人口0.6%のマイノリティ。「双極性障害」と生きる意味
「今日はなんだか気分がいい」
「今日はなんだかテンション下がるな」
健康な方も、毎日こうした「波」はあるものです。
でも、もしこの「波」が自分には制御できないほど激しく、しかも予測不能だったとしたら?
3月30日は、世界双極症デー(World Bipolar Day)でした。
双極症に対する正しい理解を広げ、誤解や偏見をなくすことを目的として制定されたそうです。
双極症、双極性障害、躁うつ病なんて呼ばれますが、聞いたことがありますか?
人口比率で言うと約1%前後のレアな病気です。
日本だと、最近のインターネット調査では0.6%程度だったとか。
日本の人口が、ある時点で1億2285万人ほどだったそうなので、0.6パーセントだとおよそ74万人の患者がいることになります。
かなりの少数派です。
うつ病を発症される方は多く、最近では認知を得ていますが、双極性障害はまだあまり「身近」とは言いづらい病気ですよね。
もちろん、あんまり、身近になっても困るんですが……。
私も数年前に、この病気であると診断されています。
誰にも詳細を理解されず「訳の分からない精神病患者」と思われたままなのも辛いので、今日は当事者の目線から、双極性障害について書いてみますね。
(なるべく間違いがないように書きますが、私は医療関係者ではないため、あくまでも当事者が認識している事実を書いていきます。
参考 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023)
双極性障害のリアルな症状
双極性障害。
芸能人だとミュージシャンのこっちのけんとさんや、俳優の広末涼子さんも公表されていますね。
このお二人はまだ生きておられるので素晴らしいのですが、双極性障害はわりと死亡率の高い病気なんです。
ここには挙げませんが、闘病の末、亡くなられた著名人も多いのが現実です…。
さて、躁うつと聞くとみなさんは「気分屋さんで、コロコロ怒ったり笑ったりする人かな?」というイメージをお持ちかもしれません。
全然違います。
過去に何度も書いていますが、双極性障害というのは単に「気分屋さん」じゃなくて
・躁転
元気で万能感があり、エネルギーを強力に発散する状態
・うつ転
いわゆる、落ち込んだ状態。無気力でベッドから動けなくなったり、ひたすらネガティブな考えから抜け出せない状態
このモードに切り替わってしまい、これらの状態が概ね数日~1週間~場合により数か月、続きます。


典型的には、1日のうちに上がったり下がったりを繰り返す訳ではありません。
ずーっと寝ている。ずーっと泣いている。何日も。
それから何日か、異常に明るくなる。
そんなイメージです。
以前、4コマ漫画で分かりやすく書きました。
でも、躁転からすぐうつ転、あるいはうつ転からすぐ躁転に移行するとも限らず、平坦な状態を維持できる期間もあります。しかし、繰り返すごとにこの「平坦な期間」は短くなる傾向もあるそうです。
1年に4回以上の「うつ転」「躁転」がある場合はラピッドサイクラーと呼ばれ、治療がさらに難しく、ご本人も困難を抱えやすくなります。
「躁」は単に元気じゃない。病的な万能感
「うつ転」はともかく「躁転」は良いことなんじゃない?
そう感じる方もいるかもしれません。
しかし、場合によっては「うつ」よりも「躁」の方がずっと本人や周囲に難しい状態になります。
>元気で万能感があり
と書きましたが、これって果たしていいことばかりなんでしょうか。
「万能感がある」ということは「自分を疑わない」ということです。
その状態で、例えば目の前に美味しそうなケーキがあったら、「今の私には必要なんだ」とかいって1ホール食べちゃうかもしれません。
それが薬物だったら?
それがギャンブルだったら?
それが大切な誰かへの罵倒だったら?
