『紫石英の遺言』第二幕「鈍色の共犯者、独白」
──幸せはいけません。
鈍ってしまうのです。
温室のお花は可哀想。
真冬の向日葵は冷たい断頭台の上、目覚めとともにおやすみなさい、悪い夢。
死に顔しか愛されないのは、なんて哀しいことでしょう!
傍観者の足音は聴こえません。
真っ白な月灯りの下、彼らの靴は純潔です。
僕が死ぬのを今か、今かと待っている。
宙に浮く、亡霊みたいにずっと、ずっと!
ピーと、オーと、アイと、エス。
そのため過剰にドラジェを飲んで、踊り疲れて眠っているだけです。
御用があれば、どうぞ。
そこの錆鎖を引いてみてください。
それでも睡に耽っていたら、どうぞご自由にお使いください。
貴女の下垂体の後ろからCys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly-NH₂が溢れ出した時、それが僕の死に際かもしれません。
ピーと、オーと、アイと、エス。
結局またペインキラアのドラジェを飲んで、くらくらと、ふらふらと下品な寝台に伏すのでしょう?
僕が僕であるうちに、お伝えせねばなりません。
葡萄酒にマルグリットのお靴を入れたのは僕なんです。
ええ、兄さんは何にも悪くありません。
クルチザンヌらに告げ口したのも僕なんです。
だって、ヴィオレッタが好きだったから。
マルグリットは愛せなかったんです。
でもそれすらも間違いでした!
マルグリットもヴィオレッタも、僕を愛してくれました。
なのに、ピーと、オーと、アイと、エス。
誰も僕を殺してはくれません。
あれほど痛いのは嫌いだと言ったのに。
だからいまだにこうしてドラジェでごまかして、「生」よ「死」よと歌い踊り回っているのです。
如月某日
詩人気取り
でたらめにピアノを弾いても、そこのりんごをかじっても時計の針は動かなかった。
「もう、お腹いっぱい。」
痛々しいりんごと共に街へと繰り出せば、サイケデリックに目が眩む。
テラテラとぬめりながら手招く都会は悩ましい。
雑踏はむしろ静かだ。
無関心と無関心の摩擦で生まれる劣等感で焼け焦げたアップルパイ。
徒労吐露して汗にまみれた青いシャツ。
ああ……気持ち悪い。
吐瀉になる手前のりんごを助けてよ。
見せかけばかりのノスタルヂアとやらを抱いておねんねしていた奴らが昼間っから労働なんてものに精を出す。
くだらない。
揃いの服着て腕振り上げて一、二、三。
ああ……
街はどうしてこうも馬鹿なんだ。
歪み切っている。
俺は虹を貼り付けた詩集を読み読み、雑踏に逆流して歩く。
いらぬ他生の縁に唾を吐き、穢れた袖を引きちぎる。
俺が怖いか?
俺はお前たちが怖い!
隠しきれない欲望のはみ出た腰、恍惚を垂れ流したその口元、獲物を狙う咽頭。
その全てが愚かしい。
嘲り、罵り、また、りんごをかじる。
「ねえ……お腹空いた。」
苦む舌に嗚咽を三つ。
窓辺のりんごは月に照らされ、嗜慾の傷から血を流す。
傍ら詩人はどこ吹く風。
その下の視線はただ虚ろ。
もう何度目の死に際だろう。
どいつもこいつも……一発で仕留めてみろよ。
なぜ躊躇う?
真っ白なダックの舞うのを水底から見上げる。
白の上の白の穢いこと、この上なし。
トレモロを奏でた指先で、今は煙をふかして肺を痛めている。
足枷を引きづり、処刑台を抜け出した。
部屋の片隅、全てを見ていた青い瞳のお人形。
「ねえ、ヘーゼルはお嫌いかな?」
俺は自分の左の瞼を指でこじ開ける。
混じってしまって鈍色だ。
鈍色だ!
台無しだ。
「P……O……I、S……」
白み始めた窓に、他人色の唇で囁けば無責任な頭痛に毒突ける。
「幸せはいけないよ。」
無機質な白い頬を撫でる。
「鈍っちゃうから。」
閉じることのない青を見つめた。
だから不幸ほど幸せなことはないんだ。
二月の曇天は世界の色を奪って泣いている。
りんごの瘡蓋を剥がす。
鈍ってきた神経、ふらつきながら左の銃を頭に突きつけて叫ぶ。
「パラドキサルは成り立たない!」
骨格だけになったりんご。
鈍ってても、幸せにはなれなかったね。
熱の残る白の上、あまりにも穢れた白はもう渇ききって、罪のようにこびりついている。
世界が白く変わる前に。
詩と汚辱をばら撒きに街へ行こう。
サヨナラ、支配者。
目が覚めたらまた取り憑かれたようにサイケデリックに偽善の声に酔いしれるんだろう?
軽くなった鎖を握って、おやすみなさい。
↑
第一幕はこちら。
↑
この状態なもんでエッセイ、なんじゃらほいなのだ。
↑
これ自分で書いた割に好きだからおすすめしている。
ドランケンネスとか言ってそれらしいこと言ってんのが寒くていいと思う。
↑
ゆきお様・作
裏設定が流出した?
まさか?
まず、読みましょう。
この謎の手紙ばかり書く男の意外な一面を。
いいなと思ったら応援しよう!
よもぎちゃーん!
はーい!
何が好き?
ポテトチップスよりも
お・ぬ・し