表現という仕事は、平和でなければ成り立たない
11月21日の朝、私は寝ぼけ眼でテレビを見ながら洗濯物を畳んでいた。NHKのアナウンサーがニュースを読み上げる。
「高市政権が発足して、
1ヶ月が経ちました。」
驚愕した。
い、1ヶ月…?嘘でしょ?
まだ、たった1ヶ月しか経っていない???
なのに、外交がここまでボロボロに…??
彼女の就任1ヶ月で、日中関係は一気に冷え込んでしまっていた。
絵を描く人、
文章を書く人、
音楽を届ける人、
動画を作る人、
演技をする人、
喋りで人を楽しませる人、
写真を撮る人、
踊る人、
人間はさまざまな表現をする。そして、それを生業としている人と、その生業を支える人々がいる。コンサートやライブは、歌を歌うアーティスト本人だけでなく、演奏者や、照明スタッフ、カメラマン、会場設営、警備など、大勢のスタッフが支えているし、アニメ映画などエンドロールに並ぶスタッフロールをみれば、どれだけの人々が携わっているのか一目瞭然だ。
以前、『表現を仕事にする人が、歴史と政治を学んだ方がいい理由』の記事にも書いたが、表現という仕事は、平和でなければ成り立たない。
絵を描いたり、歌を歌ったり、踊ったり、映画を作ったりすることは、平和で、多様な価値観を持った受け手と、それを享受できる生活環境あってこそ成り立つ営みなのだ。
戦争など起こってしまえば、プロパガンダにでも使われない限り、真っ先に切り捨てられるだろう。現に、日中の関係悪化で最初に目立って影響が出ているのがエンタメ界だ。
エンタメ文化交流中止の連鎖
高市政権発足後の日中関係悪化を受けて、日本のエンターテインメント・文化交流イベントの中止・延期事例が複数発生している。
中国でのイベント中止・延期の具体例(一部)
・ゆず…アジアツアー(上海・香港・台北)の公演をまとめて中止
・JO1…中国で開催予定だったファンイベント中止
・吉本興業…上海コメディフェスティバルでの4公演中止
・『クレヨンしんちゃん』『はたらく細胞』…中国公開延期
・浜崎あゆみ…アジアツアー公演(中国・上海)中止
・ももいろクローバーZ…上海でのライブパートが中止
また、ジャズドラマーの本田珠也氏も、自身のXで、出演を予定していた中国・北京での公演が中止になったことを伝えている。報道されている大規模なアーティストの公演中止以外にも、中国で予定されていた大小さまざまなレベルの交流イベント、日本に関するコンサート・映画・ミュージカルなどが相次いで中止・取り消し・延期されている。
中国・杭州と北京で行われる予定だった『美少女戦士セーラームーン』を原作とするミュージカルも突然中止された。
エンターテインメントイベントの相次ぐ中止について、公式には具体的な理由が明かされておらず、「不可抗力の影響」や「やむを得ない諸事情」といった表現が使われることが多い。しかし、これらのイベント中止は、中国当局による圧力や、その意向を汲んだ中国側関係者(主催者・興行会社など)の判断によるものである可能性が高い。
中国共産党および政府当局からの明確な、あるいは暗黙的な指示や圧力が背景にあると見られる。
ここまで書くと、短絡的に「おのれぇ〜、中国共産党めぇ〜〜」となる人が出てきそうだが、問題はなぜ中国共産党や当局は、そのような強行措置をとらざるを得なかったのかという点である。彼らや、彼らの家族だって、ゆずのコンサートや、『クレヨンしんちゃん』の新作を楽しみにしていたはずなのに、だ。
ビー玉を転がしたのは高市総理
では、スイッチを入れたのは誰か。外交危機の発端となったのは、2025年11月に報じられた、高市総理による国会での「台湾有事」に関する発言だ。
発言内容: 高市総理が、国会答弁で「台湾が武力攻撃を受けた場合、これは存立危機事態になり得る」という見解を示したこと。
背景: 「存立危機事態」とは、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態であり、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障上の判断基準の一つ。この発言は、日本が台湾有事に際して軍事的に関与する可能性を示唆するものと解釈された。
この発言が、台湾を自国領土と主張する中国政府から強い反発を招き、結果、先ほど列挙したコンサートの中止など、具体的な外交・民間交流への影響として現れたのだ。