いつもは抑制できるような衝動でも、「私にはできる、私は大丈夫!」という強力な確信があったら、そのまま突き進んでしまいます。
私も以前は謎の事業計画書を執筆して社長に直談判しに行きそうになったり、お金もないのに無理に引っ越しを敢行して大変なことになりました。
(しかも引っ越し業者が去っても片付いてなかったからそのままでは明け渡しできなかった)
「怒りっぽくなる」(易怒性)も問題です。
「元気」というのは「前向きで明るい」というよりエネルギーが過剰な状態、すなわち「イライラしている」のかもしれません。
「自分が正しい」という圧倒的な確信があるので、ちょっとでも他人に瑕疵があったら過剰に責め立てたりしてしまいます。
私の場合は、そもそも他人に暴力をふるうという経験も発想もないので口や文章で正論を振りかざしてネチネチ言ってしまうだけです。
でも、もし私に若い頃ケンカの経験が多かったり、格闘技などの経験があれば、そのまま暴力も抑制できない可能性はあるなと思います。
この感覚の説明は難しいのですが、突如、スーパーマンになったような気分になるとでも言いますか。
「例え私が刑務所に入ろうと、こいつをやっつけた方が社会の為だ」
という論理は、躁状態では疑いの余地のない事実に感じられます。
もちろん、あとで後悔します。
だから病気のせいで他人を傷つけてしまうことがあるのは事実であり、そういう意味では私も当事者として肩身が狭いです。
今のところ私自身は法律に触れるような問題は起こしていませんが、周りに迷惑をかけているのは事実です。
この文章を読んでくださっている方の中にも、被害に遭った方がいて、さりとて「病気のせい」と言われると責めることもできず、苦々しく読まれているかもしれません。
ご本人に代わり、大変申し訳なく感じます。
といっても「別人のようになる」のは他人から観察した時の状態であって、「普段は全く思いもしないようなことを、人が変わったかのようにやってしまう」というわけではありません。
研究によれば、もともと本人の意志の範囲内ではあるが、抑制できていたものができなくなる、という作用であるようです。
この研究結果が、その人や周囲にとって救いなのかどうか分かりません。
やってしまった後で「あれは私の意志ではなかった」と言えるのがいいか、「あれは私の意志ではあったが本来は抑えられるはずのものが、抑えられなかった」の方がいいのか。
私の個人的な感覚としても、躁状態の時の行動は、普段考えていることの延長ではあると認識しています。
つまり、私が普段どう頑張っても出てこない発想ではありません。けれど、普段なら抑制が働いて「でもやっぱりなぁ…」としり込みして、出来ないような行動を取ってしまいます。
その上自分としては「気分がいいな」と思っているだけで病識(自分が病気であるという認識)もありません。
うつ状態の時は病院にかかるのですが、躁の時は元気なので医師にも状況を言わなかったり、そもそも通院をやめてしまうので伝わらず、診断が遅くなることがあります。
けれど、うつ病の薬は双極性障害の方が飲むと躁転してしまうことがあるので、うつ病の治療を双極性障害の方に続けるのは危険です。
もし、うつ病でご自身やご家族が病院にかかる際「躁エピソード」(上に話したような妙に元気で気力に溢れた状態、その状態でやってしまったこと)があるなら、病院で相談されてみることをお勧めします。
遺伝する。25%のために、一生、薬を飲む。
ここまで読んで「えっ、私も双極性障害だったらどうしよう」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
原因は最近の研究で、「遺伝」が大きな要因であるということも分かってきており、これが定説となっています。
「心」の問題ではなく、脳の状態や遺伝によって引き起こされる「脳の病気」です。
一方で、因子があっても発病に至るには、やはり過剰なストレスなどの環境要因も重要であるとされています。
親兄弟が双極性障害だからと絶望する必要はありません。
少しだけ他の人よりもストレスケアなどに気を配ることで、発症のリスクを管理する手助けになります。
「でも、うつ病みたいに治るんでしょ」
と思われる方もいるかもしれません。
いいえ、治らないんです。
正確に言うと、うつ病も「寛解」と呼ばれ、症状が落ち着いたら経過観察になるだけで「治る」という概念ではないのかもしれません。
保険の上では、5年くらい経つと「社会的治癒」とみなされて同じ病名でも傷病手当金が出る。と、私は経験しました。しかし、実際にはすっぱり「治る」ものでもないわけです。
