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【ゲーム】【前編】NieR Replicant ver.1.22474487139...――救いの旅は、なぜ世界の真実へたどり着くのか


【YouTube「スクウェア・エニックス」chより/© SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by Toylogic Inc.】

はじめに 妹を救う物語の奥にあるもの

『NieR Replicant ver.1.22474487139...(ニーア レプリカント)』は、ひとつの素朴な願いから始まります。病に倒れた妹を救いたい。ただそれだけの願いが、やがて世界の成り立ちそのものを揺るがし、人間とは何か、救うとは何かという問いへと変わっていくのです。

本作は、2010年に発売された『ニーア レプリカント』をもとに、2021年に新たなかたちで届けられたアクションRPGです。けれど、それは単なるリメイクではありません。グラフィックや戦闘の手触りを現代向けに整えながら、音楽、演出、追加エピソードによって、物語の余韻をより深く響かせる作品になっています。

そして、この物語は単独で閉じているわけではありません。背景には、ヨコオタロウが手がけた『ドラッグオンドラグーン』の結末があります。異なる世界へと流れ込んだ災厄が、人類の歴史を大きく狂わせ、その果てに『ニーア レプリカント』の荒廃した世界が生まれていく。つまり本作は、すでに取り返しのつかない出来事のあとから始まる物語でもあります。

だからこそ、最初は小さな兄妹の物語に見えたものが、次第に世界全体の秘密へと接続されていきます。妹ヨナを救うために剣を取るニーア。その旅の途中で出会う、白の書シロ、孤独を抱えたカイネ、石化の力を持つエミール。彼らはそれぞれ傷を抱えながら、同じ旅路を進んでいきます。

前編となる今回は、物語の流れをできるだけ丁寧に追っていきます。あらすじを整理しながら、音楽やグラフィックがどのように世界の感触を支えているのかにも触れていきます。後編では、マモノの正体、被害と加害の反転、そして大文字の他者という視点から、この作品の倫理的な深みを読み解いていきます。

まずは、雪の降る廃墟から始まる、あの静かな絶望の場面へ戻ってみましょう。

本記事の図解

第一章 雪の廃墟から始まる喪失の予感

物語の冒頭、舞台は現代の都市に見える荒れ果てた場所です。雪が降り積もる廃墟の中で、少年と妹ヨナは身を寄せ合っています。ヨナは黒文病に侵され、身体は弱り、いつ命が尽きてもおかしくない状態にあります。少年は彼女を守るため、手にした鉄パイプで迫りくるマモノに立ち向かいます。

この冒頭は、すでに本作全体の調子を決定づけています。ここにあるのは、英雄的な出発ではありません。あるのは、寒さ、飢え、病、そして大切な人を失うかもしれないという切実な恐怖です。少年は強いから戦うのではなく、他にどうすることもできないから戦う。その無力さが、物語の根に深く刻まれています。

そばには、黒い魔導書のような存在があります。少年は妹を救いたい一心で、その力に手を伸ばします。けれど、この「救いたい」という願いは、のちに大きな問いへと姿を変えていきます誰かを救うための行為が、別の誰かを傷つけることになるとしたら。そのとき、私たちはなお、それを救いと呼べるのでしょうか。

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やがて時間は大きく飛び、千年以上先の未来へと移ります。文明はすでに失われ、人々は小さな村で暮らしています。そこにいるのは、成長したニーアと、同じく黒文病に苦しむヨナです。冒頭の少年と少女との関係は、すぐには明確になりません。ただ、ここにもまた、妹を救おうとする兄と、病に倒れる妹の姿があります。

この反復が、本作の不穏さを静かに深めています。時間が流れても、世界が変わっても、同じような苦しみが繰り返される。ニーアはヨナのために働き、村の依頼をこなし、マモノと戦いながら、妹を救う方法を探し続けます。その姿はまっすぐで、痛ましいほどに純粋です。

