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【ショートショート】カウントダウンする脈拍

 人は生まれながらに運命を背負う。ぼくの運命は「9億回」だ。

 人の脈拍は1分間に平均70回打つ。1日で10万回、1年で3,600万回。30億回を持って生まれた人はだいたい80歳まで生きられる。ぼくは、9億回。25歳の誕生日はギリギリ迎えられそうにない。

 ぼくの右手の甲に、アザのように浮き出る「25,856」の数字。心臓が脈打つたびに数字はひとつずつ減っていく。残り3時間と少し。

 24年の人生を振り返る。なるべく心拍数を上げないようにゆっくりと動く日々。一時期は歩くこともやめ部屋から出ないことを選んだが、心拍数に大した違いは見られず、ぼくは外に出た。そして、彼女に恋をした。

 恋は心拍数を上げる。極力彼女のことを考えないで過ごしたが、結局頭の中は彼女のことでいっぱいだった。残り時間の少ないぼくの思いを伝えることも憚られたが、脈をひとつ打つ度に、ぼくの思いは体から溢れそうになった。悶々とするうちに、命の砂時計はさらさらと落ちていった。

 残りの数字が4桁になった頃、ついに彼女を呼び出した。心臓が口から飛び出しそうだ。ものすごい勢いで数字が減っていく。彼女の到着まで保たないかもしれない。大きく深呼吸をする。

 数字が残り100回を切ったとき、彼女が現れた。再びどくどくと脈が速くなる。落ち着けと自分に言い聞かせるが、数字は残り20回。彼女が近付いてくる。

「顔色悪いけど、だいじょうぶ?」
16、15……

「うん、あのさ、伝えたいことがあって……」
10、9……

「……うん」
7、6……

「きみが……好きだよ」
3、2、1……

「わたし──」
……0

 彼女の返事はぼくの耳には届かなかった。倒れていくぼくに彼女が駆け寄る。差し出された、その手の甲の数字が目に映った。716。

 ああ、そうだったのか。目の前が真っ白になる。気付くと目の前には空へと昇る、長く白い道が続いていた。

 彼女がこの先の道を一緒に歩いてくれるかはわからない。でも、彼女が来るまでここで少し待ってみようと思う。もう時間を気にする必要はないから。
 右手の甲の数字は消えていた。
  

終 


たらはかにさまの毎週ショートショート【カウントダウンする脈拍】に参加させて頂きました。毎度長くなってしまって申し訳ないです😖

前回のお題はこちら


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