【ショートショート】ライフハック大誤算
三度の飯より珈琲が好きだ。毎日山のように出る珈琲カスを何かに役立てられないかと検索すると、肥料にするのが良いとの知見を得た。私は庭に珈琲カスを撒き続けた。
数年後、私の庭は土の代わりに珈琲カスが敷き詰められ、珈琲の香りがいつでも漂う珈琲の園になった。
椅子に腰掛けながら今日も淹れたての珈琲を楽しんでいると、庭の地面がもこもこと盛り上がりだした。そこから男が顔を出した。
「「──」」
お互い無言で見つめ合う。最初に静寂を破ったのは男の方だった。
「あんた、ここの人だよな」
「そうだが……きみは?」
「おれはこの下に住んでるものだわ」
泥だらけの男の顔を凝視しながら、ひとつの可能性に思い至る。
「地底人?」
「まあ、そう呼ぶやつらもいる。それでな、あんたの庭の下がおれん家なわけだが、ここんとこ寝不足なんだわ」
「それはまた……」
「地面を通ってくる水をおれは飲むわけだが、どういうわけだか最近水が茶色くて、それを飲むと眠れないんだわ」
「なるほど……それは珈琲のせいだね」
「こーひー?」
私は彼の顔の元に膝を付くと、淹れたての珈琲を口に運んでやった。彼は訝しい顔をしながらもその液体を口の中に含んだ。
「…………悪くないな」
そう言うと彼は地面の下へと帰っていった。
数カ月後。
「どうだい、寝不足の方は」
「ああ、あんたにもらった枕でぐっすりだわ」
「それはよかった」
地底人は定期的に私の庭を訪れるようになった。
「最近じゃ皆うちの水を求めて集まってくるんだわ。地底は光が無いからか本来すぐ眠くなる。長く働きたいやつらがかふぇいん?摂取でバリバリだわ」
「きみは働かないのかね?」
「水を売ってボロ儲けだわ。おれは枕を高くして寝てるんだわ」
珈琲の園にふたりの笑い声が響く。
カフェインによって労働意欲に目覚めた地底社会が、物凄い勢いで発展していき、地上の世界とバチバチするのはもう少し先のことである。
終
地底人が出てきたのはロングコートダディのせいかもしれません。
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