しかし、この純粋さこそが、やがて物語の残酷さを際立たせます。ニーアは悪意によって戦うのではありません。誰かを支配したいわけでも、世界を滅ぼしたいわけでもありません。ただ、ヨナを救いたい。その一点だけが彼を動かしています。けれど『ニーア レプリカント』は、その願いを無垢なままでは終わらせません。

雪の廃墟から始まった物語は、最初から喪失の予感に包まれています。救いを求める手は、まだ何を壊してしまうのかを知らない。ここからニーアは、世界の秘密へと少しずつ近づいていきます。


第二章 白の書と孤独な仲間たち

ヨナを救う方法を求めるニーアは、やがて一冊の不思議な書物と出会います。それが、グリモア・ヴァイスです。白い表紙をもつこの魔導書は、自ら意思を持ち、尊大で皮肉めいた口調で語りかけてきます。作中では仲間たちから「シロ」と呼ばれるようになり、以後その名が自然に定着していきます。

シロはニーアに魔法の力を与え、マモノとの戦いを大きく変えていきます。けれど、力を得たからといって、すぐにヨナが救われるわけではありません。ニーアは封印された言葉を集め、黒文病を癒やす手がかりを探しながら、村の外へと歩みを広げていきます。

その旅の中で出会うのが、カイネです。彼女は激しい言葉を放ち、凄まじい力でマモノを斬る戦士として現れます。しかし、その荒々しさの奥には、人から拒まれ続けてきた孤独があります。カイネは自らの内にマモノを宿した存在であり、人間とマモノの境界に立たされています。彼女は守られるだけの被害者ではなく、同時に強い力を持つ戦う者でもあります。

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さらに、ニーアたちは少年エミールと出会います。目にしたものを石化させてしまう力を持つ彼は、その力ゆえに外の世界から隔てられてきました。やさしく、臆病で、誰かを傷つけることを恐れている少年。しかし彼もまた、物語が進むにつれて、自分の力と過去に向き合わざるを得なくなります。

シロ、カイネ、エミール。彼らは単なる仲間ではありません。それぞれが、人間であることの不確かさを抱えています。言葉を持つ書物、人間とマモノの狭間に立つ戦士、兵器としての宿命を背負う少年。ニーアの旅は、ヨナを救うための旅であると同時に、こうした境界的な存在たちと出会う旅でもあるのです。

ここから物語は、兄妹の小さな願いを越えていきます。救いたい人がいる。けれど、そのために誰かを傷つけるかもしれない。仲間を得たことで旅は少しだけ温かくなりますが、その温かさのすぐそばには、取り返しのつかない真実の影が伸び始めています。


第三章 呪いを抱えた者たちの旅

シロの力を得たニーアは、ヨナを救う手がかりとして「封印された言葉」を集めていきます。それは、黒文病を癒やすための希望であると同時に、まだ見えない真実へ近づいていく道でもありました。旅は少しずつ広がり、ニーアの前には、ただマモノを倒せばよいとは言い切れない出来事が積み重なっていきます。

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カイネは、その不穏さをもっとも早く体現する人物です。彼女は人間でありながら、内側にマモノを宿しています。人から遠ざけられ、罵声を浴びせられ、それでも祖母の記憶を支えに立ち続けてきた存在です。激しい言葉や強さの奥にあるのは、拒絶されてきた者の痛みでした。ニーアたちと共に進むことで、カイネはようやく居場所に近いものを得ていきます。しかしその居場所は、いつ崩れてもおかしくないほど脆いものでもあります。

エミールの物語もまた、やさしさと残酷さが重なっています。彼は目にしたものを石に変えてしまう力を恐れ、屋敷の中で孤独に生きてきました。けれどその力は、ただの呪いではありません。人間によって作られ、利用されようとした実験の痕跡でもあります。のちに彼は自らの過去と向き合い、人間の姿を失うほどの変化を引き受けることになります。けれど、姿が変わっても、彼のやさしさは失われません。