双極性障害はもっと厄介で、一度発症してしまうと基本的には治らない上に薬をやめると再発率が高く、さらには、繰り返すと重症化します。
だから、一生薬を飲み続け、「波」を平坦にしなければなりません。
薬が効けば良い方です。
最初に参考として置いたガイドラインには
薬物療法を継続しても1年後の再発・再燃リスクが約40%だが、薬物療法を中断すると約65%とリスクは上昇する。
と書いてあります。
25%、再発リスクが抑えられるだけと考えるか、25%も上がると考えるか。
効かない人もいます。
「躁」や「うつ」に振り回されて人間関係も人生も自分自身もすり減らしてしまいます。「もう疲れた」「もうやめたい」と口にしている方も、ネットでは多く見かけます。
薬が効いたとしても、血中濃度の管理をしなければ健康上の問題が生じる場合があるため、一生気を遣って生きていくことになります。
双極性障害だけではなくて、不安障害やその他の神経症など、合併症を抱えている方もいます。
(双極性障害をお持ちのカサンドラさんが、右手の震え(振戦)が酷くなりnoteをお休みされていたものの、パーキンソン病だと判明し、投薬治療により、戻って来られた時の記事。)
それでも、薬や、いつもの記録や、家族などのサポートを支えに、なんとか生きていこう、周りともうまくやっていこう、仕事も出来る限り……と努力している方も、noteではたくさん見かけます。
(双極性障害をお持ちながらも会社員として活躍されているパピヨンさんが、年末の家族の集まりで軽躁状態になってしまった際のエピソード。)
私自身のことは棚に上げて思いますが、これほど困難な病気を抱えていても、それでも生きていこうとされること。
少しでも良くなろう。自分のために、他人のために、少しでも良い人生を目指そうとされている姿を見ると、胸が熱くなります。
同じ世界を生きている
最初に、「双極性障害は死亡率が高い病気だ」と書きました。
そうですね。
うつ病のみ発症していると、死亡につながる行動を取る気力もない場合が多いんです。
でもうつ状態の時にそういう行動のことを考え続けていると、躁転した時に「そうだ、やろう」と思います。
私が生きていても迷惑をかけるだけだ。みんなの負担になっている。私がいなくなるのは正義だ。
躁状態だとそのことしか考えられなくなる。
先ほど書いたように万能感があるから、勇気も出ます。
自分の行動に対する「怖さ」「ためらい」が消えるのが躁状態です。
先日見ていたネット番組で、まさにそういう状態の方を見送った方の話を聞きました。
(※この番組自体は当事者にはキツイと思うので、元気な方だけ、ご覧になってください)
エピソードが非常に具体的で、スタジオも一瞬、しんと静まり返っていました。
(うつ病の一例として話されていますが、どうも双極性障害の方の話でした)
こんなエピソードから、どういう風に死亡率が高くなるのかが、具体的に分かります。
それでも私を始め、まだ生きている人がいます。
もちろん、これを読んでいるあなたにも苦しみがあって、毎日を必死に生きているはずです。
「私はこんなに辛いんだ。だから配慮されるべきなんだ」と言いたい訳ではありません。
けれど、その大きさが人によって違っても、苦しんでいるのは、私たちも同じです。
妙な病気に振り回されながら、生きているだけで精いっぱいな世界で、今日も必死に生きている人がいます。
世界・双極症デーに寄せて
長い記事なのに、ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
私は普段「私はこれだけ辛いんだ」と私自身のことを訴えるのは、気が進まない方です。
正直に言えば、同情を引くようで気まずく感じるのも事実ですし、私自身は、決して同情されるのが好きではありません。人にどう思われるかで自分自身を変えたくないのです。どちらかというと、同情して頂くよりも、私が書いたものや、私が応援したいと思った方の創作に触れて欲しいという思いが強いです。
でも、私だけではなくて、日本にはそんな人たちが74万人いる。
世界にはもっとたくさんいる。
同じ世界を生きているのに、「いる」とすら知らないのは寂しい。
だから、そんな人もいるんだと、心に留めていただければいいなと思って書きました。
世界双極症デーに寄せて。
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