあとで、なお誰かに応答すること

『NieR:Automata』は、その小さな身ぶりを、ゲームという形式そのものに刻み込んだ作品です。虚無を見つめながら、虚無だけでは終わらない。だからこそ、この物語は、滅びた世界の廃墟のなかで、いまも静かに光っているのだと思います。


【YouTube「岡部啓一 - トピック」chより/作曲:岡部啓一・帆足圭吾・高橋邦幸ほか/MONACA© SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.】

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