ニーアの旅は、仲間を得るほど温かくなります。けれどその温かさは、喪失の影と切り離されていません。ヨナを救いたいという願いは、仲間たちの傷と重なり、次第にひとつの問いへ変わっていきます。救いを求める旅は、本当に誰かを救っているのか。その問いは、まだ静かに、しかし確実に物語の奥で息づいています。


第四章 マモノの正体と崩れる正義

物語が進むにつれ、ニーアたちは魔王、そして黒の書グリモア・ノワールへと近づいていきます。シロと対をなすその存在は、ヨナの黒文病とも深く関わっているように見えます。ニーアにとって、魔王とノワールは倒すべき敵でした。ヨナを奪い、世界に災厄をもたらす存在。そう信じるからこそ、彼は迷わず剣を握り続けます。

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けれど、この作品はそのまっすぐな正義を、そのままでは終わらせません。やがて明らかになるのは、マモノと呼ばれてきた存在の正体です。彼らは、かつての人類の魂でした。人類は滅亡を避けるため、魂と肉体を分離するプロジェクト・ゲシュタルトを進めました。魂はゲシュタルトとして保存され、肉体はレプリカントとして維持されるはずだった。しかし計画は歪み、魂は不安定なまま世界をさまよう存在となり、人々からマモノと呼ばれるようになっていきます。

この真実によって、物語の足場は大きく崩れます。ニーアが守ろうとしてきたヨナもまた、レプリカントとして生きる存在でした。一方で、魔王の側にもまた、取り戻したいオリジナルのヨナがいる。ここで、ひとつの救いは別の誰かの喪失になり、ひとつの正義は別の視点から見れば暴力へと反転します。

『ニーア レプリカント』の痛みは、ここにあります。ニーアは悪人ではありません。ただ妹を救おうとしただけです。けれど、その願いが人類の魂を斬り、別の誰かの願いを踏み越えていく。善悪の線は消え、被害と加害は交差します。だからこそ、この物語は単なるどんでん返しではなく、私たち自身の正しさをも揺らしてくるのです。


第五章 複数の結末が刻む喪失と再生

本作は、複数のエンディングによって同じ物語を何度も見つめ直させます。Aエンドでは、ニーアは魔王を倒し、ヨナを取り戻します。そこにはひとまずの救いがあります。しかし、それはすべてを解決する幸福ではありません。失われたもの、知らないまま踏み越えたものが、物語の背後に残り続けます。

Bエンドでは、プレイヤーはマモノたちの声に触れることになります。これまで敵として倒してきた存在にも、恐れがあり、記憶があり、誰かを想う心があった。そう知った瞬間、同じ戦いの意味がまったく別のものに変わります。プレイヤー自身の手が、何をしてきたのかを問われるのです。

CエンドとDエンドでは、カイネをめぐる選択が前面に出ます。呪いに侵される彼女を前に、ニーアは決定的な選択を迫られます。とりわけDエンドでは、ニーア自身の存在が世界から消えます。名前も記憶も、そしてプレイヤーのセーブデータまでも失われる。その喪失は、物語の中だけでなく、ゲームを遊ぶこちら側にも刻まれます。

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リメイク版で追加されたEエンドは、その喪失のあとに差し込む、小さな光のような結末です。消えたはずのニーアを、カイネが記憶の奥から呼び戻そうとする。そこにあるのは、完全な解決ではありません。それでも、誰かを覚えていること、失われた名をもう一度呼ぶことが、かすかな再生になる。複数の結末を通して、本作は救いと喪失を何度も反復しながら、プレイヤーの中に消えない問いを残していきます。


第六章 音楽と光が語るもの

『ニーア レプリカント』の記憶を支えているものとして、音楽の力は欠かせません。岡部啓一を中心とするMONACAの楽曲は、単に場面を盛り上げるためのものではなく、この世界に残された感情そのもののように響いています。村に流れる穏やかな旋律、戦いの場面で響く荘厳な歌声、そして物語の深部へ進むほどに増していく祈りのような音。それらは、言葉で説明される前に、プレイヤーの心へ届いてきます。