この事態に関して、質問をした立憲民主党の岡田議員が悪いという指摘が一部で巻き起こったが、歴代総理は同様の質問をされても、フワフワとはぐらかしてきたし、高市総理自身も同様の質問を過去、安倍元総理にしたことがある。つまり、質問者を叩くのはお門違いも甚だしい。そんなことを許したら、記者はインタビューなどできなくなってしまう。
そもそも、深く追求されたら困る質問にはあれもこれも「お答えは差し控えたい」を繰り返していた高市総理が、台湾有事に関する質問には具体的に答えた。つまり、答えたかったから答えたのだ。これが、ピタゴラスイッチのビー玉だった。高市総理が転がしたビー玉は、コロコロと転がり、その装置の連鎖の先で、日本エンタメ界への打撃を招いたのである。風が吹けば桶屋が儲かるの真逆だ。
ガラスの天井と踏み抜いた薄氷
台湾を領土としたい中国、中国にはなりたくない台湾、その様子を注視している日本と、後ろについているアメリカ。みんな、内心分かってるけどあんまり具体的なことをツンツン言うと戦争になっちゃうかもしれないし、そうなっちゃうと、どの国も経済的に損失だから、フワ〜っとグレーゾーンな感じで曖昧にやって行きましょうねぇ〜と、50年とやってきた関係だったのだ。
なので、存立危機事態を明言することの危険性は、歴代総理も理解していたし、説明もされていた。安倍元総理でさえ「台湾有事は日本有事」と語ったのは、総理の座を譲ったあとだ。国の代表である総理の発言か、それとも一議員の公式でない場での発言かでは全く重みが違う。薄氷の上で、50年にわたり絶妙な均衡の元に成立させていた関係だった。その薄氷を、高市総理が、居丈高にバリンバリンと踏み抜いた。
その結果がまず、エンタメ界(そして旅行業界)という比較的中国側には実害が少ない面から現れたというわけである。
しかし、表現を生業とする者にとっては、日中両方たまったものではない。
高市総理がガラスの天井を打ち破ったと、持て囃している表現者もいるが、天井を打ち破るどころか、薄氷を踏み抜いて日本国民のみならず、近隣のアジア諸国の人々諸共、奈落へ引き摺り込むのも、時間の問題である。
だが、彼女を公に叩くことを憚られる空気が、たった1ヶ月で、メディアや、SNSに異常なほど蔓延している。これは、戦前の空気に非常によく似ている。「強硬外交おおいに結構!」「国交断絶だ!」「戦争だ!」と煽る聴衆、ヨイショ体質に傾く一部のメディア。戦後80年経って、空気は戦前に逆戻りだ。日本人は兎角空気に流されやすい。威勢の良い、わかりやすい言葉にスカッとし、コロッと騙される。何度、同じようなやらかしを繰り返すのか。
表現者こそ、歴史を知る必要がある。
世界の一部メディアから「極右」「ウルトラ保守」と評されてきた高市氏、新総裁選出後のあいさつで「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて働いて参ります。」と、語っていたが、その結果がこの体たらくだ。
思いっきり国益を損ねている。もはや、働かないでいただきたいし、挙句は、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が「トランプ大統領が電話で『中国を刺激するな』と助言した」と報じ、日本政府が「事実無根だ」と抗議する一幕まであった。事実であれば、さながら、ご近所に向かってキャンキャン吠えていたら、ご主人様に嗜められた犬である。
「歴史は繰り返さない。しかし、韻を踏む」
「トム・ソーヤーの冒険」で知られる米作家マーク・トウェインの言葉とされる。歴史は全く同じことを繰り返すわけではないが、似たようなことはよく起きるという警句である。
その流れで言えば、定数削減は改憲への地ならし、そして、治安維持法さながらにスパイ防止法が適用され、政権への反対派は令和の魔女狩りさながらに、スパイの名の下に粛清されるだろう。その先に待っているのは、ネトウヨが大嫌いなはずの中国共産党や、北朝鮮のような国家だ。粛清される可能性だって、決して絵空事とは言えない。
表現を生業とするものは、メッセージを何倍にも増幅することができる。この先、表現という仕事が成り立つ平和が待っているのか、それとも、80年前と同じ地獄を繰り返すのか。
表現者こそ、歴史を知る必要がある。
同じ穴に落ちないために。
それでは、長文読んでいただきありがとうございました。
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