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紫石英の遺言

相変わらず他人事ひとごとの日々を過ごしている。
気付けば歳食って、あわくって、ケーキ食って腹壊して。

一体わたくしはどこにいるんでしょう。
なんだかとても不思議な気持ちです。

空の青いのが憎いです。
雲のないのが怖いのです。
隠れ蓑をどうか、どうか。

「あなたの生まれた朝も、こうだった。」

──私はあまりにも長く生き過ぎた。
自ら定めた期限を優に過ぎ、食い散らかしたモラトリアムがバラバラと散らばる机の上、筆……否、ペンをとった次第です。

いつからでしょう。
自分は十六で、俗世からサヨナラをするものだと信じて生きて参りました。

幾度となく唱えた「先立つ不幸をお許しください」もこれでもう、最後です。

祝いの赤飯む度に、
祖父じじ様、目を細める度に、
祖母ばば様、卵を炒る度に、
とう様、煙を吐く度に、
かあ様、口笛吹く度に。
にい様、拳を振り上げる度に。

ごめんなさい。
今年もまた、生きてしまいました。
十七じゅうしちも、十八も、十九じゅうくも。
あろうことか、二十も。

ましてや十九の睦月には、袴などでめかしこみ、ひんやりとした椅子の上、夢を見させていただきました。

親戚ご一同様、偽りの言祝ことほぎをどうもありがとうございました。

私の在りし日など、みっともないものでしたから、祖父様にはあの寫眞は一刻も早く納戸の奥へしまいなさいとお伝えください。
耳の近くで、ゆったりと。
聴こえぬからと、怒鳴ってはなりません。

ああ、そうこう、あれやこれや気にして。

いまだ勇ましく拍動を繰り返す左心室が憎い!

信じたがりの捻くれ者のわたくしをどうか、どうか、どうぞお許しください。

夭逝の詩人の言葉を借りるならば“ディレムダンディズム”に酔いしれる輩に腹が立ったわけです。

チル、チルと泣き靴を見下ろす彼や彼女に嫌気がさしたのです。
見せかけばかりの瞳の陰りは滑稽だ!
滑稽だ!

見下ろしたとて、私の靴は砂埃にまみれてしまったのです。
下の睫毛に溜まった涙は凍りつき、まるで硝子玉のようですから。

エモーショナルに泣きたくば、胃から肺から肝臓まで全部ひっくり返してからにしたまえよ。
そう、叫びましてもあな無力かな。
到底聴き入れてなどいただけません。

ですから、もう頭の悪い世界にはいたくはないのです。
異形に囲まれ暮らす日々など閻魔の小趾をしゃぶるよりも屈辱です。

私は痛いのが嫌いですから、ペインキラアのお薬をあるだけ集めて飲んでみたのです。
しかしそれは心地よく眩暈に冒されるのみで、ただヘラヘラと笑い、壁やら床やらに馬鹿に頭を打ち付けこつこつと濁点を忘れたように踊っておりました。

戯言ざれごとはおやめなさいと、たしなめますか?

もう、いいのですよ。
もう、いい大人です。

詩と詞と死!
これだけは誰にも奪わせません。

今宵、雨の降りますようお祈り申し上げます。


如月朔日、午前八時。
二十一を迎える前に、サヨナラ。


「また、詩人気取り?」

場違いなほどに真っ赤な唇が意地悪く動く。

「さあね。」

四色ボールペンの赤を軽く弾く。

「誕生日のたびに遺書を送りつけるなんて、とんでもなく悪趣味ね。」
「は? そのリップよりはましだ。」

俺は鼻で笑った。
それが引き金になり、横隔膜が捩れた。

野暮ったいんだよ。
その分厚い前髪も、左側だけ堂々とした巻き髪も。

司書は目の下を真っ黒にして「黙れ」とだけ言ってカウンターの後ろに戻っていく。

「鳩時計の鳩か! ポッポーか! ハハハ!」
俺はその後頭部目掛けてもう一度引き金を引く。
もちろん、指鉄砲の。

椅子から立ち上がった俺は回転性の眩暈でその場にバッタリと倒れた。
蛍光灯が、世界が、俺のリズムで回っている。

いいものだ……。
まるで世界が俺無しでは踊れないようで。

「あーあ。腹減った。」

女の足首をギリギリと掴んで駄々をこねてやる。
見れば見るほど絶望的に赤い唇が震えている。
素直じゃないな。
痛いなら、蹴り上げちゃえばいいのに。

「ねえ? どうだった? 俺の死に際は。」

睫毛の重みなんか知らない奴らが甘ったるい偽物のミルクティで蕩けているのが馬鹿らしくて愚かしくて反吐が出る。

女の足首を放り投げて、身体を起こす。
目を細めて見上げる。
前髪越しに見れば多少ましじゃないか。
ああ……
毛先から身に覚えのない煙草の匂いがする。

「Dis-moi encore que tu m'aimes.……」

すぐそうやって他人の色に染まろうとする。
退廃的なのは俺の顔よりあんたの脳内じゃないのか?

あまりにも滑稽で、言い切るか言い切らないうちに必死に奥歯の裏を舌で押した。

「それ、おもしろいの?」

困るとそうやってだんまりだ。
これ見よがしに本の背を向けるなら、もう少しお勉強しましょうね……?

「どっち? 赤と白。今日、持ってるのどっち?」

さあ、答えてみろよ。
ポジション的にはあんたの方が有利だよ。

まだだんまりか。

あーあ、わからないんだ。
だから一夜漬けじゃあだめだって。
バレバレだよ、昨日は九時に寝たんだろ?
一過性の三重螺旋をレモンフレイバーのお白湯とやらで飲み干して。

「椿の色のことだよ。」
「椿……?」

正気か?
笑わせるなよ。
こっちはもう二晩は眠ってない。

退屈だ。
なんて退屈なんだ?
油断すると瞼が落ちてくる。

どんな夢を見たんだろうね。
さほど興味はないけど。

「赤……?」

なんで自分のことなのに疑問なんだ?
その唇の嘘ばっかりの赤も、何にもわかっていない赤の椿も全部、全部くだらない。

こいつに赤はもったいない。
よっぽど俺の方が似合うはずだ。

だから、もらっただけ。

赤を奪ってあくびをひとつ。

「そっちの方が似合ってるよ。」

色を失くした唇に、別れを告げる。

とうに十二時を回っている。
二十一歳、おめでとう。

サヨナラ、二十の俺。

満腹のヴァンパイアの顔で昼下がりの街を目指す。

Un homme entretenu……

真っ赤なポストに今、我が死に際を。


※紫石英はアメジストの旧名です。


自分の中に渦巻く感情でゲロ吐きそう。


珍しくおすすめな小説。


相変わらず自分が行方不明です。


ゆきお様・作
満腹のヴァンパイアが向かった先は意外なところで?
なぜそこに行ったか?
あいつとの相性が知りたかったからさ、子どもの頃流行らなかったか?
B型ばかりが嫌われる不遇なあれ。
え?
いいえ、そんな簡単な話じゃ終わらないのがゆきお様の作品。
読むべし!

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よもぎ よもぎちゃーん! はーい! 何が好き? ポテトチップスよりも お・ぬ・し