【ショートショート】変態のレシピ
「どっちでもいい。何を選ぶかは、お前次第だ」
男の口からゆっくりと紫煙が立ち昇る。
「……いや、そんなハードボイルドに言われても。女装か坊さんですよね。坊さん一択ですよ」
「おまえは女装が似合うと思うけどな。去年の学園祭は大盛り上がりだった」
「だから嫌なんですよ。あの後何ヶ月いじられたと思ってるんすか」
そう言ってぼくは坊主のカツラとオレンジの袈裟を手に取った。
「実はな、予算が足りなくて、そっちはびんぼっちゃまスタイルだ」
「びん……なんです?」
「知らんか。勉強不足だな。まあいい。じゃあステージに行くぞ」
超満員とまではいかないまでも、会場はそこそこの人で賑わっていた。バックステージで着替えたぼくは愕然とした。袈裟の後ろ半分の布が無かった。丸出しだ。
「よし、やるぞ!」
先輩が叫び、ステージの幕が上がる。
「ちょ、待っ──」
1、2、3、4──とドラムのスティックが打ち鳴らされる。ぼくの指は半ば自動的にギターの弦を弾いた。スピーカーからの音が直に肌に突き刺さる。布が1枚無いだけで、なんて違いだ。観客は誰も気付いていない。
スポットライトがぼくに当たり、ソロをかき鳴らす。味わったことのない快感に肌が粟立つ。
新しい扉が開く音がした。
ぼくが道を踏み外すのに、それほど時間はかからなかった。
終
ちょっと気に入らなくて、もう1つ書いてしまいました。
たらはかにさまの毎週ショートショートに参加させて頂きました。
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