とりわけ印象的なのは、架空言語による歌です。意味をそのまま理解することはできません。それでも、そこには懐かしさや悲しみ、どこか遠い場所から呼びかけられているような感覚があります。失われた文明、消えかけた記憶、届かない祈り。そうしたものが、意味の手前で響いているのです。

【YouTube「MONACA - トピック」chより
/音楽:岡部啓一(MONACA)℗ 2021 SQUARE ENIX MUSIC】

グラフィックもまた、この物語の静かな強度を支えています。リメイクによって整えられた光や風景は、世界の荒廃をただ暗く描くのではなく、美しさと寂しさを同時に立ち上げます。砂漠、海岸、村、廃墟。どの場所にも、人が生きていた痕跡と、もう戻らない時間の気配があります

本作の美しさは、救いそのものではありません。むしろ、失われたものがあまりにも美しく残っているからこそ、喪失が深く感じられる。音楽と光は、物語の余白を埋めるのではなく、余白を余白のまま響かせます。そこに、『ニーア レプリカント』の忘れがたい手触りがあります。


第七章 ヨコオタロウが描く残酷な美しさ

ヨコオタロウの物語は、しばしばプレイヤーの足元を静かに崩します。最初に与えられる目的は、とてもわかりやすいものです。妹を救う。仲間を守る。敵を倒す。けれど進めば進むほど、その目的の単純さは失われていきます。救うことは、別の誰かを傷つけることでもある。守ることは、知らないうちに奪うことでもある。本作は、その残酷な反転を避けずに描いています。

ただし、この残酷さは冷笑ではありません。人間は愚かだ、と突き放すための物語ではないのです。むしろ、誰かを想う気持ちが本物であっても、それが世界全体を正しくするとは限らない。その苦しさを、できるだけまっすぐに見つめようとしているように思えます。

ニーアは、世界の真実を知ったうえで合理的に行動する主人公ではありません。彼はまず、ヨナの兄です。カイネやエミールの仲間です。だからこそ彼の選択は、世界全体から見れば誤りを含んでいても、身近な他者への切実な応答としては理解できてしまう。この割り切れなさが、本作を長く心に残るものにしています。

© SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by Toylogic Inc.

『ニーア レプリカント』は、善悪をきれいに整理する物語ではありません。むしろ、整理できないまま選ぶしかない人間の姿を描いています。その痛みを、美しい音楽と風景の中に置くことで、作品は残酷でありながら、どこか祈りのような余韻を残すのです。


結び 後編へ向けて残される問い

ここまで、『ニーア レプリカント』の物語を前編として辿ってきました。雪の廃墟から始まる兄妹の物語は、シロ、カイネ、エミールとの出会いを経て、やがてマモノの正体とプロジェクト・ゲシュタルトの真実へたどり着きます。妹を救うための旅は、いつのまにか人間とは何かを問う旅へ変わっていきました

複数のエンディングが示していたのも、単純な結末ではありません。救いはあります。けれど、完全な救いではありません。喪失があります。けれど、そこで何もかもが終わるわけでもありません。Dエンドで失われた存在は、Eエンドで他者の記憶から呼び戻されます。そこには、消えることと覚えていること、失うことと呼び戻すことのあいだにある、かすかな希望があります。

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前編で見てきたあらすじは、すべて後編の問いへつながっています。人間とマモノの境界はどこにあるのか。被害と加害は、なぜ立場によって入れ替わるのか。大きな世界を救えないとき、それでも目の前の他者を想って選ぶことには、どのような意味があるのか。

『ニーア レプリカント』は、答えを急ぎません。むしろ答えが出ないまま、プレイヤーの胸に問いを残します。だからこそ、この物語はゲームを終えたあとにも続いていきます。次回の後編では、その問いをもう少し深く掘り下げていきます。救いと喪失のあいだで、私たちは何を選ぶのか。その揺らぎの中に、本作のもっとも静かな核心があるのだと思います。

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